銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

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精神医学

加害者臨床における内観療法の効果と限界

The Effect and Limitation of Naikan Therapy for Perpetrators

茅野 分 Bun Chino1)
真栄城 輝明 Teruaki Maeshiro2)

  1. 銀座泰明クリニック Ginza Taimei Clinic
  2. 大和内観研修所 Yamato Naikan Training Institute

和文抄録
 「加害者臨床」における「内観療法」の「効果と限界」について論じた。故・吉本伊信は1950年代より刑務所や少年院へ赴き、「教誨師」として、「内観」により受刑者の更生を行い、顕著な効果をもたらした。受刑者は「内観三項目;お世話になったこと・して返したこと・ご迷惑をかけたこと」を振り返り、他者からの愛情を思い出し「報恩感謝」を覚える。そして、被害者はじめ迷惑をかけた人々へ懺悔の心を生じ「気づき」を得る。ただし、全ての受刑者が更生したとは考え難い。ある程度隔離された環境において、自己を「内省」する力が必要である。「病態水準」として神経症まで。境界例・精神病者は被害念慮・妄想にとらわれる。精神疾患に罹患しているならば軽症までが限界である。とは言え、「臨床」に携わる者は、病者・弱者へ常に寄り添い、援助しようとする「心性」が不可欠である。

英文抄録
  We discussed the “Effects and Limitations” of “Naikan Therapy” in “Clinical care of Perpetrators”. The late Ishin Yoshimoto began visiting prisons and juvenile training schools in the 1950s as a “Chaplain”. He rehabilitated inmates through “Introspection” which had remarkable effects. By reflecting on the “Three Introspection Points; What we have done for you, what we have done back, and what we have done to inconvenience you”. Inmates remember who they have received love from and feel “Gratitude in return”. Then he develops a feeling of repentance towards the victims and those who have caused him trouble, leading to “Transition and Enlightenment”. But it is difficult to imagine that all prisoners have been rehabilitated. It is necessary to have the ability to “Introspect” oneself in a somewhat isolated environment. Even neurosis is considered a “Pathological level.” Borderline cases and psychotics are preoccupied with thoughts of victimization or delusions. If patient is suffering from a mental illness, the limit is mild level. However, it is essential for those involved in “Clinical work” to have the “Spirituality” to be close to the sick and vulnerable and try to help them at all times.

Key Word
内観療法 Naikan Therapy、集中内観 Intensive Naikan、被害者 Victim、加害者Perpetrator、加害者臨床 Therapy for Perpetrators

緒言
 「加害者臨床」4)という用語が2010年以降、流布している。犯罪心理学の進歩に伴い「被害者」の救済を前提とし、「加害者」の再犯を防ぐことを目的としている。加害者の精神病理を調べると、加害者はかつて「被害者」であったことが少なくなく、その時の「心的外傷」が十分、癒されないと、加害者へ転じ、再犯を繰り返すことが明らかになった。
  遡ること50年以上前、故・吉本伊信は刑務所や少年院へ赴き、「教誨師」として、「内観」により受刑者の更生を行い、顕著な効果をもたらした。「内観・内観法・内観療法」が加害者臨床に有効であることは説明するまでもない9)

「加害者」とは
 「加害者」とは他者へ被害を与える者である。他者は「被害者」と呼ばれ、心身に何らかの傷つきを生ずる。このため「臨床行為」すなわち「医学的・診療・治療」は被害者へ行われる。

加害者の「被害者意識」
 加害者が犯行に至るまでの生育歴を聴取すると、こころ傷ついた体験を多く耳にする。いわゆる「Trauma心的外傷」2)、最近は「逆境的小児期体験ACE. Adverse Childhood Experience」1)という言葉が用いられている。小児期に両親から心身に虐待を受けた、小学校でいじめられたという「被害体験」である。その結果、加害者は「被害者」であった過去を背負い、「被害者意識」を強く抱く。

被害者が加害者となる
 被害者の傷ついた心身は十分に癒やされる必要がある。癒されないと、Trauma心的外傷は“PTSD. Post Traumatic Stress Disorder”2)となる。癒されるどころか、その後も傷つき続け、生育歴に影を落とすと“Complex PTSD”2)へ進行する。人格は“Borderline Personality Disorder”2)に変容する。

 被害者は、身の上の不幸を嘆くのみでなく、加害者を恨むこともある。他罰的となり、直接関係ない他者へ攻撃性を向けることもある。その最たるが「通り魔」と呼ばれる無差別の殺傷行為である。犯人は逮捕後やり場のない怒りから、世の中を恨み、犯行に及んだことを供述する3)

加害者意識と被害者意識
 被害者は心的外傷後、速やかに心身の治療を受けるべきである。しかし、様々な理由から受けられないと、加害者へ転じることがある。その場合、加害者へは「まっとうな加害者意識」を抱くよう働きかけることが先決であるが、加害者の被害者意識へも配慮し、「しかるべきケア」を施すことにより、被害者意識は和らぎ、加害者意識も高まることが期待される。

TEA. Trajectory Equifinality Approach 複線径路・等至性・アプローチ8)
 内観療法の過程を俯瞰するため、“TEA”を用いて図解する。これは2000年以降、質的研究のため開発された画期的な技法である。あらゆる心理・社会的な事象に対し、下記項目を定め、1枚の図にまとめる。これにより複雑な質的情報を一元的・視覚的にとらえられる。

EFP; Equifinality Point 等至点
P-EFP;Polarized EFP 両極化した等至点
ZOF;Zone of Finality 目的領域
BFP; Bifurcation Point 分岐点
SG;Social Guidance 助成
SD;Social Direction 方向づけ
OPP;Obligatory Passage Point
必須通過点
非可逆的時間

内観療法の効果
 内観療法の創始者である故・吉本伊信は当初から加害者臨床を行なった。刑務所や少年院を訪問、「教誨師」として受刑者へ内観を指導し、顕著な効果をもたらした。内観が加害者臨床に著効した理由は「内観三項目」にある。「お世話になったこと、して返したこと、ご迷惑かけたこと」を調べることにより、受刑者は母父、兄弟・姉妹、恩師などから注がれた愛情に気づき、感謝する(報恩感謝)。そして被害者はじめ多くの人々へ迷惑をかけたことを認め、懺悔の念を抱く。感謝を覚えることが「加害者臨床」に相当し、懺悔の念を抱くことが「加害者意識」の涵養に相当する。

 故・吉本伊信は内観により多くの受刑者を更生させた。ただし、それが全例でないことは過去の情報を検証しなくとも想像しうる。万能な方法はない。故・吉本伊信の講和を聞き、感銘を受け、内観を試みたところ、三項目へ合致、改心した人々であろう。刑務所や少年院という隔離された環境は、自己を内省する内観に適していたこともあろう。

 著効した内観者が残した音声によると、独居房へ収容され、毎日、何もできない状況下、先に内観した人の音声を聞き、試しに鎮座したところ、お世話になったこと・ご迷惑かけたことを想起、内観へ入れたという。ただし著効した内観者が雑居房にいたままでは、はじまらなかったかもしれない。刑務所へ入ることなく、「娑婆」で生活していたら、犯行を繰り返していたかもしれない。これは内観と出会えた「運」や「縁」とも言える6)

症例
36歳、女性、窃盗癖、事務職
 幼少期より母から2歳年上の姉と比較され、劣等感を覚え育った。短大卒後、事務職として真面目に就労した。28歳時、職場上司36歳と結婚。不妊治療を行うも子どもに恵まれなかった。姉夫婦には子ども二人が生まれ、引け目を覚え続けた。33歳時より窃盗癖、逮捕2回。夫の勧めもあり、大和内観研修所にて集中内観。母からの愛情を再確認、姉への劣等感は和らぎ、窃盗癖も治まった。

内観療法の限界
 まず、内観療法を受ける・集中内観を行うということは大変、敷居の高い行為である7)。ある人に何か問題が生じ、何とかしたいと試みても、多くの人々は易きに流れる。問題と向き合うことは、素顔の自分と向き合うことである。たいてい人は問題の原因を、自己の内面に求めることなく、他者へ責任転嫁する。いわゆる「外観」と呼ばれる他罰・回避である。はじめから自己の内面へ目を向けられる人は本来、内省する力を持っているか、せざるを得ない状況に追い込まれているかである。これが内観療法・集中内観の「第一関門」である。

 「第二関門」は、集中内観へ入っても「三日目の壁」にぶつかることである。罪業妄想にとらわれているうつ病者でない限り、すぐ自分が悪いと思わない。親が悪い、上司が悪いなど、他罰思考に陥る。環境が悪かった、時期が悪かったなど、原因を周囲の状況へ帰属することもある。

 「三日目の壁」を乗り越えるためには、自らの弱さや醜さと向き合うことのできる「自我の強さ」が必要である。何らかの精神疾患に罹患している人ならば、軽症までであり、中等症以上の病状では耐え難い。「病態水準」の概念によると、神経症まで。境界例・精神病者は、被害念慮・妄想にとらわれている。

 「第三関門」として「嘘と盗み」を調べられるかを挙げる。触法者でない限り、嘘はまだしも、盗みを自分が犯したと考えることは、日常的にありえない。集中内観の山場となる5日目以降に調べられる。および5日目を迎えた内観者の全員が調べられるものではなく、内観が深まり、ご迷惑かけたことを調べることを経て「健全な罪業感」を覚えた人に限られる。

 故・吉本伊信は「内観の真髄は『罪悪感』と『無常感』の感得にある」「自分の『罪』を問い詰めることは、自分の『死』を取り詰めること」と述べた。その境地までたどり着くと、内観の本願である「気づき」に至る。

 最後に「気づき」へ至っても、内観から明け、日常生活に戻り、その意識を保つことは難しい。これは日常内観へゆだねられるが、言うは易く行うは難い。自分で日記を書いたり、面接者へ手紙を送ったりすることにより、行い続ける人は少数のみである。多くの人々は日が経つにつれ、挫折し、外観へ戻る。日常内観を継続するため、集中内観後「個人・集団・心理療法」が試みられている5)

症例
42歳、男性、DV、SE
 父方伯父が統合失調症、父は大学教授、母は高校教師、妹一人、幼少期より長男として厳しく育てられた。内向的だったが成績優秀。理工学部卒業後、IT企業にてSEとして活躍。36歳時、見合結婚。同時期より睡眠薬を服用。40歳時、睡眠薬を服用後、妻へ暴行、別居となった。睡眠薬・脱抑制も否めないが、DVを克服するために大和内観研修所にて集中内観をするも「3日目の壁」にて中断。3ヶ月後「パワハラ上司の罵倒する声が頭の中で響く」とのこと。抗精神病薬を処方したところ、速やかに静穏な状態に至った。

結語
 「加害者」の多くが、かつては「被害者」であったことを紹介し、「加害者臨床」が必要であることを説明した。「内観療法・集中内観」は加害者臨床に高い効果を示すことは、故・吉本伊信の時代より示されている。ただし、加害者・内観者の自我機能・病態水準、置かれた環境・状況などを考慮の上、内観を施すべきである。

 最後に、内観療法・集中内観へ臨むこと、遂げることに、治療者・面接者がとらわれてはいけない。あらゆる内観者は何らかの問題を抱えてきた人々であり、「弱者」であることが少なくない。そのような人々へ、まずは寄り添い、微力ながら援助しようという「心性」が、あらゆる「臨床」に携わる者に不可欠である。

文献
1) aces aware: https://www.acesaware.org
2) American Psychiatric Association:DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院. 東京. 2023.
3) 犯罪白書:https://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html
4) 廣井亮一編:加害者臨床. 日本評論社. 東京. 2012.
5) 真栄城輝明:心理臨床としての内観. 朱鷺書房. 奈良. 2005.
6) 真栄城輝明、塚崎稔、河合啓介監修:内観法・内観療法の実践と研究. 朱鷺書房. 奈良. 2023.
7) 永山恵一、清水康弘:内観法-実践の仕組みと理論. 日本評論社. 2006. 
8) サトウタツヤ、安田裕子監修:カタログTEA. 新曜社. 東京. 2023.
9) 吉本伊信:内観法. 春秋者. 東京. 1965.

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