01不眠症(睡眠障害)とは

ふとんに入る。目を閉じる。なのに、頭のどこかが起きている。時計を見るたびに、朝が近づいてくる。そんな夜が続くと、「眠れないくらいで大げさかな」と思いたくなります。

たしかに、一晩や二晩の寝不足は誰にでもあります。問題は、どこまでが「たまたま眠れない夜」で、どこからが治療の対象なのか、という線引きです。

不眠症(睡眠障害)は、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝早く起きてしまうといった睡眠の問題が続く状態です。夜の問題であると同時に、日中のだるさや集中力の低下という、昼の不調でもあります。

めずらしいことではありません。日本の成人の約5人に1人が、何らかの睡眠の問題を抱えているとされています。放っておくと、注意力や集中力の低下だけでなく、認知症や生活習慣病のリスクも高まると指摘されています。

そして、治療の方法がある不調です。睡眠衛生指導、認知行動療法、必要に応じた薬物療法を組み合わせることで、多くの方で改善が期待できます。


02こんな症状はありませんか?

どんな眠れなさなら、受診してよいのでしょうか。ひとつの目安は、頻度と期間です。週に3日以上の不眠が2週間以上続き、日中の生活に支障が出ているなら、相談する理由として十分です。

「何時間眠れれば正常なのか」と気にする方は少なくありません。けれども、必要な睡眠時間には年齢や個人差があります。時間の長さそのものより、日中を無理なく過ごせているかが目安になります(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、7時間前後の睡眠が健康との関連が強いとされています)。

入眠困難

  • 布団に入っても30分以上寝つけない
  • 「眠れないかも」と不安になり、さらに目が覚める
  • 寝る前にスマートフォンを見る習慣がある

中途覚醒

  • 夜中に何度も目が覚める
  • 一度起きると再び寝つけない
  • トイレのあと眠れなくなる

早朝覚醒

  • 予定より2時間以上早く目が覚める
  • 朝方に気分が落ち込む

熟眠障害

  • 長時間寝ても疲れがとれない
  • 日中に強い眠気や倦怠感がある
  • 集中力が続かず仕事に支障が出ている

すべてあてはまる必要はありません。いくつかが重なり、翌日の生活がつらくなっているなら、それが相談の合図です。

上記は診断を確定するものではありません。不眠が2週間以上続く場合は、早めに専門医へご相談ください。なお、診断基準では3か月以上の持続が目安とされていますが、早期の対処が回復を早めます。

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03不眠症はなぜ起こるのか

受診をためらう理由に、「眠れないのは気にしすぎだからだ」「自分の心が弱いからだ」という思いがあります。眠れない夜を数えるうちに、その思いは固まっていきます。

けれども、不眠は「気の持ちよう」ではありません。むしろ逆で、眠ろうと力めば力むほど、脳はかえって目を覚まします。不眠症は「眠れない」というより、脳が覚醒状態から下がりきらない状態です。目を覚まさせる仕組み(脳幹や視床下部)が過剰に働き、眠りへ導く仕組み(ギャバやメラトニン)が十分に働かないことで起こります。

脳の神経伝達物質の異常

睡眠と覚醒のバランスは、脳内の神経伝達物質によって調整されています。

  • ギャバ:脳の興奮を鎮め、眠りを誘う物質です。不足すると入眠困難や夜間覚醒が増えます。
  • セロトニン:睡眠と覚醒のバランスを調整します。不足すると睡眠の質が低下します。
  • メラトニン:体内時計を調整し、眠気を誘発する「睡眠ホルモン」です。朝日を浴びてから約14〜16時間後に分泌が増加します。
  • ノルアドレナリン:覚醒レベルを高めます。過剰な活動は不安や不眠を引き起こします。
  • オレキシン:覚醒や食欲に関わる神経ペプチドです。過剰に働くと睡眠が妨げられます。

ストレスによる体の過剰な反応

慢性的なストレス状態では、コルチゾール(ストレスホルモン)が過剰に分泌されます。コルチゾールは覚醒状態を持続させるため、入眠困難や中途覚醒を引き起こしやすくなります。眠れないこと自体が新たなストレスになり、悪循環に入ることも少なくありません。

体内時計(概日リズム)の乱れ

視交叉上核という脳内の体内時計が乱れると、メラトニンの分泌タイミングがずれます。夜型の生活やスマートフォンのブルーライトは、メラトニン分泌を抑制し、不眠を助長します。

精神疾患との関連

不眠は、抑うつ症(うつ病)、不安症、双極症、PTSDなど多くの精神疾患の症状として現れます。とくに抑うつ症では早朝覚醒が、不安症では入眠困難が特徴的です。眠れない背景に、別の不調が隠れていることもあります。

不眠は「あなたのせい」ではありません。原因の多くは、意志の力ではどうにもならない脳と身体のしくみにあります。だからこそ、治療という外からの助けに意味があります。


04不眠症はどう治療するのか

診察室で、多くの方がためらいがちに尋ねます。「睡眠薬って、癖になりませんか」。その心配は自然なものです。だからこそ、いまの不眠治療は、薬だけに頼らない方法から始めます。時間の単位は、その日ではなく、週や月です。

不眠症のための認知行動療法(CBT-I)

不眠症に対する第一選択の治療法として、世界的に推奨されています。薬に頼らず、睡眠の質を根本から改善することを目指します。

  • 刺激制御療法:ベッドを「睡眠専用」にします。眠くなるまでベッドに入らず、20分眠れなければ一度離れます。
  • 睡眠制限療法:実際の睡眠時間に合わせてベッドにいる時間を調整し、睡眠効率を高めます。
  • 認知再構成:「眠れないと明日ダメになる」「8時間寝なければ」といった思い込みを、和らげていきます。

「8時間眠らなければ」という思い込みを手放すこと自体が、眠りを楽にすることがあります。研究では、CBT-Iで約70〜80%の方に改善がみられたと報告されています(Morin, 2004)。睡眠薬と比べて持続的な効果が期待できます。

薬物療法

薬を使う場合も、依存しにくいものから選ぶのが基本です。医師の判断のもと、次のようなお薬を用います。

  • メラトニン受容体作動薬:体内時計を整え、自然な眠気を促します。依存性が少ないのが特徴です。
  • オレキシン受容体拮抗薬:覚醒を促すオレキシンの働きを抑え、自然な眠りに導きます。
  • ギャバの受容体に作用する睡眠薬:脳の興奮をしずめる物質(ギャバ)の受容体に作用する睡眠薬には、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系(Z薬)があります。非ベンゾジアゼピン系のほうが依存リスクが比較的低いとされていますが、いずれも長期使用には注意が必要です。

つまり、「睡眠薬は癖になる」というのは、昔の薬の印象が残っている面があります。当院では依存性の少ないお薬を優先し、必要最小限の処方を心がけています。

生活習慣の調整(セルフケア)

日常生活の見直しも、睡眠改善に大きく役立ちます。

  • 毎日同じ時間に起床し、朝日を15〜30分程度浴びる(体内時計のリセット)
  • 15時以降のカフェインを控える
  • 寝る前のスマートフォン使用を避ける
  • 就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂に入る
  • アルコールは寝つきを良くしますが、睡眠の質を悪化させます
  • 昼寝は20分以内にとどめる

リラクゼーション

  • 4-7-8呼吸法:リラクゼーション技法の一例です。4秒吸う→7秒止める→8秒吐く。これを5回繰り返します。
  • 漸進的筋弛緩法:筋肉を緊張させてから脱力する方法です。
  • マインドフルネス:「眠れない」という思考を止めるのではなく、「眠れないという思考がある」と観察する練習です。

治療を始めてから数週間で、眠りの変化を感じられる方が多くいます。眠れる夜が戻ってきても、しばらくは起床時刻を保つことが、再発を防ぐ助けになります。


05銀座泰明クリニックの治療方針

受診を決めても、「何を話せばいいのか」「薬を出されて終わりではないか」と、足が重くなるかもしれません。当院の初診は、そうではありません。

まず、眠れない状態がいつから、どんなふうに続いているのかを、時間をかけてうかがいます。不眠の背景に、ストレスや別の不調が隠れていることも少なくないためです。原因を見極めたうえで、お一人おひとりに合った治療をご提案します。

精神保健指定医・精神科専門医による診療

不眠の背景にある精神疾患やストレス要因も含めて、総合的に診療いたします。

じっくりとお話を伺います

お悩みをじっくり伺い、安心して治療に取り組める環境を大切にしています。

依存性の少ない薬を優先した処方

メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など、依存性の少ないお薬を中心にご提案します。

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しており、お仕事帰りや休日にも通院いただけます。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

時計を見るたびに朝が近づく、あの夜を、ひとりで数え続けなくて大丈夫です。「相談してみようかな」と思えたときが、受診のタイミングです。

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06ご家族・周囲の方へ

ご家族が眠れずにいると、周囲の方も気をもむものです。よかれと思った言葉が、かえって本人を追い詰めることもあります。迷ったときは、次のことを目安にしてみてください。

  • 「早く寝なさい」と叱らない:本人も眠りたいのに眠れず苦しんでいます。叱責は不安を強め、逆効果になることがあります。
  • 生活リズムの協力:朝のカーテンを開ける、就寝前の照明を暗くするなど、環境づくりに協力しましょう。
  • 受診への声かけ:「睡眠の専門家に相談してみない?」と、受診を自然にすすめてみてください。
  • ご家族自身のケアも大切です:介護疲れや心配で、ご自身の睡眠が乱れていませんか。必要であればご家族のご相談もお受けしています。

07よくあるご質問

不眠の原因が別の病気ということはありますか?

はい。不眠の原因として、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグズ症候群(むずむず脚症候群)などの身体疾患が隠れている場合があります。必要に応じて他科への紹介も行っています。

この程度の不眠でも受診してよいですか?

はい。「2週間以上眠れない日が続いている」「日中のだるさで仕事に支障がある」など、生活に影響が出ている場合は早めのご相談をおすすめします。

睡眠薬の依存が心配です。

現在は依存性の少ないお薬(メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬)が使用されています。医師と相談しながら、必要最小限の処方を行います。

不眠症は改善しますか?

多くの方に、適切な治療で症状の改善が期待できます。認知行動療法(CBT-I)では、70〜80%の方に改善がみられたとの研究報告があります。

何科を受診すればよいですか?

不眠の背景にストレスや精神的な不調がある場合は、心療内科・精神科の受診が適しています。当院は精神科専門医が診療します。

仕事を休む必要はありますか?

多くの方は通院しながらお仕事を続けられています。当院は夜間・土日も診療していますので、お仕事帰りにも受診可能です。

アルコールで寝つきを良くするのは問題ですか?

アルコールは一時的に寝つきを良くしますが、睡眠の質を悪化させます。中途覚醒が増え、深い睡眠(ノンレム睡眠)が減少するため、逆効果です。

不眠と抑うつ症(うつ病)は関係がありますか?

密接に関係しています。不眠は抑うつ症(うつ病)の主要な症状であり、特に早朝覚醒が特徴的です。不眠が続くと抑うつ症(うつ病)のリスクが高まるため、早めの対処が大切です。

市販の睡眠改善薬との違いは何ですか?

市販薬は一時的な不眠に対応するものです。2週間以上続く不眠には、原因を見極めたうえでの医師による治療が必要です。

何時間眠ればよいですか?

個人差はありますが、世界的な研究では「7時間前後の睡眠」が健康的とされています。時間だけでなく、眠りの質(深い睡眠が十分にとれているか)も重要です。

スマートフォンが睡眠に悪い理由は何ですか?

スマートフォンのブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。就寝1時間前からは使用を控えることをおすすめします。

認知行動療法(CBT-I)はどこで受けられますか?

不眠症のための認知行動療法(CBT-I)を体系的なプログラムとして実施している医療機関は限られています。当院の診察では、睡眠習慣や生活リズムの整え方について、お話を伺いながら助言します(睡眠衛生指導)。まずはご相談ください。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
  • 日本睡眠学会「睡眠障害診療ガイド」
  • DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
  • Trauer JM, Qian MY, Doyle JS, Rajaratnam SMW, Cunnington D. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia. Ann Intern Med. 2015;163(3):191-204.
  • Morin CM. Am Fam Physician. 2004.
  • NICE Clinical Knowledge Summaries: Insomnia