「現実見当識(reality orientation)」とは、自分が今どこにいて、誰で、何をしているかを正確に認識し、現実に適応した思考や行動を取る能力を指します。これは認知症・統合失調症・せん妄などで障害されることが多く、脳科学的には高次脳機能・記憶・空間認知・自己認識を統合する神経ネットワークに支えられています。
🧠 1. 現実見当識とは?:定義と構成要素
項目 | 内容 |
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🧩 定義 | 「時間」「場所」「人物」「状況」について現実と一致した認識を持つ能力 |
🔹 英語名 | Reality Orientation(RO) |
💡 関連認知機能 | 記憶・注意・言語・実行機能・空間認知・自己認識 |
🧠 2. 現実見当識を支える脳領域
✅ 脳部位と機能の対応表
脳領域 | 役割 | 見当識への関与 |
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海馬(海馬傍回) | エピソード記憶の形成 | 「今がいつか」「今ここはどこか」などの記憶の基盤 |
前頭前野(特に内側・背外側) | 実行機能・注意・状況判断 | 現実の理解・行動制御・混乱の抑制 |
頭頂葉(下頭頂小葉) | 空間認知・身体定位 | 場所の見当識、自分の身体の位置感覚 |
側頭葉(特に左) | 人物の認識・言語理解 | 他者の認識(誰か)、会話内容の理解 |
帯状回・島皮質 | 自己感覚・感情調整 | 自己同一性と現在の状況の整合性 |
後帯状皮質・楔前部 | 自己と他者の関係認識・意識の統合 | 自己の「今ここ」における存在感覚の保持 |
🧠 3. 現実見当識の破綻:神経基盤の障害例
状態 | 典型例 | 神経学的背景 |
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✅ 認知症(特にアルツハイマー型) | 今日が何日かわからない/部屋を自宅だと思い込む | 海馬・後帯状皮質の変性により記憶と空間認知が障害される |
✅ せん妄 | ICUで急に混乱し、人物・場所が分からない | 覚醒・注意システム(網様体・前頭葉)の機能低下 |
✅ 統合失調症 | 被害妄想や作話が現実と混同される | 自己他者区別・現実検討の障害(前頭前野・帯状回の機能低下) |
✅ 解離性障害・PTSD | 現実感の喪失、時間や場所の混乱 | 扁桃体・海馬・前頭葉のネットワーク破綻による解離反応 |
🧩 4. 現実見当識と神経ネットワーク
✅ 主に関与する神経ネットワーク
ネットワーク | 概要 | 見当識との関係 |
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🌐 デフォルトモード・ネットワーク(DMN) | 休息時に活性化、自伝的記憶・自己認識 | 自己と時間・空間の統合(例:「自分は誰か」「ここはどこか」) |
🧠 前頭頭頂ネットワーク | 注意・行動制御 | 現実に即した判断と行動を導く |
🔔 サリエンス・ネットワーク | 感情・注意の切り替え | 外的刺激に対して「今が重要な現実」と気づく力 |
🧠 5. 「現実検討能力」との違いと関係
- 現実見当識=「今ここ」を正しく把握する感覚(情報認知の土台)
- 現実検討能力=その情報が現実に即しているかを批判的に判断する力(より高次の前頭前野機能)
✳️ 現実検討が破綻すると「妄想」「幻覚」などが生じるが、見当識障害があるとは限らない(例:統合失調症初期)
🧠 6. 臨床的意義:見当識評価と介入
✅ 見当識の臨床評価
観点 | 質問例 |
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時間 | 「今日は何日? 何曜日?」「今は何時?」 |
場所 | 「ここはどこですか?」「この建物の名前は?」 |
人物 | 「あなたのお名前は?」「私の名前を知っていますか?」 |
状況 | 「なぜここにいるのですか?」「何をしていますか?」 |
✅ 治療・介入例
対応 | 内容 |
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🔁 リアリティ・オリエンテーション(RO)療法 | 定時で日付・場所・人の名前を確認する訓練(認知症ケアで活用) |
🧘♂️ グラウンディング | PTSD・解離において「今ここ」を身体感覚から回復 |
🔄 感情調整+注意訓練 | 不安や混乱によって見当識が不安定になるケースに有効 |
