「気分の波がつらいうえに、ひどい頭痛まで繰り返す」。双極症(躁うつ病)の治療を続けるなかで、こうした悩みを抱えている方は少なくありません。頭痛のほうは、相談する機会がないまま過ぎていることがあります。実は、双極症と片頭痛が同じ方に重なって現れる割合は、一般の方の約2〜3倍と報告されています。
日本での片頭痛の有病率は、およそ8%とされています。一方、双極症の方では約20%にのぼるとの報告があります。調査ごとに対象や方法が異なるため、数字には幅があります。双極症の方に片頭痛が多いという報告は、複数あります。頭痛がつらくて、気分の治療に集中できない。気分の波が激しくて、頭痛の相談は後回しになる。このすれ違いが続くと、どちらの症状も長引きやすくなります。次のような状態に、心当たりはないでしょうか。
- 気分が落ち込む時期やイライラする時期に、頭痛の頻度が増える
- ズキズキと脈打つような頭痛が数時間〜数日続く
- 頭痛のたびに鎮痛薬を使い、薬の量が増えてきた
- 光や音に敏感になり、吐き気を伴うことがある
- 睡眠リズムが乱れると頭痛も気分も悪化しやすい
双極症と片頭痛の併存とは
双極症については双極症(躁うつ病)をご参照ください。片頭痛は、脈打つような強い頭痛が発作的に起こる疾患です。吐き気や、光や音への過敏を伴うことがあります。
双極症と片頭痛は別々の病気ですが、同じ方に重なって現れる割合がとても高いことがわかっています。これを「併存」といい、片方だけに注目していると、もう片方の治療が遅れることがあります。
2025年、フランスのFACE-BDコホートという大規模な調査の結果が発表されました。双極症の方4,348人のうち、約20%に片頭痛がみられたという報告です。一般の方と比べて、明らかに高い併存率です。
どのような症状がみられるのか
気分エピソードと頭痛の関係
二つの病気は、ただ並んで存在するだけではありません。互いに影響し合うことがあります。うつのエピソード中に片頭痛の頻度が増える方は多く、頭痛のつらさが意欲や集中力の低下をさらに招きます。躁状態や軽躁状態のときは、睡眠不足や活動量の急増が頭痛の引き金になることもあります。
影響は逆向きにも働きます。片頭痛そのものが気分の落ち込みや不安を強め、双極症の経過を不安定にする要因にもなり得ます。だからこそ、両方の症状を記録して、主治医と共有することが大切です。
前兆を伴う片頭痛や、月に15日以上頭痛がある慢性片頭痛の方は、双極症との併存がより多いと報告されています。頭痛が頻繁な方は、気分の波についても一度振り返ってみてください。
なぜ双極症に片頭痛が起きやすいのか
別々の病気であるはずなのに、これほど重なる。その理由として、共通する仕組みがいくつか研究で示されています。
セロトニンの働きの変化
セロトニンは、気分の調節に深く関わる神経伝達物質です。そして同じセロトニンが、痛みの調節にも関わっています。セロトニンをはじめとする神経伝達物質の変化が、両方に共通して関わっていると考えられています。
そのほかの神経伝達物質のバランスの乱れ
関わっているのは、セロトニンだけではありません。ドパミンやノルアドレナリンのバランスの乱れも、両疾患に共通しています。こうした変動は、双極症の急速交代型(短い周期で躁とうつを繰り返すタイプ)と関連する可能性が指摘されています。片頭痛の頻度増加との関連も、あわせて指摘されています。
遺伝や炎症の関与
手がかりは、脳内の神経伝達物質にとどまりません。近年の研究では、双極症と片頭痛の両方のリスクを高める遺伝的な変異が見つかっています。さらに、体内の炎症に関わる物質(炎症性サイトカイン)の異常も報告されています。細胞のエネルギーを作るミトコンドリアの機能低下も、共通するリスク因子として報告されています。
併存しやすい方の特徴
では、どのような方に片頭痛が重なりやすいのでしょうか。2025年のフランスの大規模研究では、双極症に片頭痛が重なりやすい方の特徴として、以下が報告されました。
- 女性: 男性に比べて約2倍の併存リスクがあります
- 若い年齢: 若い方ほど併存が多い傾向があります
- 睡眠の問題を抱えている: 不眠や過眠が片頭痛の引き金になります
- 子ども時代のつらい体験がある: 小児期のトラウマが関連しています
- 高血圧やぜんそく、乾癬などの身体の病気がある
当てはまる項目があっても、必ず片頭痛が起こるわけではありません。心当たりがある場合は、頭痛のことも主治医に伝えてみてください。双極症の診察のなかで頭痛の相談をすることは、決して場違いではありません。
関連する疾患
双極症と片頭痛の併存がある方には、ほかの精神的な不調が重なっていることも少なくありません。複数の症状が絡み合っている場合は、全体を見渡した評価が大切です。下の疾患名から、それぞれの解説ページに進めます。
- 抑うつ症(うつ病): 双極症のうつ相と片頭痛が重なると、気分の落ち込みや意欲の低下がいっそう強まることがあります。
- 不安症: 片頭痛の方には不安症の併存が多く、双極症とあわせて三つが重なるケースもみられます。
- パニック症: 前兆を伴う片頭痛の方に、パニック発作が起きやすいことが報告されています。
- 不眠症: 睡眠の乱れは双極症の気分エピソードと片頭痛の両方を悪化させる共通の引き金です。
- 依存症: 頭痛のたびに鎮痛薬を使い続けると、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)が起こることがあります。依存とは成り立ちが異なりますが、薬の使い方の見直しが必要になります。
治療で気をつけたいこと
双極症の一般的な治療については双極症(躁うつ病)の治療をご参照ください。片頭痛が重なる場合には、それに特有の注意点があります。
全体を見渡した評価
出発点は、気分の波と頭痛のそれぞれを丁寧に評価することです。頻度はどれくらいか、どれほど重いか、生活にどう影響しているか。あわせて、頭痛の正体を見極めることも重要です。片頭痛なのか、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)なのか。この点も含めて、精神科と頭痛の専門医が連携して診ることが理想的です。
バルプロ酸とリチウムの位置づけ
バルプロ酸は、双極症の気分安定薬であると同時に片頭痛の予防薬としても使われます。一つの薬で両方の症状に働きかけられることがあり、併存する方では選択肢の一つになります。
ただし、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方には、片頭痛の予防を目的としたバルプロ酸は使えません。妊娠を考えている場合は、その旨を主治医にお伝えください。ほかの予防薬や、薬以外の対処をあわせて検討します。
リチウムはどうでしょうか。こちらは双極症の基本的な治療薬であり、頭痛疾患との関連でも研究が行われています。
リチウムを使っている間は、痛み止めの使い方にも注意が要ります。ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛薬を続けて使うと、リチウムの血中濃度が上がることがあります。吐き気や手のふるえ、ふらつきが出たときは、早めに主治医にご相談ください。市販の痛み止めも含めて、自己判断で常用しないようにしてください。
片頭痛の急性期に使うトリプタン系の薬は、セロトニンに作用します。抗うつ薬との組み合わせには注意が必要です。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬が該当します。これらと一部の片頭痛薬を同時に使うと、まれにセロトニン症候群のリスクが生じることがあります。必ず処方医に、現在使っているすべての薬を伝えてください。
生活リズムの安定と心理的サポート
毎日同じ時間に起きて、同じ時間に眠る。この習慣は、気分の波にも頭痛にも良い影響を与えます。心理療法では、ストレスへの対処法を身につけたり、頭痛や気分の変動をどう受け止めるかを一緒に考えたりします。記録も助けになります。頭痛ダイアリーと気分の記録を併用すると、トリガーの特定や治療方針の調整に役立ちます。
家族や周囲の方へ
そばで見ているご家族も、どう声をかければよいか迷うことがあると思います。双極症と片頭痛を併せ持つ方は、気分の波と頭痛の波という二重のつらさを抱えています。「また頭痛?」「気の持ちようでは?」といった言葉は、本人を追い詰めてしまうことがあります。
頭痛で動けない日は、無理に活動を促すのではなく、静かな環境を整えてあげてください。気分の波が激しい時期に頭痛が重なると、ご本人の苦痛は想像以上に大きくなります。
支えは、大きなことでなくてかまいません。通院の付き添いや、薬の飲み忘れへの声かけ。そうした日常の小さなサポートが、治療の継続を支えます。ご家族自身もつらいと感じたら、遠慮なく当院にご相談ください。
早めに相談したいサイン
以下のようなサインがある場合は、早めに精神科や頭痛の専門医に相談することをおすすめします。
- 気分の落ち込みやイライラとともに頭痛が増えている
- 鎮痛薬を月に10日以上使うようになった
- 頭痛や気分のつらさで仕事や家事ができない日が続いている
- 眠れない日、または眠りすぎる日が続いている
- 「もう何もかもつらい」と感じ、生きることがつらくなっている
気分の波と頭痛の両方がつらいとき、どちらから相談すればよいか迷う方も多いと思います。当院では、こころの症状と身体の症状をあわせてお聞きしながら、治療の方向性を一緒に考えます。
生きることがつらいと感じている方は、以下の相談窓口もご利用いただけます。
- いのちの電話: 0570-783-556(毎日10時〜22時)/フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)
- よりそいホットライン: 0120-279-338
よくある質問
双極症の薬を飲んでいますが、頭痛薬も一緒に使えますか?
多くの場合、併用は可能です。ただし、注意しておきたい組み合わせがあります。片頭痛に使うトリプタン系の薬と、一部の精神科の薬です。同時に使うと、まれにセロトニン症候群という副作用が起きることがあります。リチウムを使っている方は、痛み止めの使い方にもご注意ください。ロキソプロフェンなどの消炎鎮痛薬を続けて使うと、リチウムの血中濃度が上がることがあります。市販の鎮痛薬も含め、使っている薬はすべて主治医に伝えてください。
片頭痛があると双極症は悪くなりますか?
片頭痛が頻繁に起きると、睡眠の乱れやストレスの増加を通じて、気分の波が不安定になることがあります。頭痛が軽くなることで、睡眠や生活のリズムが整いやすくなる方もいらっしゃいます。頭痛を「我慢するもの」と思わず、治療の対象として主治医に相談してください。
精神科で頭痛の相談をしてもよいのでしょうか?
もちろんです。双極症と片頭痛には共通する仕組みが多く、精神科の治療薬のなかには片頭痛の予防効果をもつものもあります。必要に応じて頭痛の専門医をご紹介することもできますので、遠慮なくお伝えください。
まとめ
気分の波がつらいうえに、頭痛まで繰り返す。その二つを、別々の問題として抱えてきた方は多いと思います。けれど、双極症と片頭痛の併存は珍しくありません。セロトニンをはじめとする神経伝達物質の変化や遺伝的な要因など、共通する生物学的な仕組みで結びついています。どちらか一方だけを治療するのではなく、全体を見渡すことで、より安定した日常を目指すことができます。
気分の波と頭痛の両方に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、まず主治医に「頭痛もつらい」と伝えてみてください。当院では、こころと身体の両面からお話を伺い、回復に向けた方針をご一緒に考えます。
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参考文献
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
- Sakai F, Igarashi H. Prevalence of Migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997.
- Jia M, et al. Comorbid Bipolar Disorder and Migraine: From Mechanisms to Treatment. Frontiers in Psychiatry. 2021.
- Samalin L, et al. Clinical features and comorbidities associated with migraine in bipolar disorder: Results from the FACE-BD cohort. Journal of Affective Disorders. 2025.
- 日本頭痛学会ほか 頭痛の診療ガイドライン2021
- 日本頭痛学会 薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)
- 医薬品医療機器総合機構 バルプロ酸ナトリウムの添付文書
- 医薬品医療機器総合機構 炭酸リチウムの添付文書

