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小説

わたしはアイドル

ゆり子21歳はネット・アイドル・グループ “GINZA 5” のトップを務める人気者である。フォロアーは全国に数え切れないほどいて、毎日、ゆり子の姿やメッセージが配信されることを、皆が待ち望んでいた。

しかしその裏には、熾烈な競争があった。グループは5人のレギュラーメンバー;一軍を筆頭に、二軍10人、三軍15人、計30人から構成されている。まず三軍へ入るためには、毎年全国より数百人の応募から、運営スタッフによる選考を必要とする。そして、一軍・二軍・三軍は毎年ファンによる投票により入れ替わり、一軍トップを筆頭にランキングされる。ファンはネット配信へ一定額「投げ銭」することで投票権を得られ、それがグループ運営の主な資金にもなる。このため運営スタッフはメンバー同志の競争をあおり、ネット配信を朝から晩まで操っている。

ゆり子はそのような仕組みがあることは十分理解した上、朝から晩まで、食事や睡眠も十分摂らず、配信した。歌ったり踊ったりお喋りしたり、自分を表現できることは何でもした。フォロアーはゆり子とネットにより個人的につながっていると感じ、ゆり子へ多額の「投げ銭」をした。ただし、ゆり子の元へ「お金」は入らない。ゆり子の喜びは「トップ」を極めた達成感とフォロアーからの賞賛だった。

どうしてそこまでするのか、それはゆり子の生い立ちにあった。ゆり子は北国の小さな町に一人娘として生まれた。父は酒に溺れ、仕事が続かなかった。母が家計をになうため、介護職として昼夜、働いた。父は酒に酔うとしばしば母へ暴言・暴力を振るった。幼いゆり子へ手を出すことはなかったが、両親のいさかいを見たり聞いたりするのがつらかった。そのため父が暴れ出すと布団の中へもぐりこんだ。雷が鳴り響く恐怖感を覚えた。

母はゆり子を溺愛した。ゆり子は母の愛にこたえるため頑張った。学校は無遅刻・無欠席、勉強も部活も皆より頑張った。しかし、ゆり子の気持ちは満たされなかった。なにか虚しさを覚え、仕方なかった。そこで皆の人気者となろうと思った。ゆり子は父親ゆずりの整った顔だちと母親ゆずりの明るい性格から校内のアイドルになった。もっと上を目指したいと、高校在学時、ネットアイドルの選考に応募。見事合格、高校卒業次第、単身上京。レッスンなど受けながら、アイドル活動を朝から晩まで行った。

ゆり子が活動できなくなったのは突然だった。熾烈な競争によるストレス、食事や睡眠も十分摂らない生活はゆり子の心身を消耗させた。ある朝、ゆり子は短い睡眠後、起きられなくなった。早く起きて配信しなければと思うものの体が鉛のように重かった。その日は初めて配信中止。翌日も起きられず、寝たきり。3日目、異変に気づいたスタッフがゆり子を病院に連れて行った。身体は異常なし、精神科を紹介され「うつ病」と診断された。精神科医はゆり子の生い立ちも聴いた。回復には「ありのままの自分を受け容れ、生き方を見直すこと」が必要とのことだった。

「アダルト・チルドレンレン」とは
“Adult Children of Alcoholics. ACA.” 親がアルコール依存症の家庭に育った大人のこと。さらに、幼少期、虐待、家族不仲などの「機能不全家族」に育ち、心的外傷(トラウマ)や感情抑圧の結果、大人になっても「生きづらさ」不全感・空虚感などを覚えていること。

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