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神経発達症群 (6A0)

大人の発達障害について

大人の発達障害をイメージしたビジュアル

「大人になってから、初めて発達の特性を指摘された」という方は近年増えています。大人の発達障害は、ある日突然発症する病気ではありません。もともと子どもの頃から続いていた特性が、進学、就職、結婚、子育てなど、社会から求められる役割が増えた時期に初めて困りごととして目立ってくる、という形で気づかれます。このページでは、大人の発達障害とは何か、どのような困りごとが起こりやすいのか、評価や治療はどう進むのか、そしてどう支えていけばよいのかを、できるだけ分かりやすく整理します。

発達の特性があっても、日常生活や仕事に大きな支障がなければ、すぐに「障害」と決めつける必要はありません。反対に、本人が努力しても埋めにくいズレが続き、職場不適応、夫婦不和、孤立、抑うつ、不安、不眠などが重なっているときは、背景に神経発達症の特性が関わっていないかを丁寧にみていく価値があります。

  • 会議やマルチタスクに強い疲労を感じ、仕事が続かない
  • ケアレスミス、先延ばし、忘れ物が積み重なり自信を失っている
  • 雑談や対人関係で誤解されやすく、孤立や衝突が続く
  • 感覚過敏、予定変更へのストレス、こだわりで生活が回りづらい
  • 抑うつ、不安、不眠、飲酒量の増加など二次障害が重なってきている

大人の発達障害とは

まず大切なのは、「大人の発達障害」そのものが正式な診断名ではないという点です。現在は、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症、発達性協調運動症、チック症、吃音などを含む神経発達症群として整理されます。ICD-11 でも「神経発達症群」と総称され、これらは生まれつきの脳の働き方の違いに関係しており、大人になって新しく発症するものではありません。

ただし、子どもの頃に目立たなかった特性が、時間管理、優先順位づけ、雑談を含む対人調整、報連相、予定変更への対応、子育て、家計管理といった大人ならではの課題に触れる中で、困りごととして表面化することがあります。本人の努力が足りないのではなく、もともとの特性と環境の要求が合っていない状態と考えると理解しやすくなります。

大人の発達障害は「治す」病気というより、特性を理解したうえで生活を組み立て直すものです。目標は特性を消すことではなく、本人らしさを保ちながら日常の負担を小さくしていくことにあります。

どのような特性が含まれるのか

自閉スペクトラム症(ASD)

成人の外来でしばしば話題になるのがASDです。中核には、人とのやりとりの独特さと、こだわりの強さや変化への弱さがあります。子どもの頃には、集団の輪に入りにくい、ごっこ遊びが苦手、言葉の受け取り方が独特、興味の幅が狭く深い、感覚過敏がある、といった形でみられることがあります。

大人になると、世間話が苦手、場の空気や暗黙の了解が読み取りにくい、曖昧な指示だと動きづらい、予定変更に強いストレスを感じる、雑談中心の職場文化になじめない、といった形で現れます。家庭では、気持ちを言葉や態度で表すことが少なくても、愛情や関心がないわけではありません。周囲から「冷たい」「分かってくれない」と受け止められ、本人もなぜ伝わらないのか分からず傷ついていることがあります。

職場での対人コミュニケーションに悩む人物のイメージ

注意欠如多動症(ADHD)

ADHD は、不注意多動性衝動性を柱とする神経発達症です。子どもの頃は落ち着きのなさが前面に出やすいのですが、大人になると目に見える多動は目立たなくなり、代わりに、うっかりミスが多い、締め切り管理が苦手、優先順位をつけにくい、先延ばしが続く、思いつきで発言や行動をしてしまう、という形で困りやすくなります。

本人は人知れず強い努力を重ねているのに、周囲からは「だらしない」「やる気がない」「気分にムラがある」と誤解されやすいのがつらいところです。失敗体験が積み重なると、自己評価が下がり、抑うつ、不安、睡眠の問題、アルコールや買い物・ゲームへの傾きなどが二次的に出てきやすくなります。

学習や運動の特性

限局性学習症は、知的発達に大きな遅れがないにもかかわらず、読む、書く、計算するなどの特定の学習領域に強い苦手さがある状態です。子どもの頃には見過ごされ、社会に出てから書類仕事や資格試験、数字処理の場面で苦労して初めて気づくこともあります。発達性協調運動症では、手先の不器用さや姿勢の保ちにくさがみられます。ほかにも、チック症、吃音などが神経発達症群に含まれます。女性では幼少期から過剰適応で特性が覆い隠され、大人になってから気づかれるケースが珍しくありません。

書類やパソコン作業でつまずく社会人のイメージ

なぜ大人になってから気づかれるのか

子どもの頃は、家庭や学校がある程度生活を組み立ててくれます。しかし大人になると、時間管理、優先順位づけ、雑談を含む対人調整、報連相、予定変更への対応、結婚生活、子育てなど、自分で組み立てなければならない課題が一気に増えます。その結果、これまで目立たなかった特性が、仕事や家庭生活の中で大きな負担として現れてきます。

また、近年は社会全体の理解が進み、「自分は努力不足なのではなく、発達の特性があるのかもしれない」と考えて相談につながる方も増えました。特に女性では、周囲に合わせようと頑張る社会的カモフラージュによって特性が長く見過ごされ、30〜40 代になってから相談に来られる方も少なくありません。ただし、インターネットの情報だけで自己判断してしまうと、本当はうつ病、不安症、双極症、強迫症、トラウマ関連症、睡眠障害などが主な問題である場合を見落とすことがあります。似た症状があっても、背景は一つとは限りません。

関連する疾患

大人の発達障害で受診につながるきっかけの多くは、特性そのものよりも、それに伴って生じる二次障害です。失敗体験や叱責、孤立、不適応が積み重なる中で、こころと体の不調が重なってくるのは自然な流れでもあります。代表的なものには次のようなものがあります。

  • 抑うつ症:気分の落ち込み、意欲の低下、自己否定感、希死念慮
  • 不安症:対人不安、予期不安、緊張が抜けない感じ
  • 心的外傷後ストレス症(PTSD):いじめ、ハラスメント、虐待などの積み重ねによるフラッシュバック
  • 依存・嗜癖:アルコール、ゲーム、買い物、スマートフォン、性行動など
  • 摂食症:感覚過敏やコントロール感覚の求めとも結びつくことがある
  • 睡眠の問題:入眠困難、中途覚醒、生活リズムの乱れ
  • 自尊感情の慢性的な低下:「何をやってもうまくいかない自分」という感覚

二次障害が重くなると、自殺念慮や自傷行動、依存行動のリスクが高まることが知られています。大人の発達障害の評価や治療は、この二次障害への対応と切り離せません。目の前のつらさを早く和らげることと、その奥にある特性を理解することを、同時に進めていく必要があります。

似ているけれど違う状態

発達の特性と紛らわしい状態はいくつかあります。対人関係の不安定さや感情の揺れが前面にある場合は、パーソナリティ症としての理解が必要なことがあります。幼少期からの虐待やいじめが背景にある場合は、トラウマ反応や複雑性 PTSD として読み解いたほうが本人に合う支援につながることもあります。気分の波が長期にわたる場合は、双極症や慢性のうつ病との見分けが必要です。

これらはどれか一つに決まるものではなく、併存することも珍しくありません。大切なのは、「発達障害かどうか」だけを急いで決めるのではなく、今の困りごとを説明するのに一番自然な枠組みは何かを、医療者と一緒に整理していくことです。

評価の進め方

評価は、短いチェックリストだけで決めるものではありません。現在の困りごとを整理するだけでなく、子どもの頃からどのような特徴があったのか、学校生活、友人関係、就労歴、家族関係、得意不得意、感覚の偏り、併存症の有無などを、時間をかけて丁寧に確認していきます。通知表、母子手帳、家族や旧友からの聞き取りが参考になることもあります。

必要に応じて、自己記入式の質問紙(AQ、CAARS、ASRS など)、知能検査(WAIS)、実行機能や注意力の検査、面接観察などを組み合わせます。検査の結果は「診断の証拠」というより、本人の得意と苦手を立体的に理解するための資料として用いられます。結果の説明の場で、生活や仕事の工夫にどうつなげるかを一緒に話し合うことがとても重要です。

評価の目的は、診断名をつけること自体ではなく、困りごとの正体を整理し、これからの生活を少しでも楽にすることです。診断がつくことで安心する方もいれば、ショックを受ける方もいます。どちらの反応も自然なもので、どの反応が「正しい」ということはありません。

治療と支援の基本

神経発達症は、感染症のように薬を飲めば消えるという種類のものではありません。けれども、特性を理解し、環境を調整し、対処法を身につけていくなかで、生きづらさは確実に和らげていけるものです。大人の発達障害の支援は、次の 4 つを組み合わせて進めます。

1. 環境調整と合理的配慮

いちばん土台になるのが、環境の側を整えることです。職場では、仕事内容を細かく分ける、締め切りと優先順位を見える化する、口頭指示を文章やチェックリストに置き換える、席や音環境を調整する、相談窓口を一人に固定する、といった工夫が助けになります。家庭では、察してほしいを減らして言葉で伝える、予定変更は早めに知らせる、役割分担を明文化する、といった工夫が衝突を減らします。

2024 年 4 月の改正障害者差別解消法により、事業者(企業・学校など)には合理的配慮の提供が法的義務となりました。診断書があるかどうかだけが配慮の条件ではなく、本人が困りごとを具体的に伝えることが第一歩です。必要に応じて発達障害者支援センター、産業保健スタッフ、障害者職業センター、就労移行支援事業所などと連携することで、現実的に動く支援計画がつくりやすくなります。

2. 薬物療法

ADHD では、環境調整や生活の工夫だけでは追いつかないときに、薬物療法が検討されます。代表的な薬は、メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン徐放剤(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ。成人への使用は条件付き)などです。いずれも不注意や衝動性のつらさを和らげ、生活を立て直しやすくするための薬で、環境調整や本人の工夫と組み合わせて使います。

ASD は環境調整と心理社会的支援が支援の中心です。そのうえで、併存する抑うつ症、不安症、不眠、強い易刺激性などには、薬が補助的に役立つことがあります。抑うつや不安に対しては SSRI、不眠に対しては睡眠衛生の見直しを基本としつつ必要に応じて睡眠薬、といった形で、困りごとに沿って一つずつ組み立てていくのが基本です。処方量や継続期間は主治医と相談しながら調整します。

3. 心理社会的支援

心理社会的支援では、生活の構造化、タスク管理、ソーシャルスキルの練習、心理教育、二次障害に対する心理療法などを組み合わせます。ASD の方では、曖昧な指示や感情的な叱責よりも、問題点を具体的に、分かりやすく、視覚的に伝えることが役に立ちます。口頭だけでは伝わりにくい場合には、文章、チェックリスト、手順書、図、スケジュール表などにして渡すと理解しやすくなります。

不安症や抑うつ症が併存しているときは、それぞれの疾患に対する一般的な心理療法(認知行動療法など)も選択肢になります。PTSD の要素が強い場合は、トラウマに対する治療を優先することがあります。どの支援を中心に据えるかは、本人のつらさがどこから来ているかによって変わります。

4. 自己理解

長く続いてきた「自分は努力が足りないのだ」という自己イメージを、特性を前提にした等身大の自己理解に置き換えていく作業も重要です。深く没頭できる、興味のある分野で高い集中力を発揮する、記憶が鋭い、発想が独創的、細部によく気づく、といった強みがみられる方は少なくありません。すべての人が特別な才能を持つわけではありませんが、苦手さだけで自分を評価しないことはとても大切です。

自分の特性を見つめ直す大人のイメージ

家族や周囲の方へ

ご家族は、本人の努力不足に見える行動に疲れ切っていることがあります。しかし、大人の発達障害では、本人も「どうしてできないのか」が分からず長く傷ついてきた経過があることが多いものです。頭ごなしに叱るより、できなかった行動そのものを責めるのではなく、次にどうするかを具体的に相談する関わりが役に立ちます。

一方で、家族だけで全部を肩代わりし続けると、支援者が疲弊してしまいます。発達障害者支援センター、精神保健福祉センター、家族会、医療機関などに相談し、支えるための支えを持つことを忘れないでください。ご家族自身のつらさも、本人のつらさと同じように大切に扱ってよいものです。

早めに相談したいサイン

  • 子どもの頃から対人関係や集団適応に強い苦手さがあり、大人になって仕事や家庭で繰り返し困っている
  • 忘れ物、遅刻、先延ばし、段取りの悪さ、衝動的な言動のために、生活や仕事に支障が出ている
  • 職場不適応、夫婦不和、孤立、不安、抑うつ、不眠などが続いている
  • 自分なりに工夫しても改善しにくく、周囲との誤解が繰り返されている
  • 飲酒量の増加、買い物・ゲーム・スマートフォンなどへの強いとらわれが出てきている
  • 「消えてしまいたい」「もう続けられない」という気持ちがある

困りごとが強いときは、一人で抱え込まず、精神科や心療内科、発達障害者支援センター、産業保健スタッフ、就労支援機関などに相談してください。診断がつくかどうかだけではなく、どのように働き、暮らし、周囲と折り合っていくかを一緒に考えていくことが大切です。希死念慮や「もう限界」という気持ちが強いときは、受診を待たず、いのちの電話(0570-783-556)や、よりそいホットライン(0120-279-338)にご連絡ください

よくある質問

大人になってから発達障害になることはありますか?

いいえ。神経発達症は生まれつきの特性であり、大人になって新しく発症するものではありません。子どもの頃には目立たなかった特性が、大人の生活で求められる課題と合わなくなり、初めて困りごととして気づかれる、というのが実際の姿です。

診断を受けるかどうか迷っています

診断は受けること自体が目的ではなく、これからの生活を楽にするための手がかりにするためのものです。診断がつけば合理的配慮や福祉制度にアクセスしやすくなる一方、本人の受け止めが追いつかないまま進めると負担が大きくなります。主治医と、評価で何が分かりそうか、分かった後にどう使いたいかを相談してから進めるとよいでしょう。

薬を飲めば仕事のミスはなくなりますか?

ADHD の薬は不注意や衝動性のつらさを和らげ、生活を立て直しやすくする助けになります。仕事のミスを減らすためには、薬物療法と同じかそれ以上に、環境調整、タスク管理、周囲への説明といった生活側の工夫が大切です。薬と工夫は二者択一ではなく、両輪で考えていきます。

二次障害として現れたうつと発達障害は、どちらから治療しますか?

原則として、まずは目の前のつらさを和らげることを優先します。強い抑うつや不安、不眠があるときは、そちらの治療を先に進め、落ち着いてから発達の特性について丁寧に整理していく流れが一般的です。順序は本人の状態によって変わるので、主治医と相談しながら決めていきます。

まとめ

大人の発達障害とは、成人になって突然生じる病気ではなく、子どもの頃から続いてきた発達の特性が、大人の生活の中で困りごととして目立ってくる状態を指す言葉です。ASD、ADHD、限局性学習症、発達性協調運動症などが代表的で、特性の現れ方は人によって大きく異なります。特性を理解し、環境を整え、具体的な対処法を身につけることで、生きづらさは確実に和らげていけます。一人で抱え込まず、専門家や支援機関に相談してください。

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