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精神医学

依存症と家族について

依存症は、本人だけでなく家族全体を変えてしまう病気です。怒りと罪悪感が交互に押し寄せ、「自分さえ我慢すれば」と抱え込み続ける日々。しかし、家族の関わり方そのものが回復の鍵を握ることがあります。本人が動く前に、家族が変わることで流れが生まれる。そのことを、この記事では具体的にお伝えします。

  • 家族がいつも本人の問題の後始末をしている
  • 本人の飲酒やギャンブルについて、周囲に嘘をついて隠している
  • 怒りや絶望を感じながらも、どう対応すればよいかわからない
  • 子どもの様子が気になるが、自分のことまで手が回らない
  • 「自分さえ我慢すれば」と思い続けている

依存症について簡単に

依存症は、ある物質や行動へのコントロールを失い、生活に支障が出てもやめられない状態です。意志の弱さや性格の問題ではなく、脳の報酬系の変化によって起きる病気であることが、世界保健機関(WHO)をはじめとする医療機関で広く認められています。くわしくは依存症をご参照ください。

依存症が家族全体に与える影響

家族は一つのシステムとして機能しています。一人のメンバーが依存症になると、ほかのメンバーも無意識に特定の「役割」を担うようになります。

依存症の家族には、以下のような役割が固定化しやすいことが知られています。

  • 支え役(イネイブラー): 本人の問題を肩代わりし、表面的な安定を維持しようとする人です。配偶者や親がこの役割を担うことが多いです。
  • ヒーロー: 家族の名誉を守るために、学業や仕事で過剰に成果を上げようとする子どもです。外からは「しっかりした子」に見えますが、内面では強い不安を抱えています。
  • スケープゴート: 問題行動を起こすことで、家族の本当の問題から注意をそらす役割です。
  • 忘れられた子: 存在感を消し、目立たないようにすることで家族のストレスを減らそうとする子どもです。
  • マスコット: おどけた態度で家族の緊張を和らげようとする子どもです。感情を直視することを避ける傾向があります。

これらの役割は無意識に固定化し、成長後の対人関係のパターンにも影響することがあります。

共依存・子どもへの影響(委譲)

「この人には自分がいないとダメだ」という思いが強くなり、相手の世話をすることで自分の存在意義を感じる状態を共依存といいます。詳しくは共依存とイネイブリングについてをご覧ください。

依存症のある家庭で育つ子どもが抱えやすい生きづらさ(アダルトチルドレン)については、機能不全家族とアダルトチルドレンで詳しく解説しています。

家族が避けたい対応パターン

善意からの行動が、結果として依存症を長引かせてしまうことがあります。代表的なパターンを知っておくことで、対応を見直すきっかけになります。

肩代わり・後始末をする

本人が自分の行動の結果に向き合う機会を奪ってしまう行為です。

  • 借金を代わりに返済する
  • 上司や学校に嘘の理由で連絡する
  • 酩酊状態の後始末をする
  • 問題を親戚や知人に隠す
  • 「最後のチャンス」を何度も与える

こうした行動は、本人が問題に直面する機会を遠ざけます。結果として、回復への動機が生まれにくくなります。

監視やコントロールで止めようとする

  • お酒を隠す、捨てる
  • 財布や携帯電話を監視する
  • 行動を逐一チェックする
  • 脅しや罰でやめさせようとする

依存症は脳の病気であり、外部からの管理だけでは根本的な解決にはなりません。かえって関係が悪化し、本人の隠蔽行動が強まることがあります。

感情をぶつけてしまう

  • 激しい叱責や人格否定
  • 泣き落としや罪悪感を利用した説得
  • 無視や冷戦
  • 子どもを盾にした脅し

これらの反応は、短期的には本人に響くように見えることがあります。しかし長い目で見ると信頼関係を損ない、回復に向けた対話を難しくします。

底つき・底を上げるという考え方

依存症の回復をめぐって、「底つき体験」という言葉があります。「もうこれ以上は落ちられない」と感じるほどの喪失を経験し、初めて「助けが必要だ」と気づく転換点のことです。離婚を告げられた、仕事を失った、救急搬送された。そうした出来事が引き金になることがあります。

「高い底つき」と「低い底つき」

低い底つきとは、ほぼすべてを失った段階で起こる気づきです。従来の回復体験談ではこのタイプが多く語られてきました。一方、高い底つきとは、仕事も家庭もまだ失っていない段階で「このままではいけない」と気づく体験です。健康診断の数値の変化、子どもの行事に参加できなかった後悔、静かな決意。そうした小さな転換点です。

現在の依存症支援では、底を深くする必要はなく、「高い底つき」を促すことが大切と考えられています。すべてを失う前に気づくことができれば、回復に必要な資源(健康・人間関係・仕事・住まい)が残っているからです。

否認という心理

依存症で最も強力にはたらく心理が否認です。否認は単なる嘘ではなく、脳が依存行動を守るために自動的に作動するしくみです。「たまに飲みすぎるだけ」(最小化)、「仕事のストレスがあるから仕方ない」(合理化)、「あの人のほうがもっとひどい」(比較)。こうした思考が繰り返されます。底つき体験とは、この否認がもはや現実を覆い隠せなくなる瞬間です。

「底を上げる」という考え方

現在の支援では、「底つきを待つ」のではなく「底を上げる」というアプローチが主流です。まだ多くのものを失っていない段階で、周囲の適切な関わりによって本人が変化への動機を持てるよう支えます。

「底を上げる」とは、本人がすべてを失う前に、周囲の適切な関わりと専門的な支援によって、気づきの機会をつくることです。待つだけが支援ではありません。

家族の関わり方を変える

まず家族自身が助けを求める

「本人が自覚してから回復が始まる」と思われがちです。しかし実際には、家族が先に変わることで、回復の流れが動き出すケースが多いことがわかっています。家族が健全なかかわり方を身につけ、肩代わりをやめることで、本人が自分の問題に向き合わざるを得ない環境が生まれます。

  • アラノン: アルコール依存症のある方の家族や友人のための自助グループです。
  • ナラノン: 薬物依存症のある方の家族のための自助グループです。
  • ギャマノン: ギャンブル依存症のある方の家族のための自助グループです。
  • 精神保健福祉センター: 各都道府県に設置されている公的な相談窓口です。依存症の専門相談員が対応します。
  • 依存症対策全国センター: 全国の相談窓口や専門医療機関の情報を提供しています。

コミュニティ強化と家族トレーニング(CRAFT)

コミュニティ強化と家族トレーニング(CRAFT)は、依存症のある方の家族を対象としたプログラムで、科学的な研究により効果が確認されています。「底を待つ」という従来の考え方とは異なり、家族の関わり方を変えることで本人の治療参加を促すというアプローチです。

  • 家族自身の安全を確保する
  • 本人が依存行動をしていないときのポジティブな交流を増やす
  • 依存行動中は肩代わりをやめ、自然な結果に任せる
  • 「わたしは〜と感じる」という伝え方を練習する
  • 家族自身の趣味や社会的活動を取り戻す
  • 適切なタイミングで治療を提案する方法を学ぶ

CRAFTを受けた家族の約65〜70%が、依存症のある方を治療につなげることに成功したという研究報告があります。従来の家族介入と比べて有意に高い成果です。

本人への伝え方のポイント

  • しらふのときに話す: 酩酊時や依存行動の最中は、対話が成り立ちません。
  • 「わたしは」を主語にする: 「あなたはいつも約束を破る」ではなく、「約束が守られないと、わたしはとても悲しい」と伝えます。
  • 具体的な事実を挙げる: 「先週の火曜日にこういうことがあった」のように、抽象的な批判を避けます。
  • 選択肢を示す: 自助グループ、心理療法、専門外来など、複数の相談先を提示します。
  • すぐ動ける準備をしておく: 本人が「行ってみようかな」と思った瞬間に対応できるよう、事前に情報を調べておきます。

健やかな境界線を持つ

境界線とは、「自分が受け入れられること」と「受け入れられないこと」を明確にし、一貫した態度で伝えることです。依存症のある方を見捨てることではなく、愛情を持ちながら健全な距離を保つということです。

  • 「お金は貸せません。治療費であれば、一緒に相談窓口に行くことはできます。」
  • 「酔っている間は同じ空間にいません。落ち着いてから話しましょう。」
  • 「約束を破られたことで私は傷ついています。次に同じことがあれば、こういう対応をとります。」

大切なのは、設定した境界線を一貫して守ることです。脅しではなく、自分自身を守るための宣言として伝えます。共依存の視点からの詳しい解説は共依存とイネイブリングについてをご覧ください。

関連する疾患

依存症は、ほかの精神的な不調と重なって現れることが多い病気です。片方だけを治療しようとしてもうまく進まないことがあり、両方を同時に評価することが大切です。

  • 抑うつ症(うつ病): 気分の落ち込みや不眠を紛らわすためにお酒や薬を使い続け、依存が深まることがあります。
  • 不安症: 強い不安や緊張を和らげたくて物質や行動に頼り、かえって不安が増す悪循環につながります。
  • 双極症(躁うつ病): 気分の波に合わせて飲酒量が極端に増えたり、ギャンブルにのめり込んだりすることがあります。
  • PTSD: トラウマ体験による苦痛を紛らわすために物質を使い始め、依存に至ることがあります。
  • 適応反応症: 環境の変化によるストレスが引き金となり、依存が強まることがあります。
  • 摂食症: 衝動制御の困難という共通点から、依存症と併存することがあります。

治療について

依存症の治療の全体像(安全の確保・心理療法・薬物療法・自助グループ)は依存症のページで詳しく解説しています。ここでは、家族の視点から特に知っておきたい点を補足します。

家庭内に暴力のリスクがある場合は、家族の安全確保が最優先です。まずは精神保健福祉センターや配偶者暴力相談支援センター(DV相談)に相談してください。治療への参加は、安全が確保されてからです。

回復は一直線ではなく、波があるのが自然です。再び依存行動に戻ることがあっても、それは「失敗」ではなく、対処法を見直すきっかけになります。家族もまた、一人で抱え込まずに支援につながり続けることが大切です。

家族や周囲の方へ

依存症のある方を支える家族は、長い間ひとりで悩みを抱え込みがちです。大切なのは、「自分のせいではない」「自分の力だけでは止められない」「自分が治してあげることはできない」と認めることです。これは本人を見捨てることではありません。自分自身の生活を守ることが、結果として家族全体の回復につながります。

まずは家族自身の相談先を持つことから始めてください。自助グループや精神保健福祉センターでは、同じ悩みを持つ方との交流や、専門家による助言を受けることができます。

早めに相談したいサイン

以下のような状態が続いている場合は、早めに専門機関に相談することをお勧めします。

  • 本人の飲酒量やギャンブルの頻度が明らかに増えている
  • 嘘や隠し事が増え、家族との信頼関係が崩れている
  • 家族の生活が本人の依存行動に振り回されている
  • 借金や経済的な問題が発生している
  • 家族自身が眠れない、食欲がない、涙が止まらないなどの不調を感じている
  • 子どもに情緒面や行動面の変化が見られる
  • 「もうどうしようもない」という絶望感がある

ご自身や家族の安全が脅かされていると感じたときは、ためらわずに相談してください。

  • いのちの電話: 0570-783-556
  • よりそいホットライン: 0120-279-338

よくある質問

依存症は意志が弱いだけですか?

いいえ。依存症は、脳の報酬系や自己コントロールの仕組み、ストレスへの対処、環境的な要因などが複雑に絡み合って起こる病気です。気合いだけで解決しようとするとかえって自責感を強め、回復が遠のくことがあります。医療や支援とつながりながら進めるほうが、結果として回復を続けやすくなります。

家族が先に相談してもいいのですか?

はい。本人がまだ治療に前向きでない段階でも、家族が先に相談することには大きな意味があります。家族の関わり方が変わることで、本人が自分の問題に気づくきっかけが生まれます。精神保健福祉センターや自助グループでは、家族だけの相談にも対応しています。

本人が底をつくまで待つべきですか?

現在は「待つ」よりも「底を上げる」関わりが推奨されています。底が深くなるほど健康や人間関係が失われ、回復がむずかしくなるからです。CRAFTのようなプログラムを活用し、家族として適切な距離感とコミュニケーションを学ぶことが、本人の治療参加を促す効果的な方法です。

再発したら治療は失敗ですか?

そうとは限りません。依存症の回復では、再び使用や再開が起こることがあります。大切なのは、その体験をきっかけに「何が引き金だったのか」「次はどう備えるか」を振り返り、支援につながり直すことです。慢性疾患と同じように、波を受け止めながら長く付き合っていく視点が役立ちます。

子どもにはどう説明すればよいですか?

子どもの年齢に合わせた言葉で、「お父さん(お母さん)は病気で、お医者さんに助けてもらっている」と伝えることが基本です。「あなたのせいではない」「あなたは悪くない」と明確に伝えることがとても大切です。子ども自身が安心して話せる相手(信頼できる大人、学校の相談員など)がいると、こころの支えになります。

まとめ

依存症は家族全体に影響を与える病気です。しかし、回復は可能です。本人だけでなく家族にも固有の回復のプロセスがあり、適切な支援につながることで、少しずつ日常を取り戻していくことができます。

もっとも大切なのは、ひとりで抱え込まないことです。「家の恥」と感じて問題を隠し続ける方は少なくありません。しかし、依存症は誰にでも起こりうる脳の病気であり、助けを求めることは勇気ある一歩です。

この記事を読んでいる時点で、すでに回復に向けた歩みは始まっています。精神保健福祉センターへの電話、自助グループの見学、あるいは信頼できる人に話をしてみること。その小さな行動が、ご自身と家族の暮らしを変える出発点になるかもしれません。当院でもご相談をお受けしています。

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