
毎年、春になると眠らなくても平気になる。秋が深まると、今度は何もかもが億劫になる。カレンダーをめくるように調子が崩れることに気づき、偶然だろうかと感じている方がいるかもしれません。双極症(双極性障害)では、季節の変わり目や日照時間の変化に合わせて、気分の波が大きくなる方が一部にいます。春先に活動が上がりすぎて躁状態・軽躁状態に傾く経過も、秋から冬に沈み込む経過も、古くから知られています。
一方で、まったく季節差を感じない方もいます。季節よりも、生活リズムの乱れやストレスのほうが強い引き金になる方もいます。「春だから躁になる」「冬だからうつになる」と、単純には決めつけられません。自分の再発に季節がどう関わっているかは、数年単位で振り返ってはじめて見えてきます。
双極症では、睡眠・覚醒リズムや社会的リズムの乱れが病状と深く結びついています。季節の変化も、その延長線上にあると考えると整理しやすくなります。たとえば、次のような経過に心当たりはないでしょうか。
- 春先に眠らなくても平気になり、予定や発言が増える
- 秋から冬にかけて気分が沈み、過眠や過食、引きこもりが目立つ
- 季節の変わり目に焦燥・いらだち・不眠・落ち込みが混ざる
- 家族から「毎年この時期に崩れる」と言われたことがある
- 年度替わりや大型連休のたびに生活時刻が大きくずれる
双極症の季節変動は、季節そのものが原因ではありません。日照時間・睡眠・社会的リズムの変化に、脳が敏感に反応して気分の波が増幅される現象です。そう理解すると、打てる手が見えてきます。
双極症の季節変動とは
気分の波が季節で動くといわれても、ピンとこないかもしれません。双極症そのものは、一年中どの時期にも起こりうる病気だからです。それでも診察では、「春になると寝なくても平気で、予定を入れすぎる」という声をよく聞きます。「秋の終わりから急に億劫になる」という方も少なくありません。季節変動とは、季節に応じて躁・軽躁・うつ・混合状態が出やすくなることをいいます。気分の安定そのものが、崩れやすくなる状態です。
国際的な診断分類には、気分症(気分障害)の季節型という特定用語があります。毎年ほぼ同じ時期に同じ病相が現れ、他の時期には収まる経過を指します。双極症Ⅰ型でもⅡ型でもみられます。なかでもⅡ型のラピッドサイクラーや女性で季節性が目立ちやすいと報告されています。出方の個人差は大きく、毎年同じ月に崩れる方もいれば、数年おきに季節の癖が顔を出す方もいます。
どのような季節パターンがあるのか
では、崩れ方に型はあるのでしょうか。診察室でよく話題になるのは、次の三つです。
| パターン | 起こりやすい変化 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 春に躁・軽躁へ傾く | 睡眠時間の短縮、活動量の急増、予定の詰め込み、浪費、対人トラブル | 本人は「調子が良い」と感じやすく、受診が遅れやすい |
| 秋冬にうつへ傾く | 気分の落ち込み、過眠、過食(特に炭水化物や甘い物)、意欲低下、引きこもり | 「季節のせい」と片づけて受診を先延ばしにしやすい |
| 季節の変わり目に混合・不安定化 | 焦燥、いらだち、不眠、落ち込みと興奮が同時に出る | うつや不安だけに見えて双極症の波として気づかれにくい |
三つに共通するのは、本人が気づきにくいことです。特に春先は、日照時間の延長、年度替わり、新生活といった刺激が重なります。眠らなくても動ける感覚が強まり、本人は「調子が良い」としか感じません。この時期は自殺リスクも上昇することが、公衆衛生統計で繰り返し指摘されています。「元気そうに見える」時期ほど、注意が必要です。
なぜ起きるのか
カレンダーが直接、気分を動かすわけではないはずです。体の中で、何が季節を受け取っているのでしょうか。すべてが解明されているわけではありません。現在は、体内時計(概日リズム)、光、社会的リズム、遺伝的な感受性が絡み合って起こると考えられています。双極症の方は、もともと概日リズムの調整が繊細です。外界の変化に、揺さぶられやすい傾向があります。
1. 概日リズムと光
朝の光はメラトニンの分泌を止め、夕方以降の光は分泌を遅らせます。日照時間が大きく変わる時期には、この分泌や睡眠・覚醒のタイミングがずれやすくなります。そのずれが、気分の波を誘発しやすいと考えられています。春先、自然と早朝から光を浴びる時間が延びると、軽躁の方向へ振れる方がいます。逆に、日照の短い冬は抑うつの方向へ傾きやすくなります。
2. 社会的リズムの変化
光だけでは説明のつかない崩れ方もあります。連休明けの不調が、その典型です。起床、通勤通学、食事、仕事、対人交流といった時刻の構造を社会的リズムと呼びます。年度替わり、入学・就職・異動、長期休暇、帰省などでこのリズムが大きく崩れると、病相が動きやすくなります。双極症の心理社会的治療である対人関係・社会リズム療法も、このリズムを整えて再発予防を目指す方法です。
3. 遺伝と個人差
家族から「親も同じ時期に調子を崩していた」と聞いたことがある方もいるでしょう。双極症では、概日リズムに関わる遺伝子の個人差が病状と関連する可能性が研究されています。高緯度の地域ほど季節性が強く出やすいことも知られています。家族内で似た季節パターンがみられることと合わせて、生物学的な素因を示唆する所見です。ただし、遺伝は「決まり」ではありません。リズムに弱いタイプの方ほど、生活環境の整え方で波を小さくできる余地が大きいと考えるのが実際的です。
季節性うつ病との関係
秋冬の落ち込みだけを自覚している方は、「冬季うつではないか」と調べてこられたかもしれません。秋冬に抑うつが強まり、春に軽くなる経過は、季節性うつ病(冬季うつ)として知られています。これは抑うつ症(うつ病)の季節型です。ただ、双極症Ⅱ型の冬のうつとの見分けは、実はそれほど簡単ではありません。冬のうつに続いて、春から初夏に軽躁状態が出る方がいます。その場合、双極症Ⅱ型の季節型として診断が書き換えられることがあります。
両者を分けるのは、軽躁や躁の時期があるかどうかです。過去に「数日以上、眠らなくても平気だった」時期はなかったか。「急に発言が増え、浪費や大きな決断をした」ことはなかったか。家族の目も借りて振り返ることが、診断の手がかりになります。冬のうつを繰り返している方は、双極症の可能性も含めて評価することが望ましい場合があります。
見分ける際には、薬や体の要因も確認します。甲状腺機能の季節変化、花粉症治療薬やステロイドの使用、アルコール量の季節差、生活時刻の大幅な変更などです。「季節のせい」と決めつける前に、背景をていねいに確かめていきます。
治療と日常の工夫
毎年ほぼ同じ時期に崩れるなら、先回りして待ち構えることはできないのでしょうか。できます。基本になるのは、気分安定薬を土台にしながら、季節に左右されにくい生活リズムを前もって整えることです。自分の季節ごとの癖を知っておくと、変化の入り口に早く気づけます。「春に活動量が増えてきた」「冬に眠りすぎている」といった段階です。
1. 気分安定薬と季節先取り
薬物療法の中心は、リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンなどの気分安定薬です。一部の非定型抗精神病薬を組み合わせることもあります。季節変動がはっきりしている方には、もう一歩先の使い方があります。崩れやすい時期の少し前から、主治医と相談して用量やモニタリングを調整する「季節先取り」です。リチウムは、季節や体調で血中濃度が動きやすい薬です。必要に応じて、採血の頻度を増やすこともあります。自己判断で薬を増減せず、増やすのも減らすのも必ず主治医と一緒に決めてください。
2. 光と睡眠
双極症のうつ相には、高照度光療法が補助的に検討されることがあります。近年のメタ解析でも、中等度の改善効果が報告されています。ただし、単独で使うと躁転のおそれがあります。気分安定薬を使いながら、午前中に短時間から、主治医の指示のもとで始めるのが一般的です。軽躁や混合状態の時期、睡眠が極端に短い時期には、基本的に適しません。市販の光療法器を自己判断で使わず、必ず主治医に相談してください。
睡眠面で最も基本になり、しかも強力なのは、毎日の起床時刻を一定に保つことです。寝つきや中途覚醒、総睡眠時間に加えて、「眠らなくても平気な感覚があるか」を記録してみてください。この感覚は、躁転の早期発見に役立つ手がかりです。
3. 生活リズムの調整
起床、食事、服薬、外出、入浴、就寝前の習慣を、季節で大きく崩さないことが土台になります。春先や秋口は、予定の詰め込みを避けます。連休や旅行の前後は、睡眠と服薬の時刻をとくに守ります。気分チャートや睡眠・覚醒リズム表も役立ちます。自分の季節パターンを1年単位で見える化すると、次の波に備えやすくなります。
通院が長く続く場合は、自立支援医療(精神通院医療)で医療費の自己負担を軽減できます。治療を続けやすくするための制度です。主治医や精神保健福祉相談窓口で情報を得てください。
家族や周囲の方へ
季節の変化に最初に気づくのは、ご本人とは限りません。家族や職場の方が先、ということがよくあります。軽躁や躁の時期は、暮らしの中に手がかりが出ます。いつもより元気で、話が止まらない。夜中まで活動している。突然、大きな買い物や決断をしようとする。困るのは、本人が好調と感じていることです。正面から止めようとすると反発されやすく、関係が悪化することがあります。
役に立つのは、日頃から「毎年この時期に崩れやすい」という情報を家族の間で共有しておくことです。気になる変化が出たときは、責めずに事実を伝えてください。そのうえで、主治医への連絡や受診への同行を提案します。うつ相では逆に、活動量の低下や希死念慮のサインを見逃さないことが支えになります。静かに、声をかけ続けてください。
早めに相談したいサイン
- 数日で睡眠時間が大きく減っているのに、本人は「元気すぎる」と感じている
- アイデアが次々浮かび、仕事・勉強・交流サイト・買い物・予定の詰め込みが増えている
- 秋冬になると毎年のように過眠、引きこもり、過食、希死念慮が強まる
- 季節の変わり目に不安、焦燥、怒りっぽさ、不眠が重なり、落ち込みと興奮が混ざっている
- 家族から「毎年この時期に同じように崩れる」と言われた
双極症で命の危険が高まるのは、うつ状態の時期だけではありません。混合状態や焦燥の強い時期も自殺リスクが高いことが知られています。「季節のせい」として済ませず、病状の再燃として早めに主治医へ相談してください。切迫した危険があるときは、次の窓口も利用できます。
- よりそいホットライン(厚生労働省補助事業):0120-279-338(24時間・通話料無料)
- いのちの電話:0570-783-556(毎日10時〜22時)/フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(各自治体の相談窓口につながる)
よくある質問
双極症は必ず季節で波が出ますか?
いいえ。季節性が目立つ方は一部で、まったく季節差を感じない方も多くいます。ただ、数年分を振り返ると、本人も気づいていなかった傾向が見えてくることがあります。「毎年この時期に睡眠が短くなる」「冬に気力が落ちる」といった癖です。気分チャートや睡眠の記録が手がかりになります。
冬うつが毎年出ます。双極症の可能性はありますか?
あります。冬季うつを繰り返す方の一部では、春から初夏にかけて軽躁状態がみられます。その場合、双極症Ⅱ型の季節型として診断が整理されることがあります。過去に「数日以上、眠らなくても平気だった」時期はなかったでしょうか。家族の目も借りて、発言や予定が急に増えた時期がないか振り返ってみてください。
光療法は双極症でも受けられますか?
うつ相に対して補助的に検討されることはあります。ただし、単独で使うと躁転のおそれがあるため、条件があります。必ず気分安定薬を使いながら、主治医の指示のもとで行うことです。市販の光療法器を自己判断で使うのは避け、気になるときは診察の際に相談してください。
まとめ
毎年、カレンダーをめくるように調子が崩れる。もしそう感じているなら、それは偶然ではないかもしれません。季節変動の出方には個人差が大きく、全員に当てはまるわけではありません。ただ、季節そのものより、日照・睡眠・社会的リズムの変化が病状を揺らすという見方のほうが、現実に即しています。毎年同じ時期に崩れる傾向があるなら、備え方があります。主治医と一緒に、その時期の対策を前もって立てておくことです。「春は危ない」「冬は落ち込みやすい」と知っていること自体が、この病気と長く付き合ううえでの強みになります。

