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気分症群 (6A6-6A8)

双極症(躁うつ病)について

躁うつ病(双極症)の気分の波をイメージしたビジュアル

うつ病の治療を続けているのに、なかなか良くならない。ふり返れば、眠らなくても平気なほど元気な時期があった。この二つが重なるとき、視野に入れたい病気があります。

「躁うつ病」は、現在の診断名では双極症(双極性障害)と呼ばれます。気分が大きく高ぶる躁状態・軽躁状態と、動けないほど落ち込むうつ状態をくり返す病気です。波の影響は気分にとどまらず、生活、仕事、お金、人間関係、睡眠にまで及びます。

この病気のむずかしさは、高ぶりの側にあります。躁状態の本人は、気分が晴れ、何でもできる気がします。眠らなくても平気になり、次々と予定を入れ、話が止まらなくなります。それは本人には、不調どころか絶好調として感じられます。だからこそ、本人がそれを病気だと感じにくいのです。その間に、できない約束、過大な買い物や投資、人間関係の衝突が積み重なります。次のような時期に、心当たりはないでしょうか。

  • 眠らなくても平気で、話し続けたり予定を詰め込んだりする時期がある
  • 気分が大きく落ち込み、何をしても楽しめず、動けない時期もある
  • 勢いのある時期に、浪費、借金、対人トラブル、無謀な契約が起きる
  • うつ病として治療しても改善が乏しく、かえって波が目立つことがある
  • 気分の波が人生の大きな決定(転職、転居、離別、投資)に影響する
  • ご家族から「いつものあなたではなかった」と言われた時期がある

こうした出来事は、性格や努力の問題として片づけられがちです。しかし双極症は、本人の性格や努力不足で起きる病気ではありません。国立精神・神経医療研究センターは、日本での双極症の頻度をおよそ0.4〜0.7%と紹介しています。珍しい病気ではない、ということです。気分の波が病気として現れていないか。治療で小さくできないか。そう考えてみることが、人生を守る大切な一歩になります。

躁うつ病(双極症)とは

誰にでも、気分の浮き沈みはあります。では、どこからが病気なのでしょうか。双極症の波は、一時的な気分転換の範囲を超えています。目印のひとつは、本人の実感の変わり方です。躁状態の本人は「本来の自分に戻った」と感じやすくなります。「今こそ能力を発揮できている」という手応えさえあります。そのため、周囲からの心配や助言を受け入れにくくなります。うつ状態に入ると、今度は意欲や集中力が大きく下がります。自分を責め、何もできないように感じるかたも多くいます。この落差が大きいほど、日常生活は揺さぶられやすくなります。

つらさの正体は、高い低いの行き来そのものではありません。躁の時期の言動が、波が去ったあとに残ることです。勢いで引き受けた仕事、無理な買い物や投資、強すぎる発言。対人関係の衝突が、あとから大きな後悔と抑うつにつながります。ジェットコースターのようだと表現されるのは、この振れ幅の激しさと、影響の大きさのためです。

国際的な診断分類 ICD-11 は、この波の現れ方で病気を整理しています。躁病エピソードを伴う双極I型。軽躁エピソードとうつエピソードを繰り返す双極II型。軽い気分の波が長く続く気分循環症。この三つが「双極症群」としてまとめられています。どれも、気分の波が生活の質や対人関係、安全に影響し得る点で共通しています。いずれも、適切な評価と治療が必要です。

双極症は、「気分屋」でも「性格が激しい人」でもありません。脳と心、生活リズム、ストレス、人間関係が重なって起こる病気です。適切な治療を続けることで、波を小さくしていける可能性があります。

気分の波の大きさを示すイメージ図

躁状態・軽躁状態・うつ状態の違い

躁状態・軽躁状態

「調子がいい」と「躁状態」は、どこで見分ければよいのでしょうか。躁状態では、次のような変化がいくつも重なって現れます。

  • 睡眠時間がかなり短くても疲れを感じにくい
  • 話し続ける、会話に割り込む、考えが次々に飛ぶ
  • 自信が過剰に高まり、根拠のない大きな計画を立てる
  • 買い物、投資、ギャンブル、交際などで歯止めがききにくくなる
  • 怒りっぽくなり、説教や口論が増える
  • 仕事や約束を増やし過ぎ、現実的な判断がむずかしくなる

軽躁状態は、躁状態より一段軽い高ぶりです。ただ、軽いからこそ見つかりにくい、という問題があります。本人にも周囲にも「最近すごく調子がいい」と見えるからです。仕事もはかどるため、誰も病気だとは思いません。その間に、睡眠が減り、言動が速くなり、金銭感覚が荒くなります。周囲とぶつかることも増えていきます。こうした変化が続くなら、単なる性格や気分の問題とは限りません。しかも軽躁の時期には、生活上の重大な決定を勢いでしてしまいやすいのです。転職、転居、離別、大きな契約。波が去ったあとに、動かせない現実だけが残ることがあります。

うつ状態

高ぶりの時期が去ると、多くの場合、深い落ち込みがやってきます。気分が沈み、何をしても楽しめず、疲れやすくなります。朝がつらく、頭が働かず、自分を責める気持ちが強まります。死にたい気持ちが強くなることもあります。見た目には、うつ病のうつ状態とよく似ています。しかし、背景に躁状態や軽躁状態があるため、治療の考え方は同じではありません。とくに注意したいのは、躁状態のあとの時期です。気分がつらいのに焦りだけが強いとき、自殺の危険が高まることがあり、慎重な対応が必要です

混合状態

「躁」か「うつ」か、どちらかに割り切れない時期もあります。気分は苦しいのに、落ち着かず、焦り、いらいらし、考えが止まらない。両方の要素が混ざったこの状態を、混合状態と呼びます。本人はとてもつらいのに、周囲には「元気がある」ように見えることがあります。そのため、見逃されやすい状態です。混合状態については、躁うつ混合状態についての記事もあわせてご覧ください。

双極I型と双極II型の違い

双極症には、大きく分けて双極I型双極II型があります。分かれ目は、高ぶりの強さです。双極I型では、生活に大きな支障が出るほどの躁状態を経験します。眠らずに動き続ける。浪費や借金を重ねる。判断が暴走する。入院を検討するほど、勢いが強くなることもあります。双極II型では、そこまで重い躁状態は起こりません。軽躁状態とうつ状態を繰り返すことが特徴です。

では、II型は「軽い双極症」なのでしょうか。そう誤解されることがありますが、実際は違います。II型ではうつ状態の期間が長く、自殺のリスクも決して低くないことが知られています。軽躁の時期は「最近調子がいい」としか見えません。そのため病気と気づかれないまま、長く深いうつ状態に苦しむかたが少なくないのです。軽躁があったかどうかを、丁寧にふり返ること。それが適切な治療につながる第一歩です。また、気分の波が年に4回以上くり返す場合は急速交代型と呼ばれます。治療の組み立てや生活リズムの安定化に、特別な配慮が必要になります。

双極I型と双極II型のほかに、よりゆるやかな気分の波が慢性的に続く気分循環症もあります。詳しくは気分循環症についての記事をご覧ください。

気分の波が生活上の出来事に影響することを示すイメージ図

うつ病との違い

双極症のかたの多くは、うつ状態の時期に受診します。最初の診断が「うつ病」になりやすいのは、そのためです。落ち込んでいる時点だけを見れば、両者はよく似ています。診断を分けるのは、いまの症状ではなく過去です。躁状態や軽躁状態があったかどうかで、診断も治療も変わります。次のような特徴がある場合には、双極症の可能性を考えます。

  • 過去に寝なくても元気で活動的だった時期がある
  • 急に自信満々になり、計画を詰め込みすぎることがあった
  • 買い物、投資、交際などで「やり過ぎた」時期がある
  • 家族から「いつものあなたではなかった」と言われたことがある
  • 抗うつ薬で落ち着かず、むしろ気分の波が目立ったことがある

うつ症状だけを見て治療すると、十分に改善しないことがあります。かえって気分の波が目立ってしまう場合もあります。受診の際には、落ち込んだ時期の話だけでは足りません。過去に「調子が良すぎた」時期についても、医師に伝えることが大切です。本人は好調だった時期を「問題」として覚えていないことが多いのです。ご家族や身近な人の観察が、手がかりになることも少なくありません。うつ病の解説もあわせてご覧いただくと、違いを整理しやすくなります。

原因は一つではありません

気分の波に苦しむ本人ほど、「自分の性格のせいだ」と考えがちです。しかし、双極症は、本人の甘えや性格の問題で起こる病気ではありません。遺伝的なかかりやすさ、脳の働き方、睡眠と体内時計の乱れ。強いストレス、生活上の変化、身体疾患や薬剤の影響。さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。「気合いで治す」「性格を直せばよい」という話ではないのです。必要なのは、医学的な評価と継続的な治療です。

要因のなかでも、睡眠と生活リズムは双極症と深く結びついています。夜更かしや徹夜、時差のある出張、シフト勤務。こうしたきっかけで躁状態に転じる(躁転する)ことも知られています。女性では、産後の時期に発症や再発のリスクが高まることがあります。妊娠・出産を考えているかたは、早めに主治医と相談できると安心です。気分の波には日内変動季節変動がみられることもあります。記録に残して主治医と共有すると、治療の手がかりになります。

治療の基本

この波は、治療で小さくできるのでしょうか。双極症の治療には、薬物療法心理社会的支援という二つの柱があります。急性期の症状をおさめること。再発を防ぎ、日々の生活を立て直すこと。この両方を目指して、二つを組み合わせて進めます。基本の流れを、日本うつ病学会の双極症2023診療ガイドラインなどを参考に紹介します。

1. 安全の確保と評価

治療は、薬より先に、本人とご家族の安全の確保から始まります。強い躁状態による浪費や危険行為。重いうつ状態による死にたい気持ち。混合状態の強い焦り。緊急性が高い場合には、入院も含めた対応を検討します。あわせて、気分の波のパターン、睡眠、身体疾患、服薬歴を確認します。アルコールや薬物の使用、家庭や経済の状況まで丁寧に聞き取ります。そのうえで、診断と治療方針を組み立てていきます。

2. 薬物療法

双極症の薬の中心は、抗うつ薬ではありません。気分安定薬一部の抗精神病薬です。代表的な気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンがあります。躁状態、うつ状態、維持期のそれぞれで使い分けられます。なかでもリチウムは、再発予防に加えて自殺リスクの低減効果が複数の研究で示されています。双極症治療の中心的な薬剤のひとつです。ただし、血中濃度の管理や、甲状腺・腎機能のチェックが必要になります。定期的な診察と検査を続けながら使います。

薬ごとに、気をつける点があります。バルプロ酸は、躁状態や再発予防に用いられます。ただ、妊娠中に服用すると胎児への影響が報告されています。妊娠の可能性がある女性では、慎重に選択されます。ラモトリギンは、双極のうつ状態の維持治療に役立ちます。まれに重い皮疹が出ることがあるため、用量はゆっくり増やします。発疹などの変化があれば、早めに主治医に相談してください。

気分安定薬に加えて、第二世代抗精神病薬も用いられます。クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ルラシドンなどです。躁状態、うつ状態、維持期に応じて選ばれます。では、うつが目立つ時期に抗うつ薬は使わないのでしょうか。双極症で抗うつ薬を単独で使うと、気分の波を大きくすることがあります。そのためガイドラインでは、気分安定薬や抗精神病薬と組み合わせる形で、慎重に判断することが推奨されています。気をつけたいのは、調子がよくなったあとです。薬を自己判断で中断すると再発しやすくなることが知られています。やめどきも含めて、主治医と相談しながら続けることが大切です。

3. 心理社会的支援

では、薬さえ続ければ波はおさまるのでしょうか。薬とならんで、心理社会的な支援が再発予防と生活の安定に大きな役割を果たします。自分の波のパターンや早期サインを理解する心理教育。家族が関わり方を学ぶ家族焦点化療法。睡眠や活動のリズムを一定に保ち、波を小さくする社会リズム療法。考え方と行動のクセを整理する認知行動療法。いずれも、世界的に有効性が確かめられてきた方法です。

支援は、診察室の中だけにとどまりません。就労や学業、家計、家族関係など、生活全体をささえる必要もあるからです。産業医、職場、学校、福祉、行政の窓口と連携することもあります。また、波がおさまったあとも、集中力や判断力の不調が残ることがあります。詳しくは双極症(双極性障害)の認知機能障害についてをご覧ください。復職や復学の時期に、無理をしすぎないことが大切です。

4. 再発予防

双極症は、再発をくり返しやすい病気です。だからこそ、治療は症状がおさまってからも続けることが大切です。自分の早期サインと生活習慣を整えておくと、波が大きくなる前に対処しやすくなります。

  • 睡眠時間を大きく崩さない。夜更かしや徹夜を避ける
  • 服薬を自己判断でやめない。体調の変化は主治医と相談する
  • 買い物、飲酒、ギャンブル、SNSでの発信などが増えていないか振り返る
  • 「最近しゃべりすぎる」「予定を入れすぎる」など初期サインを記録する
  • 家族や支援者と、調子を崩したときの対応を事前に話し合っておく
  • アルコールやエナジードリンクのとりすぎは気分の波を大きくしやすい

この中でとくに力になるのが、自分の波のパターンを知ることです。眠らなくても平気になる。連絡や発信が急に増える。妙に自信が高まり、買い物が増える。こうした変化は、躁状態の始まりを示すことがあります。早めに気づいて受診や相談につなげることが、悪化を防ぐ近道になります。

家族や周囲の方へ

本人が躁状態に気づきにくい病気だからこそ、ご家族や周囲の気づきが力になります。ただし、伝え方には工夫が要ります。「おかしい」「また病気だ」と強く責めると、対立だけが深まりがちです。本人には、絶好調の自分を否定されたと聞こえてしまうからです。届きやすいのは、事実として起きている変化を落ち着いて共有する伝え方です。

  • 「最近ほとんど寝ていないように見える」
  • 「買い物や予定の入れ方がいつもより極端だ」
  • 「話す速さや怒りっぽさがいつもと違う」
  • 「受診や主治医への相談を一緒に考えたい」

評価や解釈ではなく、見えたことをそのまま伝える言い方です。支えるご家族自身も、疲れをためやすい立場にあります。精神保健福祉センター、保健所、家族会などの相談窓口を活用してください。一人で抱え込まないことが、支援を長続きさせます。

緊急時は迷わず相談してください。自殺をほのめかす。極端な浪費や危険行為がある。眠らずに興奮が続く。混合状態で強い焦りが続く。こうしたときは、ためらわずに医療機関や救急、いのちの電話、よりそいホットラインにご連絡ください。

家族や周囲の見守りの大切さを示すイメージ図

早めに相談したいサイン

  • 落ち込みをくり返すだけでなく、極端に活動的な時期がある
  • 寝なくても平気な時期がある
  • 気分の波に合わせて浪費や対人トラブルが増える
  • うつ病として治療しても改善が乏しい、あるいは薬でかえって落ち着かなくなった
  • 死にたい気持ち、希死念慮、自傷の危険がある
  • 家族から「性格が変わったようだ」と言われることがある

双極症は、早く気づいて適切な治療につなげるほど、生活の立て直しがしやすくなります。ご本人に受診の気持ちがまだなくても、ご家族が先に相談することに意味があります。気になる波があるときは、精神科・心療内科で相談してください。双極症の解説は双極症の診療ページもあわせてご覧ください。

よくある質問

双極症はうつ病とどう違うのですか?

うつ状態だけでなく、過去に躁状態や軽躁状態を経験している点が違います。落ち込みの症状だけを見ると、区別はつきにくいものです。寝なくても元気だった時期や、勢いで大きな決断をした時期がなかったか。うつ病として治療中でも、そこから双極症の可能性を一緒に検討します。治療薬の考え方が異なるため、できるだけ正確な見立てが大切です。

薬は一生飲み続けなければいけませんか?

一律には決まっていません。再発歴や症状の重さ、生活状況をふまえて、主治医と相談しながら決めます。双極症は再発しやすい病気のため、良くなったあとも一定期間は予防目的で服薬を続けることが一般的です。自己判断で中断すると、再発や自殺リスクが高まることが知られています。

働いたり学んだりしながら治療できますか?

多くのかたは、通院しながら仕事や学業を続けています。ただし、急性期には一時的に休養が必要になることもあります。復帰の際は、睡眠リズムを守り、無理な残業や出張を避けることが役立ちます。調子の変化に早めに気づくことも、再発予防につながります。

まとめ

うつ病だと思っていた不調の陰に、「調子が良すぎた」時期が隠れていることがあります。躁うつ病、すなわち双極症は、気分の高ぶりと落ち込みをくり返す病気です。高ぶりは本人には絶好調として感じられ、病気とは気づきにくいものです。しかし行き過ぎれば、本人にも周囲にも大きな痛みを残します。そのあとに来るうつ状態は深く、時に命にかかわります。だからこそ、「気分屋」「性格が激しい」と片づけないでください。薬物療法と心理社会的支援を組み合わせ、睡眠と生活リズムを守る。そうして多少地味でも日々の暮らしを安定させていくことには、人生を守るうえでとても大きな価値があります。

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