ポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)は、神経科学者スティーブン・ポージェス(Stephen Porges)によって提唱された、自律神経系の新しい理解に基づく理論で、「安全」「恐怖」「無力」の神経反応が人の行動・感情・対人関係をどう形成するかを説明する画期的なモデルです。トラウマ治療、愛着障害、発達障害、情動調整など多くの分野で応用されています。
🔍 ポリヴェーガル理論とは?
項目 | 内容 |
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🧠 提唱者 | Stephen W. Porges(1994年) |
🧬 基本仮説 | 迷走神経(vagus nerve)=「感情・社会行動・防衛反応の調整システム」として進化的に多層構造をもつ |
🎯 理論の目的 | 自律神経系の「3つの防衛モード」を理解することで、心身の安全性・社会的関係・トラウマ反応の説明が可能になる |
🔑 理論の三層構造:三つの神経モード
ポリヴェーガル理論では、自律神経系の反応を以下の進化的順序で分類します:
モード | 神経系 | 状態 | 進化順 | 特徴 |
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🟢 社会関与系(安全) | 腹側迷走神経(ventral vagus) | 落ち着き・共感・つながり | 最も新しい | 表情・声・まなざしによる社会的交流が可能 |
🟠 交感神経系(闘争/逃走) | 交感神経 | 不安・怒り・警戒・攻撃性 | 中程度 | アドレナリンが出て戦う or 逃げる反応 |
🔵 背側迷走神経系(凍結/シャットダウン) | 背側迷走神経(dorsal vagus) | 無気力・解離・凍結・死んだふり | 最も古い | 心拍低下、運動停止、意識の遠のきなど |
🔁 人は状況に応じて、これらのモードを「階層的に」行き来する(上から下へ:安全 → 闘争逃走 → 凍結)
🧠 各神経モードの特徴と症状
神経モード | 行動・情動・身体の特徴 | 例 |
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🟢 安全・社会的関与(腹側迷走神経) | 表情豊か、声が柔らかい、他者とのつながり、呼吸が穏やか | 安心・共感・遊び・親密さ・学びのモード |
🟠 闘争/逃走(交感神経優位) | 動悸、筋緊張、過呼吸、怒り・不安・焦り、注意過剰 | イライラ、パニック、攻撃、フリーズ前の過覚醒 |
🔵 凍結・解離(背側迷走神経優位) | 無気力、身体の感覚喪失、表情の消失、エネルギー低下 | 抑うつ、解離、失感情症、動けない感覚など |
📊 三モードの状態モデル(階層構造)
【安全(ventral)】
↑ ⇅ ↓
【闘争/逃走(sympathetic)】
↑ ⇅ ↓
【凍結/解離(dorsal)】
- 社会的つながり(ventral)で安全が確保されると、交感・背側反応は収まる
- 安全を失うと闘争モード(交感神経)、さらに無力になると凍結モードへ
🧩 ポリヴェーガル理論の応用
1. トラウマ治療・解離症状
内容 | ポイント |
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トラウマは背側迷走神経(凍結)への固定を引き起こす | ⇒ その人が「なぜ動けなかったのか」が神経的に説明できる |
安全の再学習 | 社会的つながり・共感・呼吸法・マインドフルネスなどでventral系を活性化 |
2. 発達障害・愛着障害への支援
内容 | ポイント |
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ASDやBPDでは社会的合図(表情・声調)への反応が乏しい | ⇒ 背側l迷走神経系の調整訓練(スモールトーク、身体遊び、声のリズム) |
「身体で感じる安全」が未発達なケースが多い | ⇒ グラウンディング・呼吸・感覚統合が重要 |
3. 心療内科・身体症状症
- 頭痛・腹痛・過敏性腸症候群など、迷走神経系の過敏化による症状が多い
- 心身相関の治療にポリヴェーガル理論が応用されつつある
🛠 回復のための支援技法
技法 | 内容 |
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グラウンディング | 足裏・重力・骨格の感覚に集中して「今ここ」に戻る |
呼吸法 | 腹式呼吸・4-7-8呼吸などで背側系(安全モード)を活性化 |
セーフプレイス | 頭ではなく「身体で感じる安全な空間・記憶」を探す |
社会的つながり | 表情・声の調整・安心できる関係性でventralモードを育てる |
