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小説

恋愛恐怖症


由莉(ゆり)32歳は大手商社・総合職、エネルギー事業において政府や海外諸国と協働事業を精力的に行っていた。帰国子女であり、大学時代にも留学経験あり、Bilingualであるため、語学も全く不自由なく、複数の事業を任せられていた。プライベートでは取引先の渡(わたる)35歳と3年間交際しており、由莉としては、そろそろ結婚をと希望していたが、渡からそのようなプロポーズない日々を過ごしていた。


そんなある日、別部署・後輩・いわば「斜め下」の関係になる美香(みか)27歳より思いがけない言葉を耳にした。「最近、渡さんと仲良くしている」というのである。耳を疑った。そう言えば、交際3年経過、何となくマンネリ化していると感じ、渡の態度もハッキリしなくなっていた。


高鳴る動悸を抑え、その場を立ち去り、渡へ電話した。すぐに通じないため、メールを残した。それから2-3時間後、Call-Back あり、話したいことあるから、今夜、会いたいと伝えたが、今夜はMeeting だから、明日夜の予定となった。「私のことなんかどうでもいいのかしら」そういう想いが頭の中を駆け巡った。

翌日夜、由莉は渡へ会うと、単刀直入、美香との関係を問いただした。渡は「いや、彼女はただの可愛い女友だちだよ」といなした。しかし由莉は渡の言葉を聞き逃さなかった。「可愛い女友だち?」「それって異性として意識していない?」「私は可愛くないの?」問いただしているうちに、泣き崩れていた。美香は自分より若く、美しかった。もちろん仕事では負けない。でも、女としては…


追い打ちをかけるような出来事が起きたのは、それから10日間後だった。由莉は在宅勤務の予定だったが、急遽出勤することになった。昼過ぎ「丸の内仲通り」を足早に通り過ぎようとしているところ、テラス席で渡と美香が仲睦まじくランチをしていた。その光景は紛れもなく恋人同士だった。心の中で全てが砕け散った。呆然としながらも、身体だけは会社へ向っていた。その夜、渡へ「別れのメール」を送った。もう耐えられなかった。しばらくして、案の定、渡は引き止めることなく、由莉の気持を尊重したいとの返信が送られてきた…


「もう恋なんてしたくない」「もう傷つきたくない」そう思った。それから2-3ヶ月後のこと。ビジネススクールの同級生・悟(さとる)から連絡あり、海外駐在より帰国したので、久し振りに会おうとのことだった。悟は同級生ながら42歳、一回り上、いわば兄妹・親子に近い感覚だった。気軽に応じ飲食を共にした。悟の苦労話からはじまったが、アルコールが進むにつれ、由莉は涙ながらに自らの失恋話を告白した。悟は父か兄のように親身になり聞いてくれた。


それから、傷心の由莉を気遣ってか、悟は何度か飲食に誘った。そんなある夜、悟から思いがけない言葉が出た。「僕で良かったら、君のそばにいつもいようか」。悟は婚姻歴あるものの、現在は単身者だった。由莉は嬉しかったけれど、恐かった。他人と異性と再び深い関係になることが。また深く心を傷つくかもしれない。それゆえ、なかなか心を許せなかった。人生を共有する勇気が湧かなかった。いわゆる「恋愛恐怖症」である。

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