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「受け容れる」ということ


受容 Acceptance

茜(あかね)36歳は元モデル、現ジュエリー・デザイナーとして活躍している有名人である。類稀な美貌と才能は男女たがわず世の中の誰もが認めていた。しかし、家族や側近は彼女の気分屋に困っていた。機嫌の良い時は皆へ愛想よく、にこやかに接するが、悪い時は、塞ぎ込むか、当たり散らすことも少なくなかった。


茜の気分の上下が顕著になったのは、高校2年生、17歳、表参道でスカウトされた頃である。特に何か嫌なことがあった訳ではない。むしろスカウトされ、周りからチヤホヤされ、浮足立っていたとも言える。その反動からか、思うようにいかないことがあると、落ち込みやすくもなった。


高校卒業後、芸能事務所へ入ると、学生時代と異なり、事務所の管理は厳しく、売れれば売れるほど束縛されるようになった。もともと負けず嫌い、勝気だった茜は、弱音を吐くことなく、事務所の指導に従い、セルフ・プロデュースに努めた。その結果、20歳時には一流モデルとしてファッション雑誌の表紙を飾るようになった。


事務所は次なる戦略として歌唱や演技を期待した。しかし、茜は勝気な反面、内気なため、ポージングはとれるものの、アクティングが苦手で、どうしてもぎこちなかった。歌唱も決して下手ではないが、人前では声が震え、歌えなかった。このような挫折が重なり、一流モデルだった茜はその仕事にも自信を失い、夜眠れず、朝起きられずという状態に陥った。


心配した家族と事務所・関係者らは、知り合いの内科医へ相談。ストレスによる自律神経失調症として睡眠薬が処方された。これを服用し、夜は眠れるようになり、2-3ヶ月後には事務所へ顔を出せるようになった。しかし、これまでのような仕事を行う自信は失われた。歌唱や演技はもとより、モデルとして人前に出ることも恐怖になった。


そこで、茜が関心を向けたのは、モデルとして活躍していた時、いつも身に付けていた「ジュエリー」である。まずジュエリーデザイン学校へ通い、卒業後、某有名宝石店へ就職、実務経験を積んだ。途中、元有名モデルであることが先輩や同僚の女性に知られ、嫉妬や心ない陰口など言われ、再び不眠や食欲不振など生じた。今回は自ら心療内科を受診。適応障害と診断され、やはり睡眠薬など処方され「女性の多い職場では仕方ない」という慰めにならない言葉をかけられた。


負けず嫌い、勝気な茜は、睡眠薬などを飲みながら、着実に実務をこなし「貴金属装身具製作技能士1級」を取得。晴れて某宝石店を退職、そして”Original Brand”である”Akane”を次々とプロデュースした。これには以前所属していた事務所や既知の芸能関係者が数多く協力してくれた。その甲斐もあり、元一流モデルの茜は、15年以上の時を経て、一流ジュエリー・デザイナーとして認知されるようになった。


しかし、話はここで終わらない。二度目の成功を手にした茜は傲慢になった。確かにこれまでの努力や苦労に裏打ちされた実力は申し分なかった。ただ、家族や側近に対し、その時の気分で対応が異なるのである。家族は思春期からその傾向はあったけれど、より大きくなっていると感じていた。これは性格なのか病気なのか…


側近の一人がもう耐えられないと退職した。そこで、母親が意を決し、茜に現状を切に伝え「精神科を受診しよう」と説得した。茜は「精神科?」と耳を疑った。「心療内科なら分かるけれど、精神科ほど私はおかしくない」と思った。それでも、母親の娘を想う気持ちは強く、根負けし、仕方なく受診することした。

診療はこれまでの内科や心療内科と異なり、家族歴・生活歴・現病歴と詳細に聴取された。後で聞く話によると、現在の病状は、遺伝や環境(生い立ちも含め)などが複合して生じているとのこと。診断の結果は、自律神経失調症でも適応障害でもなく「軽症・躁うつ病」とのことだった。ショックだった。躁うつ病と言われると、自己破産や自殺企図など「恐ろしい精神病」というイメージがあった。ただ説明を聞いていると軽症の場合、躁状態で「上機嫌」、鬱状態で「落ち込み」、両方の混ざった混合状態で「不機嫌」とのこと。そう説明されると「そうかもしれない」と半信半疑ながら受け容れざるを得ない心境になった…

受容の5段階

  1. 「否認」
    大きな衝撃を受け、否認する段階。「仮にそうだとしても、自分は違うのではないか」という部分的否認の形をとる場合もある。
  2. 「怒り」
    なぜ自分がこんな目に遭うのかのかという怒りを周囲に向ける段階。
  3. 「取引」
    回復への取引の段階。「神(絶対的なもの)」にすがろうとする時もある。
  4. 「抑うつ」
    取引が無駄と認識し、運命に無力を感じ、抑うつに襲われる段階。全てに絶望を感じ、段階的に「部分的悲嘆」のプロセスへと移行する。
  5. 「受容」
    「部分的悲嘆」と並行し、疾病を受容する段階。最終的に受け容れるが、希望も捨てきれない場合もある。受容の後半、突然全てを悟った解脱の境地が現れる。希望ともきっぱりと別れを告げ、疾患受容に至る。

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