01統合失調症とは
独り言が増えた。部屋にこもる時間が長くなった。話しかけても、どこか上の空で、会話がかみ合わない。
身近な人のそんな変化に気づいたとき、多くの方はまず「疲れているのだろう」と考えます。実際、疲れて口数が減ることは、誰にでもあります。
けれども、そこに「誰かに見られている」という訴えが重なることがあります。誰もいないほうを向いて、返事をしていることもあります。そうなると、疲れだけでは説明がつきません。
その変化には、名前があります。統合失調症は、幻覚や妄想、考えのまとまりにくさ、感情の動きの乏しさなどを特徴とする精神疾患です。脳内の神経伝達物質の働きの変化が関わっていると考えられています。
めったにない病気に思えるかもしれません。実際は、そうではありません。生涯のうちに発症する割合(生涯罹患リスク)は約0.7〜1%とされています(McGrath et al., 2008)。WHOによると、世界ではおよそ300人に1人が統合失調症とともに生活しているとされます(WHO Fact Sheet, 2022)。10代後半から30代にかけて発症することが多い疾患です。
そして、治療の方法がある病気です。抗精神病薬と心理社会的支援を続けることで、多くの方が回復を目指せます。
02こんな症状はありませんか?
統合失調症の症状は、二つの方向に現れます。ふだんにない体験が加わる方向と、本来あるはずのものが減っていく方向です。
加わる症状は目立ちます。幻聴や被害妄想は、周囲から見ても明らかな変化として気づかれます。
一方、減っていく症状は見過ごされやすいものです。意欲が出ない。表情が乏しくなる。人付き合いを避ける。「性格が変わった」「怠けている」と受け取られたまま、時間がたってしまうことがあります。
次の項目に、当てはまるものがないか確認してみてください。
陽性症状(ふだんにない体験が加わる)
- 実際にはない声が聞こえる(幻聴)
- 誰かに監視・盗聴されている気がする(被害妄想)
- テレビや周囲の出来事が自分に向けられていると感じる(関係妄想)
- 考えがまとまらず、話のつじつまが合わなくなる
- 急に笑い出す、独り言が増えるなどの行動の変化
陰性症状(本来あるものが減る)
- 意欲がわかず、何もする気になれない
- 感情の表現が乏しくなり、喜怒哀楽が減った
- 人付き合いを避け、引きこもりがちになった
- 身だしなみや日常生活に無頓着になった
認知機能の変化
- 集中力が続かず、仕事や勉強が手につかない
- 記憶力が落ちたと感じる
- 段取りを立てて行動することが難しくなった
すべてあてはまる必要はありません。いくつかの症状が続き、日常生活や対人関係に支障が出ているなら、早めの受診をおすすめします。目立つ症状がなくても、「減っていく」変化が続いているなら、それも相談の理由になります。
このチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある場合は、専門医にご相談ください。
03統合失調症はなぜ起こるのか
原因を探しはじめると、ご家族は自分に矛先を向けがちです。育て方がよくなかったのか。あのとき、無理をさせたせいか。
ご本人もまた、自分を責めることがあります。心が弱いから、こうなったのではないか、と。
けれども、統合失調症は、育て方や心の弱さで起こる病気ではありません。原因は一つではなく、複数の要因が重なって発症すると考えられています。この重なりを説明するのが、脆弱性ストレスモデルという考え方です。発症のなりやすさ(脆弱性)に、環境からのストレスが加わったときに発症する、という見方です。
遺伝的要因
家族に統合失調症の方がいる場合、発症リスクはやや高まることが知られています。一親等の血縁者では、一般集団の約10倍とされています。
数字だけを見ると、遺伝で決まる病気のように思えるかもしれません。実際は、そうではありません。遺伝子がまったく同じ一卵性双生児でも、一致率は約48%です。半数以上は、同じ遺伝子を持ちながら発症していません。遺伝はなりやすさの一部であって、環境要因との相互作用が発症を左右します。
脳の機能的要因
幻聴や妄想の背景には、脳内のドーパミンという神経伝達物質の過剰が関与するとされています。先ほど見た「加わる症状」に対応する変化です。
一方、意欲や認知機能の低下には、前頭前野の機能低下が関連すると考えられています。こちらは「減っていく症状」の側に対応します。グルタミン酸系の異常についても、研究が続いています。
環境的要因
強いストレスや対人関係の悩み、生活環境の変化などが引き金になることがあります。睡眠不足や社会的な孤立も、リスクを高める要因です。
発症は、ご本人のせいでも、ご家族の育て方のせいでもありません。脳の機能的な変化と環境のストレスが重なって起こる疾患です。だからこそ、治療と環境調整という外からの働きかけで、症状の改善が期待できます。
04統合失調症はどう治療するのか
いちばん知りたいのは、「治るのか」ということだと思います。
数字からお答えします。WHOによると、適切な治療を受けた方の約3人に1人が、完全寛解(症状がほぼなくなった状態)に至るとされています。長期の追跡調査でも、およそ半数の方が良好な社会的経過をたどったと報告されています※1。
「一生悪化する病気」ではありません。早期発見と継続治療、そして心理社会的支援によって、回復を目指せる疾患です。
ただし、時間はかかります。治療は「薬物療法」と「心理社会的アプローチ」の二本柱で、月から年の単位で進めます。目標は、症状を和らげ、社会生活への復帰を支えることです。
薬物療法
基本になるのは、抗精神病薬です。脳内のドーパミンの働きを調整し、幻聴や妄想などの陽性症状を和らげます。
抗精神病薬には第一世代(定型)と第二世代(非定型)があり、現在は副作用が少ない第二世代が第一選択として広く用いられています。副作用が心配なときは、我慢せず主治医に伝えてください。種類や量を調整しながら、合う薬を探していきます。
薬が効いて幻聴や妄想がおさまると、「もう治ったのだから、やめてもいいのではないか」と思えてきます。ここが、この治療でいちばん慎重になりたいところです。自己判断で服薬を中断すると、再発しやすくなります。逆に、服薬を続けることで、再発のリスクを大幅に下げられることがわかっています。
飲み忘れが心配な場合は、持効性注射薬という選択肢もあります。続け方も含めて、主治医と相談しながら決めていけます。
心理社会的アプローチ
薬物療法は、二本柱の一方にすぎません。もう一方が、生活を立て直すための心理社会的アプローチです。
心理教育:ご本人とご家族が、病気の仕組みや対処法を学びます。再発の早期サインに気づきやすくなります。
認知行動療法:幻聴や妄想への柔軟な対処法を学びます。聞こえてくる声に「これは症状だ」と気づく力を養い、日常の困りごとを減らしていきます。
認知リメディエーション:注意力や記憶力、思考の柔軟性を高めるトレーニングです。集中が続かない、段取りが組めないという変化に働きかけます。就労や日常生活に役立つ力を取り戻すことを目指します。
生活習慣の見直し
規則正しい睡眠と食事、適度な運動は、回復を支えます。有酸素運動が認知機能の改善に寄与するとの報告があります(Firth et al., 2017)。ウォーキングなど週150分程度の身体活動が一般に推奨されています。ストレスの管理や、アルコールや薬物を控えることも、再発予防に役立ちます。
回復までの流れ
治療は、おおまかに三つの段階を踏んで進みます。
- 安定化フェーズ(最初の3か月):服薬の調整、心理教育、生活リズムの立て直しを行います。
- スキル構築フェーズ(3〜12か月):認知行動療法や就労支援を開始し、社会復帰への力を養います。
- 維持・拡張フェーズ(1年以降):再発予防を続けながら、自分らしい生活を取り戻していきます。
上記は一般的な目安です。回復の経過には個人差があります。
05銀座泰明クリニックの治療方針
受診を考えはじめても、診察室で何が行われるのか想像がつかないと、足が止まります。特別なことはしません。当院の診察の中心は、お話をうかがうことです。
精神保健指定医・精神科専門医が、症状だけでなく、生活の困りごとやご不安にもじっくり耳を傾けます。そのうえで、ご本人のペースに合わせた治療計画を、一緒に考えていきます。
通いやすい診療体制
夜間・土日も診療しているため、お仕事を続けながら通院いただけます。銀座駅から徒歩圏内の立地です。治療が長く続く病気だからこそ、通いやすさを大切にしています。
費用について
保険診療で対応しています。自己負担の目安は、初診で約2,500〜3,000円、再診で約1,500円です(3割負担の場合)。
※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。
また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。
独り言が増えた。部屋にこもるようになった。その変化に気づいた日が、相談を考えるタイミングです。「話してみようか」と思えたときに、お気軽にお問い合わせください。
06ご家族・周囲の方へ
支えるご家族には、ご家族の迷いがあります。声をかけるべきか、そっとしておくべきか。よかれと思った一言が、かえって負担にならないか。
迷ったときの目安になる事実があります。批判的な雰囲気が、再発のリスクを高めることが研究でわかっています。責めない接し方は、それ自体が再発予防として働きます。
接し方のポイント
- 批判や説教を控え、短く具体的な声かけを心がけましょう。長い説得よりも、伝わりやすくなります。
- 「病気による変化」と「もともとの性格」を区別して考えましょう。意欲の低下や感情の乏しさは症状であり、本人の怠けではありません。
- 再発の早期サイン(睡眠の乱れ、イライラの増加、服薬の乱れなど)を一緒に把握し、気づいたら早めに主治医へ連絡しましょう。
- 家族心理教育への参加もお勧めします。病気の理解が深まり、再発予防にも効果があることが示されています。
ご家族自身のケアも大切です
支える側が疲れきってしまうと、支え続けることが難しくなります。家族会や相談窓口を活用し、ご自身の休息も確保してください。ご家族が休むことも、ご本人の回復を支える一部です。
07よくあるご質問
生涯に発症する割合(生涯罹患リスク)は約0.7〜1%とされており、珍しい病気ではありません。10代後半から30代にかけて発症することが多く、中高年で発症する場合もあります。
WHOによれば、適切な治療を受けた方の約3人に1人は完全寛解に至ります。多くの方で症状の波は小さくなり、就学・就労・対人関係の回復が期待できます。「症状をなくす」ことより「生活の質を上げる」ことに焦点を当てた治療を行います。
再発予防のため、一定期間の服薬継続が推奨されます。研究では、服薬を中断すると1年以内の再発リスクが大幅に高まることがわかっています。薬の種類や量は、状態に応じて主治医と相談しながら調整していきます。
抗精神病薬には眠気や体重増加などの副作用が生じることがあります。副作用の出方は薬の種類や個人差によって異なります。つらい副作用がある場合は我慢せず主治医にお伝えください。薬の変更や量の調整で対応できることが多くあります。
「前駆期」と呼ばれる初期段階で治療を開始できると、予後が良くなる可能性があります。「何となく人に見られている気がする」「集中力が落ちた」「引きこもりがちになった」など、気になる変化があれば早めにご相談ください。
症状の程度によりますが、通院しながらお仕事を続けている方も多くいらっしゃいます。当院は夜間・土日も診療しており、通院の負担を軽減できます。必要に応じて診断書の発行や就労支援についてもご相談いただけます。
多くの場合、外来通院で治療を行うことができます。ただし、症状が重い場合や、ご本人やご家族の安全確保が必要な場合には、入院治療をお勧めすることがあります。その際は適切な医療機関をご紹介いたします。
批判や説教を控え、短く具体的な言葉で関わることが大切です。家族心理教育への参加が推奨されており、再発予防と介護負担の軽減に効果があります。再発の早期サインを把握し、異変に気づいたら主治医へ連絡する体制を整えておきましょう。
服薬の継続が最も重要です。加えて、睡眠の乱れやイライラの増加など、自分なりの「早期警戒サイン」を把握しておくことが役立ちます。サインが出たらできるだけ早く医療者に連絡することが大切です。規則正しい生活とストレス管理も再発予防の柱です。
音楽を聴く、テレビをつけるなどの「注意転換」が有効とされています。「これは症状だ」と自分に言い聞かせる方法(セルフトーク)や、散歩などの軽い身体活動も助けになります。ただし、これらはあくまで補助的な対処であり、薬物療法との併用が基本です。
08関連する疾患
関連コラム
- 統合失調症について
- 統合失調症の幻覚と妄想について
- 統合失調症の再発について
- 統合失調感情症(統合失調感情障害)について
- 妄想症(妄想性障害)について
- 体感幻覚について
- 無力妄想・敏感関係妄想について
- アカシジアについて
- 統合失調症と自閉スペクトラム症について
09参考文献
- DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
- WHO Fact Sheet: Schizophrenia(2022)
- NICE Rehabilitation for adults with complex psychosis(NG181, 2020)
- 日本神経精神薬理学会「統合失調症薬物治療ガイドライン 2022」
- Firth J et al. Aerobic Exercise Improves Cognitive Functioning in People With Schizophrenia. Schizophr Bull. 2017;43(3):546-556.
- Harrison G et al. Recovery from psychotic illness: a 15- and 25-year international follow-up study. Br J Psychiatry. 2001;178:506-517.
- McGrath J et al. Schizophrenia: a concise overview of incidence, prevalence, and mortality. Epidemiol Rev. 2008;30:67-76.
※1 出典:Harrison G et al. Br J Psychiatry. 2001;178:506-517.


