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空想虚言・ゴーストライター

日本の音楽界を大きく揺るがす事件が起きました。佐村河内守氏が作曲したといういくつものクラッシック曲がゴーストライターによる作品だったことです。虚偽の作品を発表することで金銭や名誉を得ようとした反社会的な行為です。なぜ彼は世の中の人々をあざむくような行為をしたのでしょう。もちろん目先の金銭や名誉を求めてのこともあるでしょうが、もっと深い「心の病」が潜んでいることが想像されます。それは…
佐村河内守

「空想虚言」という精神症状です。これは架空の事柄を真実であるかのように物語る行為です。虚言と追想錯誤とが混合し、誇大的な内容を語るうちに自分も他人もあざむいてしまうことが多く、犯罪学的に問題とされました。顕示性ないし発揚性の人格異常から妄想とみなしうるものまで含まれます。

Schneiderというドイツの精神医学者は「人格異常の中で、その異常性に自ら悩むか、社会を悩ますもの」と定義して、10に類型しました(1923年)。そのうち、空想虚言を呈しやすい人格異常として顕示型と発揚型を紹介します。

顕示型:自分を実際以上にみせかけるもの、いわゆるヒステリー性格、演技性人格障害に相当します。嘘をついたり芝居をして、他人も自分もあざむくが、物質的な利益より役割そのものに意味があります。虚言者、欺瞞者、空想虚言、虚偽性障害、ミュンヒハウゼン症候群の一部が含まれます。自分をより以上にみせかける欲動は顕示欲です。

発揚型:快活で現実的、世話好きの楽天家。しかし周囲と摩擦を起こしやすく、すぐ和解するが、職を転々として意志不安定にみられることがある。(濱田秀伯先生、精神症候学、弘文堂より引用改変)

演技性人格障害とは、アメリカ精神医学会「精神障害の診断と統計の手引き」による定義によりますと、「過度に情緒的で、度を越して人の注意を引こうとする行動の広範な様式で、成人早期にはじまり、様々な状況で明らかになる」、以下の基準の5つ以上を満たすと疑われます。

1. 自分が注目の的になっていない状況では楽しくない
2. 他人との交流はしばしば不適切なほど性的に誘惑的または挑発的な行動により特徴づけられる
3. 浅薄で、すばやく変化する感情表出を示す
4. 自分へ関心を引くため、絶えず身体的外見を用いる
5. 過度に印象的だが、内容の詳細がない話し方をする
6. 自己演技化、芝居がかった態度、誇張した情緒表現
7. 被暗示的、つまり他人または環境の影響を受けやすい
8. 対人関係を実際以上に親密なものとみなす

このように空想虚言者は、派手な容姿で、人目を引く、目立つ人物を想像されますが、その内面では孤独感空虚感にさいなまされていることが少なくありません。虚ろな内面を補うために、必死で外面を飾り立てている、とも言えるでしょう。演技性の人格が形成される原因として、素因となる気質に加え、幼少期の親子関係や友人関係などにおける心的外傷(トラウマ)がその一つと考えられています。佐村河内守氏の幼少期にどのような出来事があったのか存じませんが、おそらく家庭や学校で寂しさ虚しさを感じられる出来事(ライフ・イベント)があったのではないでしょうか。

もし本人の「治療」が可能ならば、まず現在の心境を話していただくことからはじまります。おそらくこのような事件となり、「生きているのもつらい」とおっしゃることでしょう。「自殺」の二文字が頭をよぎったかもしれません。そこで大事なことはマスコミによる記者会見のように本人を責めないことです。たとえ悪いことでも本人なりの思いがあってやったことでしょうから、それを否定することなく「傾聴」するのです。話す内容はまだ虚偽を含んでいるかもしれません。しかしそれは自分の弱い心を守る「鎧(よろい)」です。そこで「鎧」を無理に脱がすなく、そのまま素直に話を聴き、「共感」するのです。すると次第に「鎧」を着るようになった経緯が語られることでしょう。幼少期の家庭環境、思春期の友人関係などが、時に切なく時におかしく語られます。その流れの中で、これまで目を伏せてきた自分の過去を直視するようになり、自分という存在を再認識するようになるのです。そして、これまで演じてきた「偽りの自分」を捨て、「本当の自分」を生きていくことができることを願います。今回の事件により大きな損害を生じ怒り心頭の方も多いと思いますが、治療者という視点からは「罪を憎んで人を憎まず」とありたいものです。

〒104-0061 東京都中央区銀座5-1-15-5階

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