01パーソナリティ症(パーソナリティ障害)とは

パーソナリティ症(パーソナリティ障害)は、感情・対人関係・自己像・衝動性などに持続的な偏りがあり、本人や周囲が困難を感じている状態です。生活や人間関係に支障が出ている場合は、早めの相談をおすすめします。心理療法を中心とした継続的な治療で、多くの方が症状の改善と安定を実感されています。

代表的なものに境界性パーソナリティ症(BPD)があり、著しい感情の不安定性、自己像の不安定さ、対人関係の不安定さ、衝動性を特徴とします。このほか、自己愛性パーソナリティ症、反社会性パーソナリティ症などがあります。

パーソナリティ症は、特徴によって3つの群(クラスター)に分類されています。

  • A群(奇妙・風変わり):猜疑性、シゾイド、統合失調型パーソナリティ症
  • B群(劇的・感情的):境界性、自己愛性、反社会性、演技性パーソナリティ症
  • C群(不安・恐怖):回避性、依存性、強迫性パーソナリティ症

当院ではいずれのタイプにも対応しています。

パーソナリティ症は決して珍しくなく、一般人口の約10%前後が何らかのパーソナリティ症に該当するとの報告があります(Lenzenweger et al., 2007)。

ICD-11(2022年発効)では、従来のカテゴリカル分類(○○型パーソナリティ症)からディメンショナルモデルへと大きく変更されました。重症度(軽度・中等度・重度)と、5つのパーソナリティ特性領域(否定的感情、離隔、非社会性、脱抑制、制縛性)+ボーダーラインパターンによって評価されます。

臨床場面では女性の受診が多い傾向がありますが、地域調査では男女差は小さいとする報告もあります(Grant et al., 2008)。家族研究では、気分障害や衝動制御の問題が家族に見られる割合が高いとの報告がありますが(Links et al., 1988)、これは家族の「責任」を意味するものではなく、生物学的な脆弱性を示唆するものです。

パーソナリティ症は「性格の問題」ではなく、適切な治療や支援を継続することで症状の改善・回復が可能とされています。長期追跡研究では、10年間でBPDの診断基準を満たさなくなる方が多いと報告されています(Zanarini et al., 2012)。ただし、社会機能(仕事・対人関係)の回復にはさらに時間がかかる場合があり、継続的な支援が重要です。


02こんな症状はありませんか?

以下はパーソナリティ症(特に境界性パーソナリティ症)に関連する代表的な症状です。

感情面の症状

  • 些細なことで激しく怒りが込み上げたり、極端に落ち込んだりする
  • 感情の変動が激しく、気分が2〜3時間で大きく変わることがある
  • 慢性的な空虚感や退屈感がある
  • 強い不安や見捨てられる恐怖を感じる

対人関係の症状

  • 人を理想化したかと思うと、些細なことで徹底的に否定してしまう
  • 見捨てられることへの強い恐怖から、しがみつく行動をとってしまう
  • 対人関係が不安定で、激しいトラブルを繰り返す
  • 孤独に耐えられず、衝動的に人に接近してしまう

行動面の症状

  • 自傷行為(リストカット等)をしてしまうことがある
  • 衝動的な買い物、過食、飲酒などの行動がコントロールできない
  • 自分が何者かわからない、価値観が定まらない感覚がある
  • 強いストレスのもとで、一時的に現実感がなくなることがある

このチェックリストは診断を確定するものではありません。参考情報としてご活用ください。

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03パーソナリティ症はなぜ起こるのか

パーソナリティ症の背景には、遺伝的要因と環境要因の相互作用があると考えられています。

遺伝的要因

感情制御や衝動性に関わる脳内ネットワークに、遺伝的な脆弱性がある可能性が示唆されています。前頭前野と辺縁系のネットワークの機能異常や、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の乱れが関与していると考えられています。

環境要因

幼少期に安定した愛着関係を十分に築けなかったり、虐待・ネグレクト・家庭内不和などのストレスの多い環境にいたことが影響する場合があります。こうした環境が感情調整の困難を固定化しやすくし、見捨てられ不安や対人不信が強まる場合があります。

ストレス応答系の過敏性

HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)の過敏性が、パーソナリティ症の発症・維持に関与している可能性も研究されています。

あなたのせいではありません。パーソナリティ症は意志の弱さや性格の問題ではなく、脳機能や生育環境が複雑に絡み合って生じるものです。


04パーソナリティ症はどう治療するのか

パーソナリティ症の治療は心理療法(精神療法)が中心です。適切な治療を継続することで、症状の改善を目指すことができます。

心理療法

弁証法的行動療法(DBT)は、衝動性や自傷行為を抑えつつ、感情調整や対人スキルを身につけるために開発されたプログラムです。DBTは以下の4つのモジュールで構成されています。

  • マインドフルネス:今この瞬間に意識を向けるスキル
  • 対人関係スキル:健全な関係を築くための方法
  • 感情調整スキル:激しい感情をコントロールする方法
  • 苦悩耐性スキル:つらい状況に耐えるための対処法

メンタライゼーションに基づく療法(MBT)は、自分や他者の心的状態を理解する力を育て、対人関係の混乱を減らすことを目指します。

認知行動療法(CBT)/スキーマ療法は、自分を苦しめている思考パターン(スキーマ)を修正し、より柔軟な認知・行動パターンを身につけることを目指します。

TFP(転移焦点化精神療法)は、精神分析的アプローチに基づく治療法で、治療者との関係性を通じて対人関係パターンの理解と変容を目指します。

薬物療法

パーソナリティ症そのものに対する特効薬はありませんが、併存するうつ病や不安症、気分の不安定さなどに対して、抗うつ薬や気分安定薬、抗精神病薬を補助的に使用することがあります。衝動性や自殺念慮が強い時期には、一時的な薬物療法が助けになることがあります。

セルフケア

パーソナリティ症のセルフケアは「気分転換」ではなく、感情の波を小さくし、衝動をやり過ごし、対人関係の破綻を減らす技術です。感情が高ぶったときに体の反応(温度変化、運動、呼吸法)で神経系の過覚醒を下げることが基本となります。

治療の見通し

長期追跡研究では、10年間でBPDの診断基準を満たさなくなる方が多いと報告されています(Zanarini et al., 2012)。自傷や衝動行為などの急性症状は比較的早く改善する一方、社会機能(仕事・対人関係)の回復にはさらに時間がかかる場合があります。専門的な心理療法への継続的な参加が予後を良くする重要な因子とされています。


05銀座泰明クリニックの治療方針

当院では、精神保健指定医・精神科専門医がパーソナリティ症の診療を担当しています。

精神保健指定医・精神科専門医による診察

じっくりとお話を伺い、お一人おひとりに合った治療をご提案します。感情や対人関係のお悩みを、安全な場でお聴きします。

段階的な治療

まず安全の確保と生活の安定化を図り、そのうえで症状の改善に取り組む段階的なアプローチを大切にしています。

併存疾患への対応

うつ病、不安症、依存症など、パーソナリティ症に併存しやすい疾患にも総合的に対応します。

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しており、お仕事や生活と両立しながら通院いただけます。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

※心理検査を行う場合は別途費用がかかることがあります。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

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06ご家族・周囲の方へ

パーソナリティ症のご本人の言動は、周囲の方にとって理解しがたいことがあるかもしれません。しかし、それは「わがまま」や「甘え」ではなく、脳の機能や生育環境が背景にある症状です。

接し方のポイント

  • 感情的な対応を避ける:ご本人が激しい感情を向けてきた場合、同じ強度で反応するのではなく、落ち着いた態度を保つことが助けになります。
  • 境界線を明確に保つ:「あなたは大切だが、この行為は受け入れられない」と、人格と行為を分けて伝えることが重要です。
  • 自傷行為への対応:自傷行為がみられた場合は、過度に動揺せず、受診を勧めてください。自殺念慮がある場合は緊急受診をお願いします。
  • ご家族自身のケアも大切です:パーソナリティ症のご家族を支えることは大きな負担を伴います。ご自身の心身の健康を守ることも治療の一部です。

07よくあるご質問

パーソナリティ症は治りますか?

パーソナリティ症は適切な治療によって症状の改善が期待できます。長期追跡研究では、10年間でBPDの診断基準を満たさなくなる方が多いと報告されています(Zanarini et al., 2012)。自傷や衝動行為は比較的早く改善しやすい一方、社会機能(仕事・対人関係)の回復にはさらに時間がかかる場合があり、継続的な支援が重要です。

境界性パーソナリティ症とは何ですか?

境界性パーソナリティ症(BPD)は、感情の不安定さ、対人関係の困難、自己像の揺れ、衝動性を主な特徴とするパーソナリティ症(パーソナリティ障害)です。DSM-5では9つの診断基準のうち5つ以上に該当する場合に診断が検討されます。

この程度の症状でも受診してよいですか?

はい。対人関係の悩みや感情のコントロールの難しさを感じている段階でも、早めにご相談いただくことで、より効果的な対処につながります。「この程度で」と思わず、お気軽にご相談ください。

薬だけで改善しますか?

パーソナリティ症の治療は心理療法が中心です。薬物療法は併存する抑うつ症(うつ病)や不安症(不安障害)、気分の不安定さに対する補助的な役割を果たしますが、薬だけで根本的な改善を目指すのは難しいとされています。

仕事を休む必要がありますか?

症状の程度によります。多くの場合は通院しながらお仕事を続けていただけますが、自傷行為や強い感情の不安定さがある場合は、一時的な休養をお勧めすることもあります。当院は夜間・土日も診療しています。

家族はどう接すればよいですか?

感情的な対応を避け、落ち着いた態度を保つことが大切です。「あなたは大切だが、この行為は受け入れられない」と、人格と行為を分けて伝えるようにしてください。ご家族自身のケアも重要ですので、支援者への相談もお勧めします。

自傷行為をやめられません。どうすればよいですか?

自傷行為は感情の痛みを下げるための行動であることが多いです。まずは受診して、感情調整のスキルを一緒に身につけていくことが大切です。衝動が高まったときは、冷たいタオルを顔に当てる、早歩きをするなど、体の反応で強度を下げる方法が助けになることがあります。

他の精神疾患と併存することはありますか?

はい、パーソナリティ症は抑うつ症(うつ病)、不安症(不安障害)、PTSD、依存症、摂食症(摂食障害)などを併存しやすいことが知られています。当院では併存疾患も含めた総合的な診療を行っています。

治療はどのくらいの期間が必要ですか?

個人差が大きいですが、一般的に数年単位の治療が必要とされることが多いです。急性期の行動面の症状は比較的早く改善しますが、対人関係のパターンや自己像の安定には時間がかかることがあります。焦らず継続的に取り組むことが大切です。

境界性パーソナリティ症以外のパーソナリティ症にも対応していますか?

はい、当院ではA群(猜疑性・シゾイド・統合失調型)、B群(境界性・自己愛性・反社会性・演技性)、C群(回避性・依存性・強迫性)のいずれのタイプにも対応しています。まずは症状やお困りごとをお聞かせください。

年齢とともに症状は変わりますか?

はい。10〜20代で目立ちやすい自傷や衝動行為は、30代以降で落ち着いてくることが多いです。一方で、空虚感や慢性的な抑うつ・不安などの内面的な苦痛は残りやすい傾向があります。専門的な治療によって、こうした内面的な苦痛の改善も目指すことができます。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. (DSM-5). APA; 2013.
  • World Health Organization. International Classification of Diseases. 11th Revision (ICD-11). WHO; 2022.
  • Zanarini MC et al. Attainment and stability of sustained symptomatic remission and recovery among patients with borderline personality disorder and axis II comparison subjects. Am J Psychiatry. 2012;169(5):476-483.
  • NICE. Borderline personality disorder: recognition and management (CG78). 2009, updated 2022.
  • Linehan MM. DBT Skills Training Manual. 2nd ed. Guilford Press; 2014.
  • Lenzenweger MF et al. DSM-IV personality disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Biol Psychiatry. 2007;62(6):553-564.