01心身症とは
内科で検査を受けて、結果は「異常なし」。それなのに、頭痛やおなかの不調は今日も続いている。「ストレスでしょう」という説明に、うなずきながらもすっきりしない。そんな経験はないでしょうか。
異常がないと言われれば、気のせいかと思いたくもなります。それでも、痛みや不調は現に続いています。では、この不調はからだの病気なのでしょうか。それとも、こころの病気なのでしょうか。
この状態には、名前があります。心身症です。頭痛・腹痛・動悸・高血圧などの身体症状に、ストレスが深く関わっている状態の総称です。発症のきっかけにも、その後の経過にも、心理社会的な要因が影響します。
日本心身医学会は、心身症を次のように定義しています。「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」。
難しい言い回しですが、この定義が、さきほどの問いに答えています。心身症は「身体疾患」、つまりからだの病気です。「器質的ないし機能的障害が認められる」、つまりからだに実際の変化が起きています。気のせいではありません。ただし、その発症と経過には、こころが深く関わっています。だからこそ、一般的な身体治療だけでは改善が難しいことがあるのです。
めずらしい状態ではありません。内科外来を受診する患者さんの中には、心理社会的な要因が関わる方が少なくないと報告されています。しかも、ご本人にストレスの自覚がないまま、発症・悪化することが多いとされています。
代表的な心身症には、次のような疾患があります。
- 過敏性腸症候群:検査で異常が見つからないのに、腹痛や下痢・便秘を繰り返す
- 本態性高血圧:ストレスにより血圧が上昇する
- 緊張型頭痛・片頭痛:ストレスや緊張で頭痛が起こる
- 機能性ディスペプシア:胃もたれや胃痛が続く
- アトピー性皮膚炎:ストレスで悪化しやすい
- 慢性疼痛:原因不明の慢性的な痛みが続く
- 気管支喘息:精神的なストレスで発作が起きやすくなる
病名はばらばらですが、ストレスが引き金や悪化の要因になる点で共通しています。ご自身の症状に近いものが、この中に見つかるかもしれません。
なお、うつ病や統合失調症は精神疾患であり、心身症とは定義されません。ただし、うつ病の身体症状として頭痛や下痢を伴うことはあります。
02こんな症状はありませんか?
では、どんなときに心療内科への相談を考えればよいのでしょうか。手がかりは、症状の重さよりも、症状と生活の連動にあります。ストレスのかかる場面で悪化し、休みの日には軽くなる。その波に心当たりがあるなら、心身症の可能性があります。
体の症状
- 頭痛や肩こりが慢性的に続いている
- 腹痛・下痢・便秘を繰り返す(特に緊張場面で悪化する)
- 胃もたれや胃痛があるが、検査では異常がない
- 動悸・発汗・呼吸の苦しさを感じることがある
- めまいやふるえが起こる
- 皮膚の症状(湿疹・かゆみ)がストレスで悪化する
- 原因不明の痛み(腰痛・関節痛など)が続いている
ストレスとの関連
- 仕事や人間関係のストレスがあると症状が強くなる
- 休日や旅行中は症状が軽くなる
- 内科を受診したが「異常なし」「ストレスでしょう」と言われた
- いくつもの病院を回っても改善しない
- 自分にストレスがかかっている自覚がない
「ストレスとの関連」に挙げた項目は、一見すると症状ではありません。けれども、心身症に気づくうえでは、こちらの項目が手がかりになります。「いくつもの病院を回っても改善しない」に心当たりのある方も、少なくないはずです。検査を重ねても原因が見つからないことは、それ自体が心身症を考える手がかりになります。
このチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
あてはまる項目が多くても、ここで診断が決まるわけではありません。ただ、内科で異常がないのに不調が続いているなら、それだけで相談する理由になります。早めに心療内科・精神科に相談することで、適切な治療につなげることができます。
03心身症はなぜ起こるのか
検査で異常がないのなら、この不調はどこから来るのか。ストレスは、自律神経系・内分泌系・免疫系の三つを介して、からだに実際の変化を起こします。機能の乱れが中心の場合、その変化は検査で見つからないことがあります。それでも、つらさを生む変化は、からだの中で実際に起きています。
ストレス反応の仕組み
脳がストレスを感知すると、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が増えます。同時に自律神経のバランスが崩れ、交感神経が優位な状態が続きます。その結果、からだには次のような変化が起こります。
- 筋緊張の持続(頭痛・肩こり)
- 腸管運動の異常(下痢・便秘)
- 免疫機能の低下(皮膚症状・感染しやすさ)
- 血圧が上がり、脈が速くなる(高血圧・動悸)
- 炎症性サイトカインの増加(慢性痛・疲労感)
頭痛も、おなかの不調も、動悸も、別々の病気のようでいて、この同じ流れの上に並んでいます。
脳腸相関(脳と腸のつながり)
とくに腸は、ストレスの影響が出やすい場所です。脳と腸は自律神経を通じて密接につながっています。脳がストレスを感じると、腸の運動や知覚が過敏になります。逆に、腸の不調が続くと、脳が不安や抑うつに引きずられることもあります。心とからだが、互いに症状を強め合う悪循環です。過敏性腸症候群は、この脳腸相関の典型的な例です。
身体的苦痛と精神的苦痛の相関
痛みが本物かどうか、という点には研究の裏づけがあります。脳の中では、からだの痛みとこころの痛みが、よく似た回路で処理されることがわかっています。前部帯状皮質という脳の領域は、身体的な苦痛と社会的な苦痛の両方で活性化します。精神的なストレスがあると、痛みを感じる基準が下がります。そのため、わずかな痛みでも強く感じやすくなるのです。
心身症になりやすい方の特徴
それでも、「自分にはストレスの自覚がない」という方がいらっしゃいます。実は、その自覚のなさこそ、心身症と関わりの深い特徴です。自分のストレスに気づきにくい方は、ストレスが身体症状として現れやすいことが知られています。感情を言葉にするのが苦手な方(アレキシサイミア傾向)にも、同じ傾向が見られます。真面目で責任感が強く、弱音を吐けないタイプの方に多い傾向があります。
がまんが足りないのではありません。むしろ、がまんが利きすぎる方に多い傾向があるのです。
04心身症はどう治療するのか
ストレスが原因なら、ストレスをなくさない限り治らないのではないか。仕事も家庭もすぐには変えられない以上、打つ手がない気がしてきます。けれども、治療の入り口は、もっと手前にあります。まず、いまあるからだの症状を楽にすることから始めるのです。
心身症の治療では、身体症状への対処と、心理的ストレスへの取り組みを並行して進めます。体の治療だけでも、心の治療だけでも不十分で、両面からの統合的なケアが必要とされています。
身体症状への対処
最初の目標は、いまのつらい症状をやわらげることです。頭痛には鎮痛薬、腸の症状には整腸剤や腸の動きを調整する薬、血圧には降圧薬などを用います。ただし、薬でいったん楽になっても、背景の心理的ストレスがそのままなら、症状は再発しやすくなります。
ストレスケア・心理療法
そこで、症状とストレスのつながりに、ご本人が気づいていく取り組みを重ねます。
- 認知行動療法:ストレスと症状の関係に気づき、対処のしかたを見直します。不安のループに気づいて、行動を変えていく方法です
- マインドフルネス:「今この瞬間」に注意を向け、身体感覚や痛みとの関係を変えていきます。過去へのとらわれや将来への不安を軽減する効果があります
- 自律訓練法:全身の力を抜く訓練を通じて、自律神経のバランスを整えます
- リラクゼーション法:筋肉をゆるめることで呼吸や血圧を安定させ、不安や緊張をやわらげます
どれが合うかは、症状や生活によって異なります。診察のなかで、ご自身に合った方法をいっしょに探していきます。
薬物療法(補助的役割)
不安や抑うつが身体症状を悪化させている場合には、少量の抗不安薬が用いられることがあります。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬を使うこともあります。身体の痛みと精神症状の両方に、効果を発揮することがあります。いずれも、ストレスホルモンや自律神経の乱れを調整する目的で用いられます。
生活習慣の改善
治療と並行して、日常生活の見直しも進めます。
- 睡眠の確保:睡眠不足は自律神経・ホルモン・免疫のすべてに悪影響を及ぼします。規則正しい睡眠が身体症状の改善につながります
- 適度な有酸素運動:ウォーキングやストレッチが、うつ症状の軽減に効果的とされています。過度な筋力トレーニングは逆効果になることがあります
- カフェイン・アルコールの調整:自律神経への刺激を減らします
- ストレスコーピング(ストレスへの対処法):自分に合った対処法をいくつか用意しておくことが大切です
からだと心の両方に取り組むうちに、症状が改善していく方が多くいらっしゃいます。ストレスをなくすことではなく、ストレスとからだの悪循環をゆるめることが、治療の目標になります。
05銀座泰明クリニックの治療方針
心療内科に相談するとして、何を話せばよいのでしょうか。ストレスの自覚がないのだから、話すことがない。そう感じて、予約の手が止まる方もいらっしゃいます。
からだの話から始めていただければ十分です。いつから、どんな場面で、どのくらいつらいのか。症状のお話をうかがううちに、背景にあるものが少しずつ見えてきます。
精神保健指定医・精神科専門医による診察
精神保健指定医・精神科専門医が診察を担当します。身体症状の背景にあるストレスや心理的要因を専門的に評価します。「検査で異常がないのに症状がある」という方の受診を歓迎します。
じっくりとお話を伺います
ストレスに気づきにくい方こそ、ゆっくりとお話を伺うことが治療の第一歩になります。
通いやすい診療体制
夜間・土日も診療しており、働きながら通院される方にも対応しています。
保険診療で受診できます
初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。
心理検査や血液検査を行った場合は、別途費用がかかる場合があります。
また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。
「異常なし」と言われた日から、どこに相談すればよいのか、わからなくなっていたかもしれません。その不調は、心療内科で扱える症状かもしれません。がまんの続きではなく、相談から始めてみてください。
06ご家族・周囲の方へ
そばで見ているご家族には、別の戸惑いがあるはずです。検査で異常がないと聞くと、どこまで心配してよいのか、わからなくなります。ご本人の苦痛は本物なのか。それとも、そっとしておくべき気の問題なのか。
苦痛は本物です。からだには実際の変化が起きています。そのうえで、接し方にはいくつかの目安があります。
接し方のポイント
- 「気のせい」「甘え」と言わない:心身症は医学的に認められた疾患であり、ご本人の身体的苦痛は本物です
- ストレスの原因を一緒に探さない:「何がストレスなの?」と問い詰めると、かえって負担になります。ご本人が自分のペースで気づくことが大切です
- 通院を応援する:心療内科や精神科への受診に抵抗を感じる方も多いため、「体のことも相談できるよ」と伝えると受診しやすくなります
- 職場では環境調整の配慮を:過敏性腸症候群の方であれば「トイレにすぐ行ける環境」を確保するなど、小さな配慮が症状を大きく和らげます
- 回復を焦らない:心身症の改善には時間がかかることがあります。長期的な視点で見守ってください
症状は検査に映らなくても、つらさを疑わずにいてくれる人がそばにいることが、ご本人の支えになります。
07よくあるご質問
はい。心身症はストレスが身体症状に関わる疾患であり、精神科・心療内科で診療を行います。「検査で異常がないのに症状が続く」とお悩みの方こそ、お気軽にご相談ください。
重なる部分はありますが、同じではありません。自律神経失調症は自律神経のバランスの乱れによる症状群を指しますが、心身症は「身体疾患のうち、ストレスが発症や経過に大きく関与するもの」を指す概念です。過敏性腸症候群や緊張型頭痛は両方に該当しうる疾患です。
心身症はストレスに「無自覚」な場合に発症しやすいという特徴があります。ご自身ではストレスを感じていなくても、心身が負担を抱えていることがあります。診察で一緒にストレスの有無を確認していきましょう。
内科治療で改善が見られない場合、ストレスや心理的要因が関わっている可能性があります。内科の治療を続けながら、精神科を併診することで改善するケースも多くあります。
はい。過敏性腸症候群は心身症の代表的な疾患です。脳と腸が自律神経を通じてつながっており(脳腸相関)、ストレスが腸の症状を引き起こします。身体面と心理面の両方からアプローチすることが効果的です。
身体症状への対症療法だけでは、根本的な改善につながりにくい場合があります。ストレスへの気づきと対処法を身につける心理療法や生活習慣の改善を並行して行うことが大切です。
症状や背景により個人差がありますが、ストレスへの対処法を身につけることで徐々に改善していく方が少なくありません。「完全に症状をなくす」よりも「症状と上手に付き合い、日常生活の質を高める」ことを目指します。
多くの場合、通院しながら仕事を続けられます。当院では夜間・土日も診療しておりますので、お仕事帰りやお休みの日にご来院いただけます。
はい。女性ホルモンの変動は心身の状態に影響を与えます。月経前症候群や月経前不快気分障害(PMDD)では、生理前に身体症状(腹痛・頭痛・むくみ)と精神症状(イライラ・抑うつ)が現れます。なお、PMDD(月経前不快気分障害)はDSM-5では「抑うつ障害群」に分類される精神疾患であり、心身症とは異なる概念です。更年期の症状もストレスと関連して悪化することがあります。
はい。「この程度」と思っている症状でも、長期間続くことで生活の質に影響します。早めにご相談いただくことで、重症化を防ぐことができます。
全く異なります。心身症は身体に実際の症状が現れる、医学的に認められた疾患です。「気のせい」では片づけられない、治療が必要な状態です。
これらは独立した疾患概念ですが、心理社会的要因が症状の経過に影響することがあり、心身医学的なアプローチが有効な場合があります。
08関連する疾患
関連コラム
09参考文献
- DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2022/日本語版: 医学書院, 2023)
- ICD-11 国際疾病分類 第11版(World Health Organization, 2022)
- 日本心身医学会「心身症の定義と診断基準」(1991, revised)
- 日本心身医学会「心身症診断・治療ガイドライン 2006」
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト


