01自律神経失調症とは

動悸がして、めまいがして、からだが重い。内科で検査を受けても、返ってくるのは「異常はありません」という言葉。それでも、つらさは消えません。どこも悪くないはずなのに、なぜこんなにつらいのか。

この問いを抱えて相談に来られる方は、少なくありません。数日で治まる不調なら、様子を見てよいこともあります。問題は、検査で異常が出ないのに症状だけが続く、その状態をどう捉えるかです。

自律神経失調症は、その状態を指す言葉です。自律神経は、自分の意思とは関係なく働き、体温調節や心臓の動き、消化や発汗を自動で調整しています。

活動するときに働く交感神経と、休むときに働く副交感神経。この二つのバランスが崩れると、からだのあちこちに不調が出ます。

バランスが崩れる背景には、不規則な生活、慢性的なストレス、更年期の変化などがあります。内科の検査で異常が出ないことが多く、「気のせい」と思って相談が遅れることも少なくありません。

世界の診断基準での位置づけ

調べるうちに、こう知った方もいるかもしれません。「自律神経失調症は、正式な病名ではない」。

世界の医師は、共通のルールとしてWHOの国際疾病分類と、アメリカ精神医学会の診断基準を使います。そのどちらにも、この名前の項目はありません。日本の保険診療では書類に書かれることがありますが、国際的には病名として扱われていない言葉です。

それでも「気のせい」ではない

正式な病名でないと聞くと、突き放された気持ちになるかもしれません。けれど、それは「気のせい」や「思い込み」という意味ではありません。動悸も、めまいも、眠れなさも、感じているつらさは確かなものです。

国際的な基準がこの言葉を使わないのは、指す範囲が広すぎるからです。同じ「自律神経失調症」でも、抑うつ症に近い状態、不安症に近い状態、身体症状が中心の状態などが混じります。背景が違えば、合う治療も変わります。

今の国際分類では、症状が同じでも、背景にある病態ごとに診断名を分けています。これは症状を軽く見るための区分けではなく、その方に合った治療を届けるための整理です。当院ではまず背景に別の疾患がないかを確かめ、症状に合ったアプローチをご提案します。


02こんな症状はありませんか?

いつ相談すればよいのでしょうか。数日で治まらず、いくつかの症状が重なって続き、生活に支障が出ているなら、相談する理由になります。

次のような症状が続いていないか、確かめてみてください。

身体症状

  • 疲労感・倦怠感が続いている
  • 頭痛やめまいが繰り返し起こる
  • 動悸や息苦しさを感じる
  • のぼせやほてり、逆に手足の冷えがある
  • 立ちくらみが起こりやすい
  • 下痢や便秘など、お腹の調子が不安定
  • 吐き気がある
  • 肩こりや首のこりがひどい
  • 汗が異常に出る、またはまったく出ない

精神症状

  • なかなか寝つけない、途中で目が覚める
  • 不安や焦りを感じやすい
  • 気分が落ち込みやすい
  • イライラしやすくなった
  • 集中力が続かない

すべて当てはまる必要はありません。からだの不調がいくつも続き、検査でも原因がはっきりしないなら、それだけで相談してよい状態です。

このチェックリストは診断ではありません。まず内科でからだの病気がないかを確かめ、そのうえで心療内科・精神科にご相談ください。

セルフチェックしてみる

内科と心療内科のどちらへ行けばいいか、迷う方は多くいます。順番はこう考えると迷いにくくなります。まず内科で異常がないかを確かめ、それでも症状が続くなら心療内科へ相談する、という順です。


03自律神経失調症はなぜ起こるのか

相談をためらう理由に、「自分の心が弱いから、こんな不調が出るのではないか」という思いがあります。検査で異常がないと言われるたび、その思いは強くなります。

けれど、自律神経の乱れは弱さの問題ではありません。いくつかの要因が重なって、脳の調整役がうまく働かなくなっている状態です。

ストレスによる影響

仕事や人間関係、環境の変化といった外からのストレス。不安や悩みといった内側のストレス。これらは脳の視床下部に影響します。視床下部は自律神経の司令塔で、ストレスが加わると交感神経と副交感神経のバランスが乱れます。

視床下部は、自律神経系、内分泌系(ホルモン)、免疫系の三つの経路で、からだの状態を一定に保とうとします。この調整が限界を超えると、さまざまな不調が現れます。

生活習慣の乱れ

不規則な睡眠、食事の偏り、運動不足、長時間のデスクワーク。こうした習慣は自律神経のバランスを崩す大きな要因です。夜型の生活や、休日と平日で睡眠時間が大きくずれることも影響します。

ホルモンの変化

更年期には女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が大きく変わり、自律神経のバランスが乱れやすくなります。思春期や産後にも、同じような変化が起こることがあります。

心身症とのつながり

自律神経失調症は、心身症とも深く関わります。心身症とは、心理的なストレスがからだの症状として現れる状態のことです。ストレスに気づかないまま過ごすと、症状が悪化しやすいとされています。本態性高血圧、過敏性腸症候群、緊張型頭痛なども、関連する状態として知られています。

自律神経失調症は、からだだけの病気でも、気持ちだけの問題でもありません。心とからだのつながりの中で起こる不調です。だからこそ、あなたの努力不足のせいではありません。

診断にあたっては、まず別の病気がないかを確かめます。甲状腺機能障害などの内科の病気や、うつ病・不安症・パニック症が隠れていないかを見ていきます。当院では必要に応じて、他の科へのご紹介も行っています。


04自律神経失調症はどう治療するのか

「これは治るのでしょうか」。診察室で、多くの方が最初に尋ねます。時間はかかりますが、生活の立て直しを軸に、多くの方で症状の改善が期待できます。

薬でひと息に治すイメージを持って来られる方もいます。けれど、自律神経失調症の治療は、生活習慣の見直しが中心になります。薬は、つらい症状を和らげて、その見直しを進めやすくする役割です。

生活習慣の見直し(治療の中心)

自律神経のバランスを整えるうえで、まず見直したいのが日々の生活リズムです。

  • 睡眠:毎日同じ時間に起き、就寝時間を一定に保ちましょう。
  • 食事:バランスのよい食事を3食とることが大切です。
  • 運動:ウォーキングやストレッチなど、適度な有酸素運動が副交感神経の働きを高めます。
  • 入浴:ぬるめのお風呂にゆっくり浸かることで、リラックス効果が得られます。

ストレスとのつきあい方

自分なりのストレスの和らげ方を見つけることも大切です。呼吸法やマインドフルネス、趣味の時間などが役立ちます。ストレスの原因に気づき、うまく付き合う方法を主治医と一緒に考えていきます。

薬物療法

症状に応じて、次のような薬を使うことがあります。

  • 抗不安薬:不安や緊張を和らげます。
  • 抗うつ薬:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)等、気分の落ち込みや不安が強い場合に使用します。自律神経のバランス調整にも寄与します。
  • 自律神経調整薬:自律神経のバランスを整えることを目的とした薬(トフィソパムなど)です。
  • 漢方薬:体質に合わせた漢方薬が効果を発揮する場合もあります。

更年期に伴う症状の場合は、婦人科と連携してホルモン補充療法を検討することもあります。

すぐに効かないからと、自己判断でやめてしまう方がいます。薬の続け方や調整は、主治医と相談しながら進めてください。

治療の見通し

生活習慣の改善とストレスとの付き合い方を軸に、多くの方で症状の改善が期待できます。からだの不調が長く続いていても、あきらめる必要はありません。原因に合ったやり方を続けることで、少しずつ楽になっていく方が多くいらっしゃいます。


05銀座泰明クリニックの治療方針

受診を決めても、診察室で何を話せばいいのかがわからないと、足は重くなります。当院の初診でお願いしているのは、難しいことではありません。いま困っている症状を、そのまま話していただくことです。

からだの症状だけでなく、生活の背景やストレス、日々の過ごし方まで丁寧にうかがいます。精神保健指定医・精神科専門医が、症状の奥にある原因を一緒に探っていきます。

心とからだの両面から診ます

自律神経失調症は、心とからだの両面に関わる状態です。身体症状への対処だけでなく、ストレスの原因やその和らげ方も一緒に考えます。原因に合ったアプローチで、改善を目指します。

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しているため、お仕事を続けながら通院いただけます。銀座駅から徒歩圏内です。治療は数か月単位で続くことがあるからこそ、通いやすさを大切にしています。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

内科で「異常なし」と言われた症状が、それでも続いている。そう気づいた日が、相談のタイミングです。「気のせい」で片づけず、お気軽にお問い合わせください。

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06ご家族・周囲の方へ

ご家族の側にも、迷いが続いているはずです。検査では異常がないと言われた。それでも本人はつらそうにしている。励ましていいのか、休ませていいのか、判断に迷うのは自然なことです。

自律神経失調症は、検査で異常が見つからないことが多く、「気のせいでは」と思われがちです。けれど、ご本人には確かにつらい症状で、周囲の理解が回復を大きく後押しします。

接し方のポイント

  • 「気のせい」「怠けている」と言わないでください。症状はご本人の意思でコントロールできるものではありません。つらさを受け止める姿勢が大切です。
  • 無理をさせず、休息を認めましょう。「頑張れ」という励ましが逆にプレッシャーになることがあります。
  • 生活リズムの改善に協力しましょう。食事の時間を合わせる、一緒に散歩するなど、日常のサポートが効果的です。
  • 受診を勧める際は、からだの不調への対処として提案しましょう。「心療内科」という言葉に抵抗がある場合は、「からだの不調を総合的に診てもらえるところ」と伝えるとよいかもしれません。

07よくあるご質問

自律神経失調症は病名ですか?

厳密には独立した診断名というよりも、自律神経のバランスが乱れて生じる症候群(さまざまな症状のまとまり)です。背景に抑うつ症(うつ病)や不安症(不安障害)が隠れている場合もあるため、専門医による診察が重要です。

内科で異常がないと言われました。心療内科を受診すべきですか?

内科的な検査で異常が見つからない場合、自律神経の乱れやストレスが原因である可能性があります。心療内科では、心とからだの両面から症状の原因を探り、適切な治療を行います。

自律神経失調症は改善しますか?

生活習慣の見直しとストレス管理を中心に、多くの方で症状の改善が期待できます。改善までの期間は個人差がありますが、根気よく取り組むことが大切です。

どのくらいで良くなりますか?

症状や原因によって異なりますが、生活習慣の改善に取り組んでいただくと、数週間から数か月で変化を感じられる方が多くいらっしゃいます。長期間にわたる不調の場合は、改善に時間がかかることもあります。

薬は必ず飲む必要がありますか?

軽症の場合は、生活習慣の改善だけで症状が和らぐこともあります。症状が強い場合やストレスが大きい場合には、薬を併用することで回復を助けることができます。主治医と相談しながら方針を決めていきます。

漢方薬は使えますか?

自律神経失調症では、体質に合った漢方薬が効果を発揮する場合があります。西洋薬との併用も可能です。詳しくは診察時にご相談ください。

更年期との違いは何ですか?

更年期障害はホルモンバランスの変化が主な原因で、自律神経の乱れも伴います。症状が重なることが多いため、心療内科と婦人科の両面からアプローチすることが効果的な場合があります。

仕事のストレスが原因だと思いますが、仕事を辞めなければいけませんか?

仕事を辞めることが唯一の解決策ではありません。ストレスの原因を整理し、対処法を身につけることで、仕事を続けながら症状を改善できるケースも多くあります。必要に応じて休職や環境調整についてもご相談いただけます。

運動は効果がありますか?

適度な有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、ヨガなど)は、副交感神経の働きを高め、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。無理のない範囲で、日常的に体を動かす習慣をつけることをお勧めします。

甲状腺の病気との違いはどうやってわかりますか?

自律神経失調症と似た症状を引き起こす身体疾患として、甲状腺機能障害(甲状腺機能亢進症・低下症)があります。動悸・発汗・疲労感などの症状が共通するため、見分けることが重要です。当院では必要に応じて内科への紹介も行っています。

この程度の症状でも受診してよいですか?

「大したことではない」と感じる症状でも、長く続いている場合はお気軽にご相談ください。早めの対処がより早い改善につながります。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • 日本心身医学会『心身症の定義・診療指針(1991年策定、2006年改訂)』
  • 日本自律神経学会
  • 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
  • DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
  • ICD-11 国際疾病分類 第11版(WHO, 2022)