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精神医学

自傷行為の精神病理

自傷行為の精神病理 (音声により解説します)

自傷行為(self-injury/self-harm)とは、自らの身体を意図的に傷つける行為を指します。臨床現場では「リストカット」「過食・嘔吐」「殴打」「髪を抜く」「皮膚をひっかく・焼く」など、多様な形態が見られます。

以下では、自傷行為の精神病理について、精神医学・臨床心理学・神経科学・発達心理学の視点から体系的に解説します。


🔎 目次

  1. 自傷行為の定義と分類
  2. 自傷の主な心理的・精神病理的機能
  3. 関連しやすい精神疾患・パーソナリティ特性
  4. 神経科学的視点(脳・神経・ホルモン)
  5. 自傷行為の発症・経過・予後
  6. 文化・社会的背景とジェンダー差
  7. 治療的アプローチと支援モデル
  8. まとめ(自傷は“叫び”である)

1. 🩸自傷行為の定義と分類

■ 定義:

医学的には、「死の意図を伴わない身体自己損傷(NSSI: Non-Suicidal Self-Injury)」を自傷行為とする。

■ 分類:

タイプ行動例備考
直接的自傷リストカット、火傷、打撲血を見る・痛みを伴う
間接的自傷過食・拒食、アルコール依存、危険な性行為自己管理困難な場合あり
衝動的自傷急に起こる強い行動BPDやADHD傾向と関係
慣習的自傷一定パターンで繰り返すASD傾向者にも見られる

2. 💔 自傷行為の主な精神病理的機能(目的)

心理機能内容説明
① 情動調整機能強い不安・怒り・虚無を「痛み」で抑える痛みによる“感情の上書き”
② 自己処罰・贖罪機能「悪い自分」を罰したい完璧主義・罪悪感の裏返し
③ 空虚感への刺激補充感情が麻痺している中で“生きてる感覚”を得るBPDや解離性障害に多い
④ コントロール機能他人に支配された感覚をリセットしたいトラウマ被害者に多い
⑤ 他者への訴え・転移「助けてほしい」が言葉にならないアタッチメント不全型に多い
⑥ 習慣化・依存化続けるうちに「やめられなくなる」快感閾値が低下し中毒に近づく

💡 特に「情動調整」と「自己罰」は中核的動因であり、治療の焦点となることが多いです。


3. 🧠 関連しやすい精神疾患・パーソナリティ

カテゴリ疾患・特徴自傷との関係
パーソナリティ障害境界性パーソナリティ障害(BPD)自傷は診断基準にも含まれる
情緒障害うつ病、双極性障害抑うつ・混合状態でリストカットなど
神経発達症ADHD・ASD衝動性や感覚調整困難による
解離性障害解離性同一性障害など自傷時の記憶がないことも
PTSD・複雑性PTSD虐待・性被害歴がある人に多いコントロール回復としての自傷
摂食障害過食・嘔吐・拒食間接的自己破壊的行為

4. 🧬 神経科学的視点:自傷時の脳とホルモン

項目内容
内因性オピオイド系痛みでβエンドルフィンが分泌 → 快感や安心感
ドーパミン自傷で「報酬系」が刺激 → 依存傾向を強化
セロトニン低下衝動性・抑うつ・情動不安定と関係
扁桃体の過敏性感情的反応が過剰になりやすい
前頭前野の機能低下衝動抑制が困難になる

💡 自傷行為は神経化学的な快感・ストレス緩和にもつながるため、「脳が学習してしまう」依存的側面があると考えられます。


5. 📉 自傷の発症・経過・予後

フェーズ内容
発症時期多くは思春期〜青年期。特に14〜25歳で多発
継続パターン一時的に収まっても、ストレス期に再発しやすい
自殺との関係原則は「死にたいわけではない」が、繰り返すことで自殺リスクが上がる
慢性化の危険周囲の無理解、否定、羞恥が継続を助長する場合もある

6. 🌍 社会文化的背景とジェンダー

  • 若年女性に多い(BPD・摂食障害・トラウマ傾向)
  • SNSやネット文化による模倣・同一化(自傷を肯定する“居場所”)
  • 男性では「酒」「殴打」「過労」など間接的自傷が多い傾向
  • 日本の「我慢・自己犠牲」文化との親和性

7. 🩺 治療的アプローチと支援

■ 心理療法的対応

モデル具体例目的
DBT(弁証法的行動療法)境界性人格・感情調整不全に特化衝動・感情の扱い方を学ぶ
CBT(認知行動療法)歪んだ思考パターンに働きかける自罰・否定的スキーマへの介入
自己洞察・マインドフルネス感情・身体感覚への気づき自傷の前兆に対応できる力を育てる
愛着アプローチ安定した支援者・関係の形成他者に頼る経験の再獲得

■ 環境的対応

  • 否定せず、意味や背景に寄り添う姿勢が大前提
  • 「やめること」より、「どう支えるか」「どう言語化するか」
  • 学校・家庭・医療の連携が不可欠

8. ✨ まとめ:自傷とは「言葉にならない叫び」

自傷は「死にたい」というより、「生きる苦しさをどうにかしたい」という非言語的な表現です。

  • 自傷は“悪”ではなく、“痛みのサイン”
  • 背景には愛着・感情調整・自己否定・トラウマがある
  • 否定や説得ではなく、「理解しようとする姿勢」が回復への第一歩


自傷行為の精神病理 (音声により解説します)

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