やめようと思っていたのに、今日もまた同じことをしてしまった。そのたびに、自分の意志の弱さのせいだと思えてくるかもしれません。お酒やゲーム、ネットがやめられない背景に、自閉スペクトラム症(ASD)の特性が隠れていることがあります。感覚のつらさや人づき合いの負担を、物質や行動でしのぐ。そのうちに、量や時間を自分で調整しにくくなっていきます。
近年の研究は、ASD のある方が依存を抱えるリスクの高さを示しています。ASD についても依存症についても、それぞれの解説は別のページにあります。ここで見たいのは、二つが重なる場所です。アルコール、ゲーム、ネット、ギャンブル。こうした依存がなぜ ASD のある方に起こりやすいのか。その仕組みと、支援や治療の工夫を整理します。
以下のような状態が続いているときは、早めに専門家へ相談することが大切です。
- 感覚のつらさや不安を紛らわすために、お酒や薬物を使うことが増えた
- ゲームやインターネット、スマホに没頭する時間が極端に長くなっている
- やめようと思っても同じ行動を繰り返してしまい、自分を責めてしまう
- 周囲からの指摘があっても、量や頻度を減らせない
- 飲酒やゲームが、対人関係のストレス対処とセットになっている
ASD と依存症の基礎をおさらい
この二つは、まったく別の話に見えるかもしれません。片方は生まれつきの特性で、もう片方は病気だからです。
自閉スペクトラム症(ASD)は、生まれつきの脳の特性です。対人関係やコミュニケーションのとり方に特徴があり、興味や行動のパターンにこだわりがみられます。特性の詳しい説明は、自閉スペクトラム症(ASD)にまとめています。
一方で依存症は、ある物質や行動をやめたくてもやめられなくなる病気です。対象や進み方については、依存症でくわしく解説しています。
ところが、この二つは同じ人の中で重なることがあります。ASD のある方は、依存症を抱えるリスクが高いと報告されています。スウェーデンの全国規模の調査が、その関連を示しています(Butwicka 2017)。ただし、リスクの大きさは一様ではありません。共存する注意欠如多動症(ADHD)や知的障害の有無、依存の種類によって大きく異なります。
依存症は「意志が弱い」から起きるのではありません。脳の報酬系が関わる病気です。ASD の特性と重なることで、より依存が生じやすくなる仕組みがあると考えられています。
物質への依存と行動への依存
アルコールや薬物などの物質依存
依存というと、まずお酒を思い浮かべる方が多いかもしれません。ところが、ASD のある方のアルコール乱用率は、一般集団と比べてやや低い傾向を示す報告があります。一方で、薬物の使用率が高いことを示す報告もあります。研究によって結果には幅があります。
もう一つ指摘されているのが、飲み方のかたちです。社交的な飲酒の場を避ける一方で、一人で物質を使うパターンが報告されています。感覚のつらさや不安を和らげるための使い方です。
飲む量そのものについては、別の見え方もあります。スウェーデンの全国規模の医療記録を用いた研究です。ASD のある方では、物質使用に関する問題が約2.6倍多いと報告されました。アルコールの問題も、およそ3倍多いという結果でした。飲酒量を尋ねる調査では低めに出る一方、医療につながるほどの問題は多く報告されています。この食い違いが、飲酒の問題を見えにくくすることがあります。
うつ症状や不安への「自己治療」としてアルコールや薬物を用いる傾向が高い、とする研究もあります。理由が「楽しむため」ではなく「つらさを消すため」であるとき、依存は深まりやすいと考えられています。
ゲームやネット、ギャンブルなどの行動依存
物質を使わない依存もあります。ゲームへの没頭、インターネットやスマホの使いすぎ、ギャンブル。こうした行動への依存についても、報告が重なっています。30 件の研究を分析した系統的レビューがあります。ASD または自閉傾向と行動依存の正の関連を示した研究は、そのうち 27 件でした。ただし、統計的に確かめられたものは 15 件にとどまります。著者らは、併存する不安やうつの影響を切り分けられていないとしています。ASD そのものによるのかは、まだ結論が出せないという立場です。
なぜ、ゲームやネットなのか。対面のやりとりが少なく、ルールが明確で、結果が予測しやすい。そうした場は、ASD のある方にとって安心できる環境になりやすいとされています。その心地よさが長時間化や生活の支障につながると、行動依存の入り口になることがあります。
なお、性的な行動や性的コンテンツへの依存も、重なりの一つです。これは自閉スペクトラム症(ASD)と性依存についてでくわしく扱います。
なぜ ASD のある方に依存が起きやすいのか
つらさを和らげる手段として
はじまりは、楽しみを求めてではないことがあります。ASD のある方が物質使用やゲームを始める大きなきっかけの一つが、日常のつらさの「自己治療」です。感覚の過負荷、社会的な不安、感情のコントロールの難しさ。こうしたストレスに対し、お酒やゲームが一時的な安らぎを与えることがあります。そのつかの間の「楽になる感覚」が繰り返しの動機になり、依存へとつながることが指摘されています。
感覚の特性が関わる場合
感覚の受け取り方は、お酒やゲームの意味も変えます。ASD に特徴的な感覚過敏や感覚鈍麻は、依存と深く関わります。感覚過敏のある方にとって、アルコールは周囲の刺激を「やわらげる」手段になり得ます。反対に、新しい感覚体験を求めやすい方もいます。その場合は、ゲームの強い刺激や薬物がもたらす刺激そのものが、強い動機になることもあります。
社会的な孤立の影響
人の輪の外にいることが、きっかけになる場合もあります。思春期から青年期にかけて、ASD のある方は社会的な帰属に大きな壁を感じやすいとされています。暗黙のルールの理解の難しさや、非言語コミュニケーションの違いが、仲間からの孤立につながることがあります。こうした環境のなかで、飲酒やオンラインゲームが「仲間に溶け込むための手段」として始まる場合もあります。
こだわりや反復行動との連続性
毎日、同じ時間に同じことをする。それ自体は、安心につながる過ごし方でもあります。ASD にみられる反復的な行動パターンやこだわりは、依存行動の形成と構造的に似た面があります。ある行動がストレスの軽減と結びつくと、それが日課として定着しやすくなります。一度始めた飲酒やゲームを一人でも繰り返しやすく、依存が深まりやすいという報告もあります。
ほかのこころの不調との重なり
不安やうつが同時にあると、話はもう少し込み入ってきます。不安もうつも、ASD のある方には高い頻度でみられます。海外のメタ解析では、生涯で不安は約4割、うつは4割近くが経験するとの報告があります。ただし、医療機関を受診したかたを対象にした研究が多く、数値には幅があります。これらのこころの不調は、それ自体が依存症のリスクを高める要因です。不安やうつが重なることで、物質や行動に頼りやすくなる悪循環が生まれやすくなります。
脳の仕組みからみた共通点
なぜ、やめようと決めた翌日に、また同じことをしてしまうのか。ASD と依存症のどちらにも、脳の「報酬系」と呼ばれる仕組みが関わっていると考えられています。報酬系とは、心地よい体験をしたときに「もう一度やりたい」という動機を生み出す神経回路です。この回路の中心的な役割を担う神経伝達物質がドーパミンです。
日本の研究では、ASD のある方の脳内で、ドーパミンの受け手(受容体)の減少が報告されています。この研究では、対人コミュニケーションの困難さとの関連が示されています。
さらに、先ほどのスウェーデンの研究では、ご家族についても調べられています。ASD のある方のごきょうだいや親でも、物質使用の問題が多いと報告されました。ここから、共通する素因があると考えられています。反復的な行動パターンと物質への渇望は、脳の同じ領域(線条体)でつながっている可能性があります。その領域の機能変化を介した結びつきです。
ASD のある方に依存が起きやすいのは、意志の問題ではありません。脳の報酬系の特性が関わっています。この理解が、適切な支援の出発点になります。
見逃されやすい理由
周りからは、何も問題がないように見えていることがあります。ASD のある方の依存症は、いくつかの理由から見逃されやすい構造があります。
まず、多くの ASD 当事者は、社会に適応するために自分の行動を調整しています。マスキングと呼ばれる調整です。飲酒やゲームがこのマスキングの一部として機能している場合、外からは問題に気づきにくくなります。
つらさを感じていても、言葉にしにくいことがあります。そのため、支援者が依存の兆候を見落としやすくなります。従来の依存症の評価ツールは、ASD の特性を想定して作られていません。そのため、問題が過小評価されるおそれがあります。
関連する疾患
重なるのは、この二つだけとは限りません。ASD と依存症が重なる場合、ほかの精神的な不調も同時に存在していることが少なくありません。複数の問題を総合的に評価し、それぞれに合った支援を組み立てることが大切です。
- 抑うつ症(うつ病): 気分の落ち込みや意欲の低下を紛らわすためにお酒や薬物を使い続け、依存が深まることがあります。
- 不安症: 強い不安を和らげたくて物質や行動に頼り、後から後悔と不安が増す悪循環につながります。
- 注意欠如多動症(ADHD): ASD と ADHD は併存しやすく、衝動性の高さが物質使用やギャンブルのリスクをさらに高めることがあります。
- 依存症: アルコール、薬物、ゲームなど依存の対象はさまざまです。詳しくは依存症のページもあわせてご覧ください。
- 双極症(躁うつ病): 気分の波に合わせて飲酒量が極端に増えたり、ギャンブルにのめり込んだりすることがあります。
重なるときの治療の工夫
依存症そのものの一般的な治療法は、依存症のページにゆずります。ADHD への対応は、注意欠如多動症(ADHD)のページにあります。ここでは、ASD と依存が重なるときならではの注意点に絞ります。標準的な集団プログラムだけでは、十分に参加できないことがあるからです。社会的なコミュニケーションの難しさや、感覚の過敏さがあるためです。
1. ASD と依存を同時に評価する
まず、ASD の特性と依存の状態を同時に評価することから始めます。どちらか一方だけに注目すると、全体像を見落としやすくなります。併存する不安やうつの有無も含め、生活全体のなかで困りごとを把握します。
2. 特性に合わせた心理療法
ASD の特性に合わせて進め方を調整する心理療法が、取り組みやすさにつながると考えられています。視覚的な手がかりを用いた説明、予測可能な構造化されたセッション、感覚に配慮した環境づくりが大切です。飲酒やゲームの引き金を一緒に特定し、代わりとなる対処法を練習していきます。
3. 薬物療法と離脱への配慮
毎日お酒を飲んでいるかたが自己判断で急にやめると、体調が大きく崩れることがあります。減らし方や中止の時期は、必ず医師と決めてください。
ASD への支援の中心は、環境調整と心理社会的サポートです。併存する不安やうつ、睡眠の問題に対しては、薬物療法が役立つことがあります。アルコールや薬物の依存がある場合は、離脱症状への対応も欠かせません。医師と相談しながら慎重に進めます。
4. 環境調整と生活の構造化
依存行動の引き金となる感覚刺激やストレスを減らす環境調整も大切です。ゲームやスマホは、時間や場所のルールを目に見える形にすると続けやすくなります。生活リズムを整え、依存に代わる安心できる活動を日課に組み込むと、回復を支えやすくなります。
家族や周囲の方へ
ASD のある方の依存の問題は、ご家族にとっても大きな心配の種になります。「なぜやめられないのか」と感じることは自然です。依存は脳の仕組みが関わる病気であり、本人の意志の弱さだけが原因ではありません。
まずは、本人を責めるよりも「困っている状態」に目を向けることが大切です。日常会話のなかで気づいた変化を穏やかに伝えることが、相談への第一歩になることがあります。
ご家族自身が精神保健福祉センターや自助グループに相談することも、回復を支える力になります。ご家族だけで抱え込まず、専門家の力を借りながら長い視点で支えていくことが大切です。
早めに相談したいサイン
- 感覚のつらさや不安を和らげるために、毎日のようにお酒や薬物に頼っている
- ゲームやインターネットの時間が極端に増え、睡眠や食事、仕事に影響が出ている
- やめようと決めても繰り返してしまい、自分を責める気持ちが強い
- 使用量や頻度が以前より増え、同じ量では満足できなくなっている
- 家族や周囲との関係が悪化しているのに、行動を変えられない
上のようなサインに一つでも心当たりがあれば、精神科や心療内科に相談してみてください。依存の問題は早い段階で支援につながるほど、回復の見通しが立てやすくなります。
飲酒やゲームのあとに気分がさらに落ち込み、死にたい気持ちが浮かぶことがあります。そのときは、次の予約を待たずに、その日のうちに相談してください。下の相談先も利用できます。危険が差し迫っているときは、ためらわずに 119 番へ連絡してください。
つらいときの相談先: いのちの電話 0570-783-556(毎日10時〜22時)・フリーダイヤル 0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時) / よりそいホットライン 0120-279-338
よくある質問
ASD のある人は本当に依存症になりやすいのですか?
はい。スウェーデンの全国規模の調査が、リスクの高さを示しています(Butwicka 2017)。ただし、その大きさは一様ではありません。共存する ADHD や知的障害の有無、依存の種類によって大きく異なります。かつては「なりにくい」と考えられていましたが、その見解は見直されつつあります。
依存症と ASD のこだわりはどう見分けますか?
ASD のこだわりは、反復的な興味や行動として現れます。安心感を得るための自然な特性です。一方で依存症は、健康や生活に明らかな悪影響が出ているのに、やめられない状態を指します。こだわりが依存に移行するきっかけとなる場合もあります。生活への支障の有無が、一つの手がかりになります。
ゲームやネットへの没頭も依存症なのですか?
長く楽しんでいるだけなら、すぐに病気とはいえません。問題になるのは、睡眠や食事、仕事や学業に支障が出ているのに、やめられないときです。ほかの活動より優先してしまう状態が続くかどうかも、目安になります。ASD のある方は予測しやすいゲームに安心を感じやすく、長時間化しやすい面があります。生活への影響を目安に考えてみてください。
一般的な依存症治療を受けても大丈夫ですか?
標準的な集団プログラムは、ASD のある方にとって参加しにくい面があります。感覚への配慮や、個別化された進行が助けになります。ASD の特性を理解した支援体制のある医療機関に相談されることをおすすめします。まずは精神科で、ASD と依存の両面から評価を受けることが大切です。
まとめ
やめようと思っていたのに、また同じことをしてしまう。その繰り返しの背景に、ASD の特性が関わっていることがあります。脳の報酬系の特性、こだわりや反復行動の共有、感情調節の難しさ、社会的ストレスへの弱さ。自閉スペクトラム症と物質や行動への依存は、多くの経路を通じて関連していると考えられています。かつての「ASD のある方は依存症になりにくい」という考え方は、最新の研究によって見直されています。
ご自身やご家族に思い当たることがあれば、一人で抱え込まず、まずは専門家に相談してみてください。ASD の特性を理解したうえでの支援は、回復に向けた大きな力になります。当院でも、こころの不調と発達特性の両面から一緒に考えていくことができます。
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参考文献
- 厚生労働省「依存症対策」
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト
- 依存症対策全国センター
- Butwicka A, et al. Increased Risk for Substance Use-Related Problems in Autism Spectrum Disorders: A Population-Based Cohort Study. J Autism Dev Disord. 2017.
- Holst Y, Thorell LB. Behavioral addiction and autism spectrum disorder: A systematic review. Research in Developmental Disabilities. 2022.
- 日本医療研究開発機構(AMED)「自閉スペクトラム症には脳内のドーパミンD2/3受容体の減少が関連」2022年
- Hollocks MJ, et al. Anxiety and depression in adults with autism spectrum disorder: a systematic review and meta-analysis. Psychological Medicine. 2019; 49(4): 559-572.
- Kaltenegger HC, et al. Low prevalence of risk drinking in adolescents and young adults with autism spectrum problems. Addict Behav. 2021; 113: 106671.

