アンガーマネジメント(Anger Management)は、怒り(anger)という感情を理解し、適切に扱う技術や心理教育の総称です。アメリカの心理学者チャールズ・スペルバーガーなどにより体系化され、現在では教育・医療・ビジネス・司法分野でも幅広く活用されています。
【Ⅰ】アンガーマネジメントとは?
項目 | 内容 |
---|
定義 | 怒りの「原因」「兆候」「行動」を理解し、建設的にコントロールするための心理的スキル群 |
目的 | 衝動的な爆発を避ける/関係を壊さずに自己主張する/慢性的な怒りを和らげる |
アプローチ | 認知行動療法(CBT)ベース、自己認識・感情調整・行動修正の3ステップが基本 |
【Ⅱ】怒りの心理学的メカニズム
▶ 怒りとは?
視点 | 説明 |
---|
感情分類 | 「二次感情」:本当は不安・恥・悲しみ・屈辱などが根底にあることが多い |
生理的反応 | アドレナリンやノルアドレナリンが分泌、交感神経が優位になる「闘争・逃走反応」 |
認知的歪み | 「べき思考」「白黒思考」「過大解釈」など、怒りを増幅する思考パターンが関与 |
▶ 怒りのタイプ(アメリカ心理学会 APA の分類より)
タイプ | 特徴 |
---|
爆発型(攻撃的) | 急に怒鳴る、物に当たる、暴力的になる |
抑圧型(内向き) | 怒りを表に出せず、自己嫌悪・抑うつへ |
受動攻撃型 | 嫌味や無視、陰での仕返しなど間接的な怒りの表現 |
慢性型 | 常にイライラしており、日常的に怒りを抱えている |
【Ⅲ】アンガーマネジメントの3ステップ
1. 自己認識(気づく力)
内容 | 解説 |
---|
トリガーの特定 | どんな状況・言動で怒りが湧くのか記録(アンガーログ)を取る |
身体反応の観察 | 心拍上昇・肩こり・手汗など、自分の「怒りのサイン」に気づく |
スコア化(アンガースケール) | 怒りを0~10で数値化することで客観視する |
2. 感情調整(クールダウン)
テクニック名 | 内容 |
---|
6秒ルール | 怒りのピークは6秒。反射行動を避け、深呼吸・一時離脱をする |
身体技法 | 腹式呼吸・ストレッチ・散歩など、身体を使った自律神経調整 |
セルフトーク | 「大丈夫」「ここでキレても損」といった合理的な内言で再評価 |
マインドフルネス | 今ここに意識を戻すことで「怒りの思考連鎖」から抜ける |
3. 行動変容(建設的に伝える)
方法名 | 解説 |
---|
アサーティブ表現 | 怒りをぶつけるのではなく、「私は〜と感じた」と主語を自分にする表現を使う |
DESC法 | Describe(描写)→Express(感情)→Specify(要求)→Choose(結果提示) |
タイミング選び | 怒りの最中ではなく、落ち着いてから建設的に話す |
【Ⅳ】アンガーマネジメントの実践ワーク例
ワーク名 | 内容 |
---|
アンガーログ | 怒りを感じた場面、0〜10の強度、きっかけ、行動、結果を記録 |
コラム法 | 怒りの背景にある自動思考(「バカにされた」等)を客観的に再評価する |
トリガー地図 | 怒りを誘発する状況や人を視覚化して対策を立てる |
アサーティブ練習 | 「Iメッセージ」やDESC法のロールプレイ |
【Ⅴ】アンガーマネジメントの臨床・社会応用
分野 | 活用事例 |
---|
教育現場 | 児童・生徒への情動教育、いじめや暴力の予防 |
司法・更生 | DV・性犯罪者・加害者プログラムでの怒りの認知と制御 |
ビジネス・職場 | ハラスメント防止、リーダーシップ開発、ストレスマネジメント |
家庭・育児 | 親の怒りと向き合う「親トレ(ペアレント・トレーニング)」の一部として活用 |
【Ⅵ】怒りに関する脳科学の補足
脳部位/神経系 | 役割 |
---|
扁桃体 | 怒りや恐怖の即時反応の中枢(トリガー) |
前頭前野 | 衝動の制御、合理的判断の司令塔 |
自律神経系 | 怒りで交感神経優位(心拍・血圧上昇)→呼吸法などで副交感神経優位に切り替える |
【Ⅶ】まとめ:アンガーマネジメントの本質
怒りは「悪」ではなく、「必要な感情」。
重要なのは、それを「壊す力」ではなく「伝える力」「守る力」として自己コントロールする技術を学ぶこと。
