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精神医学

『火宅の人』の病跡学

映画『火宅の人』(1986年、原作:檀一雄、主演:緒形拳)を病跡学(パトグラフィー:pathography)の観点から読み解くと、主人公・桂一雄の芸術的創造と自己破壊の背後にある精神病理的パターンが浮き彫りになります。


🔎 病跡学的分析:『火宅の人』

▶ 1. 芸術家に特有の「自己破壊と創造の同居」

特徴解説
躁鬱的傾向(気分循環症的性格)ハイテンションで創作に没頭する一方、家族の死や女性関係で沈み込み、自責や逸脱に傾く気分の波がみられる。
性への耽溺と退行的逃避女性との関係に繰り返しのパターンがあり、性愛によって母性への飢えを補い、現実から逃れる退行の側面を持つ。
反復強迫(Freud)傷つけるとわかっていながら愛する者を裏切り続けるという行動が、無意識の罪悪感や自己処罰願望の表れ。

▶ 2. 幼少期体験の影響と愛着障害

背景病跡学的意味
母親が家族を捨てて失踪「見捨てられ不安」による回避型愛着スタイル。親密さを欲しながらも、深い結びつきには怯える。
父への畏敬と反発男性性のモデルへの葛藤。父の「外への冒険性」に憧れながらも、家庭を持つことで板挟みになる。

▶ 3. 複雑性悲嘆(Complicated Grief)

喪失体験病跡学的影響
息子・次郎の死正常な悲嘆過程(悲しみ→受容)を経ず、回避や抑圧により精神構造が分裂。創作や逃避行動で代償処理。
自責感と自己破壊大切な人の死を「自分のせい」と感じる傾向があり、それが反復される自己破滅行動の基盤に。

▶ 4. 創作と精神病理の接点

項目分析
創作=昇華(sublimation)芸術作品を書くことは、性衝動・攻撃性・哀しみを「社会的に許容された形」に転換する手段。
言語化の回避と身体化創作によって感情を間接的に表現するが、言語ではなく行動で内的葛藤を処理しようとする傾向も強い。
創作の枯渇と自己喪失作家生命が終焉を迎える時、創作が支えた「仮の自我」も崩壊し、実存的危機に直面する。

▶ 5. 精神病理図式(簡略版)

cssコピーする編集する[幼少期の母性喪失]
     ↓
[見捨てられ不安 × 回避型愛着]
     ↓
[性愛と創作への逃避]
     ↓
[自己破壊的パターンの反復]
     ↓
[息子の死 → 複雑性悲嘆]
     ↓
[精神的統合の模索/死による和解]

🔚 総括:病跡学的主題

テーマ説明
🔥 「火宅」=煩悩・葛藤・生の苦釈迦の『火宅の喩え』に由来。性愛や名声に溺れる現世=燃え盛る家として描かれる。
📖 文学的昇華と精神的分裂の交錯書くことが生きる理由であると同時に、苦しみの逃避でもあり、そこに「芸術家の病」が宿る。
🧩 精神病理と創造性の隣接性精神の不安定さが創造力の源泉でもあることを、桂一雄の人生が体現している。

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