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双極症と人間関係(性・パートナー関係)について

気分の波は、ふたりの関係そのものを揺らします。躁状態での性的な衝動。突然の別れや離婚の話。そして、支える側の疲れ。双極症(躁うつ病)を抱えてパートナーと歩むとき、これらが、ときに同時に押し寄せます。どれも、本人にもパートナーにも深い痛みをともなうテーマです。

このページで焦点を当てるのは、性、パートナー関係、そして別れです。躁状態の性的な逸脱を、「症状」と「責任」に分けて考える視点。離婚をめぐる現実と、法的な基礎知識。支える側のケア。この順で整理します。「これは病気のせいなのか、本心なのか」という問いに、脳と心の両面から光を当てること。それが、この記事の目的です。

  • 躁状態のとき、性的な関心や行動がふだんと明らかに変わった
  • パートナーの気分の波に振り回されて疲れ果てている
  • パートナーの言動が病気のせいなのか、性格なのか分からない
  • 「離婚したい」と突然言われて戸惑っている
  • 支える側として、自分のこころが限界に近いと感じている

一つでも当てはまるなら、まずはこの記事を読み進めてみてください。

双極症(躁うつ病)の基礎をおさらい

双極症の気分の波は、本人の意志では止められません。気分が異常に高まる躁状態と、深く落ち込むうつ状態。このふたつをくり返す、脳の疾患です。影響は生活リズム、人間関係、仕事のすべてに及びます。一方で、躁とうつの間には安定した時期(寛解期)があり、このときは普段どおりの生活が送れます。タイプや躁状態の詳しい症状は、双極症でくわしく解説しています。

双極症は「気分の波がある性格」とは異なり、脳の機能に関わる病気です。適切な治療を続けることで、症状の安定を目指すことができます。

双極症はなぜ対人関係に影響するのか

双極症がパートナー関係に与える影響は、一種類ではありません。躁状態とうつ状態、それぞれで現れ方が異なります。さらに、「波」があること自体が、関係を続けるうえでの難しさになります。

躁状態がもたらす問題

  • 経済的なダメージ: 制御できない浪費や無謀な投資が、家計を大きく傷つけることがあります。
  • 性的な逸脱: 衝動性の高まりから、本人の本意とは異なる性的な行動に及ぶ場合があります。
  • 暴言や暴力: 易怒性が高まり、パートナーに対する攻撃的な言動が生じることがあります。
  • 突然の離婚宣言: 万能感や衝動性から、安定期には考えもしなかった「離婚」を口にすることがあります。

うつ状態がもたらす問題

  • 家事や育児の偏り: うつ状態の本人が動けなくなり、すべての負担がパートナーにのしかかります。
  • 感情的なつながりの希薄化: 感情表現が乏しくなり、ふたりの精神的な交流が失われがちです。
  • 経済的不安定: 休職や退職に至り、収入面での不安が高まります。
  • パートナーの燃え尽き: 長期間の支えにより、パートナー自身がこころの不調を抱えることがあります。

「波」がある病気ならではの難しさ

そして、どちらの状態の問題とも別に、もうひとつの苦しさがあります。パートナーは「性格なのか、病気なのか」の見極めに苦しみます。安定期には問題がなくても、次の波がいつ来るかは分かりません。その分からなさは、本人にもパートナーにも、慢性的なストレスの原因になります。

躁状態でみられる性的衝動の高まり

ふだんの本人なら、絶対にしないはずの行動。躁状態の性的な逸脱には、それが含まれます。躁状態では、性欲が著しく亢進することがあります。医学的には性欲亢進と呼ばれる状態です。軽度であれば、露出の多い服装や性的な発言が増えます。重度になると、パートナー以外の相手との性的関係に至ることがあります。

「困った結果につながる可能性が高い活動への過度な熱中」。米国精神医学会の診断基準は、これを躁状態の基準の一つに含めています。つまり、性的な逸脱は双極症の「症状」そのものとして位置づけられています。

衝動性と判断力の低下

ふだんの自制は、なぜ効かなくなるのでしょうか。手がかりは脳にあります。躁状態では、脳の前頭前皮質の働きが一時的に低下します。リスクを見積もる力や、衝動を抑える力が弱まるのです。その結果、次のような行動パターンが生じやすくなります。

  • 衝動制御の困難: 「今やりたい」という気持ちを抑えられない
  • 結果の予測ができない: 行動がもたらす影響を想像しにくい
  • 万能感にとらわれる: 「何をしても大丈夫」という感覚に支配される
  • リスクを求める: 危険な行動にスリルや快感を覚える

脳内の報酬系の過活動

弱まるのは、抑える力だけではありません。求める力も強まります。躁状態ではドーパミン系の活動が亢進し、快感を求める回路が過剰に働きます。性的な刺激への感受性が高まり、ふだんなら自制できる行動の境界を越えやすくなります。これは意志の弱さではなく、脳の機能変化によるものです。

うつ状態で起きる場合

性的な逸脱は、躁状態だけのものではありません。注目されにくいのですが、うつ状態でも起こることがあります。ただし、背景が異なります。自己肯定感が極度に低下し、「自分には価値がない」という感覚に支配されることがあります。そのとき、外部からの承認を求めて、パートナー以外の相手に心理的なつながりを求める場合があります。衝動性というより、感情的な空虚さを埋めようとする対処行動の側面が強いのです。だから、対応も異なります。

「症状」と「責任」を分けて考える

症状だと理解したい。けれど、割り切れない。そう感じるのは自然なことです。ここで求められるのは、「症状として理解すること」と「行為への責任を持つこと」の両立です。

躁状態での行動は、本人の人格や本心から発したものとは限りません。通常の精神状態であれば絶対にしない行動を、症状が引き起こしていることがあります。だからこそ、病気への偏見や無理解は本人を追い込み、治療の妨げにもなります。

一方で、双極症は不貞の「免罪符」にはなりません。治療を継続して再発を防ぐ努力は本人の責任です。パートナーが感じる傷つきや怒りは正当な感情であり、「病気だから仕方ない」の一言で片づけてはいけません。

症状が引き起こした行動であっても、パートナーが感じる裏切りの痛みは本物です。その感情は、尊重されるべきものです。過去の行動から学び、再発防止の具体策を講じること。それが、関係を続けるうえで本人に求められます。

別れ・離婚の現実と法的な基礎知識

離婚を考え始めたとき。あるいは、突然切り出されたとき。どちらの側でも、混乱するのは自然なことです。ここでは、離婚率の現実と、知っておきたい法的なポイントを整理します。以下は一般的な情報です。個別の判断には、弁護士への相談が必要です。

離婚率はどのくらい高いのか

米国の研究では、双極症を抱える方が離婚や別居に至る割合は、一般人口の約2〜3倍と報告されています。日本にも調査があります。精神科クリニック176施設の外来患者1,071名を対象にした観察研究(2023年発表)です。この研究では、2年間の離婚率が2.8%でした。同時期の一般人口と比べて、かなり高い水準です。

ふたつの数字は、指標が異なります。約2〜3倍は生涯にわたる累積的な比較で、2.8%は2年間という一定期間の発生率です。それぞれ別の側面から離婚リスクを示したものとして参照してください。

深刻な数字であることは確かです。ただ、裏を返せば、こうも読めます。適切な治療と支援があれば、関係を維持しているご夫婦も多くいらっしゃるということです。

双極症だけを理由に離婚できるか

かつて民法には、「回復の見込みのない強度の精神病」という法定離婚原因の定めがありました(770条1項4号)。この規定は、民法の改正により削除されました(2026年4月施行)。現在は、精神疾患そのものを理由に一律に離婚が認められることはありません。婚姻関係が実質的に破綻し、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかどうかで判断されます。日本の裁判所は、「病気になったから離婚できる」という考え方を採用していません。

離婚が認められるケース

一方で、双極症に起因する具体的な行為が、ほかの法定離婚原因に該当することはあります。その場合は、離婚が認められることがあります。

  • 躁状態での不貞行為
  • パートナーへの暴言や暴力
  • 長期間の別居
  • 過度な浪費による家計の破綻

もうひとつ、裁判所が重視する点があります。離婚を求める側が、治療への協力や支援にどれだけ取り組んできたかです。十分に努力してきたことが認められた場合、離婚が認容される可能性が高まります。

躁状態での決断に注意する

躁状態の最中に、本人が離婚を切り出すことは珍しくありません。真剣な決意に聞こえるかもしれません。しかし、衝動的な判断である可能性があります。安定期に入ってから後悔するケースも、多く報告されています。重大な人生の決断は、必ず安定期に行うことが大切です。

支える側のケアと関係の修復

双極症のパートナーを支えることは、想像以上にエネルギーを使います。それでも、ご自身のことは後回しになっていないでしょうか。支える側のこころの健康を守ることは、決して利己的なことではありません。支える側が倒れてしまえば、本人を支える体制も崩れてしまうからです。

自己犠牲の悪循環に気づく

「私さえ我慢すればうまくいく」。この思考は、一見すると愛情に見えます。しかし、自分の感情を押し殺し続けることは、支える側自身の抑うつや燃え尽きにつながります。

「支える」と「自分を犠牲にする」は同じではありません。自分の時間を確保し、つらいときには専門家に相談することが、結果的に関係を長く続ける力になります。

支える側にできること

  • 自分の時間を確保する: 散歩や趣味など、病気から離れる時間を意識的に設けてください。
  • 支える範囲を決める: 「ここまでは支え、ここから先は主治医に委ねる」というラインをはっきりさせます。
  • サポートグループの活用: 同じ経験を持つ方々とつながることで、孤立感を軽減できます。
  • 自分自身も相談する: パートナー自身が精神科や心理療法を受けることも大切な選択肢です。

躁状態の前兆サインを共有しておく

躁状態への移行には、多くの場合、前兆があります。次のような変化に気づいたら、早めに相談しましょう。

  • 睡眠時間が急に減っても元気に活動している
  • 多弁になり、話題が次々と飛ぶ
  • 金遣いが急に荒くなる
  • 服装が派手になる、露出が増える
  • 性的な言動が増える
  • 「自分は何でもできる」といった発言が目立つ

安定期を活かしたコミュニケーション

そして、話し合いそのものにも、適した時期があります。安定期(寛解期)です。この時期に、次のような話し合いをしておくことが有効です。

  • 病気についてお互いの気持ちを率直に共有する
  • 躁状態とうつ状態の初期サインを一緒に確認し、早期対応の計画を立てる
  • 経済管理のルールを事前に取り決める
  • お子さんがいる場合、説明の仕方を話し合う

もし問題が起きてしまったら

すでに不貞や、深刻な行き違いが起きてしまった場合もあるでしょう。関係の修復には、段階的なプロセスが必要です。まず優先すべきは、医療的な安定の確保です。躁状態やうつ状態が続く段階で関係の問題に取り組んでも、感情的な混乱が増すだけです。気分が安定してから、起きたことに正直に向き合います。

信頼の回復には長い時間がかかります。焦らず、小さな約束を守る。その積み重ねが、失われた信頼を少しずつ取り戻す力になります。パートナーが「まだ信じられない」と感じることは、自然な反応です。責めるべきものではありません。

関連する疾患

パートナー関係の問題は、双極症だけでは説明できないこともあります。双極症は、ほかの精神的な不調と重なって現れることが少なくありません。背景に、次のような疾患が隠れている場合もあります。

  • 抑うつ症(うつ病): 双極症のうつ状態が長引く場合や、支える側のパートナーが抑うつ状態になることがあります。
  • 神経発達症(ADHD): 衝動性の高さが共通しており、双極症と併存することがあります。両方を視野に入れた治療計画が役立ちます。
  • 依存症: 躁状態の衝動性から、アルコールやギャンブルへの依存が深まることがあります。
  • パーソナリティ症: 対人関係の不安定さや衝動性が重なる場合があり、見分けたい状態の一つです。
  • 不安症: 次の気分の波への恐れから、パートナーが強い不安を抱え続けることがあります。

重なるときの治療の工夫

双極症そのものの治療は、気分安定薬を中心とした薬物療法と、生活リズムを整える心理療法が柱になります。基本的な治療の進め方は、双極症(躁うつ病)の診療ページをご覧ください。ここで取り上げるのは、性とパートナー関係に特有の工夫です。

中心となるのは、躁状態そのものを起こさない治療です。気分の波を安定させることが、問題行動の予防に直結します。そのうえで、ふたりで取り組める備えを、あらかじめ整えておきます。

クライシスプランを作っておく

備えの柱になるのが、「クライシスプラン(緊急時対応計画)」です。気分が安定している時期に、パートナーや主治医と一緒に作っておくことが役立ちます。盛り込む内容には、次のようなものがあります。

  • 躁状態の前兆サインの共有(本人とパートナー、それぞれの視点から)
  • サインが出たときの行動手順(誰に連絡するか、どの薬を使うか)
  • クレジットカードやスマートフォンの管理に関する取り決め
  • 出会い系アプリの削除やアクセス制限をあらかじめ設定しておく
  • 入院が必要になった場合の連絡先と手続き

性的衝動への対処法

プランとあわせて、本人にできる備えもあります。性的な関心が高まっていると感じたとき、事前に計画しておいた代替行動をとることです。

  • 激しい運動で身体的エネルギーを発散する
  • パートナーに「衝動が高まっている」と正直に伝える
  • 一人になる時間を減らし、信頼できる人と過ごす
  • 主治医にすみやかに連絡し、治療計画の調整を相談する

気分安定薬による薬物療法は躁状態の予防に中心的な役割を果たしますが、薬だけで完全に防げるわけではありません。心理療法、生活リズムの管理、パートナーのサポートを組み合わせて取り組むことが大切です。自己判断での服薬中止は再発の大きなリスクになるため、薬の調整は必ず主治医と相談してください。

早めに相談したいサイン

次のようなサインに気づいたら、おひとりで抱え込まず、早めにご相談ください。本人の変化だけが対象ではありません。支えるパートナーご自身のつらさも、相談の対象です。

  • 睡眠がほとんどなくても活発に動き続けている
  • 性的な言動や行動がふだんと明らかに違っている
  • 浪費やギャンブルなど、衝動的な行動が増えている
  • 本人が「自分は絶好調だ」と言い、治療を拒否している
  • パートナーの気分の波に振り回されて眠れない日が続いている
  • 「離婚しかない」と追い詰められた気持ちが続いている
  • パートナーが精神的に限界を感じている
  • 「死にたい」「消えたい」といった発言がある

精神科・心療内科は、本人だけでなくご家族の相談も受け付けています。躁状態の本人には、病気の自覚がないことが多くあります。周囲が先に気づくケースが大半です。感情的な対立は避け、睡眠時間の変化や支出の増加など、客観的な事実を伝えてください。そのうえで、主治医への連絡を優先してください。

つらさが大きいときは、以下の窓口にも相談できます。

  • いのちの電話: 0570-783-556(毎日10時〜22時)/フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)
  • よりそいホットライン: 0120-279-338(24時間対応)

よくある質問

双極症の人は必ず浮気をするのですか

いいえ、そうではありません。性的衝動の亢進は、躁状態で起こりうる症状の一つです。ただ、すべての方に生じるわけではありません。適切な治療と自己管理を続けながら、安定したパートナーシップを長期的に維持している方もいらっしゃいます。

浮気は病気のせいだから許すべきですか

許すかどうかは、パートナー個人の感情の問題です。誰かに強制されるべきものではありません。行動の背景に病気の影響があったことを理解する。それでも、行為の責任と再発防止への取り組みは求める。この両方を併せ持つ姿勢が大切です。

躁状態で「離婚する」と言われました。本心でしょうか

躁状態では衝動性が高まり、普段は考えもしないことを口にすることがあります。安定期に入ると、後悔するケースも多く報告されています。すぐに応じる必要はありません。まずは主治医に状況を伝え、安定期を待って改めて話し合うことをおすすめします。

双極症のパートナーとは離婚するしかないのでしょうか

そのようなことはありません。双極症は、治療によって安定を目指せる病気です。薬物療法を続け、生活リズムを整え、コミュニケーションを工夫する。そうして関係を維持しているご夫婦は、多くいらっしゃいます。ただし、暴力や著しい経済的損害がある場合は別です。ご自身の安全を優先してください。

支える側の自分もつらいのですが、相談してもよいのでしょうか

もちろんです。パートナーを支え続けるなかで、ご自身が抑うつや不安を抱えることは珍しくありません。精神科・心療内科は、ご家族の相談にも対応しています。精神保健福祉センターやサポートグループも活用できます。ご自身のこころの健康を守ることが、結果的によりよい支えにつながります。

まとめ

パートナーの言動は、病気のせいなのか、それとも本心なのか。双極症と人間関係の問題は、「病気だから仕方ない」とも「人格の問題だ」とも割り切れません。離婚率が高いという現実があります。その一方で、治療を続け、ふたりで工夫を重ねて関係を維持しているご夫婦も少なくありません。持ち続けたいのは、次の3つの視点です。

  • 医学的な理解: 性的衝動の亢進は脳の機能変化に起因する症状であり、意志の弱さではない
  • 個人の責任: 症状であっても、治療を続けて再発を防ぐ努力は本人の責務であり、パートナーの痛みは正当に認められるべき
  • 回復への希望: 適切な治療、支援、ふたりの努力があれば、関係を立て直していく道はある

病気の問題と関係の問題を切り分けて考えることが、よりよい選択への第一歩になります。衝動的に決断しない。おひとりで抱え込まない。そのうえで、専門家の力を借りてください。当院では、双極症の治療とあわせて、ご家族関係のお悩みについてもご相談いただけます。

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