01心身症とは
心身症は、ストレスなどの心理社会的な要因が、頭痛・腹痛・動悸・喘息・高血圧などの身体症状の発症や悪化に深く関わっている状態の総称です。内科で治療を続けても改善しない場合は、心療内科へのご相談をおすすめします。身体治療と並行して心のケアを行うことで、多くの方が症状の改善を実感されています。日本心身医学会では「身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義されています。
心身症は非常に身近な病態です。内科外来を受診する患者さんの約30〜40%に、心理社会的要因が関与しているとの報告があります。
心理・社会的なストレスに無自覚・無頓着な場合に発症・悪化することが多く、一般的な身体治療だけでは改善が難しいことがあります。
代表的な心身症には、以下のような疾患があります。
- 過敏性腸症候群(IBS)検査で異常が見つからないのに、腹痛や下痢・便秘を繰り返す
- 本態性高血圧ストレスにより血圧が上昇する
- 緊張型頭痛・片頭痛ストレスや緊張で頭痛が起こる
- 機能性ディスペプシア胃もたれや胃痛が続く
- アトピー性皮膚炎ストレスで悪化しやすい
- 慢性疼痛原因不明の慢性的な痛みが続く
- 気管支喘息精神的なストレスで発作が起きやすくなる
なお、うつ病や統合失調症は明らかな精神疾患であり、心身症とは定義されません。ただし、うつ病の身体症状として頭痛や下痢を伴うことはあります。
02こんな症状はありませんか?
以下の項目に心当たりがある場合、心身症の可能性があります。
体の症状
- 頭痛や肩こりが慢性的に続いている
- 腹痛・下痢・便秘を繰り返す(特に緊張場面で悪化する)
- 胃もたれや胃痛があるが、検査では異常がない
- 動悸・発汗・呼吸の苦しさを感じることがある
- めまいやふるえが起こる
- 皮膚の症状(湿疹・かゆみ)がストレスで悪化する
- 原因不明の痛み(腰痛・関節痛など)が続いている
ストレスとの関連
- 仕事や人間関係のストレスがあると症状が強くなる
- 休日や旅行中は症状が軽くなる
- 内科を受診したが「異常なし」「ストレスでしょう」と言われた
- いくつもの病院を回っても改善しない
- 自分にストレスがかかっている自覚がない
このチェックリストは診断を確定するものではありません。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
03心身症はなぜ起こるのか
心身症は、心理的ストレスが自律神経系・内分泌系・免疫系を介して身体に影響を及ぼすことで発症します。その仕組みは「脳腸相関」に代表される、心と体の密接なつながりに基づいています。
ストレス反応の仕組み
脳がストレスを感知すると、HPA軸(視床下部—下垂体—副腎軸)が活性化し、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が増加します。同時に自律神経のバランスが崩れ、交感神経が優位な状態が続きます。この結果として、以下のような身体の変化が起こります。
- 筋緊張の持続(頭痛・肩こり)
- 腸管運動の異常(下痢・便秘)
- 免疫機能の低下(皮膚症状・感染しやすさ)
- 血圧や心拍数の上昇(高血圧・動悸)
- 炎症性サイトカインの増加(慢性痛・疲労感)
脳腸相関(脳と腸のつながり)
脳と腸は自律神経を通じて密接につながっています。脳がストレスを感じると、自律神経が乱れ、腸の運動や知覚が過敏になります。逆に、腸の不調が続くと脳が不安や抑うつ状態に引きずられることがあります。これが「心身のループ」です。過敏性腸症候群(IBS)は、この脳腸相関の典型的な例です。
身体的苦痛と精神的苦痛の相関
研究によれば、脳の中では「身体の痛み」と「心の痛み」は類似した回路で処理されることがわかっています。前部帯状皮質(ACC)は、身体的苦痛と社会的苦痛の両方で活性化します。精神的なストレスがあると、痛みの閾値が下がり、わずかな痛みでも強く感じやすくなるのです。
心身症になりやすい方の特徴
自分のストレスに気づきにくい方、感情を言葉にするのが苦手な方(アレキシサイミア傾向)は、ストレスが身体症状として現れやすいことが知られています。真面目で責任感が強く、弱音を吐けないタイプの方に多い傾向があります。
04心身症はどう治療するのか
心身症の治療では、身体症状への対処と心理的ストレスへのアプローチを並行して行います。「体の治療」だけでも「心の治療」だけでも不十分であり、両面からの統合的なケアが必要です。
身体症状への対処
まず、身体症状そのものに対する治療を行います。頭痛には鎮痛薬、腸症状には整腸剤や腸の動きを調整する薬、血圧には降圧薬などを用います。ただし、心理的な背景に取り組まない限り、症状は再発しやすくなります。
ストレスケア・心理療法
- 認知行動療法(CBT)ストレスと症状の関係に気づき、ストレスへの対処法を修正します。不安のループに気づいて行動を変えていく方法です
- マインドフルネス「今この瞬間」に注意を向け、身体感覚や痛みとの関係性を変容させます。過去への拘泥(うつ的思考)や将来への不安を軽減する効果があります
- 自律訓練法全身の弛緩訓練を通じて、自律神経のバランスを整えます
- リラクゼーション法筋肉の弛緩により、脈拍や血圧、呼吸を安定させ、不安や緊張をコントロールします
薬物療法(補助的役割)
不安や抑うつが身体症状を悪化させている場合、少量の抗不安薬や抗うつ薬(SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)等)が身体痛と精神症状の両方に効果を発揮することがあります。ストレスホルモンや自律神経の乱れを調整する目的で用いられます。
生活習慣の改善
心身症の改善には日常生活の見直しも重要です。
- 睡眠の確保睡眠不足は自律神経・ホルモン・免疫のすべてに悪影響を及ぼします。規則正しい睡眠が身体症状の改善につながります
- 適度な有酸素運動ウォーキングやストレッチなどの有酸素運動がうつ症状の軽減に効果的です。過度な筋力トレーニングは逆効果になることがあります
- カフェイン・アルコールの調整自律神経への刺激を減らします
- ストレスコーピング(ストレスへの対処法)自分に合ったストレス対処法をいくつか用意しておくことが大切です
05銀座泰明クリニックの治療方針
当院では、心身症の治療において以下の方針を大切にしています。
精神保健指定医・精神科専門医による診察
精神保健指定医・精神科専門医が診察を担当します。身体症状の背景にあるストレスや心理的要因を専門的に評価します。「検査で異常がないのに症状がある」方の受診を歓迎します。
じっくりとお話を伺います
ストレスに気づきにくい方こそ、ゆっくりとお話を伺うことが治療の第一歩です。
通いやすい診療体制
夜間・土日も診療しており、働きながら通院される方にも対応しています。
保険診療で受診できます
初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。
また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。
「気のせい」「我慢すべき」と思わず、心と体の両方に耳を傾けることが改善の第一歩です。
06ご家族・周囲の方へ
心身症は「検査で異常がない」ために、周囲から理解されにくいことがあります。ご家族や職場の方に知っていただきたいことをまとめました。
接し方のポイント
- 「気のせい」「甘え」と言わない心身症は医学的に認められた疾患であり、本人の身体的苦痛は本物です
- ストレスの原因を一緒に探さない「何がストレスなの?」と問い詰めると、かえって負担になります。本人が自分のペースで気づくことが大切です
- 通院を応援する心療内科や精神科への受診に抵抗を感じる方も多いため、「体のことも相談できるよ」と伝えると受診しやすくなります
- 職場では環境調整の配慮を過敏性腸症候群の方であれば「トイレにすぐ行ける環境」を確保するなど、小さな配慮が症状を大きく和らげます
- 回復を焦らない心身症の改善には時間がかかることがあります。長期的な視点で見守ってください
07よくあるご質問
はい。心身症はストレスが身体症状に関わる疾患であり、精神科・心療内科で診療を行います。「検査で異常がないのに症状が続く」とお悩みの方こそ、お気軽にご相談ください。
重なる部分はありますが、同じではありません。自律神経失調症は自律神経のバランスの乱れによる症状群を指しますが、心身症は「身体疾患のうち、ストレスが発症や経過に大きく関与するもの」を指す概念です。過敏性腸症候群や緊張型頭痛は両方に該当しうる疾患です。
心身症はストレスに「無自覚」な場合に発症しやすいという特徴があります。ご自身ではストレスを感じていなくても、心身が負担を抱えていることがあります。診察で一緒にストレスの有無を確認していきましょう。
内科治療で改善が見られない場合、ストレスや心理的要因が関わっている可能性があります。内科の治療を続けながら、精神科を併診することで改善するケースも多くあります。
はい。過敏性腸症候群は心身症の代表的な疾患です。脳と腸が自律神経を通じてつながっており(脳腸相関)、ストレスが腸の症状を引き起こします。身体面と心理面の両方からアプローチすることが効果的です。
身体症状への対症療法だけでは、根本的な改善につながりにくい場合があります。ストレスへの気づきと対処法を身につける心理療法や生活習慣の改善を並行して行うことが大切です。
症状や背景により個人差がありますが、ストレスへの対処法を身につけることで徐々に改善していく方が多いです。「完全に症状をなくす」よりも「症状と上手に付き合い、日常生活の質を高める」ことを目指します。
多くの場合、通院しながら仕事を続けられます。当院では夜間・土日も診療しておりますので、お仕事帰りやお休みの日にご来院いただけます。
はい。女性ホルモンの変動は心身の状態に影響を与えます。月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)では、生理前に身体症状(腹痛・頭痛・むくみ)と精神症状(イライラ・抑うつ)が現れます。なお、PMDD(月経前不快気分障害)はDSM-5では「抑うつ障害群」に分類される精神疾患であり、心身症とは異なる概念です。更年期の症状もストレスと関連して悪化することがあります。
はい。「この程度」と思っている症状でも、長期間続くことで生活の質に影響します。早めにご相談いただくことで、重症化を防ぐことができます。
全く異なります。心身症は身体に実際の症状が現れる、医学的に認められた疾患です。「気のせい」では片づけられない、治療が必要な状態です。
これらは独立した疾患概念ですが、心理社会的要因が症状の経過に影響することがあり、心身医学的なアプローチが有効な場合があります。
08関連する疾患
関連コラム
09参考文献
- DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2013)
- ICD-11 国際疾病分類 第11版(World Health Organization, 2022)
- 日本心身医学会「心身症の定義と診断基準」(1991, revised)
- 日本心身医学会「心身症診断・治療ガイドライン 2006」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット


