自閉症(自閉スペクトラム症, ASD)の生い立ち
自閉症(現在の正式な診断名は 自閉スペクトラム症(ASD: Autism Spectrum Disorder))は、生まれつきの脳の発達の違いによる発達障害です。社会的なコミュニケーションの困難さ、興味や行動のこだわり、感覚の過敏性 などが特徴です。
1. 遺伝的要因(生まれつきの脳の特徴)
自閉症は 「生まれつきの脳の特性」 によるものが大きく、遺伝的要因 の関与が強いと考えられています。
- 遺伝の影響が大きい
- 研究によると、自閉症の発症には 遺伝の影響が70~90% あるとされる。
- 親や兄弟にASDの特徴を持つ人がいる場合、子どももASDになる確率が高くなる。
- 脳の構造・機能の違い
- 脳のシナプス(神経のつながり)の異常 により、情報処理の仕方が定型発達の人と異なる。
- 前頭前野(思考や判断を司る部分)や扁桃体(感情を司る部分)の機能が異なる ことが指摘されている。
- 感覚情報を処理する部位が過敏または鈍感になることがある(音、光、肌触りなどに対する感じ方が独特)。
- 出生前・出生時の要因
- 妊娠中の環境(母体の健康状態、ウイルス感染、栄養不足など)が関係する可能性がある。
- 早産や低出生体重児で生まれた場合、ASDのリスクがやや高まるとされている。
2. 環境的要因(育て方の影響は少ない)
- 「親の育て方が原因」という誤解は誤り
昔は「母親の愛情不足(冷蔵庫マザー説)」が原因とされていましたが、現在では科学的に 育て方は直接の原因ではない ことが証明されています。 - ただし、育つ環境が発達に影響することはある
- ASDの子どもは環境の変化に敏感 であり、ストレスが強すぎると不安が増す。
- 適切な支援を受けることで、コミュニケーション能力や自己調整力を伸ばせる。
3. 自閉症の子どもの生い立ちの特徴
① 幼少期の特徴
- 視線が合いにくい
- 赤ちゃんの頃から、親とアイコンタクトを取りにくいことがある。
- ただし、すべてのASDの子が目を合わせないわけではない。
- 名前を呼ばれても反応しにくい
- 親が何度も名前を呼んでも振り向かないことがある。
- 感覚が過敏または鈍感
- 音、光、肌触りに対して 「うるさい」「まぶしい」「痛い」 など極端な反応をすることがある。
- 逆に、痛みに鈍感で、転んでも気にしないこともある。
- 一人遊びが多い
- 他の子どもと遊ぶより、一人で特定のおもちゃや興味のあるものに没頭しがち。
- こだわりが強い
- いつも同じルールやパターンを好み、変化を嫌がる。
- たとえば「毎日同じルートで登園しないとパニックになる」など。
② 幼児期・学童期の特徴
- 言葉の発達の遅れ
- 2歳になっても言葉を話さない、または単語は言えるが会話のキャッチボールが難しい。
- ただし、知的能力が高いASD(ハイパフォーマンスASD)の場合、言葉の遅れがないこともある。
- コミュニケーションの難しさ
- 相手の気持ちを察するのが苦手で、「空気を読む」ことが難しい。
- 例:「友達が悲しんでいても、なぜ悲しいのか分からない」「ジョークや皮肉をそのまま受け取る」。
- 興味の偏り
- 特定のもの(電車、恐竜、地図、数字、宇宙など)に強いこだわりを持つ。
- 年齢に関係なく、同じ遊びや知識に没頭し続ける。
- 集団生活の難しさ
- 学校や幼稚園での集団行動が苦手。
- ルールを理解できても、状況に応じて柔軟に変えるのが難しい。
③ 思春期・成人期の特徴
- 社会的な関係で困難を感じる
- 友達との距離感がうまくつかめず、孤立しやすい。
- 相手の表情や言葉の裏の意味を理解しにくいため、人間関係のトラブルが起こりやすい。
- 感覚過敏がストレスになる
- 周囲の音、光、においが気になり、学校や職場で疲れやすい。
- 強いこだわりやルーチンを維持しようとする
- 予定変更に対して強いストレスを感じる。
- 自分のやり方に固執し、他人の指示を受け入れるのが難しいことがある。
- 自己認識の変化
- 「なぜ自分は他の人と違うのか?」と悩むことがある。
- ASDと診断されることで「自分の特性を理解しやすくなる」こともある。
4. まとめ
✅ 自閉症(ASD)は生まれつきの脳の特性によるものであり、育て方が直接の原因ではない。
✅ 遺伝的な影響が強く、家族にASDの傾向がある場合、発症する確率が高くなる。
✅ 幼少期から社会的コミュニケーションや感覚過敏の違いが見られることが多い。
✅ 成長とともに特性は変化するが、環境に合わせた支援が重要。
✅ 適切な支援や療育を受けることで、社会的なスキルを向上させることができる。
ASDは「障害」というよりも「脳の多様性の一つ」とも考えられており、強みを生かした生き方を模索することが大切です。