LINE を使った受診日時のお知らせを一時的に休止しています。詳しくはこちらをご覧ください。

東京・銀座の心療内科・精神科・メンタルクリニック

オンライン
予約
お問い合わせ
アクセス
診療時間
精神医学

統合失調症における「自閉」

統合失調症における「自閉(autism)」とは、現代で一般に使われる「自閉スペクトラム症(ASD)」とは異なる概念であり、内界(内的世界)へのひきこもり、対人関係や現実との接触の断絶状態を意味します。これは統合失調症の中心的な精神病理のひとつとして、古典的精神病理学から現代の臨床まで深く研究されてきました。


■ 統合失調症における「自閉」の定義

観点内容
古典的定義(ブロイラー)現実からの逸脱と、内的思考・妄想・象徴的世界への没入
精神病理的理解外界や他者からの刺激を「侵入」と感じ、自己を守るために内的世界に退避する
行動的特徴他人との交流の喪失/独語・独笑/非現実的な言動/閉じこもり

■ 自閉と「現実検討力の喪失」

統合失調症の自閉では、現実検討能力(reality testing)が低下または喪失しているため、以下のような特徴が見られます。

項目内容
妄想世界に住む自分だけの理論・世界観を構築し、それが唯一の現実となる
自我境界の崩壊自他の区別が曖昧になる(「他人の考えが聞こえる」「心が読まれている」など)
他者との共有の断絶コミュニケーションが一方通行/言葉が通じない感覚

■ 「自閉」の精神病理的構造モデル(簡略図)

① 外界・現実との接触が不安・恐怖に満ちている
     ↓
② 内的世界(妄想・空想・象徴世界)に引きこもることで「自我の統一性」を保とうとする
     ↓
③ 他者・社会から遮断される(対人接触が負担に)
     ↓
④ 他者からは「自閉」「奇妙」「非社会的」と見える状態になる

■ 自閉と統合失調症の各症状との関連

症状自閉との関係
陰性症状(感情鈍麻・無為)対人関係や外界への興味が喪失し、内的世界に閉じこもる
妄想(関係妄想・宗教妄想など)他者や世界と共有されない内的現実に固着
自我障害(思考伝播・作為体験など)自他境界が曖昧になり、自己の内的世界を守ろうとする「自閉化」反応が強まる
言語の逸脱(言語新作・文脈破綻)内的連想によって生み出された意味が、対人的文脈から離れていく

■ ASDの「自閉」との違い

項目統合失調症における自閉自閉スペクトラム症(ASD)
発症時期思春期以降が多い乳幼児期からの発達的特徴
原因精神病的脱線、自己崩壊防衛神経発達症としての脳機能の偏り
現実検討明確に失われる(妄想・幻覚)基本的には保持される(ただし苦手さあり)
対人関係回避または敵意的遮断興味が薄い/方法が分からない/誤解される
可逆性寛解とともに自閉が軽減する場合あり一生涯を通じた特性として安定しやすい

■ 臨床場面での自閉的特徴(統合失調症)

行動解釈
一人でブツブツ話す/笑う内的妄想世界との対話(現実との切断)
目を合わせない/表情が乏しい外界刺激の遮断、自己保護
話が飛躍・支離滅裂になる内的連想が論理より優先される
現実の出来事を非現実的に解釈妄想・象徴思考の優位

■ 治療的アプローチ

方法内容
薬物療法抗精神病薬により妄想・幻覚・不安を軽減し、自閉からの離脱を促進
作業療法・芸術療法間接的な表現手段を通じて、内的世界と現実をつなげる
対人リハビリテーションSST(社会生活技能訓練)によって対話・関係スキルの再学習を行う
安全な関係性の提供自閉を急激に打ち破るのではなく、「受け入れられる経験」を通じて再び他者との関係を築く

■ まとめ

統合失調症における「自閉」とは:

  • 現実との接触からの退避であり、内的妄想世界への没入
  • 他者との関係性から自我を守るための深層的な防衛反応
  • 妄想・幻覚・自我障害と一体化して発現する中心的病理

したがって、統合失調症における「自閉」は、単なる対人不全ではなく、自我と世界の分断という深い現象です。治療はこの断絶を「ゆっくりと橋渡しする」ような、尊重と安全に基づいたアプローチが求められます。

この記事は参考になりましたか?

関連記事

  • ■ 統合失調症における「自閉」の定義
  • ■ 自閉と「現実検討力の喪失」
  • ■ 「自閉」の精神病理的構造モデル(簡略図)
  • ■ 自閉と統合失調症の各症状との関連
  • ■ ASDの「自閉」との違い
  • ■ 臨床場面での自閉的特徴(統合失調症)
  • ■ 治療的アプローチ
  • ■ まとめ
  • -->
    PAGE TOP