01抑うつ症(うつ病)とは
朝、目は覚めているのに、からだが起き上がらない。好きだったはずのことに、手が伸びない。そんな日が続くと、「疲れているだけだ」と思いたくなります。
実際、数日で戻る気分の落ち込みは誰にでもあります。問題は、どこまでが「よくある落ち込み」で、どこからが病気なのか、という線引きです。
抑うつ症(うつ病)は、2週間以上続く抑うつ気分や意欲の低下を中心とする精神疾患です。気分が沈むというこころの不調だけでなく、不眠や食欲不振といったからだの不調を伴うのが特徴です。
めずらしい病気ではありません。厚生労働省の患者調査(2020年)によると、気分障害で治療を受けている方は約172万人にのぼります。WHOは、世界の成人の約5%がうつ病を抱えていると推計しています。日本では、生涯のうち約6%の方が経験するという調査もあります(世界精神保健日本調査)。
そして、治療の方法がある病気です。薬物療法・心理療法・休養を組み合わせることで、多くの方で改善が期待できます。
02こんな症状はありませんか?
では、どこからが受診の目安なのでしょうか。線は、はっきりしています。2週間です。次の症状のいくつかが2週間以上ほぼ毎日続き、仕事や生活に支障が出ているなら、抑うつ症(うつ病)の可能性があります。
こころの症状
- ほぼ毎日、一日中気分が沈んでいる
- 以前は楽しめたことに興味がわかない
- 自分には価値がないと感じる
- 集中力が落ち、決断ができない
- 「消えてしまいたい」と思うことがある
からだの症状
- 夜なかなか眠れない、または眠りすぎる
- 食欲がない、または食べすぎてしまう
- 疲れやすく、からだが重い
- 動作や話し方がゆっくりになった
- 頭痛や肩こりなどの身体の不調が続いている(抑うつ症に伴う身体症状として見られることがあります)
すべてあてはまる必要はありません。「気分が沈む」か「楽しめない」のどちらかがあり、ほかの症状が重なっているなら、相談する理由として十分です。
より詳しく確かめたい方には、うつ病スクリーニング質問票(PHQ-9)が広く用いられています。9つの質問に答える簡易なテストで、医療機関でも活用されています。
このチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」というつらい気持ちがあるときは、ひとりで抱えこまず、下記の窓口にもご相談ください。
いのちの電話:0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌8時)
よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
あてはまる項目を数えるうちに、気持ちが重くなってきたかもしれません。それ自体、ひとりで抱えこまなくてよいサインです。早めに精神科・心療内科に相談することで、適切な治療につなげることができます。
03抑うつ症(うつ病)はなぜ起こるのか
受診をためらう理由のひとつに、「病気ではなく、自分が弱いだけではないか」という思いがあります。まじめな方ほど、そう考えて自分を責めます。
けれども、抑うつ症は「気の持ちよう」や「怠け」ではありません。生物学的要因・心理的要因・社会的要因が重なり合って、脳の機能に変化が生じている状態です。
脳と神経伝達物質の変化
脳の中では、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質が、気分や意欲を支えています。抑うつ症では、この働きの不均衡が関わっていると考えられています。
- セロトニン:気分の安定や睡眠に関わります。夜眠れない、不安が強い、といった症状の背景にあると考えられています。
- ノルアドレナリン:意欲や集中力に関わります。からだが重く、決断ができないという変化に関係するとされています。
- ドーパミン:喜びや達成感に関わります。以前は楽しめたことが楽しめないのは、この働きの低下と関係するとされています。
また、ストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌により、海馬(記憶に関わる脳の領域)の体積が一時的に小さくなることがあると報告されています。これも、治療によって回復が見込まれるとされています。
心理的・社会的な要因
きっかけがはっきりしている場合もあれば、思い当たる原因がないまま発症する場合もあります。
- 過重労働や職場の人間関係
- 大切な人との別れや喪失体験
- 経済的な困難や孤立
- 否定的な考え方のくせ(認知のゆがみ)
あなたのせいではありません。原因の多くは、ご本人の努力だけではどうにもならない場所にあります。だからこそ、治療という外からの助けに意味があります。
04抑うつ症(うつ病)はどう治療するのか
診察室で、多くの方が最初に尋ねられます。「治るのでしょうか」。時間はかかりますが、多くの方で改善が期待できます。ただし、風邪薬のようにその日のうちに効く治療ではありません。
抑うつ症の治療は、十分な休養をとりながら、薬物療法と精神療法を組み合わせて進めます。時間の単位は、日ではなく週や月です。軽症の場合は休養だけで改善することもありますが、中等症以上では適切な薬の服用が望まれます。
薬物療法
抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整える薬です。飲みはじめてすぐに楽になるわけではなく、効果が現れるまで一般に2〜4週間かかります。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):セロトニンの働きを高め、不安や抑うつを軽減します。
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):意欲低下やエネルギーの低下にも有効です。
- ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA):不眠や食欲低下を伴うケースに適します。
この「効きはじめるまでの数週間」が、治療のなかでつらい時期になりがちです。よくならないと感じて、自己判断で薬をやめたくなることがあります。しかし、急な中断は再発のリスクを高めます。量の調整も中止も、必ず医師と相談しながら進めてください。
精神療法(心理療法)
薬が脳のバランスを整えるあいだに、こころの側から支えるのが精神療法です。否定的な考え方のくせを見直す認知行動療法や、対人関係の改善を目指す対人関係療法などがあります。ものごとの捉え方を柔軟にすることで、再発の予防にも役立ちます。
休養と生活の立て直し
休養は、治療の出発点です。ただし、なにもせず横になり続けることとは少し違います。回復を助けるのは、リズムのある休み方です。
- 毎日同じ時刻に起床する
- 朝の光を浴びて体内時計を整える
- 無理のない範囲で少しずつ活動量を増やす
- ウォーキングなどの軽い有酸素運動を取り入れる
治療の流れと期間
治療を開始してから2〜3か月で、症状の改善を実感される方が多くいます。ただ、よくなったと感じてからも、もうひと区切りあります。再発予防のために、6か月〜1年以上の継続治療が推奨されています(日本うつ病学会ガイドライン)。焦らず、主治医と相談しながら進めましょう。
05銀座泰明クリニックの治療方針
受診を決めても、診察室で何を話せばいいのかがわからないと、足は重くなります。当院の初診でお願いしているのは、難しいことではありません。いま困っていることを、そのまま話していただくことです。
「診察の9割は、患者さんにお話しいただく時間です」。精神保健指定医・精神科専門医が、症状だけでなく生活の背景までうかがいます。そのうえで、お一人おひとりに合わせたオーダーメイドの治療計画をご提案します。
通いやすい診療体制
夜間・土日も診療しており、お仕事帰りや休日にも通院いただけます。治療は数か月単位で続くものだからこそ、通いやすさを大切にしています。
保険診療で受診できます
初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。
※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。
また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。
朝起き上がれない日が、もう2週間続いている。そう気づいた日が、相談のタイミングです。「話してみようかな」と思ったときに、お気軽にお問い合わせください。
06ご家族・周囲の方へ
ご家族の立場では、別の迷いが続いているはずです。励ましたい。でも、その言葉が逆効果になるかもしれない。そのあいだで戸惑うのは、自然なことです。
迷ったときは、「治そうとする」よりも「安心して休める環境を守る」を目安にすると、接し方が決めやすくなります。
接し方のポイント
- 温かく見守る:過度に励ましたり、行動を促したりせず、そばにいることが支えになります。
- 「頑張れ」は控える:ご本人はすでに十分頑張っています。見守る姿勢が大切です。
- 生活リズムへの配慮:規則正しい食事や睡眠が取れるよう、環境を整えてあげてください。
- 重大な決断は先送りに:退職や離婚など、大きな決断は回復してから行うようお伝えください。
- ご家族自身のケアも忘れずに:支える側も疲れます。ご自身の時間を大切にしてください。
抑うつ症(うつ病)は脳と心の不調であり、ご本人の努力だけで治せるものではありません。安心して治療に専念できる環境が、回復への近道になります。ご家族からのご相談も承っています。
07よくあるご質問
はい、もちろんです。「この程度で」と感じる段階での受診が、早期回復につながります。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。
適切な治療と十分な休養により、多くの方で症状の改善が期待できます。治療を開始してから2〜3か月で症状の改善を実感される方が多くありますが、再発予防のために6か月〜1年以上の継続治療が推奨されています(日本うつ病学会ガイドライン)。
症状が改善した後も、再発予防のために一定期間(一般的に6か月〜1年程度)服薬を続けることが推奨されます。自己判断での中断は避けてください。
現在使われている抗うつ薬は、従来のものに比べて副作用が軽減されています。吐き気や眠気などが出ることがありますが、多くは服用初期に限られます。副作用が気になる場合は、遠慮なく医師にお伝えください。
抗うつ薬は、睡眠薬や抗不安薬とは異なり、いわゆる薬物依存は生じません。ただし、急に中断すると一時的に体調の変化(離脱症状)が出ることがあります。減薬は医師と相談しながら段階的に行います。
軽症の場合は心理療法だけで改善が見込めることもあります。中等症以上では、薬物療法との併用が効果的です。
症状の程度によります。軽症であれば仕事を続けながら通院できますが、十分な睡眠や食事が取れない状態であれば、一定期間の休養が回復への近道です。必要に応じて診断書の発行も行います。
規則正しい生活リズムを保つことが大切です。起床時刻を一定にし、朝の光を浴び、昼寝は30分以内に。無理に何かをする必要はなく、からだと脳を休ませることが治療の中心になります。
適応反応症(適応障害)は特定のストレス要因への反応として症状が現れ、原因から離れると改善する傾向があります。抑うつ症(うつ病)は原因が明確でない場合もあり、より持続的な症状を示します。正確な診断には専門医の判断が必要です。
双極症(躁うつ病)は、うつ状態に加えて気分が異常に高揚する躁状態(または軽躁状態)を伴います。治療薬が異なるため、正確な診断が重要です。「調子のよい時期」がある場合は、医師にお伝えください。
ご本人が受診を躊躇されている場合、まずはご家族だけでご相談いただくことも可能です。無理に受診を勧めるのではなく、「一緒に話を聞きに行こう」と声をかけてみてください。
08関連する疾患
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09参考文献
- DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
- 日本うつ病学会 うつ病診療ガイドライン2025
- 厚生労働省 患者調査(2020年)
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
- NICE Depression in adults: treatment and management (NG222, 2022)
- NIMH Major Depression(National Institute of Mental Health)
- WHO Depressive disorder (depression) Fact Sheet(World Health Organization, 2023)
- Ishikawa H, et al. Epidemiol Psychiatr Sci. 2016.(世界精神保健日本調査)


