「気分の波があるうえに、突然の動悸や息苦しさにも襲われる」。双極症の治療中にパニック発作が重なったり、パニック症の経過のなかで気分の大きな浮き沈みが新たに見つかったりするケースは珍しくありません。この2つの疾患は共通する脳の仕組みを背景に、同じ方に重なりやすい関係にあります。本記事では、双極症とパニック症がなぜ重なりやすいのか、併存した場合にどのような影響があるのか、そして治療ではどのような点に注意が必要なのかを解説します。
双極症の基本については双極症の解説ページを、パニック症の基本についてはパニック症の解説ページをあわせてご覧ください。
- 気分の波にパニック発作が重なり、日常生活に支障が出ている
- 「また発作が起きるのでは」という予期不安がつきまとう
- お薬を飲んでいるのに、どちらかの症状がなかなか落ち着かない
こうした状態に心当たりがある方は、双極症とパニック症の併存について知っておくことが、ご自身の状態を理解する助けになるかもしれません。
双極症とパニック症の併存とは
「併存」とは、2つ以上の病気が同じ方に同時に存在している状態のことです。双極症とパニック症の併存は偶然の重なりではなく、共通する脳の仕組みや体質が背景にあると考えられています。
どちらか一方が先に発症し、のちにもう一方が加わるケースが多く見られます。双極症のうつ状態の時期にパニック発作が出やすくなったり、パニック症の経過のなかで気分の波が目立ち始めたりする形です。両方を正しく把握することが、適切な治療への第一歩になります。
併存するとどのような症状がみられるのか
双極症の症状にパニック発作が加わる場合
躁状態では活動性が高まり、眠らなくても平気な感覚になります。この時期にパニック発作が起きると、焦燥感や興奮がさらに強まり、自分でも状態の区別がつきにくくなります。うつ状態の時期には、気分の落ち込みに加えて強い不安が重なり、外出や日常の活動がいっそう難しくなることがあります。
混合状態での複雑さ
双極症には、躁とうつの症状が入り混じる「混合状態」があります。この状態ではもともと焦燥感や不安が強く出やすいため、パニック症の症状と区別がつきにくくなることがあります。どちらの病気による症状なのかを丁寧に見極めることが、治療方針を立てるうえで大切です。
予期不安と気分の波の悪循環
パニック症では「また発作が起きるのでは」という予期不安がつきまといます。この持続的な不安が双極症のうつ状態を深めたり、ストレスとなって気分の波を不安定にしたりすることがあります。反対に、気分の不安定さがパニック発作の引き金になることもあり、互いに悪循環を生みやすい関係にあります。
どのくらいの頻度で併存するのか
52 件の研究を統合したメタ解析では、双極症の方がパニック症を一生のうちに経験する割合はおよそ 17 %と報告されています。これは不安症のなかで最も高い併存率です。
一般の人口でのパニック症の生涯有病率は1〜2%程度ですので、双極症がある方はそうでない方に比べて、パニック症を発症するリスクがおよそ10倍前後高いと推定されています。なお、双極I型と双極II型の間で併存率に大きな差は認められていません。
また、双極症の方のおよそ半数に、パニック症を含む何らかの不安症が重なっているとする報告もあり、不安への対応は双極症の治療を考えるうえで欠かせない視点です。
なぜ併存が起きるのか
双極症とパニック症が同時に起こりやすい理由は、まだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの共通する生物学的な背景が指摘されています。
神経伝達物質の働きの偏り
脳内で気分や不安の調整にかかわるセロトニンやノルアドレナリンの働きに偏りがあると、気分の波とパニック発作の両方が起こりやすくなると考えられています。こうした神経伝達物質の仕組みを、2つの病気が共有していることが、併存の一因と見られています。
ストレス応答の過敏さ
ストレスを受けたとき、体内ではストレスホルモンが分泌されます。この反応を調整する仕組みがうまく働かないと、双極症の気分エピソードが起こりやすくなると同時に、パニック発作も誘発されやすくなります。ストレスへの過敏さが、両方の症状を引き起こす共通の土壌になっている可能性があります。
遺伝的な要因の重なり
家族を対象にした研究では、双極症と不安症の両方を抱える方のご家族にも、同じ組み合わせの疾患が現れやすいことが報告されています。これは、両疾患に共通する遺伝的な体質が関与していることを示唆しています。
併存が経過に与える影響
双極症にパニック症が重なると、どちらか一方だけの場合に比べて、経過が複雑になりやすいことがわかっています。
- 気分の波が頻繁になる: 年に4回以上の気分エピソードが出現する「急速交代型」と呼ばれる経過をたどりやすくなります。
- うつ状態が長引きやすい: パニック症の不安が加わることで、うつ状態からの回復に時間がかかる傾向があります。
- 自殺のリスクが高まる: 併存がある場合、自殺念慮や自殺企図のリスクが上がることが複数の研究で確認されています。
- 生活の質が低下する: 社会的・職業的な活動が制限され、日常生活への影響が大きくなります。
- ほかの問題が加わりやすい: つらさを紛らすためにアルコールなどに頼るようになり、依存症を二次的に発症するリスクもあります。
併存があっても適切な治療で症状を安定させることは十分に可能です。大切なのは、双極症とパニック症の両方が存在することを早い段階で正しく把握し、両方に目を配った治療を進めることです。
関連する疾患
双極症やパニック症は、ほかの精神的な不調と重なって現れることが多い病気です。片方だけを治そうとしてもうまく進まないことがあり、全体を同時に評価することが大切です。下の疾患名はそれぞれ、より詳しい解説ページに進めます。
- 抑うつ症(うつ病): 双極症のうつ状態が長引くなかでパニック発作が加わると、抑うつ症と見分けがつきにくくなることがあります。
- 不安症: パニック症以外にも、持続的な心配が続く全般不安症や、人前での緊張が強い社交不安症が重なることがあります。
- 不眠症: 気分の波や予期不安によって睡眠が乱れ、不眠が慢性化することがあります。睡眠の乱れは双極症の再発にも影響します。
- 依存症: 不安やつらさを和らげるためにアルコールや薬物に頼り、依存に発展することがあります。
- 神経発達症(ADHD): 衝動性や注意の問題が重なると、気分の波やパニック症状の管理がさらに難しくなることがあります。
治療の基本
双極症とパニック症が併存する場合、治療は両方の病気に目を配りながら段階的に進めます。まず気分の安定を図ることが最優先であり、そのうえで不安やパニック発作への対応を組み合わせていきます。双極症・パニック症それぞれの一般的な治療については双極症のページ・パニック症のページをご参照ください。
1. 気分の安定化と全体の評価
治療の出発点は、双極症の気分の波を安定させることです。気分が落ち着くと、不安やパニック発作も和らぐ場合が多いことがわかっています。同時に、パニック症の症状がどの程度あるのか、ほかに重なっている不調がないかを丁寧に評価します。
2. 薬物療法
気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)が治療の柱です。気分の波を穏やかにしながら、不安症状にも効果が期待できるお薬を選択します。一部の抗精神病薬(クエチアピンなど)は、気分安定と不安軽減の両方に働くため、併存例で有用な選択肢になります。
パニック症に対して広く使われるSSRIは、双極症の方に用いると躁状態を誘発するリスクがあります。そのため使用には慎重な判断が必要であり、用いる場合は必ず気分安定薬との併用が前提になります。
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は即効性がありますが、依存のリスクがあるため、短期間の使用にとどめることが推奨されています。
3. 心理療法
認知行動療法はパニック症に対して効果が高く、双極症の再発予防にも役立つことが知られています。生活リズムの安定化を通じて気分の波を穏やかにする対人関係・社会リズム療法も、併存する方に適用されることがあります。
また、心理教育によってご自身の病気の特徴を理解し、「気分の波の前触れ」と「パニック発作の前触れ」の両方に早く気づけるようになることも大切な治療の一部です。
家族や周囲の方へ
双極症とパニック症の両方を抱えていると、ご本人の苦しさはとても大きなものになります。気分の波に振り回されるだけでなく、いつ起こるかわからないパニック発作への恐れも加わり、日常の行動が制限されがちです。
ご家族や周囲の方にお願いしたいことがあります。
- 症状を「気の持ちよう」と片づけないでください。気分の波もパニック発作も、脳の仕組みが関わる病気の症状です。
- 通院やお薬の継続を見守ってください。調子がよいときに治療を中断すると再発しやすくなります。
- 生活リズムの安定に協力してください。睡眠、食事、活動のリズムを整えることは、両方の病気の安定に役立ちます。
- ご家族自身も無理をしないでください。支える側が疲弊すると、ご本人の回復にも影響します。必要に応じて、ご家族のための相談窓口も利用してください。
早めに相談したいサイン
以下のような状態が続いているときは、早めに精神科・心療内科に相談してください。
- パニック発作が繰り返し起きていて、外出がつらくなっている
- 気分の波(高揚と落ち込みの繰り返し)にパニック発作が重なっている
- お薬を続けているのに、不安や気分の不安定さが改善しない
- 「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが浮かぶ
- 眠れない日が続き、日中の生活に支障が出ている
- 不安を紛らわせるためにアルコールや薬に頼ることが増えている
つらさを感じているなら、それだけで相談する理由として十分です。ご自身で判断が難しいと感じたときも、まずは専門の医療機関にご相談ください。
すぐに話を聞いてほしいとき、夜間や休日で医療機関に相談しにくいときは、以下の相談窓口も利用できます。
- いのちの電話: 0570-783-556
- よりそいホットライン: 0120-279-338
よくある質問
双極症とパニック症は同時に治療できますか?
はい、同時に治療を進めることが可能です。まず気分安定薬で双極症の気分の波を落ち着かせることを優先し、そのうえでパニック症への対応を組み合わせます。両方を同時に把握しながら治療を進めることで、どちらか一方だけを治療するよりも安定しやすくなります。
パニック症のお薬を飲むと躁状態になることがありますか?
パニック症によく使われるSSRIは、双極症の方では躁状態を引き起こす可能性があります。そのため、双極症が併存している場合には、SSRIを使うかどうかを慎重に検討し、使用する場合は必ず気分安定薬を併用します。お薬の調整は主治医と相談しながら進めてください。
パニック発作と躁状態の焦燥感は、どう見分ければよいですか?
パニック発作は、動悸や息苦しさなどの身体症状を伴い、数分から十数分でピークに達して収まることが多いのが特徴です。一方、躁状態の焦燥感は、気分の高揚や活動性の増加とともに持続的に続きます。ただし、混合状態ではこの区別がつきにくくなるため、ご自身で判断が難しい場合は、症状の経過を主治医に伝えて一緒に整理することをおすすめします。
家族に双極症とパニック症の両方がある人がいます。自分も発症しますか?
家族に同じ組み合わせの疾患がある場合、体質的なリスクはやや高いと考えられています。しかし、遺伝的な素因があるからといって必ず発症するわけではありません。ストレス管理や生活リズムの安定など、予防的に取り組めることもあります。気になる症状があれば、早めに専門の医療機関に相談してください。
まとめ
双極症とパニック症は高い頻度で併存し、放置すると気分の波が頻繁になったり、うつ状態が長引いたり、生活の質が大きく低下したりすることがわかっています。この2つの疾患の重なりは偶然ではなく、脳の神経伝達物質やストレス応答の仕組み、遺伝的な要因が共通していることが背景にあります。
治療では、まず気分安定薬で双極症の気分の波を穏やかにすることを最優先とし、そのうえでパニック症への対応を組み合わせます。お薬の選択には注意点があり、専門医による丁寧な評価と調整が欠かせません。
「気分の波もパニック発作も、正しく把握して対応すれば、安定した日常に近づくことができます」。おひとりで抱え込まず、専門の医療機関にご相談ください。
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参考文献
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
- Nabavi B, et al. A Lifetime Prevalence of Comorbidity Between Bipolar Affective Disorder and Anxiety Disorders: A Meta-analysis of 52 Interview-based Studies. EBioMedicine. 2015.
- Yapici Eser H, et al. Prevalence and Associated Features of Anxiety Disorder Comorbidity in Bipolar Disorder. Frontiers in Psychiatry. 2018.
- Preti A, et al. Prevalence and treatment of panic disorder in bipolar disorder: systematic review and meta-analysis. Evidence-Based Mental Health. 2018.

