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精神医学

「他殺」ほか

日本の自殺率が高いことは前記の通りですが、他方「他殺(殺人)」は他の先進諸国と比較すると、著しく低いこと一目瞭然です。この理由は数多く考えられますが、自殺が高いという国民性より、何か問題を生じた時「攻撃性」が他者ではなく自己へ向くからでしょう。自殺と他殺とは、いわばコインの裏表、怒りや憎しみの矛先がどちらへ向くかということです。その意味で、日本人は「責任感の強い」誇り高き人種と言っても過言ではないでしょう。

半面、アメリカにおける頻度の高さは群を抜いています。この理由も数多く考えられますが、すぐ思いつく要因は、多民族国家であり、人種問題が根深いこと、移民が増加していること、「銃」が許容されていることなどです。刑務所・拘置所など、いわゆる矯正保護施設の収容者数、アメリカ;約220万人・480人/人口10万人日本;約4万人、40人/人口10万人であり、施設の定義から単純に比較できませんが、アメリカは日本の10倍以上を要していることは間違いないでしょう。日本の精神科病床数が欧米諸国に比べ、とても高いことがしばしば問題視されますが、日本は犯罪を起こした方々を「精神鑑定」などにより正確に診断し、刑務所へ「収容」するのではなく、精神科病院にて「保護・治療」しているのだろうと考えられます。どちらが良いか即断できませんが、その方の立場に立つならば、日本の政策の方が「優しい」ことは確かでしょう。


上図は日本国内における被害者数の推移です。昨今、動機の明らかでない猟奇的な事件が増えている印象ありますが、実は実数は確実に減少しており、自殺と同様、他殺はじめ犯罪は「貧困」が主因であることがうかがわれます。昭和30年代・高度成長期までは金銭を目的とした「強盗・殺人」が多く認められましたが、それ以降は「対人関係のもつれ」から「憤怒・激情」「報復・怨念」などが主な動機とされています。このため被害者の「8-9割」は面識のある方々で、親族が約半数となっています。逆に、面識ない方が被害者となることは1割程度に過ぎません。

ただし、いわゆる「通り魔」「無差別」など、一般の人々は理解しがたい動機から、不特定多数を対象とした事件が起きると、マスメディアの発達からセンセーショナルに扱われるため、凶悪事件が増えているような印象が抱かれることでしょう。さらに最近は「格差社会の歪み」に端を発した事件が複数、起きたことにより、改めて「豊かさ」の定義が議論されております。

犯行を生ずる前、加害者がどのような生い立ちを送っていたのか、先行研究より解き明かしてみましょう。総じて、幼少期より家庭環境において「困難」に直面、小学校前半より「集団不適応」が認められ、小学校後半・中学校より「非行」を生ずるようになります。この知見を Evidence Based に集計すると下記のように分類されます(近藤、犯罪社会学研究、2009、一部改変)。


加害少年の類型
・ 外在型;幼少期から両親の離婚や養育の放置などから、家庭より離反し、不良者へ接近します。目先の快楽や自らの不遇より、周囲に対し猜疑心を抱いたり、感情を抑制できなくなったりします。そして、自分の利益のため、他人を利用することに躊躇を示しません。
・内在型;不良親和傾向は認められず、形式的に両親そろい、家庭を形成しています。しかし、少年本人に発達障害が認められ、小学校後半より不登校や家庭内暴力など不適応を生じます。
・遅発型;外在・内在型よりストレス耐性が高く、葛藤を抱えながらも、表面的に適応的な生活を営んでいます。しかし成長とともに、親の期待や抑制が緩むことにより、家庭との絆が希薄となり、不良との関係が生じます。

加害少年の資質
・不安抑制;基本的信頼感・自己肯定感・自尊心などが形成されず、日常的に消極的、その反面、内面において万能感・独善的な認知を抱いていることがあります。
・自己顕示;自己中心、支配的で周囲を自分の思い通りに動かそうとします。さらに劣等感を隠すため、過剰に誇大的な態度を示すところもあります。
・偏狭爆発;主観的な認知にとらわれ、周囲と摩擦を生じやすく、感情の抑制が困難で、興奮・爆発します。
・意志欠如;自分の言動に自信がなく、漠然とした寂しさや空虚感から、常に「生きづらさ」を覚えています。

保護者の養育
・強圧;親の意のままに子どもを育て、子どもの気持を配慮しません。しばしば「躾」と称し、体罰を振るいます。子どもは反発をため込み、ある時に爆発します。
・反社会;親の反社会的な価値観を取り入れ、暴力的な言動を身に付けます。「躾」として暴力が用いられ、子どもはそれを許容しています。
・抱え込み;親は自分の失敗体験から、どのように育てていいのか分かりません。結果、過保護になり、抱え込みに至ります。
・期待喪失;親は子どもへ期待し、子どもは親の期待に応えようとするものです。しかし子どもの成長の一時期、親が余裕を失ったり、子どもが息切れを生じたりすると、子どもは失望や無力感を覚えます。
・放置;親の離婚・失業・罹患などにより、子どもは幼少期から十分な養育や愛情がかけられず、放置されます。
・葛藤;夫婦間・嫁姑間などにて葛藤を抱えた家庭。子どもは葛藤が拡大しないよう、それなりに気遣います。いわゆるアダルトチルドレンに相当します。しかし子どもの養育方針を巡り、葛藤が本人へ影響すると、子どもは家出をしたり、非行に走ったりします。


加害少年の犯行
・ 外在型;集団で強盗殺人を行い、薬物や飲酒の影響を受け、凶悪化することがあります。規範意識に乏しく、自己顕示や偏狭爆発を示すことが多く見受けられます。
・内在型;もともと孤立していたゆえ、単独犯が多く、親族が被害者になりやすい傾向にあります。基本的信頼感・自己肯定感・自尊心などが十分形成されていないため、負の感情を覚えた際、適切に表出できず、ある場面で爆発させてしまいます。狭義の神経発達症、不安抑制過剰型ともいえます。
・遅発型;青年期まで「表面的に」順調に育ったものの、小さな挫折を繰り返しながら、何とかそれに耐えてきたけれど、ある時、ストレスの高まりに耐えきれず、「決壊」したものといえます。

上記より、加害少年の問題は、家庭・学校・友人など複数におよんでおり、解決・予防には複数の人々との協働作業を要します。特に日本社会は核家族、少子高齢化が著しくなっている現在、少年の育成や更生は家庭・学校のみならず、地域・社会の課題と言っても過言ではありません。

上図は少年が犯行に至るまでの経過を模式図に表したもので“Disruptive Behavior Disorder(破壊的行動障害)”「DBDマーチ(行進)」と通称されています。先天的に“ADHD”があると、家族や周囲の方々は対応に苦慮し、ともすると、無理解や無援助から「不適切養育」へと至ります。一方、適切な理解や援助があれば、非行抑制問題回避されます。

発端には先天的な”ADHD”という疾患がありながらも、家族や周囲の理解や援助の有無により、予後が左右することは、あらゆる精神疾患に共通することでしょう。その意味でも、疾患に対し偏見や差別を抱くことなく、啓発・支持していくことが、被害者も加害者も生ずることのない、豊かな地域・社会を創造することになると言えるでしょう。

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