01摂食症(摂食障害)とは

頭のなかが、食べもののことでいっぱいになる。体重計の数字で、その日の気分が決まる。食べる量をきびしく制限する時期と、止められないほど食べてしまう時期を、行き来することもあります。

まわりからは「ダイエットのしすぎ」に見えるかもしれません。ご本人も、「これは性格や意志の問題で、受診するようなことではない」と感じていることが少なくありません。

けれども、食べ方が思いどおりにならず、体重や生活に影響が出ているなら、それは相談してよい状態です。摂食症(摂食障害)という、治療の対象になる病気だからです。

摂食症は、極端な食事制限・過食・嘔吐など、食行動の問題を中心とする精神疾患です。体型や体重への過剰なこだわりを伴うのが特徴です。精神科医ヒルデ・ブルッフは、この病気を「自尊心の病理」と呼びました。食べ方の問題の奥に、自分の価値をめぐる苦しさが隠れているからです。

摂食症には、いくつかのタイプがあります。

拒食症(神経性やせ症)は、意図的で持続的な体重減少を特徴とします。極端な食事制限や過度の運動、嘔吐の誘発などの症状がみられます。重症度は、BMI(体格指数)で分類されます。軽度はBMI 17以上、中等度は16以上17未満です。重度は15以上16未満、最重度は15未満とされています。

過食症(神経性過食症)は、発作的に繰り返される過食と、自己嘔吐や下剤の使用などの代償行為を特徴とします。体型や体重への過度な関心があり、拒食症の既往を持つ方も少なくありません。

過食性障害は、短時間に大量の食事をとるエピソードが繰り返されるタイプです。神経性過食症と異なり、嘔吐や下剤の使用などの代償行為を伴いません。

このほか、特定の食感や色の食べ物を極端に避ける回避・制限性食物摂取症も、摂食症に分類されています。栄養不足に至ることがあります。

摂食症の有病率は若年女性で最も高く、10代後半から20代に好発します。しかし、男性や中高年にも発症し、近年は増加傾向にあります。

もうひとつ、先にお伝えしておきたいことがあります。神経性やせ症は、精神疾患のなかで最も死亡率が高いとされています。亡くなるリスクが同年代の一般の方の5〜6倍にのぼるとの報告もあります。

つまり、摂食症の受診は、こころのケアであると同時に、からだを守る手当てでもあります。摂食症は、次のような身体合併症を引き起こすことがあるからです。

  • 低カリウム血症(嘔吐による電解質異常)
  • 歯のエナメル質の侵食(胃酸による)
  • 骨粗鬆症(栄養不足による骨密度低下)
  • 月経異常・無月経
  • 貧血

身体症状がある場合は、内科との連携が重要です。


02こんな症状はありませんか?

相談の目安になるのは、体重の急激な変化と、生活への支障です。食事や体重のことが頭を占めて、仕事や学業、人づきあいに影響が出ているなら、相談する理由として十分です。

あわせて、次の項目に心当たりがないか、確かめてみてください。

食行動の変化

  • 食事量を極端に減らしている、あるいはほとんど食べない
  • 短時間に大量の食べ物を食べてしまう(過食エピソード)
  • 食後に嘔吐したり、下剤を使ったりしている
  • カロリー計算や体重測定に過度にこだわっている
  • 「禁止食」を設けて、特定の食べ物を避けている
  • 食べたあと強い罪悪感や自己嫌悪を感じる

心身の変化

  • 体重が急激に減った、または増えた
  • 生理が止まった、不順になった
  • 「痩せていないと価値がない」と感じる
  • 疲れやすい、めまいがする、冷えやすい
  • 人前での食事を避けるようになった
  • 鏡で自分の体型を繰り返し確認する

すべてあてはまる必要はありません。食べることをめぐる変化は、まわりが気づくより先に、ご本人がいちばんよく知っています。心当たりがいくつかあれば、それだけで相談する理由になります。

このチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。

セルフチェックしてみる

確かめながら、「この程度なら、みんなしている」と思ったかもしれません。その迷いごと、診察室でお話しください。早めに相談することで、からだの状態の確認と治療への一歩につながります。


03摂食症はなぜ起こるのか

それでも、受診にはためらいが残るかもしれません。「病気ではなく、自分の意志が弱いだけではないか」という思いです。食べる・食べないは、自分で決めていることに見えるからです。

けれども、摂食症は意志の強さの問題ではありません。心理的・社会的・生物学的な要因が絡み合い、食行動を自分の意志だけでは変えにくい状態になっています。

心理的要因

摂食症の背景には、自己否定感が深く関わっています。「痩せていないと取り柄がない」という歪んだ認知にとらわれることがあります。ダイエットの成功だけが、自己肯定感のただひとつの源になっていくのです。完璧主義や、他者評価への過度な依存、勝ち負けの世界観も関連しています。

精神分析的な観点からは、幼少期の甘え(依存欲求)の断念と、健全な甘えの再獲得に注目する立場もあります(下坂幸三『摂食障害治療のこつ』2001年)。ただし、これは一つの理論的解釈です。現在では、摂食障害に特化した認知行動療法や家族療法など、複数の治療アプローチが推奨されています。

脳科学的メカニズム

脳の側にも、変化が起きています。摂食症では、報酬系・衝動系・自己評価系の働きに変化が生じます。

  • セロトニンの変化:気分の安定や満腹感に関与するセロトニンの働きの変化が、不安・抑うつや過食に関わっている可能性が指摘されています
  • ドーパミンの変化:過食時にドーパミンが急上昇し、一時的な快楽をもたらしますが、長期的には受容体の鈍化が進みます
  • 前頭前野の機能低下:自己制御が難しくなり、衝動的な食行動を抑えにくくなります

その結果、拒食症では「食べないこと」自体が、報酬として学習されていきます。過食症では、「食べること」がストレス解消として働く悪循環が形成されます。意志の問題に見える行動の背後で、こうした学習が進んでいるのです。

社会的要因

1960年代以降の「スリムな体型が美しい」という価値観も影響しています。SNSやメディアを通じた痩身信仰、ダイエット文化が、リスクを高める要因となっています。

発症過程の典型パターン

多くの場合、始まりは「ちょっとしたダイエット」です。このときは、自分でコントロールしているつもりでいます。ところが、体重減少の成功体験が「もっと痩せたい」という思考を生み、食事制限は少しずつ過激になっていきます。

過食も、この延長で起こります。極端な制限が強い飢餓感を引き起こし、過食のエピソードにつながるのです。がまんが足りずに食べてしまうのではありません。がまんのしすぎが、からだに食べることを求めさせるのです。

あなたのせいではありません。意志を責めるより先に、この絡み合いをほどく手立てがあります。それが治療です。


04摂食症はどう治療するのか

治るのだろうか。長く続いてきた食べ方であるほど、その不安は大きくなります。

神経性やせ症では、経過を追えた方のうち約半数が完全に回復し、約3分の1の方が改善したと報告されています(Steinhausen, 2002)。神経性過食症の完全回復率は、平均約45%と報告されています(Steinhausen & Weber, 2009)。研究や定義により幅はありますが、回復を目指せる病気です。

ただし、風邪のように数日で決着のつく治療ではありません。摂食症の治療は、心理・栄養・身体管理の三つを組み合わせ、段階を踏んで進みます。薬物療法は、補助的な役割にとどまります。

治療と聞くと、食べることを厳しく求められる場面を想像するかもしれません。実際の治療は、からだの安全を確かめるところから始まります。

治療の段階

  1. 身体の安全確保:低体重による健康リスク(徐脈・電解質異常・低血糖など)がある場合は、身体管理を最優先します

重要:重度の低体重からの回復には医療管理が必要です
長期間の栄養不足状態から急に栄養を補給すると、リフィーディング症候群(再栄養症候群)と呼ばれる危険な合併症が生じることがあります。電解質異常や心不全を引き起こす可能性があるため、栄養回復は必ず医療機関の管理のもとで段階的に行います。

  1. 食事リズムの回復:規則的な食事パターンを取り戻します
  2. 思考の修正:体型や体重に対する歪んだ認知を修正します
  3. 感情調整:食以外のストレス対処法を身につけます
  4. 自己価値の回復:体型以外の自分の価値を見出していきます

認知行動療法

摂食症の治療で最も広く用いられる心理療法です。過食のトリガーとなる思考パターンを特定し、修正していきます。「痩せなければ価値がない」「食べることは悪い」。こうした認知の歪みに取り組み、食事への罪悪感を軽減していきます。

食行動の自己モニタリング(食事日記など)も広く使われる技法です。記録は治療者の指導のもとで行い、強迫的な記録行為にならないよう注意します。

栄養リハビリテーション

食事リズムの回復が、治療の中心になります。「1日3食+2間食」を基本に、3〜4時間の食事間隔を整えていきます。

極端な食事制限をやめ、「禁止食」を減らすことも、この治療の一部です。過食の原因の多くは過度な制限にあるため、がまんのしすぎが過食を生む流れを、逆にたどってほどいていきます。

家族療法

特に思春期の拒食症では、家族療法が第一選択とされています。親を治療資源として位置づけ、食行動の回復を家族で支える枠組みを作ります。

薬物療法(補助的役割)

摂食症に対する薬物療法は、単独では効果が限定的です。過食症には、不安や抑うつ症状の軽減を目的に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が用いられることがあります。拒食症では薬物単独は推奨されず、不安や強迫的思考への補助としてのみ検討されます。


05銀座泰明クリニックの治療方針

受診を決めるとき、最後まで残る心配は、診察室で食べ方や体重を責められるのではないか、というものかもしれません。

当院の診察は、責める場ではありません。精神保健指定医・精神科専門医が、食行動の問題だけでなく、その奥にある「生きづらさ」に寄り添います。

精神保健指定医・精神科専門医による診察

摂食症の背景にある心理的問題(自己評価の歪み・対人関係の問題・トラウマなど)を含めて、包括的な評価を行います。診察では、いま困っていることを、そのまま話していただければ十分です。

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しており、通学・通勤を続けながら治療に取り組めます。段階を踏んで続く治療だからこそ、通いやすさを大切にしています。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

治療の目標は、拒食や過食を止めることだけではありません。背景にある「歪んだ認知」を見直し、あるがままの自分を受け容れられるようになることです。ご一緒に取り組んでまいります。

頭のなかが食べもののことでいっぱいの毎日は、それだけで消耗します。「話してみようかな」と思えたときが、相談のタイミングです。

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06ご家族・周囲の方へ

ご家族の目には、異変は早い時期から見えていることが多いものです。食卓の空気が張りつめる。食事のことにふれると、口論になってしまう。どう関わればよいのか、迷い続けている方も多いはずです。

迷ったときは、「食べさせること」よりも「安心できる関係を守ること」を目安にしてください。関わり方が決めやすくなります。

接し方のポイント

  • 食事を監視しない:食卓での過度な注目は、本人のプレッシャーになります。「食べなさい」と強制するのは逆効果です
  • 体重や体型を批判しない:「太った」「痩せた」という言葉が、回復を妨げることがあります
  • 安心できる環境を提供する:食以外の話題で穏やかにコミュニケーションを取りましょう
  • 「意志が弱い」と責めない:摂食症は脳の機能や心理的要因が関わる病気であり、本人の努力だけでは解決が難しい場合があります
  • 専門家への相談をすすめる:ご本人が受診をためらう場合は、まずご家族だけでのご相談も可能です

家族療法の効果が実証されているように、ご家族の理解と関わりは、回復を支える力になります。ご本人がまだ受診を迷っている段階でも、ご家族からのご相談を承っています。


07よくあるご質問

摂食症(摂食障害)は治りますか?

神経性やせ症では約半数の方が完全に回復し、神経性過食症の完全回復率は平均約45%と報告されています(研究や定義により幅があります)。回復は一直線ではなく波がありますが、適切な治療と支援を続けることで、食にとらわれない生活を取り戻していく道があります。

この程度の症状でも受診していいですか?

「まだ大丈夫」と思っている段階でこそ、ご相談いただくことが大切です。摂食症(摂食障害)は早期に介入するほど回復しやすく、重症化を防ぐことができます。

体重がそこまで低くなくても摂食症(摂食障害)ですか?

はい。摂食症(摂食障害)は体重だけでは判断できません。過食症や過食性障害の方は、標準体重やそれ以上の場合もあります。食行動のパターンや心理的な苦痛の程度が診断のポイントになります。

男性でも摂食症(摂食障害)になりますか?

はい。摂食症(摂食障害)は女性に多い傾向がありますが、男性にも発症します。近年、男性の摂食症(摂食障害)は増加傾向にあり、筋肉増強のための極端な食事管理も問題となっています。

過食をやめたいのですが、どうすればいいですか?

過食の原因の多くは「過度な食事制限」にあります。極端な制限が強い飢餓感を生み、過食につながる悪循環が起こります。まずは規則的な食事リズムを回復させることが重要です。

薬で過食は止まりますか?

薬物療法は摂食症(摂食障害)の治療において補助的な役割を担います。過食症に対してはSSRIが用いられることがありますが、認知行動療法や栄養指導を組み合わせた治療が基本です。

入院は必要ですか?

多くの場合、外来通院で治療を進められます。ただし、著しい低体重や電解質異常、自傷のリスクが高い場合などは、入院治療を検討することがあります。

食事のアドバイスもしてもらえますか?

はい。摂食症(摂食障害)の治療では、食事リズムの回復や食事内容の見直しも重要なテーマとして扱います。極端な制限を緩め、バランスの取れた食事パターンを一緒に考えていきます。

仕事や学校を休む必要がありますか?

必ずしも休む必要はありません。当院では夜間・土日も診療しておりますので、通学・通勤を続けながら治療に取り組めます。ただし、身体的なリスクが高い場合は、一時的に休養をお勧めすることがあります。

家族だけで相談に行っても大丈夫ですか?

はい。ご本人が受診をためらっている場合、ご家族だけでまずご相談いただくことも可能です。ご家族の関わり方を変えることで、ご本人の変化につながることがあります。

摂食症(摂食障害)と他の精神疾患は関係がありますか?

摂食症(摂食障害)は抑うつ症(うつ病)・不安症(不安障害)・強迫症・パーソナリティ症・依存症などと併存しやすいことが知られています。過食症の方には、自傷行為や衝動的な行動が見られることもあり、パーソナリティ症の合併も少なくありません。これらを併せて評価し、治療を行います。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
  • ICD-11 国際疾病分類 第11版(World Health Organization, 2022)
  • Steinhausen HC. The outcome of anorexia nervosa in the 20th century. Am J Psychiatry. 2002;159(8):1284-1293.
  • Steinhausen HC, Weber S. The outcome of bulimia nervosa: findings from one-quarter century of research. Am J Psychiatry. 2009;166(12):1331-1341.
  • Arcelus J et al. Mortality rates in patients with anorexia nervosa and other eating disorders. Arch Gen Psychiatry. 2011;68(7):724-731.
  • NICE Eating disorders: recognition and treatment (NG69, 2020 updated)
  • 日本摂食障害学会 摂食障害治療ガイドライン(2012)
  • 下坂幸三『摂食障害治療のこつ』金剛出版(2001)
  • Hilde Bruch『The Golden Cage: The Enigma of Anorexia Nervosa』