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精神医学

抗うつ薬中止症候群と減薬について

調子が良くなってきたので、抗うつ薬を減らしてみた。すると数日後、めまいやふらつきが現れた。頭の中で電気が走るような感覚もあった。「うつがぶり返したのだろうか」「薬に依存していたのか」と不安になる方は少なくありません。けれど、この不調は再発とも依存とも違う、別のものであることがあります。それが抗うつ薬中止症候群です。

抗うつ薬中止症候群とは

依存だったのか、と気にされる方は多くいます。中止症候群は、依存や乱用で起こる離脱とは性質が異なります。長期間(通常4〜6週間以上)飲んでいた薬を、急にやめたり減らしたりしたときに起こります。身体と心に、さまざまな不調が一度に現れます。薬に慣れた神経が、薬の減少に合わせて再調整していく過程での反応と考えられています。ただ、実際の診療では「離脱症状」という言葉も使われます。

では、まれなことなのでしょうか。そうとも言えません。抗うつ薬をやめたあとに何らかの症状が出た方は、約3割という報告があります。ただし、偽の薬をやめた場合でも約2割で似た症状がみられました。薬の影響とみられる分は、およそ15%と見積もられています。6〜7人に1人ほど、という計算になります。多くは軽く済みますが、一部は症状が重かったり、長引いたりすることが近年の研究で指摘されています。

主な症状

どんな症状が出るのか、あらかじめ知っておくと慌てずにすみます。症状は多彩で、頭文字を並べた「FINISH」という覚え方が知られています。

  • Flu-like symptoms:倦怠感、筋肉痛、悪寒、発汗などインフルエンザ様の症状
  • Insomnia:不眠、鮮明な悪夢
  • Nausea:吐き気、嘔吐、下痢
  • Imbalance:めまい、ふらつき、浮遊感
  • Sensory disturbances:電気ショック様感覚(ブレインザップ)、しびれ、感覚過敏
  • Hyperarousal:不安、焦燥、易刺激性、気分の波

この中でも見過ごされやすいのが、目や頭を動かした瞬間に走る「ブレインザップ(電撃様感覚)」です。SSRIやSNRIの中止症候群を示す、代表的なサインとして知られています。経験のない人には伝わりにくく、本人だけが不安を抱え込みやすい症状でもあります。

うつの再発との見分け方

この不調は、うつの再発なのか、それとも中止症候群なのか。両者はよく混同されますが、見分ける手がかりはいくつかあります。下の表が、その分かれ目です。

項目中止症候群うつの再発
発現までの時間減らしたりやめたりしたあと数日〜2週間以内通常数週間〜数か月後
症状の中心身体症状(めまいやザップ感、吐き気など)気分の落ち込み、興味の喪失
薬の再開への反応24〜72時間で速やかに改善改善に数週間かかる
持続期間通常 1〜3週間(遷延例あり)治療しなければ持続

とりわけ分かりやすいのは、薬を戻したときの反応です。中止症候群なら数日のうちに和らぎ、再発ならそれだけでは戻りません。判断に迷うときは、自己流で決めず主治医に伝えてください。

薬剤による起こりやすさの違い

起こりやすさは、薬によって差があります。関わるのは半減期受容体親和性です。半減期が短く、コリン作動系やヒスタミン系にも働く薬ほど、反動は強く出やすいとされています。同じ薬でも、つらさには個人差があります。服用していた期間の長さや減らし方、体質などが関わると考えられています。

  • 起こりやすい:パロキセチン(パキシル)、ベンラファキシン(イフェクサー)、デュロキセチン(サインバルタ)
  • 中等度:セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)、ミルタザピン(リフレックス/レメロン)
  • 起こりにくい:ボルチオキセチン(トリンテリックス)

この分類は、主に半減期にもとづく一般的な目安です。薬ごとの起こりやすさは、研究によって結果が異なります。たとえば、エスシタロプラムで症状が出た方の割合は高めだったとする報告もあります。自分の薬がどこに当てはまるのか。減薬を始める前に、主治医と確かめておくと安心です。

減薬の基本原則

では、どう減らせば反動を抑えられるのでしょうか。原則は「ゆっくり、計画的に、症状を見ながら」に尽きます。これまでは数週間かけて段階的に減らす方針が一般的でした。近年は、それでも急すぎるという指摘が増えています。代わりに広がってきたのが、ハイパーボリックテーパリングという考え方です。

1. ハイパーボリックテーパリングとは

名前は難しく響きますが、もとになっている事実は一つです。抗うつ薬が脳の運び手(セロトニントランスポーター)を占める割合は、用量に単純に比例しません。低い用量の領域で、急に大きく下がる曲線を描きます。だから、20mgを15mgに減らすより、5mgを0mgにするほうが、脳に与える変化ははるかに大きいのです。そこで、減らす幅は「mgで一定」ではなく、そのときの用量の一定割合(たとえば10%)ずつにします。用量が下がるほど、刻みも細かくしていく必要があります。

2. 実際の刻みと製剤の制約

では、どのくらいの刻みで減らすのでしょうか。ここは薬の形(製剤)の制約を強く受けます。海外では、液剤などを使って細かく調整する方法が報告されています。ただ、国内のパロキセチンにあるのは錠剤だけです。1mgに満たないほど細かい刻みは、国内の規格では作れません。実際に作れる刻みは、手に入る規格によって決まります。

  1. 減らす幅は、そのときの用量の 10〜20% ずつを目安にする考え方があります
  2. 用量が下がるほど、刻みは細かくしていくのが原則です
  3. ただし、その刻みを実際に作れるかどうかは、錠剤の規格しだいです。添付文書は、減らすときや中止するときに5mg錠を使うことも考慮するよう求めています
  4. 徐放錠(パキシルCR錠など)は、噛んだり割ったり砕いたりせずにそのまま飲みます。割ると効き方が変わってしまいます
  5. 各ステップで 2〜4週間以上様子を見て、症状が安定してから次へ進む

そのため、実際の刻みややめ方は、主治医が一人ひとりの状態と製剤に合わせて決めます。添付文書も、急にやめず、状態を見ながら数週間から数か月かけて減らすよう求めています。自分で錠剤を割って調整しようとしないでください。

3. 「症状に合わせて調整する」柔軟さ

スケジュールはあくまで目安で、その通りに進むとは限りません。減らしたあとに強い中止症状が出たら、ひとつ前の用量に戻します。そこで落ち着いてから、今度はさらに小さな幅で減らし直します。減薬は予定表をこなす作業ではありません。身体の反応を聴きながら進めていく、対話のような過程です。

中止症候群が出てしまったときの対処

備えていても、症状が出ることはあります。そのときに慌てないための、対処の目安がこちらです。

  • 軽度:数日〜2週間、経過観察。水分をとり、睡眠と生活リズムを整える
  • 中等度〜重度:直前の用量に戻し、症状が完全に消えるまで維持。その後、より緩やかなペースで再テーパリング
  • 半減期の長い薬への切り替え:半減期の短い薬から、比較的長い薬に置き換えてから減らす方法もあります。海外で標準とされる切り替え先の薬は国内では使えません。薬の選択は主治医が個別に判断します
  • 自己判断で再び中止したり増やしたりせず、必ず医師と相談する

どの段階でも共通するのは、自分だけの判断で薬を動かさないことです。

減薬を始める前のチェックリスト

減薬にふさわしい時期かどうかは、始める前に見極めておきたいところです。次の項目に、いくつ当てはまるでしょうか。

  • うつや不安の症状が 6〜12か月以上安定しているか
  • 大きなライフイベント(転職や引っ越し、受験など)と重なっていないか
  • 睡眠や食事、運動といった生活の基盤が整っているか
  • 不調が出たときに相談できる主治医や支援者がいるか
  • 心理療法(認知行動療法など)を併用できているか(再発予防に役立ちます)

遷延性中止症候群について

中止症状の多くは、数週間のうちにやわらいでいくとされています。ただし、どのくらい続くかを長く調べた研究はまだ少なく、はっきりしたことは分かっていません。実際に一部の方では、中止から数か月、ときに年の単位で不調が続くことがあります。遷延性中止症候群と呼ばれる状態です。どのくらいの頻度で起こるかは、まだはっきりしていません。長く服用していた場合や、急にやめた場合に起こりやすいとされ、いまも研究が進んでいます。つらさを「気のせい」や「再発」で片づけないでください。この症候群を知っている医師に相談することが、遠回りに見えて近道になります。

関連する疾患

抗うつ薬をいつ、どう減らすか。それは、もともと治療していた病気の経過と切り離せません。下の疾患名から、より詳しい解説ページに進めます。

  • 抑うつ症(うつ病):抗うつ薬治療の主な対象です。再発予防の観点から、減薬の時期を慎重に見極めます。
  • 不安症:SSRIなどの抗うつ薬が使われます。症状の安定を確かめながら、減薬を検討します。

まとめ

調子が良くなって薬を減らしたら、めまいや電気が走る感覚に襲われた。それは、うつの再発でも依存でもない反応であることがあります。神経が薬の減少に合わせて再調整していく、中止症候群という反応です。半減期の短い薬ほど起こりやすく、減らし方しだいで、つらさは大きく変わります。原則は「ゆっくり」「双曲線を意識して」「症状を見ながら」。再発との見分けは、出てくる時期と、身体症状が中心であること。そして、薬を戻したときの反応の速さです。何より、減薬は一人で決めないことです。主治医と計画を立て、身体の声を聴きながら進めていきましょう。

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参考文献

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