01パニック症とは
パニック症(パニック障害)は、突然の動悸・息苦しさ・めまいなどの強い不安発作(パニック発作)を繰り返す精神疾患です。発作への不安で外出が困難になるなど生活に支障が出ている場合は、早めの受診をおすすめします。薬物療法と認知行動療法を組み合わせることで、多くの方が発作をコントロールできるようになります。
パニック発作は予期せず突然生じるもので、場所を選びません。ただし、閉鎖空間や人混みなどで起こりやすいと感じる方もおり、そのような場面を避ける「広場恐怖症(特定の場所や状況を避ける)」に発展することがあります。発作時には動悸・呼吸困難・めまい・ふらつき・吐き気などの激しい身体症状と、「死んでしまうのではないか」という強い恐怖を伴います。
発作は突然生じ、数分〜10分程度でピークに達し、60分程度で治まります。しかし、その苦痛は非常に激しく、「脳神経の異常興奮」による疾患と思えず、救急搬送されることも少なくありません。
発作を繰り返すうちに、「また起きるのではないか」という「予期不安」にとらわれるようになります。さらに、発作が起きた場所や外出自体を避けるようになる「広場恐怖症」へと進展することもあります。
パニック症の生涯有病率は約2〜3%、12か月有病率は約1.5〜2.5%と報告されています。
パニック症は脳の恐怖回路の過敏化が関わっており、精神科での治療で改善が期待できる疾患です。
02こんな症状はありませんか?
以下のような発作や不安に心当たりがある方は、パニック症の可能性があります。
パニック発作の症状
- 突然の激しい動悸、胸のドキドキ
- 息苦しさ、呼吸が浅くなる、過呼吸
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感覚
- 手足のしびれ、震え
- 吐き気、腹部の不快感
- 発汗、冷や汗
- 胸の痛みや圧迫感
- 窒息感(息が詰まる感じ)
- 悪寒またはほてり
- 「死んでしまうのではないか」という強い恐怖
- 「自分が自分でなくなる」ような感覚
予期不安
- 「また発作が起きるのではないか」と常に不安
- 発作が起きた場所やシーンを思い出すと怖くなる
- 外出前に不安が強くなる
広場恐怖症(特定の場所や状況を避ける)
- 電車やバスに乗れなくなった
- エレベーターや閉鎖空間を避けている
- 人混みが怖くなった
- 一人での外出ができなくなった
上記は診断を確定するものではありません。パニック発作を一度でも経験された方は、早めに専門医にご相談ください。
03パニック症はなぜ起こるのか
パニック症は「気の持ちよう」ではなく、脳の恐怖回路の過敏化によって起こります。
扁桃体を中心とした恐怖回路の異常
パニック発作は、脳内の恐怖回路が過剰に活性化することで引き起こされます。
- 扁桃体が危険信号を過剰に検知し、恐怖反応を引き起こします。パニック症の方では、扁桃体の過敏性が高いことが示されています。
- 視床下部が自律神経系を介して、心拍数の増加・呼吸促進・発汗などの身体反応を引き起こします。
- 前頭前野が扁桃体の活動を抑制できず、冷静な判断ができなくなります。
- 海馬の機能低下により、恐怖記憶が適切に処理されず、特定の場所や状況が強い不安のきっかけとなります。
神経伝達物質の異常
- セロトニン不足:情動の安定を助ける神経伝達物質です。不足するとパニック発作が起きやすくなります。SSRIが有効であることが、セロトニンの関与を裏付けています。
- ノルアドレナリン過剰:身体の覚醒やストレス応答を制御します。過剰分泌が自律神経を刺激し、動悸・発汗・呼吸困難などの身体症状を引き起こします。
- GABA不足:脳の興奮を抑える働きが弱まると、扁桃体やHPA軸の過剰反応が起こりやすくなります。
誘発因子
- 遺伝的素因(パニック症や不安症の家族歴など)
- 幼少期の心理的・外傷的体験
- カフェインの過剰摂取(パニック発作を誘発することがあります)
- 過労や睡眠不足
パニック発作は脳の「誤警報」です。実際に生命の危険はありませんが、脳がそう判断してしまうために激しい症状が出ます。治療により、この過敏な反応を和らげることができます。
04パニック症はどう治療するのか
パニック症の治療は、一般的に数か月かかります。まずパニック発作を抑え、次に予期不安や広場恐怖症に対処していきます。適切な治療を受けた場合、約70〜90%の方が症状の改善を実感しているとの報告があります(APA Practice Guidelines)。
薬物療法
パニック発作を抑えるための薬物治療が治療の基本です。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):セロトニンの働きを高め、発作の頻度や強度を減少させます。第一選択薬として推奨されています。効果が出るまで2〜4週間かかります。
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):ノルアドレナリン系も調整し、身体症状を含めた不安を軽減します。なお、SNRIは日本ではパニック症に対する保険適応を持つものはありませんが、うつ病や不安症状の併存に対して使用されることがあります。
- 抗不安薬:急性の発作時に即効性がありますが、依存リスクがあるため長期使用は推奨されません。
認知行動療法(CBT)
パニック発作が消失した後、残存する予期不安や広場恐怖症に対して行います。
- 認知再構成:「発作で死ぬかもしれない」という考えを、「発作は10分程度で治まる脳の誤警報である」という現実的な認識に修正します。
- 段階的暴露(エクスポージャー):避けていた場所や状況に少しずつ向き合い、「実は大丈夫だった」という経験を積み重ねます。
発作時のセルフケア
パニック発作が起きたときの対処法を知っておくことも大切です。
- 可能であればその場で深呼吸を試みましょう(過呼吸を防ぎます)
- 安全の確保が必要な場合は落ち着ける場所に移動し、発作が自然に収まるのを待ちます
- 「発作は必ず収まる」と自分に言い聞かせる
- 落ち着いてきたら、何か「誘因」はなかったか振り返る
生活習慣の改善
- カフェインやアルコールは交感神経を刺激するため控える
- 適度な運動・十分な睡眠・健康的な食事でストレスを軽減する
- マインドフルネスやヨガで自律神経を整える
05銀座泰明クリニックの治療方針
当院では、パニック症でお悩みの方に対し、丁寧な問診を通じて症状の経過や生活への影響を理解したうえで、お一人おひとりに合った治療をご提案しています。
精神保健指定医・精神科専門医による診療
パニック症の背景にある脳の機能的な変化やストレス要因を考慮し、総合的に診療いたします。
じっくりとお話を伺います
発作の恐怖や予期不安のつらさをじっくり伺い、安心して治療に取り組める環境を大切にしています。
薬物療法と精神療法の組み合わせ
まず発作を抑え、次に予期不安や回避行動に対処する段階的な治療を行います。
通いやすい診療体制
夜間・土日も診療しており、お仕事帰りや休日にも通院いただけます。
保険診療で受診できます
初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。
※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。
また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。
06ご家族・周囲の方へ
パニック症を抱える方のご家族や周囲の方へ、接し方のポイントをお伝えします。
- 発作時は落ち着いて寄り添う:「大丈夫だよ」「すぐ治まるよ」と穏やかに声をかけてください。焦ったり大騒ぎしたりすると、本人の不安がさらに強まります。
- 発作は10分程度で治まることを知る:生命の危険はありません。過呼吸が起きている場合は、ゆっくり息を吐くように促しましょう。
- 外出の練習を一緒に:広場恐怖症がある場合、一人では怖くても、信頼できる方と一緒なら外出できることがあります。少しずつ行動範囲を広げる手助けをしましょう。
- 「気合で治せ」と言わない:パニック症は脳の機能的な変化によるものです。精神論では改善しません。
- 静かにそばにいることも支えになります:声かけがかえって不安を高めてしまう場合は、静かにそばにいるだけでも支えになります。
- ご家族自身のケアも大切です:パニック発作を間近で見るのは、ご家族にとっても大きな負担です。必要であればご家族のご相談もお受けしています。
07よくあるご質問
パニック発作に似た症状を引き起こす身体疾患(甲状腺機能亢進症、不整脈など)もあるため、初回発作時には心臓や甲状腺の検査を行うことがあります。
パニック発作で命を落とすことはありません。発作は脳の「誤警報」であり、数分〜10分程度でピークを過ぎ、60分程度で治まります。ただし、症状が心臓疾患と似ているため、初めての発作では医療機関で心臓に問題がないか確認することが大切です。
はい。SSRIと認知行動療法を組み合わせた治療で、多くの方が症状の改善を実感されています。治療には数か月を要しますが、段階的に発作の頻度が減り、予期不安も和らいでいきます。
広場恐怖症は、パニック症でよく見られる症状です。治療でパニック発作が抑えられた後、少しずつ避けていた場所に向き合う「段階的暴露」を行います。焦らず一歩ずつ取り組むことが大切です。
発作が安定した後も、再発予防のため一定期間(通常6か月〜1年程度)お薬を続けることが推奨されます。その後、医師と相談しながら段階的に減量していきます。
症状の程度によります。多くの方は通院しながらお仕事を続けられています。当院は夜間・土日も診療しています。
はい。カフェインはパニック発作を誘発することがあります。コーヒー・紅茶・緑茶・エナジードリンクなどを控えることをおすすめします。
同じ疾患を指します。DSM-5(精神疾患の診断基準)では「パニック症」と呼ばれ、以前の呼び方が「パニック障害」です。
可能であればその場で深呼吸を試みましょう。安全の確保が必要な場合は落ち着ける場所に移動してください。「発作は必ず収まる」と自分に言い聞かせましょう。
家族歴がある場合、リスクがやや高まるとされていますが、必ず発症するわけではありません。ストレスや生活環境など、複数の要因が関わっています。
紙袋を使う方法(ペーパーバッグ法)は、酸素不足のリスクがあるため現在は推奨されていません。ゆっくりと腹式呼吸を行うことが安全です。
パニック症の方は抑うつ症(うつ病)を合併することがあります。どちらもセロトニン系の異常が関わっているため、両方を視野に入れた治療が重要です。
08関連する疾患
関連コラム
09参考文献
- American Psychiatric Association. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(2013)
- APA Practice Guidelines for the Treatment of Panic Disorder(2009, reaffirmed)
- NICE Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults (CG113, 2020 updated)
- 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト


