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精神医学

外傷後成長

外傷後成長 (音声により解説します)

「外傷後成長(Post-Traumatic Growth, PTG)」とは、心的外傷(トラウマ)を経験した後に、人間としての成長や変容が生じる現象を指します。単に「立ち直る(resilience)」というだけでなく、「それ以前よりも深く生きる力や意味を得る」ことに焦点を当てた心理学的概念です。


1. 外傷後成長(PTG)とは?

  • 重大なストレスや苦痛を伴う出来事(事故・喪失・病気・虐待・災害など)を体験したあとに、人が心理的・社会的・精神的に成長すること。
  • アメリカの心理学者テデスキ(Tedeschi)とカリホーン(Calhoun)によって1990年代に理論化。

2. 回復との違い:「もとに戻る」vs「変容して生き直す」

概念説明
レジリエンス困難から元の状態に回復する力
外傷後成長(PTG)トラウマの経験を通して価値観・人生観が変化し、以前より深く成熟すること

3. 外傷後成長の5つの領域(Tedeschi & Calhoun)

  1. 人間関係の深化
    • 他者への共感、つながり、感謝の感情が強まる。
    • 表面的な関係よりも「本物のつながり」を重視するようになる。
  2. 新しい可能性の発見
    • 新しい進路・目標・生き方に目覚める。
    • 仕事や対人関係における転機が起きることも。
  3. 個人的な強さの発見
    • 「これだけのことを乗り越えた」という自己効力感。
    • 不安や失敗に対して柔軟になる。
  4. 人生の意味・目的の再発見
    • 生や死、存在の意味について深く考える。
    • 哲学的・精神的な関心が高まる。
  5. スピリチュアリティの深化
    • 宗教的・精神的世界への関心や信仰心の変化。
    • 超越的な視点からの安心感。

4. 外傷後成長のプロセス

外傷後成長は、単に「前向きになる」という話ではありません。深い苦しみと混乱の中での「問い直し」と「再構築」のプロセスを経て、じわじわと育まれるものです。

▼主なステップ

  1. 破壊(ショック・混乱・絶望)
    • これまでの価値観や世界観が崩れる。
  2. 問い直し(反芻・探索・意味づけ)
    • 「なぜこんなことが起きたのか」「これからどう生きるのか」を自問し続ける。
  3. 語り直し(ナラティブの再構築)
    • 苦しみの物語が、他者との対話の中で新しい意味を持ち始める。
  4. 新たな自己・世界の感覚
    • 以前とは異なるが、より深みを持った「自分」や「生き方」が育つ。

5. 外傷後成長を促す要因

要因内容
意味づけ自分なりの「意味」を見い出そうとする力。
社会的支援安心して話せる相手、傾聴してくれる存在。
開かれた態度自分の心の変化や新しい価値観を受け入れる柔軟性。
ナラティブの共有経験を「語る」ことで整理され、変容が促進される。
スピリチュアリティ自己を超えた存在や力への信頼感。

6. 外傷後成長の注意点

  • 全ての人がPTGを経験するわけではない:成長できなければ失敗、というプレッシャーは逆効果。
  • 悲しみやPTSDと共存することもある:「成長=すべて乗り越えた」わけではなく、痛みと共に生きる成熟がある。
  • 時間がかかる:半年~数年かかるのが一般的。焦らないことが重要。

7. 関連する心理療法的アプローチ

  • ナラティブ・セラピー:自分の物語を書き換える。
  • ロゴセラピー(フランクル):苦しみの中に意味を見出す。
  • マインドフルネス:今ここにある感覚と気づきを育てる。
  • トラウマインフォームドケア:安全・信頼・選択を尊重した支援の姿勢。

8. 外傷後成長の実例(簡単に)

体験外傷後成長の表れ
がんを経験命の大切さ・人とのつながりに気づき、支援活動を始める
震災で家族を喪失社会的支援団体を立ち上げ、同じ境遇の人を支援する
いじめや虐待カウンセラーやピアサポーターとして働く

まとめ

外傷後成長とは、「傷つきが人を壊す」のではなく、「傷つきを通して人は深くなる」という視点です。
痛みを消すことではなく、その痛みを自分らしい意味で活かすこと。

トラウマは決して歓迎されるものではありませんが、「生き直し」や「再創造」へのきっかけにもなりうるのです。



外傷後成長 (音声により解説します)

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