01摂食症(摂食障害)とは

摂食症(摂食障害)は、極端な食事制限・過食・嘔吐などの食行動の問題と、体型・体重への過剰なこだわりを特徴とする精神疾患です。体重の急激な変化や生活への支障がある場合は、早めの受診をおすすめします。心理療法・栄養療法・必要に応じた薬物療法を組み合わせることで、多くの方が回復を目指せます。神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症(過食症)に大別され、Hilde Bruchが述べたように「自尊心の病理」と捉えることが重要です。

拒食症(神経性やせ症)は、意図的で持続的な体重減少を特徴とします。極端な食事制限や過度の運動、嘔吐の誘発などの症状がみられます。BMI(体格指数)による重症度分類が定められており、BMI 17未満が軽度、BMI 15未満が最重度とされています。

過食症(神経性過食症)は、発作的に繰り返される過食と、自己嘔吐や下剤の使用などの代償行為を特徴とします。体型や体重への過度な関心があり、拒食症の既往を持つことも多いです。

過食性障害(BED)は、短時間に大量の食事をとるエピソードが繰り返されますが、神経性過食症と異なり、嘔吐や下剤の使用などの代償行為を伴いません。

このほか、回避・制限性食物摂取症(ARFID)も摂食症に分類されています。特定の食感や色の食べ物を極端に避けるなどの特徴があり、栄養不足に至ることがあります。

摂食症の有病率は若年女性で最も高く、10代後半から20代に好発します。しかし、男性や中高年にも発症し、近年は増加傾向にあります。神経性やせ症(AN)の完全回復率は約46〜73%、神経性過食症(BN)の完全回復率は約50〜70%と報告されています。ただし、研究や定義により幅があります(Steinhausen, Am J Psychiatry, 2002)。適切な治療で回復を目指せる疾患です。

神経性やせ症は精神疾患の中で最も死亡率が高いとされています。標準化死亡比は5〜6倍との報告があり(Arcelus et al., Archives of General Psychiatry, 2011)、身体的リスクの早期対応が極めて重要です。

摂食症は、以下のような身体合併症を引き起こすことがあります。

  • 低カリウム血症(嘔吐による電解質異常)
  • 歯のエナメル質の侵食(胃酸による)
  • 骨粗鬆症(栄養不足による骨密度低下)
  • 月経異常・無月経
  • 貧血

身体症状がある場合は、内科との連携が重要です。


02こんな症状はありませんか?

以下の項目に心当たりがある場合、摂食症の可能性があります。

食行動の変化

  • 食事量を極端に減らしている、あるいはほとんど食べない
  • 短時間に大量の食べ物を食べてしまう(過食エピソード)
  • 食後に嘔吐したり、下剤を使ったりしている
  • カロリー計算や体重測定に過度にこだわっている
  • 「禁止食」を設けて、特定の食べ物を避けている
  • 食べたあと強い罪悪感や自己嫌悪を感じる

心身の変化

  • 体重が急激に減った、または増えた
  • 生理が止まった、不順になった
  • 「痩せていないと価値がない」と感じる
  • 疲れやすい、めまいがする、冷えやすい
  • 人前での食事を避けるようになった
  • 鏡で自分の体型を繰り返し確認する

このチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。

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03摂食症はなぜ起こるのか

摂食症は、心理的・社会的・生物学的な要因が複雑に絡み合って発症します。一つの原因だけで起こるものではなく、あなたのせいでもありません。

心理的要因

摂食症の背景には、「自己否定感」が深く関わっています。「痩せていないと取り柄がない」という歪んだ認知にとらわれ、ダイエットの成功が唯一の自己肯定感の源になってしまうことがあります。完璧主義、他者評価への過度な依存、勝ち負けの世界観なども関連しています。

精神分析的な観点からは、幼少期の甘え(依存欲求)の断念と、治療を通じた健全な甘えの再獲得が回復の鍵となると指摘されています(下坂幸三『摂食障害治療のこつ』1999年)。ただし、これは一つの理論的解釈であり、現在ではCBT-ED(摂食障害に特化した認知行動療法)や家族療法など複数の治療アプローチが推奨されています。

脳科学的メカニズム

摂食症では、脳の報酬系・衝動系・自己評価系に変化が生じます。

  • セロトニンの異常気分の安定や満腹感に関与するセロトニンが不足すると、不安・抑うつが強まり、過食の引き金になります
  • ドーパミンの変化過食時にドーパミンが急上昇し、一時的な快楽をもたらしますが、長期的には受容体の鈍化が進みます
  • 前頭前野の機能低下自己制御が難しくなり、衝動的な食行動を抑えにくくなります

拒食症では「食べないこと」自体が報酬として学習される一方、過食症では「食べること」がストレス解消として機能する悪循環が形成されます。

社会的要因

1960年代以降の「スリムな体型が美しい」という価値観が影響しています。SNSやメディアを通じた痩身信仰、ダイエット文化がリスクを高める要因となっています。

発症過程の典型パターン

多くの場合、最初は「ちょっとしたダイエット」から始まります。体重減少の成功体験が「もっと痩せたい」という思考を生み、食事制限が過激になっていきます。過食症では、極端な制限が強い飢餓感を引き起こし、過食のエピソードにつながります。


04摂食症はどう治療するのか

摂食症の治療は「心理+栄養+身体管理」を統合的に行うことが基本です。薬物療法は補助的な役割であり、心理療法と栄養管理が土台となります。

認知行動療法(CBT)

摂食症の治療で最も広く用いられる心理療法です。過食のトリガーとなる思考パターンを特定し、修正します。「痩せなければ価値がない」「食べることは悪い」といった認知の歪みに取り組み、食事への罪悪感を軽減していきます。食行動の自己モニタリング(食事日記など)も重要な技法です(食事の記録は治療者の指導のもとで行い、強迫的な記録行為にならないよう注意します)。

栄養リハビリテーション

食事リズムの回復が治療の核となります。「1日3食+2間食」を基本に、3〜4時間の食事間隔を整えていきます。極端な食事制限をやめ、「禁止食」を減らすことも大切です。過食の原因の多くは過度な制限にあります。

家族療法

特に思春期の拒食症では、家族療法が第一選択とされています。親を治療資源として動員し、食行動の回復を家族で支える枠組みを作ります。

薬物療法(補助的役割)

摂食症に対する薬物療法は単独では効果が限定的です。過食症にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が不安や抑うつ症状の軽減に用いられることがあります。拒食症では薬物単独は推奨されず、不安や強迫的思考の補助としてのみ検討されます。

治療の段階

  1. 身体の安全確保低体重による健康リスク(徐脈・電解質異常・低血糖など)がある場合は、身体管理を最優先します

重要:重度の低体重からの回復には医療管理が必要です
長期間の栄養不足状態から急に栄養を補給すると、リフィーディング症候群(再栄養症候群)と呼ばれる危険な合併症が生じることがあります。電解質異常や心不全を引き起こす可能性があるため、栄養回復は必ず医療機関の管理のもとで段階的に行います。

  1. 食事リズムの回復規則的な食事パターンを取り戻します
  2. 思考の修正体型や体重に対する歪んだ認知を修正します
  3. 感情調整食以外のストレス対処法を身につけます
  4. 自己価値の回復体型以外の自分の価値を見出していきます

05銀座泰明クリニックの治療方針

当院では、摂食症の治療において以下の方針を大切にしています。

精神保健指定医・精神科専門医による診察

精神保健指定医・精神科専門医が診察を担当します。摂食症の背景にある心理的問題(自己評価の歪み・対人関係の問題・トラウマなど)を含めた包括的な評価を行います。

じっくりとお話を伺います

食行動の問題だけでなく、その奥にある「生きづらさ」に寄り添います。

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しており、通学・通勤を続けながら治療に取り組めます。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

治療目標は拒食・過食を止めることだけではなく、背景にある「歪んだ認知」の修正です。あるがままの自分を受け容れられるよう、一緒に取り組んでまいります。

ひとりで抱え込まず、まず話してみませんか

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06ご家族・周囲の方へ

摂食症は、ご家族が最初に異変に気づくことが少なくありません。適切な関わり方が回復を大きく後押しします。

接し方のポイント

  • 食事を監視しない食卓での過度な注目は、本人のプレッシャーになります。「食べなさい」と強制するのは逆効果です
  • 体重や体型を批判しない「太った」「痩せた」という言葉が、回復を妨げることがあります
  • 安心できる環境を提供する食以外の話題で穏やかにコミュニケーションを取りましょう
  • 「意志が弱い」と責めない摂食症は脳の機能や心理的要因が関わる病気であり、本人の努力だけでは解決が難しい場合があります
  • 専門家への相談をすすめるご本人が受診をためらう場合は、まずご家族だけでのご相談も可能です

家族療法は摂食症の治療で効果が実証されており、ご家族の理解とサポートが回復の鍵となります。


07よくあるご質問

摂食症(摂食障害)は治りますか?

神経性やせ症(AN)の完全回復率は約46〜73%、神経性過食症(BN)では約50〜70%と報告されています(研究や定義により幅があります)。回復は一直線ではなく波がありますが、適切な治療と支援を続けることで、多くの方が食にとらわれない生活を取り戻しています。

この程度の症状でも受診していいですか?

「まだ大丈夫」と思っている段階でこそ、ご相談いただくことが大切です。摂食症(摂食障害)は早期に介入するほど回復しやすく、重症化を防ぐことができます。

体重がそこまで低くなくても摂食症(摂食障害)ですか?

はい。摂食症(摂食障害)は体重だけでは判断できません。過食症や過食性障害の方は、標準体重やそれ以上の場合もあります。食行動のパターンや心理的な苦痛の程度が診断のポイントになります。

男性でも摂食症(摂食障害)になりますか?

はい。摂食症(摂食障害)は女性に多い傾向がありますが、男性にも発症します。近年、男性の摂食症(摂食障害)は増加傾向にあり、筋肉増強のための極端な食事管理も問題となっています。

過食をやめたいのですが、どうすればいいですか?

過食の原因の多くは「過度な食事制限」にあります。極端な制限が強い飢餓感を生み、過食につながる悪循環が起こります。まずは規則的な食事リズムを回復させることが重要です。

薬で過食は止まりますか?

薬物療法は摂食症(摂食障害)の治療において補助的な役割を担います。過食症に対してはSSRIが用いられることがありますが、認知行動療法や栄養指導を組み合わせた治療が基本です。

入院は必要ですか?

多くの場合、外来通院で治療を進められます。ただし、著しい低体重や電解質異常、自傷のリスクが高い場合などは、入院治療を検討することがあります。

食事のアドバイスもしてもらえますか?

はい。摂食症(摂食障害)の治療では、食事リズムの回復や食事内容の見直しも重要なテーマとして扱います。極端な制限を緩め、バランスの取れた食事パターンを一緒に考えていきます。

仕事や学校を休む必要がありますか?

必ずしも休む必要はありません。当院では夜間・土日も診療しておりますので、通学・通勤を続けながら治療に取り組めます。ただし、身体的なリスクが高い場合は、一時的に休養をお勧めすることがあります。

家族だけで相談に行っても大丈夫ですか?

はい。ご本人が受診をためらっている場合、ご家族だけでまずご相談いただくことも可能です。ご家族の関わり方を変えることで、ご本人の変化につながることがあります。

摂食症(摂食障害)と他の精神疾患は関係がありますか?

摂食症(摂食障害)は抑うつ症(うつ病)・不安症(不安障害)・強迫症・パーソナリティ症・依存症などと併存しやすいことが知られています。過食症の方には、自傷行為や衝動的な行動が見られることもあり、パーソナリティ症の合併も少なくありません。これらを併せて評価し、治療を行います。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2013)
  • ICD-11 国際疾病分類 第11版(World Health Organization, 2022)
  • Steinhausen HC. The outcome of anorexia nervosa in the 20th century. Am J Psychiatry. 2002;159(8):1284-1293.
  • Arcelus J et al. Mortality rates in patients with anorexia nervosa and other eating disorders. Arch Gen Psychiatry. 2011;68(7):724-731.
  • NICE Eating disorders: recognition and treatment (NG69, 2020 updated)
  • 日本摂食障害学会 摂食障害治療ガイドライン(2012)
  • 下坂幸三『摂食障害治療のこつ』金剛出版(1999)
  • Hilde Bruch『The Golden Cage: The Enigma of Anorexia Nervosa』