01不眠症(睡眠障害)とは
不眠症(睡眠障害)は、寝つきが悪い・夜中に目が覚める・朝早く起きてしまうといった睡眠の問題が続き、日中の生活に支障をきたす状態です。週3日以上、4週間以上続く場合は早めの受診をおすすめします。睡眠衛生指導・認知行動療法・必要に応じた薬物療法を組み合わせることで、多くの方が改善されます。
精神医学の視点では、ストレス・精神疾患・神経伝達物質の異常・体内時計(概日リズム)の乱れなどが複合的に関与する病態です。日本の成人の約5人に1人が何らかの睡眠の問題を抱えているとされています。
不眠症は「眠れない」のではなく、脳が覚醒状態から下がらない状態です。脳の覚醒システム(脳幹・視床下部)が過剰に活動し、抑制システム(GABA・メラトニン)が十分に働かないことで起こります。
睡眠不足が続くと、注意力や集中力の低下だけでなく、認知症や生活習慣病のリスクも高まります。多くの研究で7時間前後の睡眠が健康との関連が強いとされていますが、最適な睡眠時間には年齢や個人差があります(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)。
02こんな症状はありませんか?
以下の症状に心当たりがある方は、不眠症の可能性があります。
入眠困難
- 布団に入っても30分以上寝つけない
- 「眠れないかも」と不安になり、さらに目が覚める
- 寝る前にスマートフォンを見る習慣がある
中途覚醒
- 夜中に何度も目が覚める
- 一度起きると再び寝つけない
- トイレのあと眠れなくなる
早朝覚醒
- 予定より2時間以上早く目が覚める
- 朝方に気分が落ち込む
熟眠障害
- 長時間寝ても疲れがとれない
- 日中に強い眠気や倦怠感がある
- 集中力が続かず仕事に支障が出ている
上記は診断を確定するものではありません。不眠が2週間以上続く場合は、早めに専門医へご相談ください。なお、診断基準では3か月以上の持続が目安とされていますが、早期の対処が回復を早めます。
03不眠症はなぜ起こるのか
不眠症の原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っています。
脳の神経伝達物質の異常
睡眠と覚醒のバランスは、脳内の神経伝達物質によって調整されています。
- GABA(抑制性伝達物質):神経の興奮を鎮め、眠りを誘います。不足すると入眠困難や夜間覚醒が増えます。
- セロトニン:睡眠と覚醒のバランスを調整します。不足すると睡眠の質が低下します。
- メラトニン:体内時計を調整し、眠気を誘発する「睡眠ホルモン」です。朝日を浴びてから約14〜16時間後に分泌が増加します。
- ノルアドレナリン:覚醒レベルを高めます。過剰な活動は不安や不眠を引き起こします。
- オレキシン:覚醒や食欲に関わる神経ペプチドです。過剰に働くと睡眠が妨げられます。
ストレスとHPA軸の過剰反応
慢性的なストレス状態では、コルチゾール(ストレスホルモン)が過剰に分泌されます。コルチゾールは覚醒状態を持続させるため、入眠困難や中途覚醒を引き起こしやすくなります。
体内時計(概日リズム)の乱れ
視交叉上核(SCN)という脳内の体内時計が乱れると、メラトニンの分泌タイミングがずれます。夜型の生活やスマートフォンのブルーライトは、メラトニン分泌を抑制し、不眠を助長します。
精神疾患との関連
不眠は、抑うつ症(うつ病)・不安症・双極症・PTSDなど多くの精神疾患の症状として現れます。特に抑うつ症では早朝覚醒が、不安症では入眠困難が特徴的です。
不眠は「あなたのせい」ではありません。脳と身体のメカニズムが関わっており、適切な治療で改善が期待できます。
04不眠症はどう治療するのか
認知行動療法(CBT-I)
不眠症に対する第一選択の治療法として、世界的に推奨されています。薬に頼らず、睡眠の質を根本から改善することを目指します。
- 刺激制御療法:ベッドを「睡眠専用」にします。眠くなるまでベッドに入らず、20分眠れなければ一度離れます。
- 睡眠制限療法:実際の睡眠時間に合わせてベッドにいる時間を調整し、睡眠効率を高めます。
- 認知再構成:「眠れないと明日ダメになる」「8時間寝なければ」といった不安を和らげる思考法を身につけます。
研究では、CBT-Iによる改善率は70〜80%と報告されています(Trauer et al., JAMA Internal Medicine, 2015)。睡眠薬と比べて持続的な効果が期待できます。
薬物療法
必要に応じて、医師の判断のもとお薬を使用します。
- メラトニン受容体作動薬:体内時計を整え、自然な眠気を促します。依存性が少ないのが特徴です。
- オレキシン受容体拮抗薬:覚醒を促すオレキシンの働きを抑え、自然な眠りに導きます。
- GABA受容体に作用する睡眠薬:GABA受容体に作用する睡眠薬には、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系(Z薬)があります。非ベンゾジアゼピン系のほうが依存リスクが比較的低いとされていますが、いずれも長期使用には注意が必要です。
当院では、依存性の少ないお薬を優先し、必要最小限の処方を心がけています。
生活習慣の調整(セルフケア)
日常生活の見直しも、睡眠改善に大きく役立ちます。
- 毎日同じ時間に起床し、朝日を15〜30分程度浴びる(体内時計のリセット)
- 15時以降のカフェインを控える
- 寝る前のスマートフォン使用を避ける
- 就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂に入る
- アルコールは寝つきを良くしますが、睡眠の質を悪化させます
- 昼寝は20分以内にとどめる
リラクゼーション
- 4-7-8呼吸法:リラクゼーション技法の一例です。4秒吸う→7秒止める→8秒吐く。これを5回繰り返します。
- 漸進的筋弛緩法:筋肉を緊張させてから脱力する方法です。
- マインドフルネス:「眠れない」という思考を止めるのではなく、「眠れないという思考がある」と観察する練習です。
05銀座泰明クリニックの治療方針
当院では、不眠でお悩みの方に対し、丁寧な問診を通じて原因を見極めたうえで、お一人おひとりに合った治療をご提案しています。
精神保健指定医・精神科専門医による診療
不眠の背景にある精神疾患やストレス要因も含めて、総合的に診療いたします。
じっくりとお話を伺います
お悩みをじっくり伺い、安心して治療に取り組める環境を大切にしています。
依存性の少ない薬を優先した処方
メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など、依存性の少ないお薬を中心にご提案します。
通いやすい診療体制
夜間・土日も診療しており、お仕事帰りや休日にも通院いただけます。
保険診療で受診できます
初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。
※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。
また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。
06ご家族・周囲の方へ
ご家族の不眠が続いているとき、周囲の方にできることがあります。
- 「早く寝なさい」と叱らない:本人も眠りたいのに眠れず苦しんでいます。叱責は不安を強め、逆効果になることがあります。
- 生活リズムの協力:朝のカーテンを開ける、就寝前の照明を暗くするなど、環境づくりに協力しましょう。
- 受診への声かけ:「睡眠の専門家に相談してみない?」と、受診を自然にすすめてみてください。
- ご家族自身のケアも大切です:介護疲れや心配で、ご自身の睡眠が乱れていませんか。必要であればご家族のご相談もお受けしています。
07よくあるご質問
はい。不眠の原因として、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグズ症候群(むずむず脚症候群)などの身体疾患が隠れている場合があります。必要に応じて他科への紹介も行っています。
はい。「2週間以上眠れない日が続いている」「日中のだるさで仕事に支障がある」など、生活に影響が出ている場合は早めのご相談をおすすめします。
現在は依存性の少ないお薬(メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬)が使用されています。医師と相談しながら、必要最小限の処方を行います。
多くの方が適切な治療で症状の改善を実感されています。認知行動療法(CBT-I)では、70〜80%の方に改善がみられたとの研究報告があります。
不眠の背景にストレスや精神的な不調がある場合は、心療内科・精神科の受診が適しています。当院は精神科専門医が診療します。
多くの方は通院しながらお仕事を続けられています。当院は夜間・土日も診療していますので、お仕事帰りにも受診可能です。
アルコールは一時的に寝つきを良くしますが、睡眠の質を悪化させます。中途覚醒が増え、深い睡眠(ノンレム睡眠)が減少するため、逆効果です。
密接に関係しています。不眠は抑うつ症(うつ病)の主要な症状であり、特に早朝覚醒が特徴的です。不眠が続くと抑うつ症(うつ病)のリスクが高まるため、早めの対処が大切です。
市販薬は一時的な不眠に対応するものです。2週間以上続く不眠には、原因を見極めたうえでの医師による治療が必要です。
個人差はありますが、世界的な研究では「7時間前後の睡眠」が健康的とされています。時間だけでなく、眠りの質(深い睡眠が十分にとれているか)も重要です。
スマートフォンのブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。就寝1時間前からは使用を控えることをおすすめします。
当院の診察でも、睡眠衛生指導や刺激制御療法、認知再構成といったCBT-Iの要素を取り入れた指導を行っています。まずはご相談ください。
08関連する疾患
関連コラム
- 不眠症の認知行動療法について
- 睡眠相後退症候群(概日リズム睡眠覚醒障害)について
- 産後うつと睡眠不足について
- ベンゾジアゼピン長期服用と離脱症候群について
- 不安焦燥状態について
- 適応反応症の経過と再発予防について
09参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 日本睡眠学会「睡眠障害診療ガイド」
- American Psychiatric Association. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(2013)
- Trauer JM et al. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia. JAMA Intern Med. 2015;175(9):1461-1472.
- NICE Insomnia (CG revised)


