01双極症(躁うつ病)とは

双極症(躁うつ病)は、気分が高揚する躁状態と、気分が深く沈むうつ状態を繰り返す精神疾患です。気分の波が大きく、仕事や人間関係に支障が出ている場合は、早めの受診をおすすめします。気分安定薬を中心とした薬物療法と心理教育を継続することで、多くの方が安定した生活を送れるようになります。

躁状態とうつ状態という対照的な気分エピソードを繰り返すことが特徴で、脳の構造・機能・神経伝達物質の変調が背景にあると考えられています。

大きくI型(重度の躁状態を伴う)とII型(軽躁状態を伴う)に分けられます。I型の生涯有病率は約1%、II型を含めた双極スペクトラムでは約2〜4%とされています。10代後半から20代での発症が多い疾患です。

特にII型では、生涯の半分以上をうつ状態で過ごすことがあるとされています(Judd et al., J Clin Psychiatry, 2003)。そのため、うつ病と診断されていた方が、実は双極症であったと判明するケースも少なくありません。

うつ病との鑑別が非常に重要で、治療薬が異なるため、正確な診断が欠かせません。


02こんな症状はありませんか?

以下のような症状が交互に現れる場合、双極症の可能性があります。

躁状態・軽躁状態の症状

  • 睡眠時間が短くても平気だと感じる
  • 口数が増え、話が止まらなくなる
  • 次々とアイデアが浮かび、活動が増える
  • 高額な買い物や投資をしてしまう
  • イライラしやすく、怒りっぽくなる
  • 自分には何でもできると感じる

うつ状態の症状

  • 何をしても楽しくない、興味がわかない
  • 気分が深く沈み、絶望感を覚える
  • 疲れやすく、からだが動かない
  • 眠れない、または眠りすぎる
  • 自分を責める気持ちが強くなる
  • 「消えてしまいたい」と思うことがある

躁状態のとき、ご本人は「調子がよい」と感じていることが多く、病気の自覚がないことが特徴です。ご家族からの情報が診断の手がかりになります。

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03双極症はなぜ起こるのか

双極症は遺伝的要因が比較的強い精神疾患の一つとされています。しかし、特定の遺伝子だけで発症するのではなく、多くの遺伝子と環境要因が複合的に関与します。

脳の機能とネットワークの変化

双極症では、感情を調整する脳の回路に変化が見られます。

  • 前頭前野(感情制御・意思決定を担う)の機能低下により、衝動的な行動が起きやすくなります。
  • 扁桃体(恐怖や不安を処理する)の過活動により、感情刺激に過敏に反応します。
  • 前頭前野と扁桃体をつなぐ回路のバランスが不安定になることで、感情の振れ幅が大きくなります。

神経伝達物質の関与

  • ドーパミン:躁状態ではドーパミン機能が亢進し、過剰なエネルギー感が生じます。うつ状態では機能が低下します。
  • セロトニン:気分の急激な変動に、セロトニン系の調整不全が関わると考えられています。
  • ノルアドレナリン:覚醒レベルやストレス応答の制御に関わり、躁・うつ双方の症状に影響します。

生活リズムの乱れが引き金に

双極症では体内時計の乱れが気分エピソードの引き金になると考えられています。再発の多くは、睡眠の乱れやストレスがきっかけになるとされています。


04双極症はどう治療するのか

双極症はうつ病とは治療法が異なります。抗うつ薬単独での治療は躁状態を誘発するリスクがあるため、気分安定薬を中心とした治療が基本です。

薬物療法

気分の波を穏やかにする気分安定薬が治療の柱です。

  • リチウム:躁状態にもうつ状態にも効果があり、再発予防にも用いられます。定期的な血中濃度の測定が必要です。
  • バルプロ酸:気分の波を安定させます。気分の波が短い周期で繰り返される場合(急速交代型)にも検討されることがあります。
  • ラモトリギン:主にうつ状態の再発予防に有効とされています。
  • 非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなど):躁状態やうつ状態の急性期の症状緩和に用いられます。

服薬を自己判断で中断すると再発リスクが高まります。「寛解」(症状がおおむね消失した状態)の維持を目標に、主治医と相談しながら治療を続けましょう。

精神療法・心理教育

  • 心理教育:病気の仕組みや再発のサインを学び、自己管理力を高めます。
  • 対人関係・社会リズム療法(IPSRT):生活リズムの安定と対人関係の改善を目指します。双極症に特化した精神療法です。
  • 認知行動療法:思考パターンを見直し、再発予防に役立てます。

セルフケア・再発予防

双極症では5つの柱によるセルフケアが重要です。

  • 服薬管理:気分安定薬の継続が安定の土台です。
  • 睡眠管理:毎日同じ時刻に寝起きし、概日リズムを整えます。
  • ストレス管理:過度な負荷を避け、適度な休息を取ります。
  • 気分モニタリング:気分の変動を記録し、躁やうつの早期サインに気づきます。
  • 生活の構造化:食事・活動・休息の時間を一定に保ちます。

治療の見通し

双極症は生涯にわたる治療の継続が重要です。治療の目標は「完治」ではなく、気分の波を穏やかにし、安定した日常生活を維持する「寛解」の持続です。早期介入と継続的な治療が、安定した日常生活の維持につながります。


05銀座泰明クリニックの治療方針

当院では、双極症の正確な診断と、お一人おひとりに合った治療計画をご提案しています。

精神保健指定医・精神科専門医による丁寧な診断

精神保健指定医・精神科専門医が診察を担当します。うつ状態だけでなく、過去の躁状態・軽躁状態の有無を丁寧に聴取し、双極症の見逃しを防ぎます。「診察の9割は、患者さんにお話しいただく時間です」

通いやすい診療体制

夜間・土日も診療しており、継続的な通院がしやすい環境を整えています。

保険診療で受診できます

初診は約2,500〜3,000円、再診は約1,500円が目安です(3割負担の場合)。

また、自立支援医療制度(精神通院医療)を利用すると、自己負担が1割に軽減されます。詳しくはお問い合わせください。

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06ご家族・周囲の方へ

双極症では、ご本人が躁状態の異常に気づきにくいため、ご家族の観察と協力が回復にとって非常に重要です。

接し方のポイント

  • 躁状態のサインに注意する:睡眠時間の減少、口数の増加、浪費傾向など、いつもと違う変化に気づいたら早めに主治医にご相談ください。
  • 批判や過干渉を控える:高い批判(高EE環境)は再発リスクを高めるとされています。穏やかに見守る姿勢が大切です。
  • 服薬の中断に注意する:「もう大丈夫」と感じた時こそ、服薬の継続が重要です。ご本人を責めずに、主治医への相談を勧めてください。
  • 金銭管理への配慮:躁状態では浪費が起きやすいため、クレジットカードの管理などを事前に話し合っておくことも一案です。
  • ご家族自身のケアも忘れずに:気分の波に付き合うことは、ご家族にとっても大きな負担です。相談窓口やご自身の時間を大切にしてください。

07よくあるご質問

双極症(躁抑うつ症(うつ病))は改善しますか?

適切な薬物療法と生活リズムの安定により、症状をコントロールし、安定した日常生活を送ることが期待できます。治療目標は「寛解」の持続です。

抑うつ症(うつ病)と診断されていますが、双極症(躁抑うつ症(うつ病))の可能性はありますか?

うつ状態で初診される方が多く、初期には抑うつ症(うつ病)と診断されることがあります。過去に「異常に調子がよかった時期」がある場合は、医師にお伝えください。抗うつ薬が効きにくい場合も、双極症(躁抑うつ症(うつ病))の可能性を検討することがあります。

薬はずっと飲み続ける必要がありますか?

再発予防のため、長期間にわたり気分安定薬の服用を続けることが推奨されます。服薬を自己判断で中断すると、再発リスクが大きく高まります。減薬の判断は主治医と慎重に相談してください。

リチウムの副作用が心配です。

リチウムは有効な治療薬ですが、定期的な血液検査で血中濃度を管理することが必要です。手の震え、口の渇き、体重増加などが現れることがありますが、適正な濃度を維持することで安全に使用できます。

躁状態のとき、本人に自覚はありますか?

多くの場合、ご本人は「調子がよい」と感じており、病気の自覚がありません。周囲の方からの情報が診断の重要な手がかりになります。

仕事は続けられますか?

症状が安定していれば、仕事を続けることは十分に可能です。ただし、過度なストレスや不規則な生活は再発のリスクとなるため、無理のない働き方を主治医と相談しましょう。

躁状態で浪費してしまった場合は?

躁状態では判断力が低下し、高額な買い物や衝動的な投資をしてしまうことがあります。回復後に後悔される方が少なくありません。事前にご家族と金銭管理のルールを決めておくことが有効です。

遺伝しますか?

双極症(躁抑うつ症(うつ病))は遺伝的要因が比較的強い疾患です。ただし、特定の遺伝子だけで発症するわけではなく、多くの遺伝子と環境要因の組み合わせによります。ご家族に双極症(躁抑うつ症(うつ病))の方がいても、必ず発症するわけではありません。

双極症(躁抑うつ症(うつ病))の治療中に妊娠は可能ですか?

妊娠・出産は可能ですが、気分安定薬の中にはバルプロ酸のように催奇形性のリスクが報告されているものがあります。妊娠を希望される場合は、事前に主治医とご相談いただき、リスクの低い薬剤への変更や治療計画の見直しを行うことが大切です。自己判断での服薬中止は再発のリスクがあるため避けてください。

この程度の症状でも受診してよいですか?

はい、もちろんです。「気分の波が激しい」「調子のよい時期と落ち込む時期がある」と感じたら、早めのご相談をおすすめします。


08関連する疾患

関連コラム


09参考文献

  • DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(American Psychiatric Association, 2013)
  • 日本うつ病学会治療ガイドライン I. 双極性障害 2023
  • CANMAT/ISBD Guidelines for the Management of Bipolar Disorder(Yatham et al., 2018, Bipolar Disorders)
  • NICE Bipolar disorder: assessment and management (CG185, 2023 updated)