両疾患併存(境界性パーソナリティ障害〈BPD〉と双極性障害〈Bipolar Disorder〉)の治療計画は、情緒不安定性と気分のエピソード性が複雑に絡むため、治療戦略の多軸的アプローチが必要不可欠です。
以下に、両疾患を併存するケースに対応した統合的治療計画モデルをご紹介します。
🧩 両疾患併存モデル:5つの治療軸
【1】薬物療法軸(Mood Stabilization)
目的 | 内容 |
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気分の波のコントロール | 気分安定薬を中心に構成(リチウム、ラモトリギンなど) |
衝動性・攻撃性の調整 | 必要に応じて抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン等)を補助的に |
抑うつ・不安の対処 | SSRI等は躁転リスクに注意しながら慎重に投与 |
💡 躁・うつの急性期には薬物治療が最優先。BPD症状の背景に気分エピソードがないか常にモニタリングが必要
【2】心理療法軸(Emotion Regulation)
目的 | 内容 |
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慢性的な感情不安定性の軽減 | DBT(弁証法的行動療法)による感情調整スキルの習得 |
自傷や衝動への対処 | スキル練習(間隔置き、正の行動の選択) |
対人関係の安定化 | MBT(メンタライゼーション)やスキーマ療法で自己感・他者感を再構築 |
💡 双極性障害の急性期では、心理療法は症状が安定してから段階的に導入
【3】行動モニタリング軸(Mood/Behavior Tracking)
目的 | 内容 |
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気分・行動の記録による洞察促進 | 日々の気分・行動をスケーリング・記録(睡眠、衝動、自傷、対人トラブル) |
双極性 vs BPDの感情波の識別 | トリガー有無/持続時間/パターンに注目して、治療者と共有 |
生活リズムの視覚化 | 睡眠・食事・活動のバランスを記録することで介入ポイントを発見 |
【4】生活習慣・社会機能軸(Psychoeducation & Lifestyle)
目的 | 内容 |
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疾患への理解と予防的対応 | 精神教育(psychoeducation):自分の障害特性、治療の意味、再発サインの把握 |
睡眠・活動リズムの安定 | 双極のリズム療法(chronotherapy)とBPDのセルフケア習慣を統合 |
周囲のサポート調整 | 家族・パートナーへの教育と協力体制づくり(家族支援・訪問支援など) |
【5】リスクマネジメント軸(Crisis Management)
対応内容 | 詳細 |
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自殺企図・自傷行為の予防 | 安全契約/危機介入プロトコル/緊急時の連絡体制を明確化 |
躁状態での逸脱行動 | 金銭管理・買い物・性行動などのガイドライン設定 |
境界性危機(見捨てられ不安/関係の爆発) | 治療者との治療契約・リフレーミング技術・対応フローの設計 |
🧠 治療の進行段階モデル(段階的導入)
ステージ | 目標 | 治療内容 |
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🚨 急性期 | 気分の安定/自傷・自殺リスクの最小化 | 薬物療法+安全対策/心理教育のみ最小限導入 |
🌿 回復期前期 | 自己観察力の回復/生活リズム安定 | 気分記録/DBTスキル練習/サポート体制構築 |
🧩 回復期後期 | 自己調整力の獲得/対人関係改善 | MBT・対人スキル訓練/感情処理・自己理解の深化 |
🛤 維持期 | 再発予防/人生設計 | スキルの統合/ライフデザインの支援/卒業に向けた計画づくり |
✅ まとめ:BPD+双極併存の治療計画のキーワード
キーワード | 意味 |
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🎯 優先順位の見極め | 「今は躁?抑うつ?BPD反応?」を常に吟味 |
🔄 薬物×心理療法のハイブリッド | エピソードの強さとタイミングによって併用戦略を変化させる |
📊 気分・行動記録の徹底 | 双極かBPD由来かを見極める鍵。主観的記録と客観的評価を統合 |
🤝 関係性重視 | 対人不安定性があるため、治療者との安定的な信頼関係形成が第一 |
