「統合失調症なのか、ASDの特性なのか、それとも両方なのか」。こうした問いを抱えて相談にみえる方は、少なくありません。二つの疾患は、外からみえる様子が似ている部分があります。そのため、違いを見分けるのが難しいこともあります。さらに併発することもあり、どちらか一方に決めるだけでは支援が届かない場合があります。
近年の研究で、統合失調症とASDには遺伝や神経の発達に多くの重なりがあるとわかってきました。二つの疾患は、どこで交わり、どこが異なるのか。その整理と、困りごとへの手がかりをお伝えします。
- 人との距離感がうまくとれず、孤立しやすい
- 相手の表情や意図を読み取ることが難しい
- ストレスが強まると、周囲の声や視線が気になりすぎる
- 考えがまとまらず、日常の判断に時間がかかる
- 自分の症状がどちらの疾患によるものかわからない
統合失調症と ASD はどんな疾患か
統合失調症は、幻覚や妄想、意欲の低下などを特徴とする精神疾患です。思春期から青年期にかけて発症することが多く、適切な治療で回復を目指せます。詳しくは統合失調症の解説ページをご覧ください。
自閉スペクトラム症(ASD)は、対人関係やコミュニケーションの困難、こだわりの強さを特徴とする神経発達症です。生まれつきの特性であり、幼少期から傾向がみられます。詳しくはASDの解説ページをご覧ください。
二つの疾患の重なりとは
診断の枠組みでは、統合失調症とASDは別々の疾患です。それでも、両者には症状にも、遺伝にも、脳の発達にも多くの共通点があることが明らかになっています。
かつては、子どもの重度の社会的孤立やコミュニケーションの困難が「小児期統合失調症」と呼ばれていました。1943年に、カナーが自閉症を独立した概念として報告しました。二つが診断の分類のうえで分けられたのは、1980年ごろのことです。長く混同されてきた事実そのものが、二つの疾患の近さを示しています。
疫学研究では、ASDのある方は一般の方と比べ、統合失調症の有病率が3〜4倍高いと報告されています。また、家族に統合失調症のある方では、ASDの有病率も高い傾向があります。こうしたデータは、二つの疾患が共通のリスク因子を持っている可能性を示しています。
どのような症状が似ているのか
感情の表れ方と対人関係の困難
統合失調症の陰性症状のひとつに「感情の平板化」があります。表情が乏しくなり、会話の主導性が下がる状態です。一方、ASDでも対人的なやりとりの難しさから、表情や反応が少なく見えることがあります。外からみた様子が似ているため、一度の診察だけでは見分けにくいことがあります。
ストレス下で現れる知覚の変化
ASDのある方は、ストレスや不安が強まると感覚過敏が悪化し、自分と他者の境界があいまいになることがあります。「悪口を言われている気がする」「じっと見られている気がする」。そんな体験が生じることもあり、統合失調症の陽性症状と似た印象を与える場合があります。
獨協医科大学の研究(2023年)があります。一つの大学病院での調査です。初診のASD患者さん45名と統合失調症の患者さん106名が、ご自身で尺度に回答しました。ASD患者さんの約16%に、混乱や妄想的な気分がみられたと報告されています。統合失調症の患者さんでは約42%でした。知覚の異常についても、ASDで約11%、統合失調症で約41%と報告されています。程度の違いはあるものの重なりがあることがわかります。
二つの疾患を見分けるために
同じ研究の解析では、次のことが示されました。受診されたときの年齢が高いことと、知覚の異常があることです。どちらも、統合失調症の側にみられやすかったと報告されています。陽性症状を丁寧に評価することが、二つの疾患を見分ける手がかりになります。一度の診察で結論を急がず、経過を追いながら判断していくことが大切です。
なぜ二つの疾患に共通点があるのか
近年の遺伝子研究では、二つの疾患に生物学的な基盤の重なりがあることが報告されています。おもな研究成果を、わかりやすく紹介します。
遺伝子レベルの重なり
2024年、ハイファ大学の研究グループがゲノム解析の結果を発表しました。ゲノム解析で見つかったASD関連の遺伝子のうち、約75%が統合失調症にも関連していたと報告されています。遺伝のうえでの重なりを数値で調べた研究でも、二つの疾患には確かな重なりがあると報告されています。
日本でも、名古屋大学大学院の研究グループの報告があります。5,500名以上を対象に、遺伝子のコピー数の違い(ゲノムの一部が増えたり欠けたりする変異)を調べました。その結果、両方の疾患の患者さんそれぞれ約8%に、病気と関連するコピー数変異がみつかりました。29の遺伝子領域で、共通のリスク変異が確認されています。
神経細胞からみた共通点
患者さんの細胞から作ったiPS細胞を神経細胞に変化させ、発達の過程を観察した研究もあります。ASDと統合失調症の神経細胞は、発達の初期にはそれぞれ異なる方向に変化します。しかし成熟するにつれて、その方向は近づいていきます。どちらもシナプス(神経細胞どうしのつなぎ目)の働きが低下するという共通の特徴に行きつくことが報告されました。
共通して関わる生物学的なしくみ
名古屋大学の研究では、二つの疾患に共通する発症のしくみも見いだされています。細胞を守る酸化ストレスへの応答、遺伝子の安定性を保つしくみ、脂質の代謝、シナプスの機能に関わる経路などです。また、コピー数変異をもつ患者さんでは、知的能力の困難を伴う割合が高いことも共通点として報告されています。
二つの疾患の関係をめぐる仮説
ASDと統合失調症の関係について、いまおもに二つの考え方が議論されています。
ひとつは「対極仮説」と呼ばれる見方です。ASDでは脳が発達期に過剰に成長し、シナプスが多くなりすぎる傾向があるとされます。一方、統合失調症ではシナプスが過度に刈り込まれ、減りすぎるという考え方です。神経発達の両極端に、それぞれの疾患が位置するという仮説です。
もうひとつは「部分的重複仮説」です。二つの疾患はリスク因子の一部を共有しつつ、それぞれに固有の要因もあるという見方です。現在のエビデンスは、どちらの仮説も部分的に正しいことを示唆しています。共有される遺伝基盤がありながら、一部の遺伝子変異は反対の方向に作用する。そんな複雑な関係が浮かび上がっています。
関連する疾患
統合失調症とASDは、それぞれほかの精神的な不調と重なることがあります。複数の状態が同時にみられるときは、一つだけに注目するのではなく、全体をあわせて評価することが大切です。
- 統合失調症: 幻覚や妄想、意欲の低下などを特徴とする精神疾患です。ASD との症状の重なりが指摘されています。
- 注意欠如多動症(ADHD): 不注意や多動性、衝動性を特徴とし、ASD と併存することが多い疾患です。
- 抑うつ症(うつ病): ASD や統合失調症のある方が、対人関係の困難や孤立感から二次的に抑うつ状態になることがあります。
- 不安症: ASD のある方は感覚過敏や予測できない状況への不安から、不安症を併存しやすいことが知られています。
- 双極症(躁うつ病): 統合失調症との遺伝的な重なりが指摘されており、ASD とも共通する遺伝子が報告されています。
両者が重なるときの対応と支援
ASDの特性と統合失調症の症状が重なるとき、治療で大切なのは何でしょうか。それは「どちらか一方」に決めつけず、丁寧に経過を追うことです。見立てによって支援の方針が変わるため、重なるときの難しさがあります。
発達歴と経過の丁寧な確認
ASDの特性は幼少期からみられることが多い一方、統合失調症の陽性症状は思春期以降に現れるのが一般的です。発症の時期や症状の変化を追うことが、二つの疾患を見分ける手がかりになります。ご家族からの情報も大切です。統合失調症の治療全般については統合失調症のページを、ASD の支援全般についてはASDのページをご覧ください。
薬物療法を進めるときの注意
統合失調症の陽性症状に対しては、抗精神病薬が中心となります。ASDが併存する場合はどうでしょうか。日本で自閉スペクトラム症に対して承認されているのは、小児期の強い興奮や易刺激性に対する治療です。感覚過敏そのものに承認された薬はありません。併存する不安や不眠などに薬を用いることはあります。ただし、薬の効果や副作用には個人差があります。ASDのある方は薬への反応が通常と異なることもあり、主治医と細かく相談しながら調整することが特に大切です。
環境調整と心理療法の組み合わせ
ASDの特性に合わせた環境の整備は、統合失調症が重なる場合にも支えになります。感覚過敏への配慮や、予測しやすいスケジュールなどです。統合失調症に対しては、症状の自己管理や再発予防を目的とした心理療法が行われることがあります。二つの疾患が重なるときは、それぞれのアプローチを組み合わせる視点が必要です。
家族や周囲の方へ
ASDと統合失調症の症状が重なるとき、ご本人だけでなくご家族も戸惑うことが多いものです。「発達の特性だと思っていたのに、別の病気もあるのだろうか」。そんな不安は自然なことです。
大切なのは、一つの診断名にこだわりすぎないことです。どちらの疾患であっても、ご本人が日常生活で困っていることに対して、具体的な支援を考えることが最優先です。ご家族が気づいた変化は、診察の場で伝えていただくと助けになります。急に口数が減った、独り言が増えた、生活リズムが崩れたなどの様子です。
ご家族自身がつらさを抱え込まないことも大切です。精神保健福祉センターや家族会など、ご家族を支える仕組みもあります。一人で抱えず、周囲の支援を活用してください。
早めに相談したいサイン
以下のようなサインに気づいたときは、早めに精神科に相談してください。
- 死にたい気持ちが浮かぶ、自分を傷つけたくなる
- これまでなかった幻聴や被害的な考えが続いている
- 急に人を避けるようになり、閉じこもりがちになった
- 会話のつじつまが合わなくなってきた
- 感覚過敏が急激に悪化し、生活に支障が出ている
- 食事や睡眠など基本的な生活が維持できなくなった
- 「自分は監視されている」「悪口を言われている」といった訴えが増えた
とくに、死にたい気持ちが浮かぶときは、その日のうちに相談窓口か精神科へご連絡ください。
これらのサインは、ASD の二次的な反応の場合も、統合失調症の発症の場合もあります。どちらであっても早めに専門医に相談することで、適切な対応につなげやすくなります。
つらさが強く、すぐに相談先が見つからないときは、以下の窓口も利用できます。いのちの電話: 0570-783-556(毎日10時〜22時)/フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)、よりそいホットライン: 0120-279-338。
よくある質問
ASD があると統合失調症になりやすいのですか?
ASDのある方は、一般の方と比べて統合失調症の有病率が高いと、複数の研究で報告されています。ただし、ASDがあれば必ず統合失調症を発症するわけではありません。遺伝的な重なりはあっても、実際に発症するかどうかには環境的な要因も大きく関わります。
二つの疾患が同時にある(併発する)ことはありますか?
はい、ASDと統合失調症が併存するケースは臨床で報告されています。ASDの特性を幼少期から持ちながら、思春期以降に統合失調症の症状が加わる。そうした経過がみられることがあります。併存が疑われるときは、それぞれの症状に合わせた支援を組み合わせていきます。
家族に統合失調症の人がいると、子どもが ASD になりやすいですか?
家族歴との関連を調べた研究では、統合失調症のある家族がいる場合に、ASDの有病率がやや高いと示されています。しかし、これは確率の話です。家族歴があるからといって、必ず発症するわけではありません。心配なときは、専門医に相談していただくのがよいでしょう。
ASD のストレス反応と統合失調症の症状はどう見分けるのですか?
ASDのある方が、ストレス下で被害的な考えや知覚の変化を経験することがあります。これは一時的なストレス反応であることも多く、環境を整えると落ち着く場合があります。一方、統合失調症の症状は続きやすく、治療の開始が遅れるほど回復がゆるやかになりやすいと報告されています。経過を追いながら、丁寧に評価していくことが大切です。
まとめ
統合失調症とASDは、歴史的に混同された時代を経て、いまは別々の疾患として分類されています。しかし、遺伝的な重なり、似た症状、神経細胞レベルの共通点が次々と報告されています。両者の関係は、あらためて注目されています。
大切なのは、診断名にとらわれすぎず、ご本人が日々の生活で何に困っているかに目を向けることです。「統合失調症なのか ASD なのか、それとも両方なのか」と迷ったら、まずは精神科にご相談ください。当院では、発達の特性と精神症状の両面から、丁寧に評価します。お一人おひとりに合った支援の方針を、一緒に考えてまいります。
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参考文献
- 日本医療研究開発機構(AMED)「自閉スペクトラム症と統合失調症:2つの精神疾患における発症メカニズムのオーバーラップを発見」
- 名古屋大学「双極性障害・統合失調症・自閉スペクトラム症の発症に関与する、ゲノムコピー数変異(CNV)の共通性と特異性を同定」2022
- Stern S, et al. Uncovering convergence and divergence between autism and schizophrenia using genomic tools and patients’ neurons. Mol Psychiatry. 2024.
- Yamada M, et al. Differences in self-reported psychotic symptoms between patients with autism spectrum disorder and those with schizophrenia. Neuropsychopharmacol Rep. 2023.
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
- Zheng Z, et al. Association between schizophrenia and autism spectrum disorder: A systematic review and meta-analysis. Autism Res. 2018.(自閉スペクトラム症と統合失調症の併存に関する系統的レビュー・メタ解析)
- 日本神経精神薬理学会、日本臨床精神神経薬理学会「統合失調症薬物治療ガイドライン 2022」
- Penttilä M, et al. Duration of untreated psychosis as predictor of long-term outcome in schizophrenia: systematic review and meta-analysis. Br J Psychiatry. 2014.
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療用医薬品 添付文書等情報検索

