01不安症(不安障害)とは

明日の予定のことが、夜になっても頭から離れない。たぶん大丈夫だと、頭ではわかっています。それでも胸のざわつきは収まらず、眠れないまま朝が来てしまう。

心配しすぎだと、自分でもわかっている。まわりにも、そう言われる。それなのに、やめられない。この状態を「心配性な性格だから」と、長いあいだ片づけてきた方は少なくありません。

けれども、心配ごと自体は誰にでもあります。問題は、性格の範囲におさまる心配と、治療の対象になる不安のあいだの、どこに線があるのかです。

不安症(不安障害)は、日常生活に支障をきたすほどの過剰な不安や恐怖が続く精神疾患の総称です。心配というこころの症状だけでなく、動悸や息苦しさ、不眠といったからだの症状を伴うのが特徴です。

不安の向かう先によって、いくつかのタイプに分けられます。

  • 全般不安症:特定の対象がなく、常にさまざまなことを心配し続ける状態です。
  • 社交不安症:人前での発言や注目を浴びる場面で強い恐怖を感じます。
  • 限局性恐怖症:特定の対象や状況(高所・閉所・動物など)に対して、過剰で持続的な恐怖を抱きます。

パニック症も不安症群に含まれます。強迫症は独立した「強迫症および関連症群」に分類されますが、不安が中心的な症状として現れることがあります。

めずらしい病気ではありません。生涯のうちに何らかの不安症を経験する方は約15〜30%と報告されています(Kessler et al., 2005; WHO)。日本の調査でも、成人の約5〜8%が経験しているとされています。

そして、治療の方法がある病気です。薬物療法と認知行動療法を組み合わせることで、多くの方で症状の改善が期待できます。


02こんな症状はありませんか?

では、どこからが「心配性」で、どこからが不安症なのでしょうか。目安になるのは、不安の強さそのものではありません。生活への影響です。次の症状が2週間以上続き、仕事や生活に支障が出ているなら、不安症の可能性があります。

精神的な症状

  • 理由のない不安や恐怖が続く
  • 「何か悪いことが起こるのではないか」と常に心配する
  • ささいなことが気になって頭から離れない
  • 集中できない、注意が散漫になる
  • イライラや焦りが止まらない
  • 人前に出ることが怖い

身体的な症状

  • 動悸、息苦しさ
  • 手足の震え、発汗
  • めまい、ふらつき
  • 肩こり、筋肉のこわばり
  • 食欲不振、吐き気
  • 寝つきが悪い、途中で目が覚める

行動面の変化

  • 不安な場面を避けるようになった(回避行動)
  • 外出が億劫になった
  • じっとしていられない

すべてあてはまる必要はありません。なかでも気づきにくいのが、行動面の変化です。避ける場所や場面が増えているなら、不安はすでに生活のかたちを変えはじめています。

上記のチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。

より詳しく確かめたい方には、全般不安症スクリーニング質問票(GAD-7)が広く用いられています。7つの質問に回答する簡易なテストで、医療機関でも活用されています。

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03不安症(不安障害)はなぜ起こるのか

受診をためらう理由のひとつに、「これは性格だから、変わらないのではないか」という思いがあります。子どものころから心配性だった方ほど、そう考えて相談をあきらめがちです。

たしかに、長く続いてきた不安は、性格のように見えます。けれども、診察で扱っているのは性格そのものではありません。脳の中の「危険を知らせるしくみ」が、はたらきすぎている状態です。

脳の恐怖回路の過敏化

頭ではわかっているのに止まらない、というあの感覚には、対応する脳のはたらきがあります。

  • 扁桃体:危険を察知する「番犬」の役割を担います。不安症では過剰に反応し、実際には危険でない状況でも強い恐怖を感じます。
  • 前頭前野:理性的な判断や感情の抑制を司ります。不安症ではこの抑制機能が低下し、扁桃体の暴走を止められなくなります。
  • 海馬:記憶の形成に関わります。恐怖の記憶が強化されることで、特定の状況が不安のきっかけになります。

危険を知らせる側が過敏になり、それを抑える側の力が弱まる。「わかっているのに止められない」のは、意志の弱さではなく、この力関係の反映と考えられています。

神経伝達物質の異常

脳内で不安を調整している物質のバランスも関わっています。

  • セロトニン不足:不安を抑える働きが弱まり、不安感が増強します。
  • ノルアドレナリン過剰:交感神経が優位となり、動悸、発汗、震えなどの身体症状が現れます。
  • 脳の興奮をしずめる物質(ギャバ)の不足:興奮を鎮める働きが弱まり、過覚醒状態になります。

ストレスホルモンの影響

慢性的なストレスにより、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンが過剰に分泌されます。胸のドキドキや手の震え、眠れないといったからだの症状は、ここから生じています。

環境・心理的要因

きっかけになる出来事や環境も、発症に関わります。

  • 仕事や人間関係の長期的なプレッシャー
  • 睡眠不足や生活習慣の乱れ
  • 大きな環境の変化(転職・引っ越し・離別など)
  • 幼少期のトラウマ体験

幼少期のトラウマ体験が背景にある場合は、PTSDや複雑性PTSDが隠れていることもあります。丁寧な見きわめが大切です。

不安の悪循環

もうひとつ、症状を長引かせる仕組みがあります。避けること(回避行動)です。

不安な場面を避ければ、そのときは楽になります。その安心は本物です。ところが脳は「やはりあの場面は危険だった」と学習します。次に同じ場面が近づくと、警報はさらに強く鳴る。避けるほど、避けたい場面が増えていきます。

性格に見えていたものの正体は、こうした脳の反応と学習の積み重ねです。だからこそ、治療で変えられる余地があります。

不安症は「気の持ちよう」ではありません。脳の機能的な変化が関わっており、適切な治療で改善が期待できます。


04不安症(不安障害)はどう治療するのか

では、このはたらきすぎの警報は、元に戻せるのでしょうか。多くの方で、症状の改善が期待できます。ただし、その日のうちに効く治療ではありません。時間の単位は、日ではなく週です。

認知行動療法

不安症に対して最も効果が実証されている精神療法が、認知行動療法です。標準的な基準で治療に反応する方はおよそ半数前後(治療終了時 約49.5%、追跡時 約53.6%)と報告されています(Loerinc et al., 2015)。

  • 認知再構成:「絶対失敗する」「嫌われている」といった不安を強める考え方(認知の歪み)を見直し、現実的な捉え方を身につけます。
  • 段階的暴露(エクスポージャー):不安を引き起こす場面に少しずつ慣れていく方法です。回避を減らし、「実は大丈夫だった」という経験を積み重ねます。
  • 呼吸法・リラクゼーション:腹式呼吸(4秒吸う→2秒止める→6秒吐く)やマインドフルネスで、自律神経を整えます。呼吸法にはさまざまなパターンがあります。ご自身に合った方法をお試しください。

段階的暴露は、先ほどの悪循環を逆向きにたどる方法です。避けて強まった警報を、「大丈夫だった」経験の積み重ねで少しずつ静めていきます。

薬物療法

薬を飲めばすぐに楽になるのでは、と期待したくなります。実際には、即効性のある薬と、時間をかけて効く薬があります。治療の中心になるのは、時間をかけて効く薬のほうです。

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):セロトニンの働きを高め、長期的に不安を軽減します。効果が出るまで2〜4週間かかります。
  • セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):ノルアドレナリン系も調整し、身体症状を含めた不安の改善を図ります。
  • 抗不安薬:急性の不安に対して即効性がありますが、長期使用では依存に注意が必要です。

効きはじめるまでの2〜4週間は、心細く感じやすい時期です。自己判断で増減したりやめたりせず、医師と相談しながら調整していきましょう。

生活習慣の改善

診察室の外でも、警報の感度を下げる手立てがあります。

  • 運動:ウォーキングなどの定期的な有酸素運動が、不安症状の軽減に有効であることが多くの研究で報告されています。
  • 睡眠:睡眠不足は扁桃体を過敏にします。規則正しい睡眠リズムが大切です。
  • カフェイン制限:カフェインは不安を増強します。不安が強いときは控えましょう。
  • マインドフルネス:不安は「未来」への思考です。「今この瞬間」に注意を向ける練習で、扁桃体の活動が低下し、前頭前野が活性化します。

05銀座泰明クリニックの治療方針

受診を決めても、ためらいは残るものです。この程度の心配で行ってよいのか。行ったら、何を話せばよいのか。

難しい準備はいりません。いま困っていることを、そのままお話しください。当院では、丁寧な問診を通じて症状の背景を理解したうえで、お一人おひとりに合った治療をご提案しています。

精神保健指定医・精神科専門医による診療

不安症の背景にある精神疾患やストレス要因も含めて、総合的に診療いたします。不安な気持ちをじっくり伺い、安心して治療に取り組める環境を大切にしています。

認知行動療法の考え方を活かした助言

呼吸法や考え方の整理、不安な場面への慣らし方について、診察の中でお話を伺いながら助言します。

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しており、お仕事帰りや休日にも通院いただけます。効果が出るまで数週間かかる治療だからこそ、通いやすさを大切にしています。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

※心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

頭ではわかっているのに、ざわつきが止まらない。その状態を、性格のせいにして抱え続ける必要はありません。「話してみようかな」と思ったときに、お気軽にお問い合わせください。

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06ご家族・周囲の方へ

そばで見ているご家族には、もどかしさがあるはずです。同じ心配を何度も聞かされると、「気にしすぎだよ」と言いたくなります。自然な反応です。ただ、この言葉は多くの場合、逆に働きます。

ご本人も、不安が過剰だとわかっていることが多いのです。わかっていて、止められない。そこへ「気にしすぎ」と言われると、さらに追い詰められてしまいます。

  • 気持ちを受け止める:正しさを説くよりも、「つらいんだね」とまず気持ちを受け止めてください。それだけで支えになります。
  • 回避行動に巻き込まれすぎない:本人の代わりに外出や電話を引き受け続けると、回避行動が強化されます。少しずつ本人が行動できるよう見守りましょう。
  • 受診への声かけ:「専門家に相談してみない?」と、押しつけではなく提案として伝えてみてください。
  • ご家族自身のケアも大切です:不安症の方を支えることは、ご家族にとっても負担になります。必要であればご家族のご相談もお受けしています。

07よくあるご質問

不安症(不安障害)と「心配性」は何が違いますか?

心配性は性格の傾向ですが、不安症(不安障害)は日常生活に支障をきたすほど不安が強く続く状態です。脳の機能的な変化が関わっており、治療の対象となります。

不安症(不安障害)は改善しますか?

認知行動療法と薬物療法を組み合わせた治療で、多くの方に症状の改善が期待できます。標準的な基準で治療に反応する方はおよそ半数前後と報告されています(Loerinc et al., 2015)。

この程度の不安で受診してもよいですか?

はい。不安が2週間以上続いている、外出や人付き合いを避けるようになったなど、生活への影響がある場合は早めのご相談をおすすめします。

薬を飲まないと治りませんか?

軽度の場合は認知行動療法や生活習慣の改善で対応できることもあります。症状の程度に応じて、医師と相談しながら治療法を選びましょう。

薬の副作用が心配です。

SSRIの服用開始時に吐き気や眠気が出ることがありますが、多くの場合1〜2週間で軽減します。副作用が気になる場合は遠慮なくお伝えください。

不安症(不安障害)とパニック症は同じですか?

パニック症はDSM-5では不安症群に分類され、不安症(不安障害)と同じカテゴリに属しますが、別の疾患です。一方、強迫症は独立した分類ですが、不安症状と密接に関連しています。

不安症(不安障害)と抑うつ症(うつ病)を併発することはありますか?

はい。不安症(不安障害)と抑うつ症(うつ病)はしばしば合併します。どちらも脳内のセロトニンの働きが関わっているため、両方を視野に入れた治療が重要です。

仕事を休む必要はありますか?

症状の程度によります。多くの方は通院しながらお仕事を続けられています。当院は夜間・土日も診療しています。

カフェインは避けたほうがよいですか?

カフェインは交感神経を刺激し、不安症状を増強させることがあります。コーヒーや緑茶の量を減らしてみることをおすすめします。

不安を自分で和らげる方法はありますか?

腹式呼吸(4秒吸う→2秒止める→6秒吐く)を5分程度行うと、副交感神経が活性化し、不安が和らぎます。適度な運動やマインドフルネスも効果的です。

家族はどう接すればよいですか?

「気にしすぎ」と否定せず、まずは気持ちを受け止めてください。本人の代わりに何でもやってしまうと回避行動が強化されるため、少しずつ行動を見守ることが大切です。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
  • Kessler RC et al. Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM-IV disorders. Arch Gen Psychiatry. 2005;62(6):593-602.
  • Hofmann SG, Smits JA. Cognitive-behavioral therapy for adult anxiety disorders. J Clin Psychiatry. 2008;69(4):621-632.
  • Loerinc AG, Meuret AE, Twohig MP, Rosenfield D, Bluett EJ, Craske MG. Response rates for CBT across anxiety disorders: Need for standardized criteria. Clin Psychol Rev. 2015;42:72-82.
  • NICE Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults (CG113, 2020 updated)
  • 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト