銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

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精神医学

睡眠薬について

「眠れないつらさは、経験した人にしかわからない」。布団に入っても眠れない、夜中に何度も目が覚める、朝早くに目が覚めてしまう。こうした不眠が続くと、日中の集中力が落ち、気分も沈みがちになります。睡眠薬を処方された方の多くが、「飲みはじめて大丈夫だろうか」「やめられなくなるのではないか」と不安を抱えます。

睡眠薬と一口にいっても、作用のしくみや効果の持続時間、副作用のプロファイルは薬ごとに大きく異なります。

本記事では、精神科・心療内科で使われる睡眠薬の主な種類と特徴、副作用、使い分けの考え方を整理して解説します。主治医と治療方針を相談するときの参考としてご活用ください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。服薬の開始・変更・中止については、必ず主治医にご相談ください。

  • 布団に入っても1時間以上寝つけない日が続いている
  • 夜中に何度も目が覚めてしまい、眠りが浅い
  • 起きたい時間より早く目が覚め、もう一度眠れない
  • 朝起きても疲れが取れず、日中に強い眠気が出る
  • 不眠がもとで、仕事や家事に支障が出ている
  • いま飲んでいる睡眠薬の位置づけを知りたい

睡眠薬とは

睡眠薬とは、寝つきや眠りを助ける薬の総称です。日本では長くベンゾジアゼピン系の薬が中心でしたが、依存や転倒の問題から、近年はメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬が新しい第一選択として位置づけられる場面が増えています。

薬の選び方は、不眠のタイプ(寝つきが悪い・途中で目覚める・早朝覚醒など)、年齢、他の病気、一緒に飲んでいる薬によって変わります。薬だけに頼らず、生活リズムや寝室環境の見直しと組み合わせることが、長い目で見た回復につながります。

睡眠薬は「怖い薬」でも「クセになる薬」だけでもありません。適切な薬を、適切な期間使えば、つらい不眠をやわらげる大きな助けになります。一方で、漫然と長く続けることは、かえって回復を遠ざける場合があります。使い始めと使い終わりの計画を、主治医と一緒に考えていきましょう。

睡眠薬の種類と分類

現在、日本で使われている睡眠薬は、作用のしくみから大きく4つの系統に分けられます。系統ごとに、効果の強さ・副作用・依存のしやすさが異なります。

  1. ベンゾジアゼピン系(BZ系):GABA受容体にはたらきかけ、脳の活動を抑える従来型の睡眠薬
  2. 非ベンゾジアゼピン系(Z薬):GABA受容体のうち眠気に関わる部分に選択的に作用し、筋弛緩などを抑えたタイプ
  3. メラトニン受容体作動薬:体内時計を整えるホルモン「メラトニン」の受け皿にはたらきかけ、自然な眠気をうながす
  4. オレキシン受容体拮抗薬:脳を起こし続ける神経伝達物質「オレキシン」の働きをブロックし、覚醒から睡眠への切り替えを助ける

このほか、鎮静作用をもつ抗うつ薬(トラゾドンなど)や、眠気を引き起こしやすい抗ヒスタミン薬(市販の睡眠改善薬ドリエルなど)が、不眠に用いられることもあります。

睡眠薬は血中濃度が半分になるまでの時間(半減期)によっても分類され、不眠のタイプに合わせて使い分けます。

作用時間の分類半減期の目安向いている不眠のタイプ
超短時間型2〜4時間寝つきが悪い(入眠困難)
短時間型6〜10時間寝つきの悪さ・中途覚醒
中時間型12〜24時間中途覚醒・早朝覚醒
長時間型24時間以上早朝覚醒・眠りが浅い

代表的な睡眠薬の比較

下の表は、国内で処方される主な睡眠薬を系統・作用時間別に整理したものです。半減期は目安で、個人差があります。

系統一般名主な商品名作用時間半減期(目安)
BZ系トリアゾラムハルシオン超短時間型約2〜4時間
BZ系ブロチゾラムレンドルミン短時間型約7時間
BZ系リルマザホンリスミー短時間型約10時間
BZ系ロルメタゼパムエバミール、ロラメット短時間型約10時間
BZ系エスタゾラムユーロジン中時間型約24時間
BZ系フルニトラゼパムサイレース中時間型約24時間
BZ系ニトラゼパムベンザリン、ネルボン中時間型約28時間
BZ系クアゼパムドラール長時間型約36時間
Z薬ゾルピデムマイスリー超短時間型約2時間
Z薬ゾピクロンアモバン超短時間型約4時間
Z薬エスゾピクロンルネスタ短時間型約5〜6時間
メラトニン系ラメルテオンロゼレム超短時間型約1時間
オレキシン系スボレキサントベルソムラ中時間型約10時間
オレキシン系レンボレキサントデエビゴ中時間型約50時間

各系統の特徴

ベンゾジアゼピン系(BZ系)

脳内の GABA-A 受容体に結合し、神経の興奮を抑えます。即効性と確実な催眠作用をもつ一方、筋弛緩作用や抗不安作用、抗けいれん作用も併せもつため、ふらつきや転倒、依存の形成といった問題が指摘されてきました。

  • 長所:効果が強く即効性がある。不安を伴う不眠にも有効
  • 短所:長期使用で耐性・依存が生じやすい。高齢の方では筋弛緩による転倒や骨折のリスク、前向性健忘、翌日への持ち越しに注意
  • 向いている方:短期間の使用で不眠を確実にやわらげたい方、不安感を伴う不眠の方

非ベンゾジアゼピン系(Z薬)

GABA-A 受容体のうち眠気に関わる部分に選択的に作用するため、催眠作用は保たれる一方、筋弛緩や抗不安作用が抑えられています。BZ系に比べて副作用は軽減されていますが、依存のリスクがゼロというわけではありません。

  • 長所:筋弛緩作用が弱く、ふらつき・転倒のリスクが比較的低い。寝つきに特化している
  • 短所:苦味(アモバン・ルネスタで顕著)、健忘、依存のリスクは残る
  • 向いている方:寝つきが悪いタイプの不眠の方、BZ系の副作用が気になる方

メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)

体内時計を調整するホルモンであるメラトニンの受け皿(MT1/MT2 受容体)にはたらきかけ、自然な眠気を誘います。GABA 系には作用しないため、依存・耐性・ふらつきがほとんどありません。

  • 長所:依存・筋弛緩・健忘のリスクがきわめて低い。体内時計の乱れ(時差ぼけ・交代勤務など)にも有効
  • 短所:効果がマイルドで即効性に乏しい。効果の実感までに数日〜数週間かかることがある
  • 向いている方:高齢の方、依存が心配な方、体内リズムの乱れがある方

オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ・デエビゴ)

脳を起こし続ける神経伝達物質「オレキシン」の働きをブロックすることで、覚醒から睡眠への移行をうながします。GABA 系に作用しないため依存が生じにくく、近年は不眠症治療の新しい第一選択として位置づけられる場面が増えています

  • 長所:依存・耐性が生じにくい。自然な眠りに近い。中途覚醒にも有効
  • 短所:悪夢、翌朝の眠気、頭痛などの副作用。効果に個人差がある。デエビゴは高脂肪食と一緒に飲むと効果が変動することがある
  • 向いている方:依存を避けたい方、中途覚醒がある方、長期の治療を見据えている方

不眠のタイプ別・薬の選び方

不眠のタイプは、主に「寝つきが悪い(入眠障害)」「夜中に目が覚める(中途覚醒)」「朝早く目が覚める(早朝覚醒)」「眠りが浅い(熟眠障害)」の4つに分けられます。タイプによって、選ばれやすい薬が異なります。

不眠のタイプ症状よく使われる薬の例
入眠障害寝つきが悪いマイスリー、アモバン、ロゼレム、ベルソムラ
中途覚醒夜中に何度も目が覚めるルネスタ、レンドルミン、ベルソムラ、デエビゴ
早朝覚醒予定より早く目が覚めるユーロジン、ベンザリン、デエビゴ
熟眠障害眠りが浅く疲れが取れない中時間型の薬と生活習慣の見直しを組み合わせる

実際の処方は、年齢・併存症・併用薬・生活パターンを総合して判断します。同じ「寝つきの悪さ」でも、不安が強いときと体内時計が乱れているときでは、選ばれる薬が変わることがあります。

副作用と安全な使い方

睡眠薬の副作用は、系統によって傾向が異なります。下の表は代表的な副作用を系統別に整理したものです。

系統依存のしやすさ筋弛緩・転倒健忘翌朝の持ち越し
BZ系高いあり起こりやすい中〜長時間型で起こりやすい
Z薬中程度比較的少ない起こりうる少ない
メラトニン系ほぼなしほぼなしほぼなしほぼなし
オレキシン系低い少ない少ない個人差あり

BZ系・Z薬は長期連用で身体的依存(急に中止すると離脱症状が出る)や精神的依存(「飲まないと眠れない」という不安)が形成されることがあります。自己判断での急な中止は、リバウンドの不眠・強い不安・けいれんなどを招く危険があります。減薬は必ず主治医と計画を立てて進めます。

一方、メラトニン受容体作動薬とオレキシン受容体拮抗薬は依存性がほぼないとされ、長期処方でも比較的安全に使えると考えられています。

安全に使うためのポイントは次のとおりです。

  • 服用後はすぐに就寝する:途中で活動すると健忘・ふらつきの原因になります
  • アルコールと一緒に飲まない:呼吸抑制や予期せぬ行動のリスクが高まります
  • 運転や危険作業は控える:翌朝の持ち越し効果にも注意が必要です
  • 高齢の方は少量から:転倒・骨折・せん妄のリスクに備え、慎重な選択が必要です
  • 妊娠・授乳中は主治医に相談:胎児・新生児への影響を評価する必要があります
  • 自己判断で量を変えない:急な中止や増量は避け、必ず主治医に相談してください

「飲まないと眠れない」「量が増えてきた」と感じたら、それは意思の弱さではなく、薬の特性によって起きていることです。主治医に正直にお話しすることが、安全な減薬への第一歩になります。

薬に頼る前に見直したい生活習慣

睡眠薬は補助的な手段であり、治療の中心は睡眠衛生(睡眠にまつわる生活習慣)を整えることです。以下のような工夫は、薬の効果を高め、減薬・卒薬にもつながります。

  • 毎日、同じ時間に起きて同じ時間に寝る
  • 就寝前のカフェイン・アルコール・ニコチンを控える
  • 就寝1〜2時間前はスマートフォンやパソコンの明るい画面を避ける
  • 朝、太陽の光を浴びて体内時計をリセットする
  • 日中に適度な運動をする(就寝直前の激しい運動は避ける)
  • 寝室は暗く静かに保ち、温度・湿度を快適に整える
  • 眠れないときはいったん寝床を離れ、眠気が来てから戻る

長く続く不眠には、不眠に対する認知行動療法(CBT-I)が薬と同等かそれ以上の効果を示すこともあります。睡眠の記録をつけ、眠れない時間との付き合い方を見直す方法で、専門の医療機関で受けることができます。

関連する疾患

不眠は単独で起こることもありますが、他の不調の一症状として現れることも少なくありません。下の疾患に心当たりがある場合、不眠の治療と並行して、主治医と治療方針を相談することが大切です。

  • 不眠症:寝つけない・途中で目覚めるなどが1か月以上続き、日中の生活に支障が出ている状態です。
  • 抑うつ症(うつ病):気分の落ち込みと不眠がセットで現れることが多く、抗うつ薬が治療の中心になります。
  • 不安症:強い不安や心配が眠りを妨げることがあります。
  • パニック症:夜間に発作が起きる「夜間パニック」で不眠が生じることがあります。
  • 双極症(躁うつ病):睡眠時間が短くても元気という時期と、眠り続ける時期が交互に現れることがあります。
  • 自律神経失調症:体の緊張や不調が眠りを妨げることがあります。

家族や周囲の方へ

ご家族が睡眠薬を服用していると、「薬に頼りすぎではないか」と心配になることがあります。一方、本人は「眠れないつらさをわかってもらえない」と孤独を感じていることも少なくありません。

次のような関わりが、本人の支えになります。

  • 不眠は怠けや意志の問題ではなく、治療の対象となる不調であると理解する
  • 服薬は本人と主治医の治療計画としてとらえ、外から評価しすぎない
  • 飲み忘れ・飲み過ぎに気づいたら、責めずに主治医への相談をうながす
  • 服薬後の歩行や転倒に気を配り、夜間の足元を安全にする
  • 規則正しい生活リズムを、家族全体で共有する
  • お酒との飲み合わせに注意点があることを、家族でも共有しておく

眠れないつらさを責めずに聴いてくれる相手の存在は、薬と同じくらい大きな支えになります。

早めに相談したいサイン

次のようなサインがあるときは、ひとりで抱え込まず、主治医や精神科に相談してください。

  • 処方された量より多く飲んでしまう日が増えている
  • 効きが悪くなり、自分で量を増やしたくなっている
  • 薬をやめると強い不眠・不安・ふるえが出た
  • 翌朝、強いふらつき・眠気・記憶の抜けがある
  • 服用後に行動を覚えていない出来事があった
  • 気分の落ち込みや、消えてしまいたいという気持ちが出てきた
  • 睡眠薬と一緒にお酒を飲んでしまう日がある

気持ちのつらさが強いときは、公的な相談窓口も利用できます。「よりそいホットライン」(0120-279-338)や「いのちの電話」(0570-783-556)では、電話での相談を受け付けています。夜間や緊急時でも、ひとりで抱え込まずにご利用ください。

よくある質問

睡眠薬はクセになりますか?

薬の系統によって大きく異なります。BZ系・Z薬は長期使用で依存が生じることがあり、数週間から数か月で身体的な依存が形成されると報告されています。一方、メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)やオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ、デエビゴ)は依存がほぼないとされ、長期の使用でも比較的安全とされています。心配なときは、主治医と相談して選択肢を見直すことができます。

いつまで飲み続ければよいですか?

不眠の原因・治療への反応・生活の回復度によって変わります。BZ系・Z薬は原則として長期連用を避け、症状が落ち着いたら主治医と減薬の計画を立てます。メラトニン系やオレキシン系は、長期間続けても安全性が保たれやすい薬です。「そろそろ減らせそう」と感じたときは、自己判断でやめず、まず主治医にご相談ください。

お酒を飲みながら服用してもよいですか?

お酒との併用は避けてください。アルコールは睡眠薬の作用を強め、呼吸抑制、記憶の抜け、睡眠中の予期せぬ行動(夜間の食事や外出を覚えていないなど)を引き起こす危険があります。特にBZ系・Z薬との併用は注意が必要です。飲酒の習慣がある方は、主治医にお伝えください。

自分に合う薬はどう選ばれますか?

不眠のタイプ(寝つきが悪い・途中で目覚める・早朝覚醒など)、年齢、他の病気、一緒に飲んでいる薬、依存の懸念、仕事上の注意点(運転の有無など)を総合して選ばれます。近年は、高齢の方・長期治療を見据える方・依存を避けたい方には、メラトニン系やオレキシン系が選ばれる場面が増えています。主治医と希望を共有しながら、あなたに合う薬を一緒に探していきます。

まとめ

睡眠薬は、系統によって作用メカニズム・効果・副作用・依存のしやすさが大きく異なります。かつて主流だったBZ系は依存や転倒の問題から第一選択を外れつつあり、現在はメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など、より安全性の高い薬剤が選ばれる場面が増えています

どの薬が最適かは、不眠のタイプ・年齢・持病・併用薬・生活スタイルなどによって変わります。自己判断で量を変えたり中止したりせず、必ず主治医・薬剤師と相談のうえ、自分に合った治療を選んでください。薬物療法と並行して睡眠衛生を整えることが、長い目で見た回復への近道になります。

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