「バウンダリー(boundary)」とは、
心理学や対人関係において「自分と他人との間に引く適切な境界線」のことを指します。
日本語では「境界線」「境界感覚」「限界設定」などと訳されることが多いです。
もう少し詳しくいうと:
- 自分の領域(感情・思考・行動・身体・時間・エネルギー)を守るためのラインです。
- 他人の領域も尊重し、自分の領域も侵害させない態度やスキルです。
- 健康なバウンダリーがあると、
→ 無理に他人に合わせすぎたり、逆に他人をコントロールしすぎたりすることを防げます。
たとえばこんな場面がバウンダリーに関係します
シチュエーション | バウンダリーが守れている例 | バウンダリーが侵害されている例 |
---|---|---|
友人との付き合い | 疲れている時は「今日は休みたい」と伝える | 無理して付き合い続けて消耗する |
仕事の依頼 | 無理な納期に対して「できません」と断る | 無理な要求を全部引き受けてしまう |
恋人関係 | 自分の意見も伝える | 相手の機嫌ばかりうかがって自己犠牲する |
バウンダリーの種類
- 物理的バウンダリー:触られたくない、物理的距離を保ちたい
- 感情的バウンダリー:自分の感情と他人の感情を区別する
- 時間的バウンダリー:自分の時間を無理に奪われない
- エネルギー的バウンダリー:疲弊しすぎないように人間関係を調整する
- 精神的バウンダリー:自分の考えや価値観を大切にする
バウンダリーが弱いと…
- 依存的になったり
- 他人に振り回されたり
- 自己喪失したり するリスクが高まります。
バウンダリーが強すぎると…
- 孤立したり
- 心を閉ざしすぎたり
- 協調性を欠くリスクも出ます。
だから理想は…
「柔軟で、でもしっかりしたバウンダリー」を持つこと
→ 状況に応じて、開いたり閉じたり調整できるのが一番健全です。

バウンダリーが壊れやすい人の特徴
① 自己肯定感が低い
- 「自分の意見や感情より、他人を優先すべき」と無意識に思っている
- 相手に嫌われるのが怖くて、ノーと言えない
- 自分の欲求を後回しにしてしまう
② 過去に境界侵害を経験している
- 幼少期に親から「あなたの感情なんかどうでもいい」と扱われた
- 虐待や過干渉(ヘリコプターペアレントなど)を受けた
- 自分の領域を守る練習をする機会がなかった
③ 「いい人でいなければ」と思い込んでいる
- 他人を助けなきゃ価値がないと感じてしまう
- 自己犠牲を美徳だと思いやすい
- 相手の期待に応えようと無理を重ねる
④ 感情やニーズを認識する力が弱い
- 自分が「何を感じているか」「何を望んでいるか」がわかりにくい
- だから、侵害されても気づかない
- 気づいたときにはかなり無理をして疲れ果てている
⑤ 他者との一体感を求めすぎる
- 恋愛や友情で「相手と完全に一体化したい」と思う
- 距離感を保つこと=冷たい、と感じる
- 結果、相手の問題まで背負い込み、自分を見失いやすい
⑥ 断ることに強い罪悪感を持つ
- ノーと言うと「申し訳ない」「自己中だ」と自分を責める
- 断ること=人間関係の破壊、と極端に恐れる
バウンダリーが壊れやすい人の内面モデル図(イメージ)
自己感覚(Self)が薄く、
他者の期待・要求(Others)が強く侵入している。
結果、「他人のための人生」を生きやすい。
- Self:小さく、あいまい
- Others:大きく、侵入的
- 境界線:あいまい or 破れやすい
バウンダリー回復のために必要なこと(簡単に)
- 自分の感情とニーズに気づく練習
- 「ノー」と言う小さな成功体験を積む
- 自分の領域を尊重してくれる人との関係を増やす
- 過去の境界侵害体験を癒す(インナーチャイルドワークなど)

バウンダリーを育てるための【日常ワーク】
1. 「今、自分はどう感じている?」と小まめに聞く
- 1日に数回、「今、私の感情は?」と内省する
- 喜怒哀楽だけでなく「ちょっとイライラ」「なんとなくもやもや」も拾う
- 自分の感情に敏感になることが境界づくりの第一歩
2. 小さな「ノー」を言う練習
- 本当に嫌なとき、無理なお願いに対して「今は難しいです」と伝える
- 最初はすごく怖くてもOK。「断っても自分は大丈夫だった」体験を積むことが重要
- 例:「今日はちょっと参加できない」「手伝えないかもしれない」
3. 「私は私、相手は相手」と心の中で繰り返す
- 他人の感情や期待に巻き込まれそうになったら、そっと自分に言い聞かせる
- **「共感しても、同一化しない」**を意識する
4. 物理的な境界を意識する
- 物理的なスペース(パーソナルスペース)を大切にする
- 距離を詰められたら、半歩下がる、椅子の位置を少し変えるなど
- 身体的な境界感覚を育てると、心の境界感覚も強くなる
5. 「頼まれごと」を一旦持ち帰るクセをつける
- すぐに「いいよ!」と言わず、「少し考えてから返事するね」と言う
- 自分のリソース(時間・体力・気力)を守るための基本スキル
- 「即答しない」=境界線を意識する隙間を作る
6. できたら自分をほめる
- 小さなバウンダリー行動(ノーを言えた、距離を取れた)に対して、自分を認める
- 「うまくできなかった」ときも、「チャレンジできた」ことをほめる
- 自己肯定感を同時に育てることが、バウンダリー強化には不可欠
7. 自分の「好き・嫌いリスト」を作る
- 紙に「好きなこと」「嫌いなこと」を思いつくまま書き出してみる
- 自分の価値観・好みをはっきりさせる作業
- → これが「自分の境界」の地図になる
シンプルなまとめ図
ワーク | 目的 |
---|---|
感情チェック | 自己認識を高める |
小さなノー | 断る経験を積む |
「私は私」思考 | 自他の区別を育てる |
物理的距離の確保 | 境界の感覚を身体で養う |
頼まれごと持ち帰り | 自分のリソースを守る |
成功体験の承認 | 自己肯定感を育てる |
好き・嫌いリスト | 自分の価値観を明確にする |
最後にひとこと
バウンダリーを育てるのは、
「筋トレ」と同じ。
少しずつ、でも確実に強くなっていきます。
焦らず、優しく、積み重ねていけば大丈夫。🌱

バウンダリー強化プログラム(4週間版)
【基本コンセプト】
- 1週間ごとに「重点テーマ」を決めて少しずつ強化
- いきなり大きなチャレンジはせず、小さな成功体験を重ねる
- 自己批判を封印し、「できたところ」だけに目を向ける
【Week 1】自分の感情・ニーズを知る
目標 | 自分の「内側の声」に気づく習慣をつける |
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毎日のワーク | ・朝と夜に「今、何を感じてる?」とノートに書く ・小さな「嬉しい」「嫌だ」をメモする |
チェックポイント | 「感情に名前をつけるだけでもOK」 |
【Week 2】小さな「ノー」を言ってみる
目標 | 無理な頼みごとに対して「すぐOKしない」を実践する |
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毎日のワーク | ・頼まれごとに即答せず「少し考えさせて」と言う ・嫌だなと感じたら、心の中でまず「NO」と言ってみる |
チェックポイント | 「言えたらすごい。言えなくても気づけたらOK」 |
【Week 3】距離感を意識する
目標 | 物理的・心理的に「ちょうどいい距離」を探す |
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毎日のワーク | ・人と話すとき、リラックスできる距離を意識する ・相手の感情に巻き込まれそうなときは「私は私」と心の中で唱える |
チェックポイント | 「半歩下がるだけでも、大きな前進」 |
【Week 4】自己承認と境界宣言
目標 | 自分の境界を認め、他人に伝える練習をする |
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毎日のワーク | ・できたバウンダリー行動を1つ、ノートに書いてほめる ・簡単な自己主張を試してみる(例:「今は休みたい」「ちょっと疲れてる」) |
チェックポイント | 「表現できたら大成功。表現できなくても“思っただけ”でOK」 |
週間まとめ表(ざっくりイメージ)
週 | テーマ | 毎日のミッション | 小さなゴール |
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Week1 | 自分の感情を知る | 感情をメモする | 「今どう感じてる?」に答えられる |
Week2 | 小さなノーを言う | 即答せずワンクッション | 断る練習を始める |
Week3 | 距離感を意識する | リラックスできる距離を取る | 他人と自分を区別する感覚 |
Week4 | 自己承認・境界宣言 | 自分をほめる&簡単な主張 | バウンダリーを言葉にできる |
バウンダリー強化の心構え 🌱
- 「できた・できない」で評価しない
- 「意識できた」だけで超進歩
- 最初は違和感があって当然
- 自分のために境界を育てる=自分を大切にすること
