「めまい」と「精神疾患」は、非常に密接に関連しています。特に慢性的なめまい(ふらつき・浮動感・回転性めまい)と、不安障害・抑うつ・身体表現性障害・自律神経失調症・パニック障害・PTSDなどの精神症状は、双方向の悪循環を形成します。
これは単なる「気のせい」や「ストレス性」ではなく、脳の感覚統合・自律神経・情動中枢のネットワーク異常によるものであり、心理・神経・内耳のクロストーク障害として理解されています。
✅ めまいと精神疾患の相関:神経心理学的アプローチ
◆ 1. 統計的相関:精神症状の併存率(主に慢性めまい患者)
精神症状 | 併存率・特徴 |
---|
不安障害(特に全般性不安・社交不安) | 約30〜60%が併存。ふらつきと予期不安が悪循環 |
うつ病・気分変調症 | 約20〜40%。「体が揺れる=生きる力が削がれる」 |
パニック障害 | 発作時に回転性めまい・吐き気・動悸が出現しやすい |
身体症状症(旧身体表現性障害) | 原因不明のめまいとして現れやすい |
解離性障害 | 幻覚的浮遊感や失調感と関連することも |
PTSD | 空間定位の失調、フラッシュバック時に回転感が生じることがある |
◆ 2. めまいの三系統と精神疾患の関係
系統 | 概要 | 精神症状との関係 |
---|
内耳系(前庭障害) | 三半規管・耳石器などの器質的障害 | 初発は身体だが、慢性化すると不安・抑うつが強くなる |
中枢性(脳幹・小脳・前庭皮質) | 脳の空間処理や姿勢制御中枢の異常 | 頭部外傷・脳卒中・発達障害との関連あり |
心理性・機能性(PPPDなど) | ストレス・情動・不安に伴う自覚的めまい | 脳の感覚統合ネットワーク異常が背景にある |
◆ 3. 機能性めまいと診断される代表疾患
疾患名 | 概要 |
---|
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい) | 病歴や恐怖記憶に起因して姿勢・視覚刺激に過敏になり、慢性のふらつきが続く |
自律神経失調症(FSS的分類) | 気圧・睡眠・疲労などの影響を強く受け、ふわふわ感・立ちくらみが出やすい |
不安性浮動性めまい | 不安や予期不安によって「地に足がつかない感じ」が継続する |
過換気症候群 | 呼吸性アルカローシスによる脳血流変化 → めまい・しびれ・脱力などを誘発 |
◆ 4. めまいと情動ネットワークの脳科学的関連
脳部位 | 機能 | 関連するめまいの症状 |
---|
島皮質(insula) | 内受容感覚・自律神経反応 | 動悸や浮動感と連動しやすい |
前庭皮質(TPJ/頭頂葉) | 空間認知・姿勢制御 | 不安や過覚醒時に過敏化する |
前帯状皮質(ACC) | 注意・予期不安の調整 | 「まためまいが来るのでは」という予期恐怖に関与 |
扁桃体(amygdala) | 恐怖の学習・ストレス反応 | 以前の発作記憶が「地雷化」しやすい |
前頭前野(PFC) | 意識的制御と再評価 | 「自分がおかしいのでは?」という反すう思考に関連 |
◆ 5. めまいと精神疾患の悪循環モデル
[初発のめまい(身体 or ストレス性)]
↓
[予期不安・過覚醒(扁桃体・島皮質)]
↓
[自律神経失調・姿勢制御の不安定化]
↓
[ふらつき・回転感・浮遊感の増強]
↓
[社会的回避・抑うつ・希死念慮]
↓
[症状の慢性化・病識混乱]
◆ 6. 治療・介入の多角的アプローチ
アプローチ | 作用 | 解説 |
---|
SSRI・SNRI | セロトニン系調整 | 不安・PPPD・不安性浮動感に有効(めまい外来でも頻用) |
CBT(認知行動療法) | 予期不安と誤った身体解釈の修正 | 「めまい=危険」の誤学習を再構成 |
前庭リハビリテーション | 頭・身体の動きを意識的に使う訓練 | 「動く=悪化」という回避行動を克服 |
マインドフルネス/ACT | 感覚との距離化 | 身体違和感に飲まれず「それを観察する」立場へ |
自律神経調整(睡眠・呼吸・栄養) | 身体の過覚醒を沈静化 | ストレス脆弱性のベースを整える |
◆ 7. まとめ:めまいと精神疾患の相関の本質
観点 | 内容 |
---|
中枢の要因 | 前庭系と情動・自律系が密接に連携している |
精神症状との関係 | 不安・抑うつ・PTSD・解離と強く関係 |
脳科学的背景 | 扁桃体・島皮質・前庭皮質・ACC・PFCの相互作用 |
対応の鍵 | 「脳 × 身体 × 心」三位一体のアプローチが不可欠 |
