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精神医学

月経前不快気分障害(PMDD)について

毎月、月経が近づくと気分が急に重くなる。「自分が自分でなくなってしまう」ような感覚に、繰り返し悩まされてはいないでしょうか。しかも月経が始まれば、その波はうそのように引いていく。周期に沿って同じつらさが戻り、生活が立ちゆかなくなるほどであれば、月経前不快気分障害の可能性も考えられます。月経の前の一時期に、強い気分の落ち込みや怒り、不安があらわれる状態です。仕事や家庭生活への影響は、決して小さくありません。

多くの方が経験する月経前症候群と、つい同じものとして語られがちです。けれど月経前不快気分障害はより重く、精神疾患として医学的に定義されています。診断と治療を受けることで、症状が和らぐことが期待できます。「気持ちの持ちよう」ではなく、治療の対象となる医学的な不調として理解すること。それが回復の第一歩になります。

  • 月経前の一週間だけ、強い抑うつ気分や不安が出る
  • 些細なことで激しくいらだち、家族や職場でぶつかってしまう
  • 感情の波が大きく、急に涙が出たり落ち込んだりする
  • 月経が始まると、これらの症状がうそのように軽くなる
  • 毎月同じパターンが繰り返され、予定が立てにくい

月経前不快気分障害 (PMDD) とは

月経の前、黄体期と呼ばれる時期に、重い精神症状があらわれる。それが月経前不快気分障害 (PMDD) です。月経が始まると症状は速やかに軽くなり、月経後は落ち着いていきます。症状が月経周期のどこで出るかは、診断を進めるうえでの手がかりのひとつです。米国精神医学会の診断マニュアルでも、独立した精神疾患として位置づけられています。

月経のある方のうち、この状態と診断されるのは1〜6%程度とされています。症状日記で確かめたうえで診断された場合は、およそ3%という報告もあります。割合としては、多くはありません。ただ症状の重さは、日常生活を送るのが難しくなるほどになることがあります。

月経前不快気分障害は、「わがまま」でも「気合の不足」でもありません。脳がホルモンの変動に敏感に反応することで起きる、医学的な疾患です。

月経前症候群 (PMS) との違い

月経のある方の7〜8割が、月経前に何らかの不調を感じるといわれます。そのうち月経前症候群 (PMS) と診断されるのは、2〜3割程度とされています。むくみ、頭痛、いらだちなどが中心で、多くは日常生活を大きく乱すまでには至りません。

ここまで読んで、自分のつらさはどちらなのかと気になるかもしれません。月経前不快気分障害 (PMDD) では、気分の症状が中心で、しかも重度にあらわれます。仕事を休まざるを得ない。家族と深刻にぶつかる。自分を傷つけたくなる。そうした水準で生活に影響します。両者は連続した状態として整理されています。そのなかで、精神面の症状が重く、生活への影響が大きいものが月経前不快気分障害にあたります。

項目月経前症候群 (PMS)月経前不快気分障害 (PMDD)
主な症状身体症状が中心精神症状が中心かつ重度
生活への影響軽度から中等度重度(仕事や人間関係に影響)
医学的位置づけ婦人科的な症候群精神疾患として定義
割合不調の自覚は7〜8割、診断は2〜3割月経のある方の1〜6%程度

どのような症状がみられるのか

症状は、こころと体の両方にあらわれます。以下は、代表的なものです。

精神面の症状

  • 強い抑うつ気分、絶望感、自己否定的な考え
  • 不安や緊張、追い詰められる感覚
  • 感情の不安定さ、急に涙が出る、過敏になる
  • 持続的ないらだちや怒り、対人衝突の増加
  • ものごとへの興味や喜びの喪失
  • 集中力の低下、判断力の鈍り
  • 重症の場合は、消えてしまいたいという気持ち

身体と行動面の症状

  • 過眠または不眠
  • 食欲の変化、甘いものや炭水化物への強い欲求
  • 強い疲労感やだるさ
  • 乳房の張りや痛み、関節痛、筋肉痛
  • お腹の張り、体重が増えたように感じる
  • 頭痛

なぜ月経前不快気分障害が起きるのか

なぜ、月経の前だけ症状が起きるのか。正確な原因は、まだ完全には解明されていません。今のところ有力とされているのは、女性ホルモンの変動に対する脳の感受性が高いという考え方です。ホルモンの量そのものが多すぎたり少なすぎたりするわけではありません。月経周期のなかでの変化に脳が敏感に反応し、症状があらわれると考えられています。

関与が指摘されている要因を、いくつか挙げます。

  • セロトニン系の機能低下: 黄体期にセロトニンの働きが落ちやすく、気分の不調と関連する可能性があります。
  • 脳内の抑制系への影響: プロゲステロン(黄体ホルモン)の代謝物が脳内の抑制性の仕組みに作用する際、反応に個人差が生じるとされています。
  • 遺伝的な要因: 家族内で症状が集積する傾向があり、体質的な素因が関わると考えられています。
  • ストレスや睡眠不足: 慢性的なストレス、過去のつらい経験、睡眠の乱れは、症状を強める要因となります。

診断はどのように行われるのか

診断で欠かせないのは、症状が「いつ」「どのくらい」出ているかを押さえることです。医師は問診と、患者さんご自身の記録をもとに評価を進めます。

その記録の中心になるのが、少なくとも2つの月経周期にわたって症状日記をつけることです。日記があると、症状が本当に月経前の時期に限って出ているかを確かめられます。

診断の主な条件は次のとおりです。

  1. 月経開始前の一週間に、症状が繰り返しあらわれる。
  2. 月経が始まって数日以内に症状が軽くなり、月経後は最小限になる。
  3. 感情の不安定さ、強いいらだちや怒り、抑うつ気分、不安のいずれかを含み、全体で5つ以上の症状がある。
  4. 仕事、学業、人間関係、社会活動に明確な影響が出ている。
  5. 他の精神疾患の月経前の悪化だけでは説明しきれない。

なお、月経前の時期に抑うつ症(うつ病)や不安症の症状が強まる状態は「月経前増悪」と呼ばれます。月経前不快気分障害とは、見分けたい別の状態です。症状日記はこの区別にも役立ちます。

関連する疾患

月経前不快気分障害は、他のこころの不調と重なったり、見分けが必要になったりすることがあります。以下の疾患名はそれぞれ、より詳しい解説ページに進めます。

  • 抑うつ症(うつ病): 月経前の悪化と見分けるために、症状日記での確認が重要です。
  • 双極症(躁うつ病): 気分の波が月経周期と重なると、区別が難しくなります。
  • 不安症: 不安の症状が月経前に強まる場合、両方を合わせた評価が必要です。
  • 適応反応症: 強いストレスのもとで、月経前症状がさらに悪化することがあります。

治療の基本

月経前不快気分障害は、治療によって症状の改善が期待できる疾患です。婦人科的なアプローチと精神科的なアプローチを、患者さんの状態に合わせて組み合わせます。

1. 安全の確保と評価

消えてしまいたい、自分を傷つけたいといった気持ちがあるときは、まず安全を確保することを最優先します。症状が重い時期には、大きな決断や重要な話し合いを避けます。信頼できる人に支えてもらう工夫も役立ちます。通院の間隔も、状態に合わせて調整します。

2. 心理療法

認知行動療法は、症状への対処法や思考の癖を整える心理療法です。月経前不快気分障害にも有効とされています。黄体期の過ごし方を一緒に考えていくこともあります。マインドフルネスやリラクセーションも、ストレス反応を和らげる補助として役立ちます。

3. 薬物療法

中心となるのは、強いいらだちや気分の落ち込み、不安です。これらに対して、欧米では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬とされています。抑うつ症(うつ病)の治療と違い、効果が比較的すみやかにあらわれます。そのため毎日服用する方法のほか、症状が出やすい黄体期だけ服用する方法も用いられます。ただし日本では、月経前不快気分障害という病名に保険適用が認められていません。実際に使うかどうかは、医師が一人ひとりの状態をみて判断します。

もう一つの有力な選択肢が、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)です。LEPは、いわゆる「ピル」と呼ばれる薬と同じグループに属します。排卵を一時的にお休みさせることで、ホルモンの波をなだらかにします。気持ちの面の症状にも、体の症状にも効果が期待できます。SSRIと一緒に使うこともあります。日本では、LEPは月経困難症に対して保険適応を持っています。月経痛や、月経に伴う腹痛や頭痛、腰痛などを併せ持つ方には、保険診療のなかで処方できます。

SSRIは、飲みはじめや量を変えたときに、吐き気や眠気、落ち着かなさが出ることがあります。多くは飲み続けるうちに和らいでいきます。24歳以下の若い方では、不安や焦りが強まる場合が知られています。気になる変化があれば、早めに主治医にお伝えください。自己判断で急にやめず、減らすときは医師と相談しながら進めます。

薬の選び方や使い方は、年齢、妊娠の希望、持病、副作用の出方などによって変わります。主治医と相談しながら、自分に合う方法を見つけていくことが大切です。

生活習慣の調整も、治療の一部です。規則正しい睡眠、適度な有酸素運動が役立つとされています。カフェインやアルコール、塩分の摂りすぎを控えることがすすめられる場合もあります。

家族や周囲の方へ

月経前不快気分障害は、毎月決まった時期に症状が強まります。そのため周囲からは「感情的」「気分屋」と誤解されやすい疾患です。ご家族やパートナーが疾患について知ること。それが本人の孤立を防ぐ最も大きな支えになります。

症状が出ている時期に責めたり、論破しようとしたりすると、関係はかえってこじれやすくなります。症状の波があることを前提に、落ち着いた時期に話し合いのルールを決めておく。重要な決断は月経後に回す。周期に沿った関わり方が役立ちます。本人が相談してみようと思えたときに、一緒に動けるよう準備しておけると安心です。

早めに相談したいサイン

以下のような状態が続いている場合は、婦人科または精神科・心療内科への相談をおすすめします。

  • 月経前のつらさが毎月繰り返され、仕事や家事に支障が出ている
  • 家族やパートナーとの衝突が、月経周期に沿って繰り返されている
  • 月経前になると、自分を傷つけたい、消えてしまいたいという気持ちが出る
  • 市販薬や自己流の対処では、症状が和らがない
  • 症状に振り回されて、毎月の生活が予測できず不安が強い

とくに、自分を傷つけたい、消えてしまいたいという気持ちが強いときは、ひとりで抱え込まずにご相談ください。夜間や緊急時には、以下の窓口も利用できます。

  • いのちの電話: 0570-783-556(毎日10時〜22時)/フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)
  • よりそいホットライン: 0120-279-338

よくある質問

月経前不快気分障害は治りますか?

適切な治療によって、症状は大きく和らぐことが期待できます。SSRIや心理療法、生活習慣の調整を組み合わせると、日常生活への影響を最小限にできる方も少なくありません。効果があらわれるまで、数ヶ月かかることもあります。焦らず続けることが大切です。

市販のサプリメントだけで対処できますか?

一部の栄養素が症状の軽減に役立つ可能性は示されています。ただ、重い症状をサプリメントだけで改善するのは難しいとされています。症状が日常生活に影響している場合は、自己判断に頼らず、医療機関にご相談ください。

ピルを飲めばよくなりますか?

ピルが合う方もいますが、すべての方に有効とは限りません。種類によって効果や副作用の出方が異なります。体質や持病によっても、向き不向きがあります。医師と相談しながら、自分に合うかを確認していくのが安全です。

パートナーにどう説明すればよいですか?

「わがまま」や「性格の問題」ではありません。ホルモンの変動に対する脳の反応性に関わる疾患であること。それを伝えるのがよいでしょう。症状日記を一緒に見ると、周期との関連が目に見える形になります。理解も進みやすくなります。可能であれば、医師の説明を一緒に聞く機会を設けるのも有効です。

まとめ

月経前不快気分障害は、女性ホルモンの変動に対する脳の感受性が関わる、医学的に定義された疾患です。毎月繰り返される重い症状は、本人の性格や努力不足によるものではありません。

月経の前に訪れる、「自分が自分でなくなってしまう」ような感覚。それも、症状日記でパターンを把握し、医療機関で適切な評価を受けることから変えていけます。SSRIや心理療法、生活習慣の調整、そして家族の理解。これらを組み合わせることで、毎月のつらさを大きく軽くしていける可能性があります。ひとりで抱え込まず、当院までお気軽にご相談ください。

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