世代間連鎖(intergenerational transmission)とは、家庭・親子・家系の中で、心理的・行動的・社会的な特徴(価値観、習慣、トラウマ、虐待、貧困など)が、世代を超えて受け継がれていく現象を指します。とくに心理臨床や社会福祉、教育、犯罪学、家族療法などで重要な概念です。
■ 世代間連鎖とは?
項目 | 内容 |
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定義 | 親や養育者から子どもに「見えない形で受け継がれる」精神的・行動的なパターン |
対象 | 感情表現、愛着スタイル、養育態度、価値観、虐待、依存、暴力、病理など |
伝達の形 | 言語的(会話・教え)/非言語的(雰囲気・表情・沈黙)/構造的(貧困・教育格差) |
■ 代表的な世代間連鎖の例
分野 | 連鎖される内容 |
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心理・精神 | 愛着障害、感情抑圧、自己否定、虐待、依存症、うつ病、トラウマ |
行動 | 暴力、無関心、感情爆発、家庭内支配、アルコール乱用 |
社会 | 学歴格差、生活保護、就労困難、貧困、社会的排除 |
教育 | 「勉強しなくていい」「自分なんてどうせ」などの価値観 |
家族機能 | 境界の曖昧さ、共依存、親子の役割逆転(親化・子化) |
■ 世代間連鎖が生まれるメカニズム(心理学的視点)
メカニズム | 説明 |
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① 観察学習 | 子どもは親の行動・言葉・態度を模倣しやすい(バンデューラの社会的学習理論) |
② 愛着スタイルの継承 | 不安定な愛着を持つ親は、子にも安全な愛着を築きにくい(ボウルビィ理論) |
③ 感情調整スキルの不足 | 怒りや悲しみの扱い方を学べないまま成人し、次世代にも伝える |
④ トラウマの再演(Re-enactment) | 虐待・無視・暴力の体験が、無意識のうちに再現される |
⑤ 内在化されたメッセージ | 「私はダメだ」「人は信用できない」などの否定的スキーマが継承される |
■ 世代間連鎖の心理構造モデル(虐待の場合)
親世代:愛されない・殴られる・否定される
↓
感情を表現せず抑圧/怒りが処理されない
↓
子どもに対して感情的・暴力的・無関心な対応
↓
子世代:「自分は悪い」「愛されない」と内在化
↓
将来、親となったときに同様のパターンを再演
■ 精神病理における世代間連鎖の例
現象 | 親世代 | 子世代 |
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虐待 | 虐待されて育つ | 自分の子どもに暴力的になる |
うつ | 感情表現を避ける親 | 無力感・孤立・抑うつ傾向を持つ子 |
アルコール依存 | 飲酒でストレスを解消 | アルコールに依存する子ども、またはアルコールを極端に恐れる |
境界性パーソナリティ | 親子の距離が不安定・混乱 | 感情調整困難・自己否定の子ども |
■ 世代間連鎖を断ち切るために必要なこと
方法 | 解説 |
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① 自覚と洞察 | 「自分の育ちが今の自分にどう影響しているか」を知る(内観・心理療法) |
② 安全な人間関係の体験 | 安心できる大人・支援者・カウンセラーとの関係が修復体験となる |
③ 感情の言語化 | 抑圧された感情を「言葉」にして整理・共有する |
④ 新しいスキルの学習 | 感情調整、養育スキル、対人コミュニケーションなどを再学習する |
⑤ 支援ネットワーク | 家族だけで抱えず、医療・福祉・教育との連携が重要 |
■ 関連する理論・用語
用語・理論 | 概要 |
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愛着理論(ボウルビィ) | 幼少期の養育関係が人格形成と対人関係に影響 |
トラウマ理論 | 未処理の心的外傷が記憶・行動・関係に残り続ける |
スキーマ療法 | 幼少期の否定的信念(スキーマ)が大人になっても影響する |
ナラティブ・アプローチ | 「自分の家族の物語」を再構築し、連鎖を断ち切る視点 |
家族療法(多世代アプローチ) | 複数世代の関係性を扱いながらパターンを変えていく |
■ まとめ
世代間連鎖とは、次のような現象です:
- 親から子へと無意識に受け継がれる「生き方・感情・行動の型」
- 多くは無自覚に継承され、「自分の意思」では変えづらい構造を持つ
- しかし、自覚・関係の再構築・支援によって断ち切ることが可能
- 「家族を責める」より、「家族の物語を理解し直す」ことが連鎖を変える第一歩
