銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

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パーソナリティ症群および関連特性 (6D1)

リストカット・自傷行為について

「リストカット」という言葉には、どこか誤解を招きやすい響きがあります。「人の気を引くためではないか」「大げさなのではないか」と受けとられてしまうことがあるからです。しかし実際には、自傷行為をしている人の多くは、強い苦痛をひとりで抱え込み、誰にも相談できずにいます。ことばでうまく説明できないつらさ、胸の中にたまり続ける孤独感や空虚感、怒りや自己嫌悪を、自分のからだを傷つけることで何とかしのいでいるのです。

ひとりで苦しみを抱え込む自傷行為のイメージ

自傷行為は10代から若い世代でみられることが多い一方、年齢や性別を問わず起こります。表面だけを見ると突然の行動に見えても、その背景には長いあいだ言えなかった苦しさ、頼れなかった経験、気持ちの整理のしにくさが積み重なっていることが少なくありません。

この記事では、リストカットや自傷行為を「責めるため」ではなく「理解し、支えるため」に、なぜ起こるのか、どのような心の不調が背景にあるのか、そして本人や周囲はどう対応すればよいのかを整理します。

まず次のようなサインが見られたら、ひとりで抱え込まずに相談を考えてください。

  • 手首や腕、太ももなどに繰り返しできる傷がある
  • やめたいのにやめられない、隠すために長袖で過ごしている
  • 強い怒りや悲しみのあとで自分を傷つけてしまう
  • 「何も感じない」時間と「とても苦しい」時間の波が大きい
  • 「消えたい」「生きていてもしかたない」という気持ちが混ざる

自傷行為は「性格」や「わがまま」ではありません。言葉にしにくい苦痛を、からだを通して何とか扱おうとしているサインです。責めるより先に、安全と相談につなげることを考えてください。

リストカット・自傷行為とは

リストカットは、自分の手首や腕などを刃物で傷つける行為を指すことが多く、より広い意味では、皮膚を傷つける、火で焼く、頭や体を強く打つ、市販薬を大量に飲むなどを含めて自傷行為と呼びます。そのときの目的が「死ぬこと」ではないものは、非自殺性の自傷と呼ばれ、研究や臨床の蓄積が進んでいます。

ここで大切なのは、自傷行為は病名そのものではなく、つらさが表面に現れた「症状」や「サイン」だということです。しかもその行動には、本人なりの理由があります。たとえば強すぎる感情を一瞬でも静めたい、頭の中の混乱を切り替えたい、自分を罰したい、何も感じられない感覚を破りたい、ことばにできないつらさをからだの傷として表したい、といった切実な動機が重なっています。

つまり本人にとっては、「困らせるための行動」ではなく、「限界の中で身につけてしまった対処法」であることが少なくありません。もちろん安全な方法ではないため、そのままにしておいてよいわけではありません。ただ、理解の出発点はここにあります。

なぜしてしまうのか

孤独感と空虚感を抱え込むイメージ

自傷行為には、本人のなかでいくつかの役割が重なっています。ひとつの理由で説明できることは少なく、同じ人でも日によって働く役割が変わることもあります。ここでは代表的な4つに分けて説明します。

強い感情を一瞬でも静めたい(感情調節)

もっとも多い役割が、激しい感情を短時間で下げることです。怒り、悲しみ、不安、自己嫌悪が限界まで膨らんだとき、からだに強い刺激を与えることで、その感情の波がいったん落ちつくような感覚が生じます。切ったあとに一時的にラクになる背景には、痛みや強い刺激に対して脳から放出される内因性オピオイドなどの働きがあると考えられています。ただし、それは一時しのぎであり、しばらくするとまたつらさが戻ってきます。

何も感じない感覚から抜け出したい(解離からの脱出)

逆に、強い感情ではなく現実感が薄れ、何も感じられない状態から逃れるために自傷が起こることもあります。頭がぼんやりし、自分がここにいる感覚が遠のく解離状態のなか、「痛みを感じることで自分がまだ生きていることを確認したい」というように起こります。本人が「切ったのに痛くなかった」「よく覚えていない」と語る場合は、背景に解離が関わっている可能性があります。

自分を罰したい(自己罰)

「自分はこの世にいる価値がない」「迷惑をかけている」という強い自己否定が続くと、自分を罰するような気持ちで傷をつけてしまうことがあります。抑うつが強いとき、周囲の期待に応えられないと感じているとき、過去のつらい出来事で「自分が悪かった」という思い込みが残っているときに起こりやすい使い方です。

ことばにできない苦しさを伝えたい(SOS としての表出)

「助けて」とことばで言えない人ほど、からだの傷で苦しさを示していることがあります。これは「人を操るための行動」ではなく、ことばでは頼れなかった経験が重なっている結果です。周囲がその行動に気づいたときは、自傷を叱ることではなく、「それほどつらかったのですね」と受けとめることが次の一歩につながります。

背景に、幼少期からのつらい体験、家庭内不和、いじめ、対人関係の傷つき、トラウマ、発達特性による生きづらさが関わっている人はいます。ただし、「家庭環境が悪かったから必ず自傷する」という単純な話ではありません。同じようなつらい経験があっても、自傷に向かう人もいれば別の形で苦しさが出る人もいます。大切なのは原因探しで誰かを責めることではなく、その人が今どんな苦痛を抱えているのかを理解しようとすることです。

自傷と自殺の違いと関係

自傷行為は、その場での目的が必ずしも「死ぬこと」ではないという点で、自殺企図とは区別して考えられます。むしろ、耐えがたい感情を下げるために繰り返されるケースが少なくありません。

ただし、だからといって軽く見てよいわけではありません。自傷を繰り返す人は、将来の自殺のリスクが高いことが報告されています。いつもは「死ぬつもりはない」と話していても、その日の絶望感、飲酒や市販薬の影響、強い衝動、周囲との断絶が重なると、一気に危険度が上がることがあります。自傷と自殺は別のものでありながら、連続したリスクのうえにある、と考えるのが安全です。

とくに次のような場合は、早急な医療介入を考えるべきです。

  • 傷が深い、出血が止まらない、縫合が必要そうな状態
  • 致死性の高い方法での自傷、または自殺企図の可能性がある
  • 「消えたい」「死にたい」という言葉が強まっている
  • 幻聴や妄想、強い混乱がある
  • 飲酒や市販薬の過量服薬が重なっている
  • 一人きりで安全の確保が難しい

関連する疾患

背景にある心の不調を考えるイメージ

自傷行為の背景にはさまざまな心の不調がありえます。ひとつに決めつけず、全体像を丁寧に見立てることが必要です。

  • 境界性パーソナリティ症
    見捨てられ不安、感情の激しい揺れ、対人関係の不安定さ、慢性的な空虚感、衝動性とともに自傷が繰り返されることがあります。
  • 心的外傷後ストレス症(PTSD)・複雑性PTSD
    フラッシュバック、強い緊張、自己嫌悪、感情調整の難しさに伴って起こることがあります。長期のトラウマを抱える人では、自傷が「感情を扱う唯一の手段」になってしまっていることもあります。
  • 解離症や解離症状
    強いストレスやトラウマ反応に関連して、自分の感覚・記憶・現実感が途切れるような状態のなかで自傷が起こることがあります。
  • 抑うつ症(うつ病)、双極症、強い不安症状
    抑うつ、焦り、絶望感、自己否定が強いときに、自分を罰するように傷つけてしまうことがあります。
  • 摂食症
    食行動の乱れ、強い自己評価の揺れ、孤立感と自傷が重なって現れることがあります。
  • 神経発達症の二次障害
    注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性にうまく合わない環境が続くと、自己否定や衝動性が強まり、二次的な抑うつ・不安とともに自傷がみられることがあります。
  • 統合失調症や気分症の重いエピソード
    希死念慮、幻聴、妄想、強い焦りが加わる場合は、より緊急性が高くなります。

リストカット・自傷行為は「病気そのもの」ではなく、背景にある心の不調を見立てる必要があるサインです。見た目だけで軽く判断せず、心療内科・精神科で全体像をみてもらうことが大切です。

治療の基本

気持ちを言葉や文字で表現するイメージ

自傷をやめるには、「もうするな」と言うだけでは足りません。その行為が担っていた役割を理解し、より安全で、ことばに置き換えられる形へ少しずつ移していく必要があります。治療は次の4つの柱で組み立てます。

1. 安全の確保

最初の優先は命と体の安全です。傷の手当てが必要なときは救急や外科の受診が先になります。そのうえで、希死念慮の強さ、使える方法の危険度、アルコールや市販薬の関与、ひとりで過ごす時間の長さを確認し、必要に応じて危険な物を遠ざけ、家族や支援者と共有します。衝動が高まる瞬間を乗り切るために、代替行動を主治医と一緒にいくつか用意しておくことも有効です。たとえば短い散歩、冷たいタオルで顔を冷やす、深呼吸、ノートに書きなぐる、信頼できる人に「今つらい」とだけ送る、といった方法です。重要なのは、ひとりで完璧に止めようとすることではなく、衝動の波を少しでもやり過ごす工夫を持つことです。

2. 心理療法

心理療法の役割は、自傷が担っていた働きを、安全な方法に置き換えていくことです。境界性パーソナリティ症に伴う自傷では、弁証法的行動療法メンタライゼーションに基づく治療が、自傷や自殺関連行動を減らすことが報告されています。感情の調整スキル、対人関係のスキル、苦悩に耐えるスキル、今この瞬間に意識を戻すスキルを、小さな練習として積み上げていく取り組みです。

トラウマが背景にある場合は、まず生活の安定と安心できる関係づくりを優先し、急がずに段階的に進めます。いきなりつらい記憶に深く踏み込むのではなく、眠る・食べる・休むが戻ってきたあとで、本人のペースを尊重しながら記憶の整理に取り組みます。

3. 薬物療法

自傷そのものに直接効く薬はまだありません。ただし、背景にある抑うつ、強い不安、不眠、衝動性、パニック発作などには薬が役立つことがあります。抑うつや不安に対しては選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などが使われ、不眠には睡眠の薬、強い混乱や衝動が続くときには気分安定薬や少量の抗精神病薬が補助的に用いられることもあります。薬は自傷を「押さえ込む」ためではなく、心理療法に取り組める土台を整えるために使います。主治医と相談しながら、合わないものは早めに調整することが大切です。

4. 家族と支援者

自傷がある生活は、本人だけでなく家族や支援者も疲弊させます。家族が動揺し、責めたり、距離を置いたりしてしまうと、本人はさらに孤立してしまいます。支援者の側が安心して相談できる場所を持つこと、主治医や相談機関と連携すること、学校や職場と必要な範囲で情報を共有することが、長い回復を支える土台になります。

家族や周囲の方へ

傾聴と共感で寄り添うイメージ

家族、パートナー、友人、支援者が心がけたいのは、叱らない、責めない、脅さない、恥をかかせないことです。自傷は周囲にとって衝撃的な行動ですが、本人はそれほど追い詰められていたということでもあります。

基本になるのは、傾聴、共感、受容の 3 つです。

  • 傾聴:途中で評価せずに、まず話を聞く
  • 共感:「それほどつらかったんだね」と気持ちに寄り添う
  • 受容:すぐに善悪で裁かず、起きている苦しさをそのまま受けとめる

たとえば、「どうしてそんなことをしたの」「またやったの」と詰めるより、「ひとりで抱えていたんだね」「今は安全か、一緒に確認しよう」と声をかける方が、次の支援につながりやすくなります。もちろん、何度も繰り返されると周囲も疲弊します。支える側も一人で抱え込まず、医療者や相談機関の助けを借りることが必要です。

「刃物や薬を全部隠せば解決する」とは限りません。危険物を遠ざけることは大切ですが、それだけでは隠れて別の方法に向かうこともあります。安全確保と並行して、苦しさを一緒に受けとめ、受診や相談につなぐことが必要です。

早めに相談したいサイン

自傷行為がある場合は、一度は心療内科・精神科で相談することをおすすめします。とくに次のような場合は、専門的な評価が必要です。

  • 自傷を繰り返している、やめたいのにやめられない
  • 「消えたい」「死にたい」という気持ちが混ざる
  • 解離や記憶の抜けがある
  • 家庭や学校、仕事に大きな支障が出ている
  • 不眠、食欲の変化、気分の落ち込みが重なっている
  • 飲酒や市販薬の過量服薬が重なっている

傷が深い、出血が多い、大量服薬をした、意識がもうろうとしている場合は、心療内科・精神科より前に救急受診が優先です。身体の安全を確保したうえで、その後に心療内科・精神科へつなぐ流れになります。

今すぐ受診が難しいときや、夜間・休日につらさが強いときは、次のような公的な相談窓口を使うことができます。「こんなことで相談してよいのか」とためらわず、つらいときは早めに頼ってください。

  • よりそいホットライン:0120-279-338(24時間対応・通話無料)
  • いのちの電話:0570-783-556(10時〜22時、毎月10日は8時〜翌8時)
  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(都道府県や時間帯により対応)
  • 救急受診・救急車を呼ぶか迷うとき:#7119(実施地域)
  • いのちの危険が差し迫っているとき:119番

よくある質問

本人が「死ぬつもりはない」と言えば、安心してよいですか

安心しきることはできません。自傷はその場では自殺目的でないこともありますが、繰り返す人では将来の自殺リスクが高くなります。今の気持ち、方法の危険性、希死念慮の有無、飲酒や市販薬、孤立の程度などを含めて全体を評価することが大切です。

家族は刃物や薬を全部取り上げるべきですか

危険が差し迫っている場合には、安全確保のために危険物を遠ざけることが重要です。ただし、それだけで解決するわけではありません。隠れて別の方法に向かうこともあるため、安全確保と並行して、苦しさを共有し、受診や相談につなぐことが必要です。

心療内科・精神科ではどのような治療をするのですか

まず、自傷の背景にある心の不調を見立てます。そのうえで、必要に応じて心理療法、薬物療法、ケースワーク、家族支援、学校や職場との連携を行います。境界性パーソナリティ症に伴う自傷には、弁証法的行動療法やメンタライゼーションに基づく治療が自傷や自殺関連行動を減らすことが示されており、感情調整スキルや対人関係スキル、苦悩に耐えるスキルを育てていく取り組みが中心になります。自傷だけを力ずくで止めるのではなく、その人が頼れる関係を持ち、感情を扱う力を少しずつ取り戻していくことが治療の中心です。

自傷の跡があると、将来どうなるのか心配です

傷は時間とともに薄くなっていくものもあれば、しばらく残るものもあります。今できるのは、新しい傷を増やさないための支援につながることです。跡そのものをどう受けとめるかは、本人のペースで少しずつ向き合えばよい課題で、回復の順序としては「今の安全 → 気持ちの扱い方 → 跡との付き合い方」の順で考えます。

まとめ

リストカット・自傷行為は、周囲からは理解しにくくても、本人にとっては限界まで追い詰められた末のSOSであることが少なくありません。そこにあるのは「わがまま」ではなく、言葉にしにくい痛みです。背景には境界性パーソナリティ症、複雑性PTSD、解離、抑うつ症、摂食症などさまざまな状態があり、将来の自殺リスクにもつながることが知られています。だからこそ、必要なのは叱責ではなく理解、放置ではなく支援です。もしあなた自身に自傷があるなら、ひとりで抱え込まないでください。もし大切な人に自傷があるなら、責めずに、まず安全を確かめ、話を聞き、専門家につなげてください。自傷は、助けを求めてよい問題です

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