アロマセラピー(芳香療法)は、植物由来の精油(エッセンシャルオイル)を用いて、心身の不調の緩和や自然治癒力の促進を目的とする補完代替療法です。その治療機序は、主に以下の3つの経路を通じて作用します。
🔬 アロマセラピーの治療機序:3つの生理的経路
① 嗅覚経路:においを通じて脳に作用する
- 精油の香り成分が鼻腔の嗅上皮に届き、嗅神経から大脳辺縁系(感情・記憶を司る部位)へ直接信号が送られます。
- 特に扁桃体・海馬・視床下部に影響し、
- ストレス緩和
- 不安の軽減
- 睡眠の促進
- 気分改善
などが報告されています。
🔁 例:ラベンダー → 副交感神経優位 → 心拍数・血圧・コルチゾール(ストレスホルモン)低下
② 経皮経路:皮膚から吸収され、全身に作用する
- 精油成分は皮膚の脂溶性バリア(角質層)を通過し、毛細血管・リンパ系に取り込まれます。
- 体内循環を経て、局所または全身的に鎮痛・抗炎症・循環促進・免疫調整などの作用をもたらすとされています。
🧴例:ローズマリー精油を使ったトリートメント → 筋緊張緩和・血流促進
③ 呼吸器経路:吸入による肺からの吸収
- 呼吸により肺胞に到達した精油成分が、血液中に取り込まれ全身へ分布します。
- 呼吸器系への直接作用(例:去痰、鎮咳)もあり、特にユーカリ・ティートゥリーなどは有用。
🧠 精油が脳に及ぼす神経科学的影響
精油成分 | 主な作用 | 関連する脳領域/神経伝達物質 |
---|---|---|
リナロール(ラベンダー) | 抗不安・鎮静 | GABA系の活性化、扁桃体抑制 |
シトラール(レモングラス) | 抗うつ・覚醒 | ドーパミン・セロトニン分泌促進 |
1,8-シネオール(ユーカリ) | 去痰・認知機能促進 | ノルアドレナリン系活性化 |
β-カリオフィレン(ブラックペッパー) | 抗炎症・鎮痛 | CB2受容体刺激(エンドカンナビノイド系) |
🩺 臨床研究での有効性例(エビデンス)
分野 | アロマ効果 | エビデンス |
---|---|---|
精神領域 | 不安・うつ・不眠の軽減 | ラベンダー・ベルガモットに抗不安効果(ランダム化比較試験あり) |
神経領域 | 認知症周辺症状(BPSD)の軽減 | ローズマリー・レモンが軽度認知障害に効果(日本の研究) |
疼痛緩和 | 慢性痛・筋緊張の緩和 | マッサージ+精油(ゼラニウムなど)で疼痛緩和が有意 |
産科領域 | 陣痛時の不安・痛み軽減 | ラベンダー・クラリセージの使用で呼吸と緊張が改善 |
🧭 実践的応用例
使用方法 | 適応 |
---|---|
ディフューザー(芳香拡散) | ストレス、不眠、集中力 |
アロマバス(精油入浴) | 疲労回復、自律神経調整 |
アロマトリートメント(マッサージ) | 筋緊張、痛み、循環促進 |
吸入(蒸気・ハンカチ法) | 呼吸器症状、鼻詰まり、不安緩和 |
⚠️ 注意点と禁忌
- 精油の種類や濃度により皮膚刺激やアレルギー反応が出る可能性あり(パッチテスト推奨)
- 妊娠中や小児、高齢者、てんかん既往者には禁忌または慎重投与の精油あり(例:ペパーミント、セージなど)
- 経口摂取は専門知識のある医療従事者の指導下以外では原則避ける
✅ まとめ
経路 | 主な作用 | 例 |
---|---|---|
嗅覚経路 | 感情・自律神経への作用 | ラベンダーで不安緩和 |
経皮経路 | 血流・筋肉・ホルモン系に作用 | マッサージによる鎮痛 |
呼吸器経路 | 肺から全身へ拡散・局所呼吸器作用 | ユーカリで去痰促進 |
アロマセラピーは、心身一如のアプローチとして、メンタルヘルスケア・緩和医療・リラクゼーションなど幅広い場面で有効活用されています。

アロマセラピーの治療機序 (音声により解説します)