映画『三度目の殺人』(2017年、監督:是枝裕和)は、法廷心理劇の枠を超え、登場人物たちの内面に潜む「空虚さ」や「真実の不在」を描き出す作品です。病跡学(パトグラフィー)の視点から本作を分析すると、主要登場人物の精神構造には以下のような特徴が見られます。
🧠 登場人物の精神構造と病跡学的分析
1. 三隅高司(演:役所広司)
- 供述の変遷:三隅は供述を何度も変え、真実を曖昧にします。これは自己同一性の不安定さや、他者との境界の曖昧さを示唆しています。
- 感情の欠如:彼の無表情や感情の乏しさは、過去のトラウマや愛着障害の可能性を示しています。
- 他者との関係:被害者の娘・咲江との関係では、父性の投影や救済願望が見られます。
2. 重盛朋章(演:福山雅治)
- 信念の揺らぎ:当初は勝訴至上主義の弁護士でしたが、三隅との接触を通じて「真実とは何か」に疑問を抱き始めます。1
- 自己投影:三隅に対して、自身の内面の空虚さや父性の問題を投影している可能性があります。
- 感情の覚醒:咲江との交流を通じて、抑圧していた感情が表出し始めます。
3. 山中咲江(演:広瀬すず)
- トラウマの影響:父親からの性的虐待という深刻なトラウマを抱えており、それが彼女の行動や感情に影響を与えています。
- 救済と依存:三隅に救われた経験から、彼に対する依存や感情的な結びつきが強まります。
- 証言の動機:彼女の証言は、真実を明らかにするためというよりも、三隅を救いたいという感情に基づいている可能性があります。
🔄 精神構造チャート(簡略図)
cssコピーする編集する[三隅の供述の変遷]
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[重盛の信念の揺らぎ]
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[咲江の証言と感情の表出]
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[三者の関係性の変化]
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[真実の不在と裁判の結末]
🧩 まとめ
『三度目の殺人』は、登場人物たちの内面の空虚さや、真実の不在を描いた作品です。病跡学的視点から見ると、三隅の供述の変遷や感情の欠如、重盛の信念の揺らぎや自己投影、咲江のトラウマや依存など、各人物の精神構造が複雑に絡み合っています。本作は、個人の精神的な脆弱性と、それを取り巻く社会的要因がどのように作用し合うかを考察する上で、非常に示唆に富んだ作品と言えるでしょう。
