療養が長引くにつれて、治療とは別の心配が重なってきます。「働けない時期の生活をどう支えるか」という不安が、回復そのものを重くしてしまうことがあります。障害年金は、病気やケガで日常生活や仕事に著しい支障がある方を支える公的年金制度です。対象は身体の病気に限りません。うつ病、双極症(躁うつ病)、統合失調症、神経発達症、知的発達症などの精神疾患も、同じく認定の対象です。
当院にも、「就労が続かず経済的に行き詰まっている」というご相談が寄せられます。「休職が長引いて、先の見通しが立たない」という声もあります。障害年金は、こうした時期に治療を中断せず、療養に専念するための支えになります。
ただ、精神の障害は、レントゲンや検査の数値で示しにくいものです。だからこそ、主治医が作成する診断書の内容が、等級判定の結果を大きく左右します。日常生活のどこに、どの程度の困難があるか。それを診察で丁寧にお伝えいただくことが大切です。
- うつ病、双極症、統合失調症、神経発達症などの精神疾患が対象
- 初診日の加入制度により「障害基礎年金」または「障害厚生年金」に分かれる
- 支給には初診日、保険料納付、障害状態の3つの要件が必要
- 等級は1級・2級・3級(厚生年金のみ)で、診断書の内容が判定を左右する
- 就労していても受給できる場合があり、最大5年分の遡及も可能
障害年金(精神)とは
障害年金は、病気やケガで生活や仕事に著しい支障が生じた方に、定期的に支給されます。加入していた年金制度によって、次の2種類に分かれます。
- 障害基礎年金: 初診日に国民年金に加入していた方が対象で、1級・2級があります
- 障害厚生年金: 初診日に厚生年金に加入していた方が対象で、1級・2級・3級および障害手当金(一時金)があります
精神疾患で障害年金を受給することは「働く意欲がない」「甘え」ではありません。療養に必要な期間を落ち着いて過ごすための、れっきとした社会制度です。
対象となる精神疾患の区分
障害認定基準では、精神の障害を次のように区分しています。
- 統合失調症、統合失調症に関連する妄想性の状態
- 気分の障害(抑うつ症、双極症など)
- 器質性精神障害(高次脳機能障害、認知症、依存症に関連する精神症状など)
- てんかん
- 知的発達症
- 神経発達症(自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習症など)
一方で、対象にならない状態もあります。パーソナリティ症(旧称: 人格障害)は、原則として認定の対象外です。不安症や適応反応症など、一般的な不安やストレスに関連する状態も同様です。ただし、重い精神病の病態を示している場合などは、対象となることがあります。
支給を受けるための3つの要件
対象の疾患に当てはまれば、それだけで受給できるのでしょうか。実際には、原則として次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
初診日要件
起点となるのは、その疾患で初めて医師の診療を受けた日(初診日)です。この日に、国民年金または厚生年金の被保険者であることが原則です。初診日にどちらへ加入していたかで、受給できる年金の種類が決まります。初診日が20歳前の年金未加入期間にある場合も、障害基礎年金の対象です。この場合は保険料納付要件を問われず、所得による支給の制限があります。初診日が古い場合は、受診状況等証明書で確認します。
保険料納付要件
二つめは、保険料を納めてきたかどうかです。原則は、初診日の前々月までの公的年金の加入期間で判定します。そのうち3分の2以上が保険料納付済みまたは免除であることが必要です。特例もあります。初診日に65歳未満の方は、前々月までの直近1年間に未納がなければ要件を満たします。
障害状態要件
三つめは、障害の状態そのものです。障害認定日またはそれ以降に、障害等級表に定める1級・2級・3級のいずれかに該当している必要があります。障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。
等級と認定基準
自分はどの等級に当たるのか。ここが、いちばん見通しを立てにくいところかもしれません。精神の障害の程度は、原因、症状、治療経過、日常生活の状況などを基に、総合的に認定されます。レントゲンや検査数値で示しにくいためです。そのなかで、診断書の「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」が、かなめの判断材料になります。
| 等級 | 状態の目安 |
|---|---|
| 1級 | 日常生活の用を弁ずることができない程度。常時の援助が必要 |
| 2級 | 日常生活が著しい制限を受ける、または著しい制限を加えることが必要な程度 |
| 3級(厚生年金のみ) | 労働が著しい制限を受ける、または著しい制限を加えることが必要な程度 |
| 障害手当金(厚生年金のみ) | 労働に制限を加えることが必要な程度の障害を残すもの(一時金) |
等級判定ガイドライン
この判定には、地域によるばらつきという課題がありました。是正のため、厚生労働省は2016年9月からガイドラインを運用しています。名称は「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」です。診断書の「日常生活能力の判定」の平均値(4段階)と、「日常生活能力の程度」(5段階)を組み合わせます。この2つから、等級の目安を示す仕組みです。てんかんは、このガイドラインの対象外です。
| 判定平均\程度 | (5) | (4) | (3) | (2) | (1) |
|---|---|---|---|---|---|
| 3.5以上 | 1級 | 1級または2級 | 目安なし | 目安なし | 目安なし |
| 3.0以上3.5未満 | 1級または2級 | 2級 | 2級 | 目安なし | 目安なし |
| 2.5以上3.0未満 | 目安なし | 2級 | 2級または3級 | 目安なし | 目安なし |
| 2.0以上2.5未満 | 目安なし | 2級 | 2級または3級 | 3級または3級非該当 | 目安なし |
| 1.5以上2.0未満 | 目安なし | 目安なし | 3級 | 3級または3級非該当 | 目安なし |
| 1.5未満 | 目安なし | 目安なし | 目安なし | 3級非該当 | 3級非該当 |
2026年度(令和8年度)の支給額
金額も気になるところだと思います。2026年4月分(6月支給分)からの支給額の目安は、次のとおりです。
| 区分 | 月額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金 1級 | 約 88,260円 | 2級の1.25倍 |
| 障害基礎年金 2級 | 約 70,608円 | — |
| 障害厚生年金 1級 | 基礎年金+報酬比例×1.25 | 配偶者加給年金あり |
| 障害厚生年金 2級 | 基礎年金+報酬比例 | 配偶者加給年金あり |
| 障害厚生年金 3級 | 報酬比例(最低保障額あり) | 厚生年金独自給付 |
障害基礎年金の1級・2級では、お子さんがいる場合に子の加算がつきます。第1子と第2子は各年額243,800円で、月に換算すると約20,300円です。第3子以降は各年額81,300円で、月に換算すると約6,775円です。正確な金額や加算の有無は、お住まいの年金事務所でご確認ください。
申請の流れ
いざ申請するとなると、書類の種類の多さに戸惑うかもしれません。手順は次のとおりです。年金事務所での事前相談を早めに予約しておくと、その後の手続きがスムーズです。
- 初診日の特定(受診状況等証明書を取得)
- 年金事務所での事前相談(必要書類の確認)
- 診断書の作成依頼(精神の障害用の所定様式)
- 病歴・就労状況等申立書の作成(発症から現在までを時系列で記載)
- 請求書類の提出(年金事務所または市区町村役場)
- 審査と決定(おおむね3〜4か月)
精神疾患の場合、審査の要になるのは、診断書と病歴・就労状況等申立書の整合性です。発症から現在までの経過を、時系列で整理しておくとよいでしょう。そのうえで、仕事、家事、対人関係のどこに困難があるかを具体的にお伝えいただくことが大切です。
申請時のポイントと注意点
- 診断書の記載内容が等級判定に直結するため、日常生活の困難さを主治医に正確にお伝えすることが重要です
- 就労していても受給できる場合があります(特に障害者雇用、福祉的就労、短時間勤務など)
- 遡及請求(障害認定日請求)により、最大5年分まで遡って受給できる可能性があります
- 受給後も1〜5年ごとの更新(再認定)が原則です。永久固定となるのは全体の一部にとどまります
- 不支給や等級が想定と異なる場合も、審査請求・再審査請求の手続きができます
書類の準備を、おひとりで抱える必要はありません。お住まいの年金事務所や、市区町村の障害福祉窓口に相談できます。障害年金に詳しい社会保険労務士も、相談先の一つです。
関連する疾患
障害年金(精神)の対象となる代表的な疾患には、次のものがあります。下の疾患名からは、それぞれ詳しい解説ページに進めます。
- 抑うつ症(うつ病): 気分の落ち込みや意欲の低下により、長期にわたって就労や日常生活が難しくなることがあります。
- 双極症(躁うつ病): 気分の波が繰り返され、安定した生活や勤務が困難になる時期に該当します。
- 統合失調症: 幻覚や妄想、陰性症状により、日常生活や対人関係に著しい制限が生じる代表的な疾患です。
- 神経発達症(ADHD): 不注意、多動、衝動性の特性が強く、生活や就労への影響が大きい場合に対象となることがあります。
- 不安症: 一般的な不安の状態は原則対象外ですが、重い症状で就労や日常生活に著しい支障がある場合などに該当することがあります。
- 依存症: アルコール等による精神症状が残り、日常生活に制限が生じている場合に対象となることがあります。
家族や周囲の方へ
ご本人の申請を、ご家族はどう支えられるでしょうか。精神疾患は、ご本人にとって障害の程度を言葉で説明することが難しい病気です。起床、食事、入浴、服薬や金銭の管理、対人関係。ご家族や身近な方の目から見た日々の様子は、診断書や病歴申立書を作るうえで貴重な情報になります。どこで困っておられるかを、主治医に一緒にお伝えいただけるとよいでしょう。
手続きの場面でも、支えられることがあります。書類の郵送、年金事務所での待ち時間、混雑した窓口でのやり取り。症状が重い時期のご本人には、どれも大きな負担です。付き添いや代理提出、コピーの整理など、できる範囲のサポートがあると、申請のハードルはぐっと下がります。
よくある質問
就労していると受給できませんか?
就労の有無だけで、受給の可否が決まるわけではありません。障害者雇用や短時間勤務、福祉的就労で仕事を続けている方もおられます。そうした場合も、日常生活や就労に著しい制限があれば、受給できる可能性があります。仕事の内容や勤務状況、職場での配慮を、病歴申立書や診断書に具体的に記載することが大切です。
初診日の証明がとれないときはどうすればよいですか?
最初に受診した医療機関のカルテが、保存期間を過ぎて廃棄されていることがあります。その場合も、初診日を示す方法は残されています。2番目以降に受診した病院の記録、お薬手帳、診察券などが手がかりになります。当時の状況を知る第三者(三親等内のご家族以外)による証明も使えます。これらを組み合わせて、初診日を示します。年金事務所に相談すると、代替的な確認方法の案内を受けられます。
一度不支給になっても、再申請できますか?
はい、できます。決定に納得がいかない場合は、審査請求・再審査請求の手続きがあります。審査請求は、決定を知った日の翌日から3か月以内に、社会保険審査官へ行います。状態が悪化した場合には、時期を改めて新しく申請することもできます。主治医や年金事務所、社会保険労務士にご相談ください。
障害者手帳がなくても申請できますか?
申請できます。障害年金と精神障害者保健福祉手帳は、審査する機関も基準も別の制度です。手帳を持っていなくても、要件を満たしていれば障害年金は受給できます。逆に、手帳を持っていることが、障害年金の受給を保証するわけでもありません。
まとめ
「働けない時期の生活をどう支えるか」。この不安に、制度の側から応えるのが障害年金です。精神疾患により生活や就労に著しい支障がある方を、長期にわたって支えます。申請のハードルは、高く感じられるかもしれません。目に見えにくい障害だからこそ、診断書と病歴申立書の精度が結果を大きく左右します。不安を一人で抱え込まず、早めにご相談ください。相談先は、主治医、年金事務所、市区町村の窓口、障害年金に詳しい社会保険労務士などです。
当院では、障害年金の診断書作成に対応しています。病歴・就労状況等申立書を整えるうえで、役立つ情報の提供も行っています。おひとりで抱え込まず、回復に向けて一緒に進めていきましょう。本記事は2026年4月時点の制度と金額に基づきます。最新の情報は、日本年金機構または年金事務所でご確認ください。

