「気分の波が続いていて、お酒やギャンブルがやめられない」。こうした二重の苦しさを抱えている方は、決して少なくありません。気分の波を治せば、依存は自然に収まるのでしょうか。それとも、先にお酒をやめたほうがよいのでしょうか。実際には、気分の波が依存を深め、依存が気分の乱れを悪化させる悪循環に陥りやすいのです。だからこそ、両方を一緒に診ることが回復への近道です。
双極症の概要は双極症について、依存症の概要は依存症についてをご覧ください。ここでは、二つが重なったときに固有に起きることを中心にお伝えします。
たとえば、次のような状態です。
- 気分が高まると、お酒や買い物の量が一気に増える
- 落ち込んだとき、アルコールや薬で気持ちを紛らわせてしまう
- やめたいのにやめられず、自分を責めてしまう
- 飲酒や行動の問題で、通院や服薬が途切れがちになる
- 家族との関係が悪化し、孤立感が深まっている
どのような形で重なるのか
お酒や買い物が増えるのは、落ち込んだときだけとは限りません。気分がどの状態にあるかで、依存の現れ方も変わってきます。
躁状態と依存行動
躁状態では気分が高揚し、自信にあふれ、活動量が増えます。この時期に、アルコールの量が急に増えることがあります。ギャンブルや買い物に、歯止めがきかなくなることもあります。ところが本人は「調子がいいだけ」と感じやすいのです。問題に気づきにくいのは、そのためです。
うつ状態と依存行動
うつ状態では、気分の落ち込みや不眠、意欲の低下が続きます。このつらさを紛らわせようと、アルコールや鎮静薬に頼ってしまうことがあります。一時的には、たしかに楽になるかもしれません。けれども物質の影響でうつが長引いたり、薬の効き方が変わったりします。回復は、さらに遠のいてしまいます。
混合状態と依存行動
躁とうつの症状が、同時に現れることもあります。混合状態と呼ばれる時期です。落ち込みながらも焦燥感や衝動性が強まるため、最もつらい時期の一つです。この状態では、自傷や自殺のリスクが高まります。物質への依存も、深まりやすくなります。
なぜ双極症と依存症が重なりやすいのか
二つも重なったのは自分の弱さのせいだ、と感じている方もいらっしゃいます。けれども、双極症と依存症が重なりやすいことには理由があります。
気分のつらさを物質でやわらげようとする
躁状態の高揚感を、さらに高めたい。あるいは、うつ状態の苦しさから一時的に逃れたい。こうした動機で、物質や行動に頼ることがあります。これは「自己治療」と呼ばれるパターンで、本人なりの対処の試みではあるのです。ただ、結果として両方の症状を悪化させてしまいます。
脳の報酬の仕組みが共通している
双極症と依存症は、脳の「報酬」を感じる回路に共通した変化がみられることがわかっています。とくにドーパミンという神経伝達物質が関わる部分が重なっています。躁状態では、ドーパミンの働きが活発になります。快感を追い求める行動や、衝動的な行動が増えやすくなります。
物質使用が気分の波を引き出すことがある
順序が逆の場合もあります。アルコールや薬物を、長期にわたって使い続けたときです。もともと軽い気分の波があった人に、より明確な躁やうつのエピソードが現れることがあります。物質使用そのものが双極症の発症を早めたり、悪化させたりする可能性が示されています。
気分の波と物質使用の悪循環
双極症と依存症が重なると、一方の悪化がもう一方をさらに悪くする悪循環が生まれます。
うつ状態のつらさを紛らわせるために、飲酒量が増えたとします。アルコールの影響で、気分はさらに不安定になります。気分が安定しないと、服薬や通院が途切れやすくなります。それが、気分エピソードの再発につながります。そして再発すると、再び物質に頼ってしまうのです。このサイクルが続くと、気分エピソードの頻度や持続期間が増し、回復が遠のいていきます。
併存した場合の経過の厳しさは、さまざまな面で報告されています。服薬を続ける割合の低下や通院の不規則さ、自殺リスクの上昇。対人関係や仕事への影響の拡大も、同じく報告されています。
診断が難しい理由
双極症と依存症の症状には、互いによく似た部分があります。アルコールや薬物による高揚感は、躁状態と紛らわしいものです。離脱時の不安や落ち込みも、うつ状態と見分けがつきにくいことがあります。
双極症はもともと、診断までに時間がかかる病気です。依存の問題が重なると、気分の症状が物質の影響なのか、病気そのものなのか判断しにくくなります。診断がさらに遅れやすくなります。飲酒や薬物使用のパターンと気分の変化を、併せて丁寧に評価することが大切です。
ギャンブルが関わる場合
やめられない対象は、物質だけではありません。ギャンブルが問題になるケースも少なくないのです。詳しくはギャンブル依存症の診断と治療についてをご覧ください。双極症と重なるときには、次のような特徴がみられます。
脳の報酬回路と気分の波の連動
躁状態では、ドーパミン活動が過剰に高まります。そのぶん、ギャンブルの快感がさらに強く感じられやすくなります。躁状態が落ち着くと、ギャンブル行動が自然に収まることもあります。一方、気分が安定してもやめられない場合があります。そのときは、ギャンブル症として独立した支援が必要です。
衝動を抑える力の低下
ギャンブル症では、衝動を抑える脳の仕組みのバランスが崩れていると考えられています。この状態は、双極症の気分調節の難しさとも重なります。気分の高ぶりや落ち込みと連動して、衝動的にギャンブルへ向かいやすくなります。その背景には、こうした共通の神経基盤があります。
性差に関する注意点
一般に、ギャンブルの問題は男性に多いとされます。ただ、双極症のある方に限ると性差が小さくなる可能性が指摘されています。双極症のある女性でも、ギャンブルの問題を見逃さないことが大切です。
関連する疾患
双極症と依存症は、ほかの精神的な不調と重なって現れることも珍しくありません。一つだけを見ていると、全体像が見えにくくなります。関連する疾患も、あわせて評価することが大切です。
- 抑うつ症(うつ病): 双極症のうつ状態が長引くと、うつ病との見分けが難しくなります。飲酒や薬物がうつを深めることもあります。
- 不安症: 強い不安を紛らわせるために物質に頼り、不安と依存の悪循環に陥ることがあります。
- 神経発達症(ADHD): 衝動性の高さが依存行動と結びつきやすく、双極症との併存も報告されています。
- PTSD: トラウマ体験の影響で気分の不安定さと物質への依存が同時に現れることがあります。
- パーソナリティ症: 感情の不安定さや衝動的な行動が、双極症や依存症と重なりやすいことがあります。
- 不眠症: 気分の波に伴う睡眠の乱れが、アルコールや睡眠薬への依存につながる場合があります。
どれに当てはまるかを、ご自身で切り分ける必要はありません。診察のなかで、一緒に整理していくことができます。
治療で大切なこと
どちらの病気から手をつければよいのか、と迷う方もいらっしゃいます。実際には、どちらか片方だけを治そうとしてもうまくいかないことが多いのです。両方を同時に視野に入れた治療が大切です。一般的な治療の流れは、依存症と双極症の各ページをご覧ください。
重なっているときは、まず身体と気分の安全確認が優先されます。物質の離脱リスクや、自殺のリスクを評価します。そのうえで、薬と心理療法を組み合わせていきます。気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)は、気分の安定と依存の抑制の両面で効果を示すことがあります。心理療法では、動機づけ面接法が物質をやめることへの迷いの整理に役立ちます。一つのチームで両方を見てもらうほうが経過が安定しやすいことが知られており、多職種での支援が理想です。
家族や周囲の方へ
そばにいるご家族は、大きな負担を感じていることが少なくありません。躁状態での衝動的な行動に振り回されたり、依存行動の後始末に追われたりする毎日かもしれません。そのなかで怒りや無力感を覚えるのは、自然なことです。
ご本人の問題を一人で引き受けようとすると、共倒れになりかねません。だからこそ、ご家族自身の生活と健康を守ることが大切です。以下の点を心がけてみてください。
- 問題行動の「後始末」をすべて引き受けないようにする
- ご家族自身が相談できる場を持つ(精神保健福祉センター、家族会など)
- 病気について正しい知識を得て、責めるのではなく病気として理解する
- 回復には時間がかかることを受け入れ、完璧を求めない
ご家族向けの支援プログラムや家族会は、各地の精神保健福祉センターや依存症の専門機関で案内しています。
早めに相談したいサイン
以下のような状態が続いている場合は、早めに精神科に相談することをおすすめします。
- 気分の波が大きく、飲酒や買い物の量が自分で調整できない
- お酒や薬を使わないと眠れない、不安が治まらない
- やめようとしたのに繰り返してしまい、自分を責めている
- 気分が不安定で、処方薬を飲んだり飲まなかったりしている
- 仕事や人間関係に支障が出ているが、どこに相談すればよいかわからない
「依存のことを精神科で相談してもいいのだろうか」と、迷う方もいらっしゃいます。けれども、気分の波と依存の問題を一緒に診ることは精神科の重要な役割です。おひとりで抱え込まず、まずはご相談ください。
つらさが限界に達したときは、以下の相談窓口も利用できます。
- いのちの電話: 0570-783-556(毎日10時〜22時)/フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)
- よりそいホットライン: 0120-279-338
よくある質問
双極症の薬を飲んでいても、お酒を飲んでいいですか?
気分安定薬や抗精神病薬とアルコールの組み合わせは、薬の効き方や副作用に影響を与えることがあります。飲酒によって気分エピソードが誘発されることもあります。服薬が不規則になるリスクもあります。飲酒の量や頻度について、主治医に率直に相談されることをおすすめします。
依存症は意志が弱いから起こるのですか?
いいえ。依存症は、脳の報酬系の仕組みが変化することで起こる病気です。意志の力だけで解決しようとすると、失敗のたびに自責感が強まります。かえって悪循環に陥りやすくなるのです。医療や支援とつながりながら進めるほうが、回復を続けやすくなります。
双極症と依存症は同時に治せますか?
両方を同時に視野に入れた、統合的な治療が推奨されています。片方だけを扱うと、もう一方の改善が進みにくいことがわかっています。薬物療法、心理療法、生活支援を組み合わせつつ、回復に向けた方針を患者さんと相談しながら進めます。
再発したら治療は失敗ですか?
そうとは限りません。依存症の回復では、再び物質を使ってしまう時期がくることがあります。大切なのは、そこで支援から離れないことです。何がきっかけだったかを振り返り、次にどう備えるかを一緒に考えます。それが、長い目で見た回復につながります。
まとめ
気分の波が続いていて、お酒やギャンブルがやめられない。この二重の苦しさには、複数の要因が絡み合っています。脳の仕組みの重なり、つらさを紛らわせるための物質使用、心理社会的なストレスなどです。ギャンブルを含む行動の依存も、同じ文脈で起こりえます。どちらか一方だけに対処しても、改善しにくいことがあります。両方を一つの枠組みで見ていくことが、回復への近道です。
気分の波と、やめられない苦しさ。この二重のつらさは、正しい治療と支援によって和らげることができます。おひとりで抱え込まず、まずは精神科にご相談ください。当院では、気分の問題と依存の問題を併せて評価します。そして回復に向けた方針を、患者さんと一緒に考えてまいります。
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参考文献
- 厚生労働省「依存症対策」
- 厚生労働省「依存症についてもっと知りたい方へ」
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
- 厚生労働省 依存症の理解を深めよう
- 日本うつ病学会「診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023」
- Cerullo MA, Strakowski SM. The prevalence and significance of substance use disorders in bipolar type I and II disorder. Subst Abuse Treat Prev Policy. 2007.
- Salloum IM et al. Efficacy of valproate maintenance in patients with bipolar disorder and alcoholism. Arch Gen Psychiatry. 2005.
- Quilty LC, et al. Problem gambling in bipolar disorder: Results from the Canadian Community Health Survey. J Affect Disord. 2007.
- Jones L et al. Gambling problems in bipolar disorder in the UK: prevalence and distribution. Br J Psychiatry. 2015.

