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精神医学

パニックの脳科学

パニック(特にパニック発作)は、急激な不安感や恐怖感が身体症状を伴って強く現れる現象です。パニック障害では、この発作が繰り返し起こり、発作そのものや発作が起きる状況に対する強い恐怖(予期不安)が特徴的です。脳科学の視点では、脳内の恐怖反応やストレス応答の過敏性神経伝達物質の不均衡、および脳内回路の異常が関与していると考えられています。


1. パニック発作に関与する脳の領域

1) 扁桃体(Amygdala)

  • 役割: 恐怖や不安といった情動の処理を司る中枢。
  • パニックとの関連: 扁桃体が過剰に活性化することで、過度な恐怖や不安反応を引き起こします。パニック障害患者では、扁桃体の過敏性が高いことが示されています。

2) 前頭前野(Prefrontal Cortex)

  • 役割: 情動の抑制や理性的判断を司る。
  • パニックとの関連: 前頭前野、特に内側前頭前野(mPFC)の機能低下が、扁桃体の過剰な反応を抑制できない原因と考えられます。これにより、不安や恐怖感が制御されず、パニック反応が増幅されます。

3) 海馬(Hippocampus)

  • 役割: 記憶の形成と情動の文脈化(状況に応じた情動の調整)。
  • パニックとの関連: 海馬の機能低下や萎縮は、恐怖記憶の適切な処理を妨げ、特定の状況(例: 狭い場所、人混みなど)が不安やパニックを引き起こすトリガーとして誤認される可能性があります。

4) 視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)

  • 役割: ストレス応答を調節し、コルチゾールなどのストレスホルモンを分泌する。
  • パニックとの関連: HPA軸の過剰活性化が、ストレス反応を増幅させ、不安や恐怖感を強化します。

2. 神経回路モデル:恐怖回路の異常

パニック発作は、扁桃体を中心とした恐怖回路の過剰活性化が主要な原因と考えられています。この回路の主な流れは以下の通りです。

  1. 扁桃体: 危険信号を検知し、恐怖反応を引き起こす。
  2. 視床下部: 自律神経系を介して心拍数や呼吸の増加、発汗などの身体反応を引き起こす。
  3. 前頭前野: 扁桃体の活動を抑制し、冷静な判断を行う。ただし、パニック障害ではこの抑制が弱まっています。
  4. 海馬: 恐怖記憶を文脈化し、不必要な恐怖反応を抑える。しかし、海馬の機能低下が恐怖の過剰反応を引き起こします。

3. 神経伝達物質の関与

1) セロトニン(Serotonin)

  • 役割: 情動の安定や衝動制御を助ける神経伝達物質。
  • パニックとの関連: セロトニン系の不均衡がパニック障害に関与しています。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が効果的であることが、その関与を裏付けています。

2) GABA(ガンマアミノ酪酸)

  • 役割: 脳内で抑制性の神経伝達物質として働き、不安や過剰な興奮を抑える。
  • パニックとの関連: GABAの活動が低下すると、扁桃体やHPA軸の過剰反応が引き起こされ、パニック発作が発生しやすくなります。ベンゾジアゼピン系薬剤(GABA受容体を強化する)が短期的に有効です。

3) ノルアドレナリン(Norepinephrine)

  • 役割: 身体の覚醒やストレス応答を制御。
  • パニックとの関連: ノルアドレナリンの過剰分泌が自律神経系を過度に刺激し、動悸や発汗、呼吸困難などパニック発作の身体症状を引き起こす原因となります。

4. パニック発作時の身体症状と脳科学的背景

1) 動悸・胸痛

  • 視床下部の指令により交感神経が活性化し、心拍数が急激に上昇。

2) 呼吸困難・過呼吸

  • 扁桃体とHPA軸の過剰反応で、呼吸中枢が刺激され、酸素を取り込みすぎる「過呼吸」が発生。

3) めまい・ふらつき

  • 過呼吸による血液中の二酸化炭素濃度の低下が、脳の血流に影響を与える。

4) 発汗・震え

  • 視床下部が交感神経を刺激し、汗腺や筋肉が過剰に反応。

5. パニック障害の治療と脳科学的アプローチ

1) 認知行動療法(CBT)

  • 曝露療法(Exposures Therapy): 恐怖や不安を引き起こす状況に徐々に曝露し、不安の軽減を図る。
  • 認知再構成法: 不安や恐怖を引き起こす考え方(「発作で死ぬかもしれない」など)を現実的な認識に修正。

2) 薬物療法

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬): セロトニン系を調整し、発作の頻度や強度を減少させる。
  • ベンゾジアゼピン系薬剤: 即効性があるため急性発作時に有効。ただし依存リスクがあるため長期使用は推奨されない。
  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬): ノルアドレナリン系も調整し、不安を軽減。

3) マインドフルネスや呼吸法

  • パニック発作の際、呼吸を整えることで過呼吸や身体症状を緩和。心身のリラクゼーションを促進する。

4) 神経調節療法

  • 経頭蓋磁気刺激法(TMS): 扁桃体や前頭前野などの過剰活性化を抑制することが期待される。
  • ニューロフィードバック: 脳波をリアルタイムで調整し、恐怖回路の過剰反応を抑制。

6. パニック発作の予防と日常ケア

  1. ストレス管理
    • 適度な運動、十分な睡眠、健康的な食事を通じてHPA軸の過剰反応を抑える。
  2. 生活習慣の整備
    • カフェインやアルコールは交感神経を刺激するため控える。
  3. リラクゼーション技術
    • ヨガや瞑想、マインドフルネスは不安やストレスを軽減。
  4. サポートネットワーク
    • 家族や友人、専門家と繋がり、孤立を防ぐ。

まとめ

パニックは、扁桃体を中心とする恐怖回路の過敏性と、前頭前野や海馬の制御機能の低下が関与する複雑な現象です。また、セロトニンやGABAの不均衡、ノルアドレナリンの過剰反応が、パニック発作の身体的・情動的症状を引き起こします。

治療には、認知行動療法(CBT)や薬物療法(SSRIなど)、リラクゼーション法が有効です。さらなる脳科学の進展により、パニック障害のメカニズム解明と新しい治療法の開発が期待されています。

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