銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

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精神医学

DV加害者の心理と治療について

配偶者・パートナーへの暴力を止められずに悩む人をイメージした写真

「やめたいのに、手が出てしまう」「怒鳴ったあとで、いつも自分を責める」。配偶者やパートナーへの暴力(DV)は、単なる「性格の悪さ」や「意思の弱さ」だけでは説明できません。相手を大切に思う気持ちと、爆発のように出てしまう攻撃性との間で、本人も強く混乱しています。酔って怒鳴ってしまった翌朝、相手の青あざを見て血の気が引く。ふだんは穏やかなのに、ある引き金で自分でも止められなくなる。その繰り返しのなかで、家族関係も本人のこころも少しずつ壊れていきます。

DV 加害の背景には、幼少期の被害体験、アルコール・ギャンブルなどへの依存、気分の波、発達特性、強い劣等感や孤立感が重なっていることが少なくありません。加害している人の多くは、過去に自分自身も被害体験を抱えていることが知られています。それでも、行為そのものは許されるものではありません。大切なのは、行為を正当化するのでも、本人の人格を否定するのでもなく、暴力を止めるための支援につながることです。

当院は、ご本人が「このままではいけない」と感じて相談に来られたときに、精神科・心療内科の立場からお話をうかがいます。依存、気分の不安定さ、衝動性、生育歴の影響など、医療で扱える部分を一緒に整理し、必要に応じて専門の加害者プログラム・行政相談窓口につなぎます。

  • 口論になると、つい大声で怒鳴ってしまう
  • 壁や物を殴ったり、投げたりしてしまう
  • 相手の行動や連絡先を細かく管理したくなる
  • お酒を飲むと人が変わると言われる
  • あとから後悔するのに、また同じことを繰り返す
  • 「相手が自分を怒らせた」と感じることが多い

一つでも当てはまるなら、暴力が定着する前に相談することをおすすめします。DV は、放っておくと頻度も強さも少しずつ上がっていく性質があります。早い段階で医療・支援につながるほど、関係の立て直しと、本人の回復の両方が進めやすくなります。

DV(配偶者・パートナー暴力)とは

DV(Domestic Violence、配偶者・パートナー暴力)は、配偶者・元配偶者・恋人など、親密な関係にある相手への身体的・精神的・性的・経済的な暴力の総称です。殴る・蹴るといった身体への暴力だけでなく、大声で怒鳴る、人格を否定する、生活費を渡さない、行動を監視する、望まない性行為を強要するといった行為も DV に含まれます。

配偶者暴力防止法(DV 防止法)は 2024 年 4 月 1 日に改正・施行され、身体的暴力だけでなく、重篤な精神的被害をもたらす行為も保護命令の対象になりました。自由・名誉・財産への脅迫も、裁判所が接近禁止命令などを発令するうえでの対象に広がっています。「殴っていないから暴力ではない」という考え方は、もはや通用しません。

DV 加害への支援は、本人の人格を否定することが目的ではありません。行為は厳しく否定しつつ、人格は尊重する。これが加害者臨床の基本姿勢です。本人が自分の行為に向き合い、変化しようとする動機を支えることで、被害の再発を防ぎ、関係を立て直す道筋を探します。

どのような暴力・支配の形があるのか

DV は「殴る」行為に限りません。以下のように、身体・こころ・性・経済・社会関係のいずれの領域でも起こりえます。どれか一つでも、相手を怖がらせ、生活を支配する結果になっていれば、DV として扱う対象になります。

  • 身体的暴力: 殴る、蹴る、突き飛ばす、物を投げつける、髪を引っ張る
  • 精神的暴力: 怒鳴る、無視する、人格を否定する、子どもの前で相手を責める
  • 性的暴力: 同意のない性行為、避妊への非協力、性的な画像の撮影や流布の示唆
  • 経済的暴力: 生活費を渡さない、カードや通帳を取り上げる、働くことを禁じる
  • 社会的隔離: 友人や家族との交流を制限する、連絡先や位置情報を監視する

加害する側には、自分の行為を「ただ注意しただけ」「少し押しただけ」のように小さく見積もる傾向があります(矮小化)。一方で、被害側にはその行為が「怖くて眠れない」「外に出られない」ほどの衝撃として残ります。加害者の主観評価よりも、被害者が感じた客観的な影響のほうが重いということを前提に、支援は組み立てられます。

なぜ加害が繰り返されるのか

DV 加害は、単一の原因で起きるものではありません。幼少期の被害体験、遺伝的・環境的な素因、現在のストレス、飲酒や薬物の問題、気分や衝動のコントロールの難しさなど、いくつもの要素が重なって引き金になります。

  • 幼少期の被害体験: 家庭や学校で自分自身が暴力や叱責にさらされた経験が、大人になってからの加害者側の被害者意識につながりやすい
  • 遺伝と環境の相互作用: 両親やきょうだいの素因に、所属する集団の規範や飲酒文化などが重なることがある
  • 基礎疾患・背景疾患: 神経発達症、双極症、依存症などが衝動性や気分変動を増幅させる
  • 社会的ストレス: 仕事の失敗、経済的困窮、孤立などが攻撃性の引き金になる

背景疾患が関わる場合、重症度は神経発達症 < 双極症 < 依存症の順に影響が強くなる傾向があるとされます。依存症が関与していると、飲酒・ギャンブル・薬物などの問題を扱わないまま行動だけを変えようとしても、再発しやすくなります。医療の場では、まず「何が土台にあるのか」を整理するところから始めます。

加害リスクの評価:SARA(配偶者暴力危険評価)

SARA(Spousal Assault Risk Assessment Guide、配偶者暴力危険評価)は、加害者のリスクを構造的に評価する国際的な枠組みです。全 20 項目を「犯罪歴(静的要因)」「心理・社会的適応(動的要因)」「過去の配偶者暴力」「現在の犯行」の 4 つに分けて確認し、低危険度(家族のみ群)/中危険度(境界群)/高危険度(反社会群)のどの水準に近いかを見立てます。

SARA 配偶者暴力危険評価の犯罪歴に関する項目を示す図

犯罪歴(静的要因)。過去の暴力や司法関与は、今後の再発リスクを見立てる基礎情報になります。

SARA低危険度;家族のみ群中危険度;境界群高危険度;反社会群
1. 家族に対する過去の暴力の有無低度中度高度
2. 他人に対する過去の暴力の有無低度中度高度
3. 仮釈放や保護観察などの犯罪歴低度中度高度
SARA の心理・社会的適応に関する項目を示す図

心理・社会的適応(動的要因)。いまの生活状況・精神状態・人格傾向は、介入によって変わりうる要素です。

SARA低危険度;家族のみ群中危険度;境界群高危険度;反社会群
4. 配偶者との関係・問題低度中度高度
5. 仕事上の問題低度中度高度
6. 幼少期の被害体験低度中度高度
7. 最近の薬物依存・乱用低度中度高度
8. 最近の自殺・他殺念慮低度中度高度
9. 最近の精神病症状低度中度高度
10. 易怒・易刺激、衝動性低度中度高度
人格傾向受動・依存性境界性反社会性
SARA の過去の配偶者暴力に関する項目を示す図

過去の配偶者への暴力の実態。身体暴力・性的暴力・脅迫・違反歴など、これまでのパターンを見ます。

SARA低危険度;家族のみ群中危険度;境界群高危険度;反社会群
11. 過去の身体暴力低度中度高度
12. 過去の性的暴力・嫉妬低度中度高度
13. 武器の使用、殺人の脅迫低度中度高度
14. 暴力の頻度、深刻度低度中度高度
15. 接近禁止命令・違反歴低度中度高度
16. 暴力の矮小化低度中度高度
17. 暴力の容認低度中度高度
SARA の現在の犯行に関する項目を示す図

現在の犯行。今まさに起きている暴力の深刻度を評価します。

SARA低危険度;家族のみ群中危険度;境界群高危険度;反社会群
18. 深刻な性的虐待低度中度高度
19. 武器の使用・殺人の脅迫低度中度高度
20. 接近禁止命令違反低度中度高度

SARA は「この人が悪人か善人か」を判定する道具ではなく、どこに介入すれば再発を下げられるかを見つけるための地図です。動的要因(いまの生活、依存、気分、衝動性)は、医療・支援によって変えられる部分です。ここを一緒に整理することが、加害者臨床の出発点になります。

認知の歪みと加害行為

DV 加害の場面では、相手の言動を実際以上に悪く受け取ったり、自分の行為を実際より軽く見積もったりする、いわゆる認知の歪みが関わっていることが多いとされます。こうした思考のクセに気づき、少しずつ書き換えていくことが、加害者臨床の中心的なテーマです。

DV 加害に関わる認知の歪み 8 種類を示す表
歪みの種類歪みの内容具体例
認知の偏り根拠なく主張する、自己正当化「何事も自分の意思で止められる」「相手が自分を怒らせる」
白黒思考極端、他者を受け容れられない「女性は家事を優先すべきだ」「夫婦なら性的関係を拒んではならない」
べき思考「べき」「ねばならない」で考える「妻は夫をいたわるべきだ」「夫婦は愛し合わなければならない」
過剰な一般化ある事例を全体に広げる「女性は感情的である」「女性は仕事に向いていない」
被害妄想迷惑をかけられていると考える「相手は自分を馬鹿にしている」「浮気をしているに違いない」
他罰性悪いのは他者・周囲と考える「相手が自分を怒らせる」「自分ばかり悪者にされる」
誇張化現実を誇張し、努力を放棄する「ダメだ」「無理だ」「自分の人生は終わった」
矮小化自分の加害行為を否認する「注意をしただけだ」「少し押しただけだ」

これらの歪みは、本人の「こう考えないと自分を保てない」という事情とも結びついています。頭ごなしに否定しても変わりにくく、まずは本人の苦しさや被害者意識にも目を向けながら、一緒に別の見方を探していくことが、結果的に認知の書き換えにつながります。

関連する疾患

DV 加害は、それ自体が精神疾患の診断名ではありませんが、背景に別の不調が重なっていることがよくあります。以下の疾患が関わる場合、まずは土台の不調を整えることで、衝動性や対人関係の難しさが落ち着くことがあります。

  • 依存症: 飲酒・薬物・ギャンブルなどが、加害の頻度や激しさを大きく高めます。依存症の治療を並行することが再発防止の鍵になります。
  • 双極症(躁うつ病): 躁・軽躁の時期に易怒性や衝動性が増し、家族への攻撃性が強まることがあります。
  • 神経発達症(ADHD): 衝動のコントロールや感情調整の難しさが、口論のエスカレートにつながることがあります。
  • パーソナリティ症: 境界性・反社会性などの特徴は、親密な関係での暴力リスクと関連することがあります。
  • 複雑性 PTSD: 自身の幼少期の被害体験が、怒りや不信感として大人の関係に再演されることがあります。
  • 抑うつ症(うつ病): 強いイライラや自己否定感が、家族への八つ当たりの形で出ることがあります。

治療・支援の基本

加害者臨床の世界的な流れとして、行動だけを外から抑え込む方法から、本人の苦悩を受け止めつつ、行為には明確に責任を求める方向へと重心が移ってきました。当院では、医療で扱える土台の部分(依存、気分の波、衝動性、生育歴の影響)を一緒に整理し、必要に応じて行政・司法・専門プログラムにつなぎます。

1. 行為は否定し、人格は尊重する

最初に共有しておきたい基本姿勢です。加害行為そのものは、どのような事情があっても正当化されません。一方で、人格まるごとを「暴力的な人間」とラベル付けしてしまうと、本人は反発するか、自暴自棄になり、変化の芽が失われます。行為への責任と、人格への敬意を両立させる。このバランスが、加害者臨床の土台です。

2. 召喚的接近(Invitational Approach)

Invitational Approach 召喚的接近のポイントを示す図

召喚的接近(Invitational Approach)は、本人のなかにある「もっとましな自分でありたい」という願いを手がかりに、変化への一歩を誘う関わり方です。責めることで動機を奪うのではなく、本人のなかにある可能性を引き出す姿勢が中心になります。

  • より良い生き方を模索する
  • 変化の可能性を探索する
  • 相手との違いを認める
  • 別の行動・別の考え方を代替として育てる
  • 自分の責任を認める/他者の援助を受け容れる
  • 変化に挑戦する/約束を果たす

具体的には、暴力についてすべて話す・書く、暴力のない関係について話す・書く、配偶者との関係や関係が崩れていった過程を振り返る、といった作業を積み重ねます。さらに、否認の原因、自分の性格や生い立ちを振り返り、新たな認知・行動を模索し、計画し、実践するサイクルをつくっていきます。

3. 慈悲的接近(Compassion Approach)

Compassion Approach 慈悲的接近のポイントを示す図

慈悲的接近(Compassion Approach)は、加害者を「敵」として切り捨てるのではなく、同じ人間として苦悩を理解する姿勢で関わる方法です。加害する人の多くが抱える被害者意識や生い立ちのつらさを、本人と一緒に見つめ直します。

  • 人間同士として認め合う
  • 苦悩を理解する/加害者の被害者意識を理解する
  • 寛容に対応する/必要な援助を行う
  • 深層心理や生い立ちを一緒に振り返る
  • 認知の歪みを矯正する/より良い生き方を模索する
  • 現実と理想を明確にし、夢や希望、能力や強さ、努力や変化を評価する

召喚的接近と慈悲的接近は対立するものではなく、車の両輪です。被害者意識を癒やしながら、加害者意識(自分の行為に対する責任の自覚)を育てる。この両方が揃ってはじめて、暴力のない関係への道筋が開けます。

4. 薬物療法と併存症の治療

背景にアルコール・薬物・ギャンブルなどの依存症がある場合は、その治療が優先になります。双極症の気分の波、ADHD の衝動性、うつ病に伴う強いイライラなどが関わっているときは、それぞれに応じた薬物療法を併用します。薬だけで加害行為がなくなるわけではありませんが、引き金になる気分や衝動を整えることで、心理療法や行動の修正が進めやすくなります。

加害に特化したプログラム(加害者プログラム)は、各自治体や民間団体が提供しています。医療機関の診療と並行して参加することが望ましく、当院では必要に応じて、公的窓口や専門機関のご案内を行います。

家族や周囲の方へ

加害している家族と暮らしている方の安全が、何よりも優先です。怒鳴り声が日常化している、物を壊す、手を上げる、といった行動があるなら、本人を変えようとする前に、ご自身と子どもの身の安全を確保してください。配偶者暴力相談支援センター、警察、地方自治体の DV 相談窓口が利用できます。

一方で、ご本人が「変わりたい」と言い始めた段階や、暴力の頻度が比較的低い段階では、医療や加害者プログラムにつながることで状況が動くこともあります。家族だけで抱え込むと、「かばってしまう」「責めすぎてしまう」のいずれかに偏りやすく、どちらも本人の変化を遠ざけます。第三者(相談窓口、医療、支援団体)を必ず間に入れることが、結果的に家族を守ります。

  • 暴力が起きたときに逃げる場所・連絡先をあらかじめ決めておく
  • 子どもにも、怖いときに頼れる大人(学校・親戚・相談窓口)を伝えておく
  • 「二人の問題」と閉じ込めず、第三者に状況を共有する
  • 本人の変化を急がせず、安全確保を最優先にする

早めに相談したいサイン

以下のようなサインがある場合、本人・家族のいずれの立場でも、早めに相談することをおすすめします。「まだ大丈夫」と様子を見ているうちに、頻度・強度が上がることが少なくありません。

  • 月に複数回、口論が大声・威圧・物を壊す行動にエスカレートする
  • 飲酒時に人が変わると言われる/飲酒後に記憶が飛ぶ
  • 手を上げてしまったことが過去に一度でもある
  • 相手の行動・連絡先・位置情報を管理したい欲求が強い
  • あとから強い自己嫌悪や抑うつ気分が続く
  • 死にたい気持ち、相手を傷つけたい衝動が頭をよぎる

死にたい気持ちや、相手を傷つけてしまいそうな衝動が強いときは、お一人で抱え込まず、夜間・休日も対応している以下の窓口に電話してください。

  • いのちの電話: 0570-783-556
  • よりそいホットライン: 0120-279-338
  • DV 相談ナビ: #8008(はれれば)
  • DV 相談+: 0120-279-889(24 時間対応)

よくある質問

自分が加害者だと認めることが怖くて、相談できません

多くの方が同じ気持ちから相談に来られます。「加害者」という言葉には強い響きがありますが、診察の場では、ラベル付けではなく、暴力を止めるためにいま何ができるかを一緒に考えます。最初から全てを話す必要はなく、「自分でも止められないときがある」「怒りで物を壊したことがある」といった入口からで構いません。

加害者プログラムと精神科の治療はどう違いますか?

加害者プログラムは、暴力そのものを止めるための構造化された心理教育・グループワークが中心です。精神科の治療は、その土台となる依存、気分の波、発達特性、生育歴の影響などを扱います。両方は対立するものではなく、並行して進めるのが望ましい形です。当院では、ご本人の状況に応じて公的窓口や専門プログラムをご案内します。

家族に勧めても、本人が病院に行きたがりません

無理に連れて行くと、かえって関係がこじれることがあります。まずご家族だけで先に相談に来ていただき、状況の整理と安全確保の方針を一緒に立てることができます。本人が動き始めるまでの間に、ご家族が疲れ果ててしまわないよう、伴走する支援者を得ておくことも大切です。

一度でも手を上げたら、関係は終わりでしょうか?

続けるか別れるかは、ご本人とパートナーご自身が決めることです。医療や支援の立場で申し上げられるのは、「再発しない環境」が整うまでは、安全を最優先に距離をとる選択肢も常に検討に値するということです。そのうえで、加害側が治療や加害者プログラムに真剣に取り組む場合、関係を立て直す道が開ける方もいます。焦らず、第三者の支援を受けながら判断してください。

まとめ

DV 加害は、性格の問題だけでは説明できません。幼少期の被害体験、依存症、気分の波、発達特性、孤立といった背景が重なり、認知の歪みと衝動のコントロールの難しさが、暴力という形で表に出ます。加害者臨床の基本は、行為は否定し、人格は尊重すること。そして、召喚的接近(Invitational)と慈悲的接近(Compassion)を組み合わせて、被害者意識を癒やしながら、加害者意識を育てていくことです。本人も家族も、一人で抱え込まずに、医療・公的窓口・加害者プログラムなど複数の支援につながることが、暴力のない関係への第一歩になります。

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