銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

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精神医学

錐体外路症状について

「薬を飲み始めてから、体の動きがどこかおかしい」。診察室では、言葉に迷いながらこう話すかたが少なくありません。手がふるえる、体がこわばる、じっと座っていられない、口が勝手に動く。ひとつずつは大したことに思えません。この運動面の変化をまとめて、精神科では錐体外路症状と呼びます。もとは大脳基底核などの運動調節系の異常を指す専門用語です。ただ日常の診療では、抗精神病薬などの薬による運動面の副作用を説明するときに使うことがほとんどです。

症状は大きく二つに分けると見通しが立ちます。動きが少なくなるタイプと、動きが増えたり勝手に出たりするタイプです。困るのは、どちらも別の理由で受け取られやすいこと。「病気そのものが悪くなった」「ただ疲れているだけ」。そう思っているあいだも、見分けの手がかりは一つ残っています。薬を始めた・増やした・切り替えた時期と重なるなら、まず副作用を疑う。早く気づけば軽く済むことが多く、放っておくと生活にも服薬の継続にも響きます。

  • 薬を始めた、増やした、切り替えたあとから手足のふるえやこわばりが出た
  • 歩幅が狭くなった、歩き方がふらつく、一歩目が出にくい
  • 表情が乏しい、声が小さい、よだれが増えた、飲み込みにくい
  • 座っていられず、足踏みや貧乏ゆすり、歩き回りが増えた
  • 首や目、口まわりに急なつっぱりやねじれが出た
  • 唇をすぼめる、舌を動かす、口をもぐもぐさせる癖のような動きが続く

錐体外路症状は「意思の弱さ」でも「演技」でもありません。薬が脳の運動調節系に影響して起こる身体的な副作用です。本人は「不安が強いだけ」「疲れているだけ」と受け取りやすいものです。家族や周囲の人のほうが先に気づくことも少なくありません。

錐体外路症状とは

では、この症状はどんな薬で、どんなふうに起きるのでしょうか。錐体外路症状は、抗精神病薬をはじめとする一部の薬による運動面の副作用の総称です。英語では extrapyramidal symptoms、頭文字から EPS と呼ぶこともあります。代表的な症候は四つあります。急性ジストニア、アカシジア、薬剤性パーキンソニズム、遅発性ジスキネジア。出てくる時期も、症状の形もそれぞれ違います。

原因になる薬は、精神科のものだけではありません。吐き気止めや消化管の動きを整える薬(メトクロプラミド、プロクロルペラジンなど)でも起こりえます。一部の抗うつ薬、抗てんかん薬、抗認知症薬でも同じです。だから「精神科の薬は飲んでいないから関係ない」とは言い切れません。内科や外科で出された薬のあとに動きが変わったときも、この副作用を頭の隅に置いてください。

4つの主な症状

四つと言われても、名前だけでは区別がつきません。手がかりになるのは、出てくる時期です。飲み始めて数時間で出るものもあれば、2〜3か月以上の使用でじわじわ目立つものもあります。いつその薬を始めたかいつ症状が出たかを並べてみる。それが、主治医が見分けるときの助けになります。

急性ジストニア

いちばん早く出るのがこれです。薬を飲み始めてから数時間から数日のうちに、筋肉が急につっぱります。首がねじれる、目が上を向いたまま戻りにくい、口が開けにくい、舌がもつれる。のどや呼吸に関わる筋肉が強くつっぱると、息や飲み込みに影響することもあり、急いで対応が要ります。発症が急で、本人も周囲も驚きやすいものです。ただ、抗コリン薬を使えば多くは速やかにおさまります。

アカシジア

二つめは、薬を始めて数日から数週間で出やすいアカシジアです。じっと座っていられない、横になっても落ち着かない、歩き回りたくなる、足を動かしていないとつらい。ただの「そわそわ」ではなく、内側から追い立てられる感覚です。やっかいなのは、不安の悪化や病状の再燃と間違えられやすいこと。だから見逃されやすいのです。苦痛が強くなることもあり、重い場合は自殺念慮や自傷につながる報告もあります。くわしくは「アカシジアとは」もあわせてお読みください。

薬剤性パーキンソニズム

薬を始めて数日から数週間で出てくるのがこのタイプです。多くは飲み始めて20日ほどまでのあいだに現れます。動きが全体に遅く、乏しくなります。ふるえ、筋肉のこわばり、動作の遅さ。表情が乏しくなる、声が小さくなる、歩幅が狭くなる、小刻みに歩く。一歩目が出にくい、よだれが出る、飲み込みにくい。そうした形で気づかれます。本人は「元気が出ない」「だるい」くらいに感じています。それでも周囲から見ると、明らかに動きが遅いことがあります。特発性パーキンソン病とよく似て見えますが、原因の薬を調整すると改善しやすい点が大きく違います。

遅発性ジスキネジア

最後は、薬を長く使ううちに目立ってくる動きです。唇をすぼめる、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせる、口を突き出す。手足や体幹に出て、姿勢が不自然になることもあります。はじめは癖のように見えるので、見過ごされがちです。長引くこともあり、油断できません。2022年にはバルベナジン(ジスバル)という薬が日本でも承認され、治療の選択肢が広がりました。

なぜ起きるのか

効く薬なのに、なぜ副作用が出るのでしょうか。抗精神病薬は、幻覚や妄想、興奮、気分の乱れをやわらげる大切な薬です。その働きは、脳内のドパミン D2 受容体に作用することで生まれます。ところがドパミンは、体の動きの調節にも関わっています。症状を抑える働きと、動きに出る副作用は、隣り合った別の経路で起こると考えられています。だからこそ、効果を保ちながら副作用を小さくする調整の余地があります。処方はいつも、効果と副作用のつり合いを見ながら少しずつ調整していきます。

見分けでいちばん頼りになるのは、特別な検査ではありません。薬歴と症状の出た時期を時系列で並べることです。どの薬を、いつ始め、いつ増やしたか。どんな症状が、どの姿勢で、いつから出たか。実際、薬剤性パーキンソニズムや不随意運動は、採血や画像ではなく診察での観察と問診が見分けの中心になります。気になる変化は、診察のときに具体的に伝えてください。それが何よりの手がかりです。

どんな薬で起こりやすいか

では、新しい薬に替えれば安心なのでしょうか。第一世代(定型)の抗精神病薬では、ふるえ、筋強剛、動作の遅さ、アカシジアが比較的多くみられました。いま広く使われる第二世代(非定型)では、一部の症状は減る傾向があります。ただ、完全になくなったわけではありません。とくにアカシジアは第二世代でも出ますし、遅発性ジスキネジアも長期の使用で起こりえます。

そのうえ、第二世代には別の宿題があります。体重の増加、脂質の異常、血糖の上昇といった代謝面の副作用です。つまり「古い薬は錐体外路症状、新しい薬は代謝異常」ときれいに分けられるわけではありません。それぞれの薬の得意と不得意を見て、一人ひとりに合わせて選ぶことが大切になります。

精神科以外で出される薬にも、同じ注意が要ります。吐き気止めのメトクロプラミドプロクロルペラジン、一部の消化管の薬、抗認知症薬、SSRI を含む一部の抗うつ薬。これらでも、アカシジアやパーキンソニズムが起こることがあります。内科や外科で新しい薬を始めたあとに動きが変わったら、その薬との関係も確かめましょう。

関連する疾患

「薬のせいではなく、別の病気ではないか」と不安になるかたもいらっしゃいます。錐体外路症状と似た動きは、ほかの病気や状態でもみられます。見分けには、薬歴や症状の出方、体の検査が参考になります。

  • アカシジア: 錐体外路症状の一つで、強い内的不穏と静座不能が特徴。薬との関連が中心で、早期対応が重要。
  • 統合失調症: 抗精神病薬による治療中に錐体外路症状が出やすく、副作用と病状悪化の区別が問題になりやすい。
  • 双極症(躁うつ病): 気分安定薬や抗精神病薬の併用で錐体外路症状が出ることがある。
  • 特発性パーキンソン病: 薬によらず脳の黒質でドパミンが減るために起こる神経疾患。薬剤性パーキンソニズムと症状が似ているが、原因薬を減らしても改善しない点が違い。
  • レビー小体型認知症: 認知症症状に加えてパーキンソン症状や幻視がみられる。抗精神病薬に過敏に反応しやすく、錐体外路症状が強く出やすい。
  • むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群): アカシジアとよく似ているが、夕方から夜に強まる下肢の異常感覚が中心。鉄欠乏などの身体的背景が関与することもある。
  • 悪性症候群: 錐体外路症状とは別に考える救急対応が必要な副作用。高熱、著しい筋強剛、意識障害、発汗、自律神経症状が特徴で、ただちに医療機関への連絡が必要。

治療と対応の基本

いちばん知りたいのは、「これは治るのか」だと思います。基本はひとつです。原因になっていそうな薬を見直すこと。ただし、自己判断で急にやめるのは危険です。主治医と一緒に時系列を確かめ、減量、変更、補助薬の追加を組み合わせて調整していきます。

1. 早期発見

この副作用は、早く気づいて調整できれば軽く済むことが多いのが救いです。薬を始めた・増やした・切り替えた時期と、症状が出たタイミングを照らし合わせてください。気になる動きの変化があれば、次の診察を待たずに主治医へ伝えます。本人は気づきにくいことも多いので、家族や同居の方の「いつもと違う」という一言が、大切な手がかりになります。

2. 薬剤調整

次に、原因と考えられる薬の減量や、錐体外路症状が出にくい薬への変更を検討します。症状の種類、もとの病気の状態、ほかの副作用も含めて、主治医が全体を見て判断します。抗精神病薬を急にやめると、もとの病気の悪化や離脱症状につながることがあります。だから自己判断で中止せず、必ず主治医と一緒に調整することが大切です。

3. 補助薬の使い分け

症状の種類に応じて、次のような薬を補助的に足すことがあります。

  • 急性ジストニア、薬剤性パーキンソニズム: ビペリデンなどの抗コリン薬、アマンタジン
  • アカシジア: プロプラノロールなどのβ遮断薬、クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬、抗コリン薬
  • 遅発性ジスキネジア: 2022年に日本で承認されたバルベナジン(ジスバル)という VMAT2 阻害薬を、適応に応じて使うことがあります

ただ、補助薬にも副作用があります。抗コリン薬には口の渇き、便秘、排尿しにくさ、ぼんやり感が、ベンゾジアゼピン系薬には眠気やふらつき、依存の問題があります。足せばよいというものではありません。本体の薬をどうするかとセットで考える必要があります。

4. 家族の見守り

本人に自覚がないことも多いので、家族や同居の方の観察が大きな手がかりになります。「表情が乏しくなった」「歩き方が小刻みになった」「口がもぐもぐしている」。そうした周囲の気づきを診察で伝えることが、早めの調整につながります。動画やメモに残しておくと、短い診察時間でも主治医に伝わりやすくなります。

家族や周囲の方へ

錐体外路症状は、本人が「疲れているだけ」「不安なだけ」と思いやすい副作用です。だから家族のほうが先に違和感に気づくことが少なくありません。表情、姿勢、歩き方、手のふるえ、口まわりの動き、座っているときの落ち着きのなさ。普段の様子と比べて変化があれば、受診のときに具体的に伝えてください。

伝え方にも、少しコツがあります。「怠けているのでは」「気の持ちようでは」と責めると、本人は身構えます。「薬の副作用かもしれないから、念のため先生に相談してみよう」。病気の一部として話すと、届きやすくなります。あわせて、自己判断で薬を飲ませない・減らさないことも大切です。急な中止は、もとの病気の悪化や離脱症状を招きます。必ず主治医と相談して調整しましょう。家族が動画やメモで記録しておくと、短い診察時間でも情報を共有しやすくなります。

早めに相談したいサイン

  • 首や目、口、のどの筋肉が急につっぱり、苦しい
  • 飲み込みにくさや息苦しさがある
  • じっとしていられない苦痛が非常に強く、眠れない、混乱する
  • 口や舌の勝手な動きが続き、日ごとに目立ってくる
  • 「このままでは危ない」「消えてしまいたい」という気持ちが出てきている

アカシジアは、苦痛がとても強くなることがあります。つらさのあまり自殺念慮や自傷につながる場合もあります。「動きたくて動きたくてつらい」「気が狂いそう」という感覚が強いときは、次回予約を待たないでください。当日中の連絡や、救急相談を考えてください。

高熱、発汗、強い筋強剛、意識のぼんやりが重なっているときは、話が変わります。錐体外路症状とは別に考える悪性症候群という、命に関わる副作用の可能性があります。この場合は予約日を待たず、すぐに医療機関へ連絡するか、救急要請してください。一刻も早い対応が命を守ります。

「消えてしまいたい」「もう限界」という気持ちが強いときは、受診を待たず、いのちの電話(0570-783-556:毎日10時〜22時/フリーダイヤル 0120-783-556:毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)やよりそいホットライン(0120-279-338)にご連絡ください。

よくある質問

錐体外路症状が出たら、パーキンソン病になったということですか?

必ずしもそうではありません。薬剤性パーキンソニズムは、見た目はパーキンソン病に似ていても、薬の影響で起きている状態です。原因の薬を調整すれば改善することが多く、特発性パーキンソン病とは分けて考えます。ただ、もともとあったパーキンソン病が薬で目立つこともあるので、見分けは慎重に行います。

第二世代の抗精神病薬なら錐体外路症状は出ませんか?

そうとは限りません。第二世代の抗精神病薬は、一部の錐体外路症状が少ない傾向はあります。ただアカシジアや遅発性ジスキネジアを含め、起こりうる副作用は残っています。一方で代謝面の副作用にも注意が要ります。薬は「新しい・古い」だけでは選べません。本人の状態や合併症に合わせて、一人ひとり個別に選びます。

つらいけれど効いているので、我慢した方がよいですか?

我慢し続けることはおすすめしません。錐体外路症状は、生活のしづらさだけでなく、服薬の中断や治療の中断にもつながります。効いていることは大切ですが、副作用を小さくして続けられる治療に整えることも同じくらい大切です。「薬を始めてから」「増やしてから」「切り替えてから」動きがおかしい。そう具体的に伝えて、主治医と一緒に調整してもらってください。

自己判断で薬をやめてもよいですか?

急にやめるのはおすすめしません。抗精神病薬や抗うつ薬を急に中止すると、もとの病気の悪化や離脱症状を招くことがあります。つらい症状があっても、まずは「いつから、どんな動きの変化があるか」を主治医に伝えてください。そのうえで、減量や薬剤の変更を一緒に相談しましょう。

まとめ

体の動きがどこかおかしい。その正体は、薬による運動面の副作用かもしれません。急性ジストニア、アカシジア、薬剤性パーキンソニズム、遅発性ジスキネジア。主に抗精神病薬で問題になりますが、第二世代の薬でも完全には消えていません。代謝面の副作用とあわせて、全体のつり合いで薬を選びます。気づくコツは、薬を始めた・増やした・切り替えた時期と、症状が出た時期を並べてみること。自己判断で中止せず、主治医と一緒に減量や薬剤変更、必要な補助薬を調整してもらってください。高熱、強い筋強剛、意識障害がある場合は悪性症候群の可能性もあり、すぐに医療機関へ連絡しましょう

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